コロナで変わる世界:第1部 くらしの風景(その1) バブルに沸く「北麻布」 東京から軽井沢へ、移住続々
2020年11月23日 (月)配信毎日新聞社
10月下旬の平日。長野県軽井沢町にあるしゃれた邸宅に、6人の男女がまきストーブを囲んで談笑する姿があった。
「(ウェブ会議システム)Zoomで会議をしていると、たまに小鳥のさえずりで突っ込まれますよね」
「ありますね。テラスで仕事をしていると」
会社経営者、広告代理店社員、大学教授――。軽井沢に自宅や別荘を構える彼らの共通点である移住後の暮らしについて話がはずむ。
「例えば通勤に1時間かかると(生涯では)何年も満員電車で過ごすことになる。ここは職住近接だから暮らしの中に仕事がある。仕事か生活かの二項対立ではない。都市は密だけど孤独だったりする」
投資会社社長の白石智哉さん(57)は今夏、将来の定住先として軽井沢に物件を購入した。米シリコンバレー、シンガポール、東京と移り住んできた白石さんは、新型コロナウイルスの感染拡大を機に「8割こっち、2割は東京」の2拠点生活を始めた。「顧客との関係性さえできていれば、場所や時間を問わずオンラインで話ができる。仕事への影響はほとんどない。もっと早く来れば良かった」。白石さんの言葉に全員が深くうなずいた。
「ここはもはや東京都港区の『北麻布』なんです」。軽井沢の一等地にある物件の所有者たちは口々にそう話す。都心から約130キロ離れたこの地には、高所得者が集う東京・西麻布のようなコミュニティーが根を張っているというわけだ。
日本を代表するリゾート地・軽井沢は、明治時代から渋沢栄一ら経営者の社交の場として親しまれてきた。近年は都市での暮らしに疲弊し、自然に囲まれた暮らしを希求する移住者たちを吸い寄せる。長野県全体では人口減の傾向にある中、軽井沢の人口と世帯数は緩やかな増加傾向が続く。
テレワークの普及など暮らしの「新常態」を生んだコロナ禍は、この流れを一気に加速させた。人気区画では不動産価格が高騰し、通信環境を整備するための光ファイバーの敷設工事は2カ月待ちの状況だ。「コロナバブル」(町観光関係者)は近隣自治体にも波及する。
長野県の毎月人口異動調査によると、今年4~9月に軽井沢町と隣接する御代田町(みよたまち)に県外から転入した人は1000人を超えた。白石さんのように住民票を移さない2拠点生活者を含めれば、実際の「移住者」はさらに膨れ上がる。
自らも東京との2拠点で暮らす一般社団法人理事で、信州大学の鈴木幹一特任教授は、コロナ後は都市部から「避難」する人の関心も高いとした上で、こう強調する。「働き方改革などで高まっていた移住への関心が、コロナで一気に具現化した。感染が収束しても大きな流れは変わらない」【堀和彦】