前例なき国家事業"完遂" 供給不足の再来懸念も 「表層深層」新型コロナワクチン
2021年11月15日 (月)配信共同通信社
新型コロナウイルス対策の切り札とされたワクチン2回接種は11月中にほぼ終了する見通しとなった。1日100万回という政府号令が掛かる中、事業の中心を担った自治体。予約混乱や供給不足、変異株の猛威といった「壁」を乗り越え、前例のない国家プロジェクトを何とか"完遂"へ導いた。ただ、来月から始まる3回目接種で再び混乱が起きないか、懸念も残る。
▽モデルケース
最初の大きな壁は接種予約だった。インターネット、電話、窓口の三つを設けた高知市は、高齢者接種の予約でシステムがパンク。約10万人に一斉に接種券を配り、申し込みが殺到した。
接種券の郵送時期を分散した自治体でも「コールセンターに何度電話してもつながらない」「サイトにアクセスが集中してつながらない」といった事態が相次いだ。
そんな中、注目を集めたのが福島県相馬市だ。あらかじめ住民の意向を調べ、希望者には地区ごとに集団会場を案内。日時も市が指定する方法を採った。ほかの自治体が64歳以下への接種をようやく本格化させた7月中旬には、既に住民の8割超が2回目も完了。スムーズな運営は「相馬モデル」と評された。東京都新宿区や熊本市なども3回目では日時指定の方法を検討している。
▽方針転換
当初政府は重症化リスクの高い高齢者や基礎疾患のある人を優先したが、途中からスピードアップを狙って方針転換。自治体事業に加え、企業や大学単位での実施も容認し、自衛隊による大規模接種センターでの対象者を64歳以下にも広げた。自治体も効率化を求められ、利便性が高く集客力もある商業施設の活用が広がった。
流通大手イオン(千葉市)は自治体の依頼で30都道府県61施設を集団接種会場として提供。2施設を活用した北海道旭川市の担当者は「イオン会場は予約が埋まるのが早く、現役世代の接種も後押しした」と振り返る。
千葉県船橋市では、1日10万人超が利用するJR船橋駅から徒歩数分の場所に集団会場を設置。通勤、通学する人向けに連日夜8時まで会場を開けて接種回数を伸ばした。ただ、供給不足で約2カ月は新規予約を停止。「供給不足がなければもっと早く8割に達していただろう」。予約停止は全国的に広がり、一時は再開のめどが立たない地域も出た。
▽不安
12月から始まる3回目接種。海外ではワクチン接種が進んでも感染拡大に転じた国もある。東京財団政策研究所の渋谷健司(しぶや・けんじ)研究主幹(公衆衛生)は「2回接種しても時間の経過とともに感染予防効果は高齢者ほど下がる」と追加接種の重要性を強調。ワクチンに加え、マスク、換気、検査の継続が大事だと説く。
これまで振り回されてきた自治体も息つく暇も無く、不安に駆られる。再び供給不足に陥らないか。医療機関の協力は得られるのか。また急な方針転換もあるのでは。課題は尽きない。
政府内や自治体の一部には第5波が去る中、ワクチンの2回接種の普及や飲み薬の実用化もにらみ、3回目は接種者が減るとの楽観論もある。政府関係者は、ワクチンの確保は「実はまだ十分とは言えない」として不安を口にする。「第6波が来たりして接種ニーズが高まれば、供給遅れの二の舞いになりかねない」