脂質異常症、ワクチンを開発 熊本大大学院・尾池教授ら 副反応少なく安価に
熊本大大学院生命科学研究部の尾池雄一教授(55)=代謝・循環医学=らの研究グループは、血中のLDL(悪玉)コレステロール値や中性脂肪値が高い「脂質異常症」を改善するワクチンを開発したと発表した。今後は臨床応用を目指し、効果を長期化させるための改良に取り組む。
米科学誌電子版に17日(日本時間)掲載された。脂質異常症は、脳梗塞や心筋梗塞などの心血管疾患の発症にもつながる。治療にはコレステロール値を下げる「スタチン」などの薬剤を使用するのが一般的だが、一部には肝機能障害など副反応を訴える患者もいる。そこで尾池教授らは、タンパク質「ANGPTL3」に注目。ANGPTL3が欠落した遺伝子変異がある人は、変異のない人に比べ悪玉コレステロール値や中性脂肪値がともに低いという。
尾池教授らのワクチンは、免疫細胞を活性化させて体内のANGPTL3を捕える抗体をつくり、機能を低下させる。肥満症のマウスを用いた実験では、悪玉コレステロール、中性脂肪の濃度が減少。脂肪肝も改善した。
また遺伝的に悪玉コレステロール値が高い「家族性高コレステロール血症」のマウスモデルでも、脂質異常症が改善し、動脈硬化も軽減した。ワクチン接種の30週間後も抗体は持続し、マウスに大きな障害もないことも確認した。
さらに米製薬会社が開発中のバイオ医薬品に比べ、ワクチンは安価で製造できるメリットがある。尾池教授は「既存薬より副反応が少なく、重症患者はほかの薬剤との併用もできる。安価な治療の選択肢の一つとして期待される」と話している。(志賀茉里耶)