コロナは風土病の一種に 来年には最悪期を脱するか
【シカゴ・ロイター=共同】デルタ株の流行が世界の多くの地域で収まりつつある中で、来年以降のいつの時点にどの地域で新型コロナウイルス感染症が普通の風土病に変わるのかを、科学者たちは予測し始めている。
専門家らは、パンデミック(世界的大流行)から最初に脱出するのは米国、英国、インドといったワクチン接種率が高く、また感染済みの人々が自然に免疫を獲得した国々だと考えているが、新型コロナウイルスはワクチン未接種の人々の間で広がるうちに変異する予測不能のウイルスだ、との警告もある。
一部の人々が言う「世界滅亡の日のシナリオ」つまり、せっかく獲得した免疫を無効にしてしまうような変異が発生する事態を完全に排除する人はいない。それでも彼らは、多くの国で来年には最悪期を脱するだろうということに次第に自信を深めている。
世界保健機関(WHO)の新型コロナ対策を主導している感染症学者マリア・ファンケルコーフ氏は「われわれは今から来年末までを、このウイルスを抑制する時点だと考えている。この間に重症者と死者を大幅に減らすことができると思う」と述べた。
WHOは来年末までに世界人口の70%が接種を終えることを目標にしており、同氏は「目標を達成できれば私たちは疫学的に全く異なった状況に置かれることになる」と述べた。
一方で、同氏は各国があまりにも性急に感染予防策を解除することを懸念しており「まるで全てが終息したかのように人々が街頭に繰り出しているのを見るのは驚きだ」と話している
▽地域による違い
WHOの先月26日の報告によれば感染者は8月以降、世界のほとんどの地域で減少している。
欧州は例外で、接種率の低いロシアやルーマニアのような国々や、マスク着用指示を解除した地域でデルタ株が猛威を振るっている。デルタ株はまた、接種率は高いものの厳格なロックダウン(都市封鎖)によって自然の免疫があまりできていないシンガポールや中国といった国々でも感染を拡大させている。
米ハーバード大の感染症学者マーク・リップシッチ氏によれば、パンデミックの今後の経緯は国によって異なる。住民が接種や感染で免疫を獲得した度合いが国によって異なるからだ。
何人かの専門家は、米国でのデルタ株感染拡大は今月で終わり、これが最後の新型コロナの大流行になるとみている。
米食品医薬品局(FDA)スコット・ゴットリーブ元長官は「私たちはパンデミックの段階から、より風土病的な段階へと移りつつある。この段階では、新型コロナは米国における単なるしつこい風土病ということになる」と述べた。
米ワシントン大の疾病発生予測学者クリス・マレー氏も同じく、米国でのデルタ株感染拡大は月内に終わると予測する。
同氏は、新型コロナ感染は「この冬に非常に穏やかな増加を示すだろう」とした上で「重大な新型株が出現しない限り、感染は来年4月には収束し始める」との見通しを示した。
英国など予防措置を解除したため感染が拡大している国々でも、ワクチンが奏功し多くの人々は入院せずに済んでいる。
インペリアル・カレッジ・ロンドンの感染症者ニール・ファーガソン氏は、英国に関して言えば「緊急事態としてのパンデミックのほとんどの部分は既に終わっている」と述べた。
▽「漸進的な進化」
新型コロナは今後何年間も、マラリアのような他の風土病と同じく、病気や死亡の主要な原因であり続けるだろう。ファンケルコーフ氏は「風土病は良性というわけではない」と言う。
一部の専門家らは、新型コロナウイルスは最後には、はしかのようなものになると言う。はしかは今も、ワクチン接種率の低い住民の間で流行を引き起こしている。
新型コロナはインフルエンザのような季節性の呼吸器疾患になると考えている人々もいる。あるいは、このウイルスは致死性が弱まり、子どもに主として感染するようになるが、そうなるには何十年もかかる、との見方もある。
ファーガソン氏は今後2~5年間、英国では新型コロナの影響で呼吸器疾患による死者が平均より多く発生するが、それによって保健システムが破綻したり、ソーシャルディスタンス(社会的距離)を取るよう求める措置が再び必要になったりはしないと述べ「漸進的な進化になる。私たちは新型コロナをもっと持続的なウイルスとして扱うようになるだろう」と指摘した。
新型コロナウイルスの変異を追跡しているフレッド・ハッチンソンがんセンターのトレバー・ベドフォード氏は、新型コロナが米国ではより穏やかな感染の波を冬季に起こした後、2022~23年に風土病に変わるとみている。米国ではインフルエンザによる年間推定3万人の死者に加え、新型コロナで年5万人から10万人が死亡する、と同氏は予測している。
同氏によれば、このウイルスは変異を続け、直近に流行した変異株をもとにしたワクチンのブースター接種が毎年必要になる。
インフルエンザと同じサイクルで循環するという、新型コロナの季節的な感染流行がもし現実のものとなれば、保健システムは大きな影響を受ける、とゴットリーブ氏とマレー氏は指摘し、マレー氏は「それは病院の計画担当者にとって、冬季に新型コロナとインフルエンザの流行にどう対処するのかという問題を引き起こす」と述べた。
感染症流行対策イノベーション連合の責任者であるリチャード・ハチェット氏は、一部の国々はワクチンでしっかり守られ、他の国々では実質的にそれが全く行われていないことによって、世界は脆弱(ぜいじゃく)であり続ける、と指摘する。
ハチェット氏は「新型コロナで心配なのは、ワクチンや自然感染で獲得した免疫をすり抜けてしまう変異株の出現だ。それは新型コロナの古いパンデミックが続いている最中に、新たなパンデミックが発生するようなものだ」と語った。