[コロナ警告]ゆらぐ対人関係<3>授業怖くて行けない…オンライン慣れ 孤独感強く
呼吸が苦しく
数か月ぶりの大学の対面授業に朝から緊張していた。4月中旬の朝、岐阜県の大学2年の男子学生(19)は講義室に入った途端、周囲の楽しそうな声に呼吸が苦しくなった。翌日以降、通学できなくなった。
入学当初は友人と食事に行ったり、イベント企画のサークルに入ったりと順調だった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で昨年の夏前から徐々にオンライン授業に切り替わった。当初は、友人とLINEで連絡を取り合ったが、同級生との行き違いをきっかけに、友だち付き合い自体が嫌になってしまった。
「オンライン授業で友だちと顔を合わせる必要がなくなると、友人からのメッセージに返信しなくても気にならなくなった。元々、人間関係が苦手だったけれど、コロナで助長された感じ」と語る。
甲南大学(神戸市)の学生相談室でもコロナ禍で、心身の不調を訴える相談が増えているが、その内容は様変わりしている。オンライン授業が多かった昨年度までは「同級生と会えなくて孤独を感じる」との相談が目立った。しかし、対面授業が中心の今年度は「授業に行くのが怖い」「緊張で眠れない」と人と顔を合わせることへの不安を訴える声が多い。
宮本みち子・放送大名誉教授(家族社会学)は「兄弟や親戚が少ない環境で育った今の若い人たちは、人とのつながりを作る力が弱く、一度途切れた関係を戻すのが苦手な子が少なくない」と話す。
人間関係「コスパ」
政府が4月に公表した孤独・孤立問題に関する初の全国調査では、36%の人が「孤独を感じることがある」と回答した。60~70歳代が3割前後だったのに対し、20歳代は44%、30歳代が42%に上った。
調査に関する有識者研究会の座長を務めた早稲田大の石田光規教授は「若い人の割合が高いのは剥奪感が大きいからだ」と指摘する。若者はコロナ禍で勉強や恋愛などの自由を奪われたとの意識が強かったとされる。
石田教授によると、コロナ禍では、人との接触が「不要不急」とされたことで、自分にとって必要な人間関係は何かをチェックする「人間関係の棚卸し」が行われた。人と直接会うには、それに見合った「価値」を求める傾向が強まり、特にオンライン文化に慣れ親しんだ若者に顕著という。
石田教授は「知識や経済力、容姿といった『資源』を持っているとつながりやすく、ない人は関係をうまく作れなくなった。人間関係をコストパフォーマンス(費用対効果)でみる傾向はコロナ収束後もすぐに戻ることはないだろう」と話す。
相談できる場所
孤独から救われた人もいる。
東京在住の会社員女性(23)は2年前、大学を中退してまで目指していた海外留学をコロナ禍で断念した。カフェのアルバイトは、接客や皿洗いで感染するのが怖くて辞めた。その後、食品輸入など職場を転々としたが、給与は最低賃金水準で、焦りばかりが募った。友人たちはまだ学生で悩みを共有できず、人知れず涙をこぼした。
女性の体調を心配した母の勧めで1月、東京都足立区の若者支援センター「SODA(ソーダ)」にたどり着いた。
SODAでは、精神科医らのチームが若者たちの多様な悩みに無料で対応し、医療や福祉、教育などの専門機関につなげている。女性は不安に向き合う方法を知って心が軽くなった。留学の奨学金制度などを紹介してもらい、「再び留学への意欲が湧いた」と語る。
SODAの精神科医・内野敬さん(33)は「孤独に陥る若者は、他者と比べて『自分が劣っている』と考え、それを人に知られたくなくて相談をためらう人もいる。普段と違う様子に気付いたら周囲が声をかけることが大事だ」と話す。
SODAでは年間300件以上の相談に乗っているが、これ以上の受け入れは難しいという。若者が気軽に相談できる居場所作りが今、求められている。