酒と食道がんに明白な関係 少量で赤ら顔なら要注意 リスク知り内視鏡検査を 「医療新世紀」
アルコール飲料は、世界保健機関(WHO)の専門組織である国際がん研究機関(IARC)も確認した発がん性物質で、多くのがんを誘発することが分かっている。日本人には酒に弱い高リスクのグループがあることが知られており、専門家は、自分の体質を把握して、高リスクと分かったら飲酒は控え、早期発見のためがん検診などの内視鏡検査を積極的に受けてほしいと話している。
▽日本人の4割
IARCによる発がん性リスクの分類によると、アルコール飲料は「発がん性がある」と確認された最上位の「グループ1」。口腔(こうくう)、咽頭、喉頭、食道、大腸、肝臓のがんのほか、女性の乳がんのリスクも増加させる。IARCによると、アルコールに起因するとみられる新規症例が2020年に最多だったのが食道がんだ。
アルコールとがんの関係に詳しい京都大医学部の堅田親利(かただ・ちかとし)特定講師(腫瘍内科)によると、人は酒に含まれるアルコールをまずアセトアルデヒドに分解し、さらにアセトアルデヒドを酢酸へと分解して無毒化する。
ただ、日本を含む東アジアの人の4割は、アセトアルデヒド分解酵素が生まれつき働かないか、働きが弱い。飲酒量が増えれば、代謝しきれなかったアルコールとアセトアルデヒドが血液に乗って全身を巡る。
▽最大89倍
酒を飲むと、喉から食道、胃にかけての粘膜は、酒に含まれるアルコールとアセトアルデヒド、それが溶け込んだ唾液にじかにさらされ続ける。酒に弱い人は強い人に比べ、飲酒後の唾液中のアセトアルデヒド濃度がより高く、がんにつながるDNAの損傷がより多いことも研究で判明した。
国立がん研究センターなどの多施設共同研究では、酒に強い人が少量の飲酒をする場合に比べて食道がんのリスクは、弱い人の少量飲酒は約6倍、多量飲酒は89倍という報告がある。「発がんメカニズムがこれほど明白ながんはそう多くはない」と堅田さんは注意を促す。
国立病院機構久里浜医療センターの横山顕(よこやま・あきら)臨床研究部長らは、これまでの研究を総合し、食道がんのリスクを判定するテストを開発した。
ビールをコップ1杯程度飲んで顔が赤くなるかどうか、または、飲酒を始めた頃がそうだったかに答えた後、酒量や喫煙習慣、食習慣の質問に答える。合計11点以上は、極めてリスクが高い人だ。ただし、酒に強く赤くならない体質の人でも、酒量が増えればそれに応じてリスクが高まることは言うまでもない。
横山さんらがこのテストを基に調べた研究で、10点以下の人では食道がんが見つかる割合は0・7%だったのに対し、11点以上だと4・3%。約6倍の開きがあった。
▽禁酒は有効
では、高リスクの人はどうすればいいのか。
「酒をやめる、控えるなど生活習慣を変えることに取り組んでほしい」と横山さん。禁酒すれば、飲み続けた場合に比べて5年後には食道がんリスクが3分の1に減少するとの報告もある。
さらに、早期発見のための内視鏡(胃カメラ)検査による検診を受けることが強く勧められる。
胃がん検診では16年、バリウムを飲む胃のエックス線検査に加えて内視鏡検査が推奨された。内視鏡検査では途中に食道も見てもらうことができる。この検査の増加により、より早期に見つかる食道がんが増え、死亡率も低下してきたという。
横山さんは「内視鏡検査を受ける機会を逃さず、その際には、食道がんの高リスク群に当てはまることを問診票に記入したり、検査する人にあらかじめ伝えたりすることが大切だ」と話している。(共同=由藤庸二郎)