「ウイルスや細菌で汚染された表面を触らないようにマスクを外しましょう」
6月下旬、福岡大病院(福岡市)の一室。看護師の橋本丈代さん(57)と宮崎里紗さん(45)が、看護師の助手として働く約30人に、高性能の「N95マスク」や医療用ガウン、手袋などの防護具を取り扱うポイントを教えていた。
2人は、日本看護協会が認定する感染管理認定看護師(ICN)だ。感染対策に関する高度な知識や実践力を持つ。特定の外来や病棟ではなく、感染制御部に所属して、院内全体の感染対策に専従している。
病院には抵抗力が落ちた患者が大勢いる。ウイルスや細菌を院内に持ち込まないため、職員はどう行動すればよいかを日頃から指導し、入院患者の検査結果などにも目を通し、院内感染につながりやすい細菌やウイルスが検出されていないか確かめる。
「院内が平穏であることが何よりの成果」だった日常は、コロナ禍で一変した。
同大病院は、中等症と重症のコロナ患者の専用病床を設け、発熱外来も担ってきた。患者の受け入れにあたり、感染の恐れがある区域と、安全な区域を分ける「ゾーニング」を指導した。
コロナに関連した緊急の対応も続く。「コロナの疑いがある入院患者をどう扱えばよいか」「感染した職員の濃厚接触者はどの範囲か」といった相談が連日、各部署から、ひっきりなしに舞い込む。
2人と共にチームで感染対策にあたる同病院感染制御部長で医師の戸川温さんは、「専門性を生かして、これまで以上に大きな役割を果たしている」と信頼を寄せる。
活動の場は、院外にも広がった。ICNがいない病院や福祉施設から、支援の要請が相次いだ。
橋本さんは、クラスター(感染集団)が発生した病院や学生寮で、緊急の対応を担った。「よく『ピンチはチャンス』と言われるけれど、コロナで貴重な経験を積めている。さらに有事に対応できる力をつけたい」と意気込む。
宮崎さんは、高齢者施設を中心に訪問。感染者の発生を想定したゾーニングや防護具の使い方を指導、人員の配置などの計画作りを助言してきた。その際、職員から、「ICNに来てもらい、安心できた」と声をかけられ、「やりがいにつながった」と振り返る。
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患者に最も近い医療従事者とされる看護師の役割が広がっている。専門性を磨き、活躍する姿を伝える。(このシリーズは全6回)