ワクチン実用化へプラン練る…東京大医科学研究所国際ワクチンデザインセンター長 石井健教授
2022年8月2日 (火)配信読売新聞
「パンデミック(世界的大流行)発生から100日以内でのワクチン開発」――。そんな目標を掲げ、今年4月、東京大医科学研究所に「国際ワクチンデザインセンター」が発足した。センター長を務める石井健教授(ワクチン学)に話を聞いた。(大山博之)
新型コロナウイルスでは、健康に対する安全保障という発想の欠如や、危機感の乏しさが日本の「ワクチン敗戦」につながった。迅速にワクチンを実用化するための設計図やプランを研究して、社会に提供するのがセンターの主な役割だ。
ワクチンの要素は〈1〉免疫反応を起こす「抗原」〈2〉ワクチン効果を高める「アジュバント」〈3〉体内の必要な場所に成分を運ぶ「デリバリーシステム」――の三つだ。自動車産業のように、これらを交換可能な部品にする「モジュール化」の研究を進めている。あらかじめ様々な部品を開発しておき、発生した感染症に応じて組み合わせれば開発期間を短縮できる。
ただ100日以内を達成するには基礎研究だけではなく、臨床試験からワクチン輸送を含む、あらゆる段階でのイノベーション(革新)が必要だ。例えば現在の臨床試験は、数万人に試験薬と偽薬を投与し、自然に感染するのを待って有効性を調べるが、時間がかかる。加速化のため、志願者に人為的に感染させる方法も検討する必要がある。
新型コロナワクチンの輸送では冷凍技術がカギを握ったように、異分野との協力も重要になる。ワクチンと無縁だった企業や研究者も、危機時にできることを自ら考えて、協力してほしい。
開発力を高めるには若手研究者の育成が不可欠だ。研究予算だけではできる教育にも限界があるため、東大基金を通したクラウドファンディングで支援をお願いしている。