新型コロナ:新型コロナ モデルナ日本工場浮上 政府・与党、ワクチン迅速供給狙い
2022年8月12日 (金)配信毎日新聞社
新型コロナウイルスのワクチンを開発した米バイオ医薬品大手モデルナの日本工場を誘致する計画が政府・与党内で浮上している。モデルナは工場で製造されるワクチンを政府が一定期間、購入することを建設の条件としている。新たな感染症が流行してもワクチンが速やかに供給される「メリット」が期待できる半面、ワクチン購入費が数千億円規模に上る可能性があるなど「障壁」もある。
モデルナが開発したワクチンは、ウイルスの遺伝子の一部「メッセンジャー(m)RNA」を人工的に作って利用するため、「遺伝子ワクチン」と呼ばれる。ウイルスの設計図である遺伝物質のmRNAは人工的に合成でき、開発に要する時間が短くて済む。10年かかるとされるワクチン開発が1年未満の短期間で実現したのはこのためだ。国内メーカーでは製薬大手・第一三共が実用化を目指しているが実現しておらず、国内では希少な技術だ。
政府はワクチン供給について、モデルナのほか、米ファイザー▽英アストラゼネカ▽米ノババックス――の4社と計8億8200万回分を契約。そのうち、約4分の1に当たる2億1300万回分がモデルナのワクチンだ。ファイザーのワクチンもモデルナと同じ技術を用いている。
工場が稼働すれば、mRNAワクチンの原薬(有効成分)を生産し、国内で新型コロナを含む感染症に対するワクチン開発を目指せる。日本法人モデルナ・ジャパンは毎日新聞の取材に、計画の存在を認めた上で「生産拠点を整備することで、感染症のパンデミック(世界的大流行)時にワクチンを迅速に供給できるメリットがある。mRNAの製造や研究拠点を設けることは人材育成の意味もある」と回答した。
ネックとなるのが、多額の予算を必要とする点だ。与党関係者によると、今回の計画はモデルナ側から政府・与党に打診をしたとされる。工場はモデルナが建設するものの、設立3~10年目の8年間、人口の3分の1程度が接種可能な4000万回分のワクチンを政府が毎年購入するという契約の締結がモデルナ側の出した条件だという。ワクチンは新型コロナのほか、季節性インフルエンザやRSウイルスなどの呼吸器系ウイルス感染症対応のものでも可能としている。
政府は4社の個別の契約状況を明らかにしていない。コロナワクチンを購入すると仮定し、購入費2兆4000億円を8億8200万回で割り算すると接種1回分の費用は約2700円だ。購入条件となる4000万回分の費用を単純計算すると1080億円に上る。これが8年間続けば総額は8640億円に達する計算だ。さらに、国内の大学や教育機関との共同研究や人材育成にも「投資」が必要になる。モデルナは、豪やカナダ、英政府と似たような契約を結んでいる。
政府・与党内では水面下で議論が進んでいるが、条件を承諾するかを巡って意見は割れているようだ。副反応などから接種を敬遠する動きが一部にあるため、使用期限切れなどでモデルナ製ワクチンが廃棄されている問題を念頭に、自民党のある議員は「国内ではファイザーが人気で、購入しても無駄になるのではないか」と慎重な見方を示す。厚生労働省幹部も「国内には第一三共のようにmRNAワクチンを開発中の企業もある。なぜモデルナなのかという説得力に乏しい」と指摘する。
一方、自民党のワクチン対策プロジェクトチーム(PT)の座長で医師免許も持つ古川俊治参院議員は「mRNAの技術は、がんワクチンや難病、たんぱく質の細胞内治療にも応用できる」などのメリットを挙げ、誘致に前向きだ。ただ、政府・与党の意見集約は難航しそうで、現状で誘致が成功するかは見通せない状況だ。【矢澤秀範】