保健所やっとデジタル化、感染者への連絡遅れ解消…発生届を自動読み取り・スマホで入力可能
2022年8月21日 (日)配信読売新聞
新型コロナウイルスの「第7波」で、都市部の保健所がデジタル化で業務の効率化を図っている。感染者数が過去最多を更新する中、感染者への連絡が大幅に遅れるなどの混乱は起きていないという。保健所は感染拡大のたびに業務 逼迫ひっぱく を繰り返してきただけに、専門家からは「もっと早く対応すべきだった」との声も上がる。(梅本寛之、伊藤大輔)
時間は半分
新型コロナは感染症法上の「2類相当」に位置づけられ、医師は患者全員の「発生届」を保健所に提出する義務がある。
厚生労働省は2020年5月から、診察した医師らに直接、患者情報を入力してもらうことで迅速にデータを収集・活用するためのシステム「HER―SYS(ハーシス)」の運用を開始した。しかし、パソコンの扱いに慣れていないなどの理由で敬遠する医師も多く、保健所は、医療機関からファクスで届く手書きの発生届を代行入力する業務に追われてきた。
大阪市保健所は8月1日から、代行入力の負担を減らすための新たなシステムを導入。厚労省が6月、発生届の様式を専用のソフトで読み取れるものに変更したことで可能になった。
医療機関が発生届を専用の送信先にファクスすると、PDFファイルに変換され、手書きの文字を自動で読み取る仕組みだ。担当者は文字の読み取りが正確にできているかをパソコンの画面上で確認し、問題がなければハーシスに反映させる。
手入力なら1件あたり約10分かかるが、新システムでは半分程度に短縮できているという。
市保健所では、第6波で1日あたりの新規感染者が想定(1700人)の4倍の約7000人に急増。約2万1900人分のハーシスへの代行入力が最長8日間遅れる事態となった。これに伴い、軽症者らにSMS(ショートメッセージサービス)を送るのに最長1週間かかった。
第7波では、ハーシス入力などを引き受けた医療機関に入力1件あたり3000円などを支払う大阪府の制度の効果もあって、保健所による代行入力の割合は6割から3割に減少。代行入力の人員も第6波最大時の2倍(300人)に増強した。
1日あたりの新規感染者は8000人を超えているが、こうした取り組みの結果、入力作業の遅れはなく、軽症者らにも発生届を受けた翌日には連絡できているという。市保健所の遠山 雅胤まさつぐ ・感染症対策調整担当課長は「現場の負担が軽減され、感染者への対応に集中できている」と話す。
簡単入力
代行入力の割合が一時9割近くに上っていた神戸市は6月から、医療機関の負担軽減にもつながる独自のシステムの運用を始めた。
ハーシスを使うには、IDやパスワードの取得に加え、電話などで本人確認をする「2段階認証」が必要で、医療機関側が利用をためらう理由の一つになっている。これに対し、市が6月に導入したシステムでは、自治体専用のネットワークを使っているため2段階認証は不要で、タブレットやスマートフォンでも入力できる。選択肢からタップして選べる項目も大幅に増え、操作が簡単になった。入力した内容はハーシスに反映されるという。
代行入力の割合は現在、6割に低下し、業務の停滞も起きていない。市の担当者は「手書きの内容について医師に問い合わせる必要がなくなり、手入力によるミスを減らすこともできる」とする。
療養先判定
感染者の増加に伴い、療養先を決める業務も保健所の負担になっている。療養先を自動判定するサイトの運用を4月から始めたのが札幌市だ。
陽性判明後、感染者自身に「氏名」「生年月日」「持病」など約20項目を入力してもらい、その場で「自宅療養」か「自宅以外」かを判定。「自宅以外」となった人には、保健所がすぐに電話で連絡し、入院先などを手配する。
第6波では療養先の決定まで3~4日かかっていたが、サイトの利用で1~2日に短縮できたという。
識者「もっと早くやるべきだった」「緊密に情報共有を」
ハーシスの導入から2年以上経過したが、保健所はマンパワー不足に伴う業務逼迫に悩まされ続けてきた。立命館大の早川岳人教授(公衆衛生学)は「解決策としてようやくデジタル化の取り組みが進んできたとはいえ、もっと早くやるべきだったと言わざるを得ない」と厳しく指摘する。
政府は、全国知事会や日本医師会からの申し入れを受け、すべての感染者を把握する「全数把握」を見直す方向で検討している。代替策として、一部の医療機関だけに患者の発生を報告させる「定点把握」などが挙がっているという。
早川教授は「全数把握」の見直しについて、「保健所や医療機関の負担は大きく減るが、重症化リスクの高い人を把握するのが難しくなるという課題もある。保健所や医療機関が緊密に情報を共有する体制作りが必要だ」と語る。