「話せば、暮らせない」 家庭内性暴力、被害者語る 成人後も苦悩
伯父から受けた性被害を長年、打ち明けられなかったという女性=兵庫県で2022年8月4日午後3時33分、中田敦子撮影
誰かに話せば生活できなくなる――。家庭内性暴力は被害が表面化しにくいとされる。伯父から受けた性被害を誰にも打ち明けられず苦しんだ50代の女性を取材した。【中田敦子】 【写真】義父から性的虐待の40代女性、描いた心の姿 両親は5歳で離婚。3人兄妹で、妹は母親と伯母方で同居し、兄と女性は父親に引き取られた。その後、同居する父親から日常的に殴られて、蹴られた。兄と一緒に警察に被害を申し出たが取り合ってもらえず、近隣住民の通報で児童相談所に保護された。半年ほど児童養護施設で過ごした後、西日本に住む伯父夫婦に引き取られた。9歳のときだった。 ◇SOSが出せない 幸せな暮らしが待っていると思った。だが、1年後、生活は暗転した。夕食中に伯父に一方的にしかられ、2階の自室に駆け込んだ際に無理やりキスをされた。「絶対に誰にも言うなよ」と告げられて体が硬直した。その後も服の上から胸を触られ、入浴をのぞかれた。だが、周囲にSOSを出せず、本音は日記に記した。 中学卒業後、伯父方を飛び出して大阪で一人暮らしを始めた。成人してからは、記憶を失うまで酒を飲んだ。「どうしてそんなに自分を傷つけるのか」と友人に尋ねられ、伯父に受けた性被害に苦しんでいたことを初めて認識した。 伯父方での生活は肩身が狭く、自分は「邪魔者」と言い聞かせた。「養ってもらっていて、誰かに話せば暮らせなくなる」との不安があった。兄や学校の先生、警察も信用できず、口を閉ざしていた。 転機となったのは20代後半。連絡を取っていなかった妹から突然電話があり、伯母の夫から性暴力を受けたことを打ち明けられた。「実は私も」と、初めて人に打ち明けた。精神科のカウンセリングを受ける妹に同行し、徐々に自分とも向き合えるようになった。 ◇自助グループ参加 県内で生活して7年前から性犯罪被害者の自助グループに参加。同じような被害に遭った人の話に耳を傾けている。監護者からの性暴力について「子どもは純粋で大人の顔色をうかがう。本音を言いたいけど、迷惑をかけると思って言えない場合も多い」と話す。 ◇顕在化しにくく 公益社団法人が相談窓口 刑法の性犯罪規定は2017年、110年ぶりとなる法改正で厳罰化され、監護者性交等罪と監護者わいせつ罪が新設された。親など監護者の立場を利用して18歳未満の被害者に性的な行為をした場合は暴行や脅迫の有無は問わない。 公訴時効は監護者性交等罪で10年、監護者わいせつ罪で7年となっている。国の法制審議会は時効の延長や撤廃を含めて見直しを議論している。 兵庫県内では、監護者性交等罪での摘発は18年以降5件前後で推移。監護者わいせつ罪は21年12件で過去最多(前年比6件増)となった。県警によると、家庭内性暴力の認知は半数が児童相談所からの通報。親や養父らの監護者は、被害者にとって生活全般を管理する立場にあるため、県警は「被害者は精神的に声を上げづらく、被害が顕在化しにくい」と分析する。幼い頃の性的虐待は被害を認識できない場合が多く、検挙が難しいという。 県では、公益社団法人「ひょうご被害者支援センター」(神戸市)がワンストップの相談窓口を運営している。相談は平日の午前9時~午後5時(078・367・7874)。
「けいぶほさんへ」性犯罪被害の女児、容疑者逮捕に感謝の手紙
記者の質問に答える博多署刑事1課の山田英津子警部補=福岡市博多区で2022年2月18日、平川義之撮影
「つかまえて(くれて)ありがとうござえ(い)ました」。当時7歳だった女児から贈られた手紙を、博多署刑事1課強行犯係長の山田英津子警部補(58)は大切に保管している。女児は、福岡市博多区で起きた強制わいせつ事件の被害者だった。性犯罪は捜査協力への負担を懸念し、泣き寝入りする例が多いとされるが、女児は山田警部補を信頼し被害を打ち明け、容疑者の逮捕につながった。 「変なおっちゃんがおって嫌やったね」。2021年11月、博多署の取調室。女児が担当刑事から聴取を受ける間、山田警部補はやさしく声を掛けた。「のどは渇いていないかな?」「トイレは大丈夫?」。緊張を和らげるように気を配り続けた。 女児は数時間前、公園で遊んでいたところ、見知らぬ男性から体を突然触られた。周りには他の子供や保護者もいて、発生直後に110番が入った。 無線を聞いた山田警部補は、捜査員に「現場で(捜査に対する)両親の許可を得てください」と指示した。性犯罪の捜査では被害者の記憶が鮮明なうちに証言を得ることが重要だ。だが被害者が子供の場合、保護者が心配し取り乱すようなケースもあるからだ。 初動から女児と両親の信頼を得た山田警部補の捜査チームは、被害証言や防犯カメラ映像を基に地道な裏付け捜査を展開。事件から約1週間後、強制わいせつ容疑で無職男性の逮捕にこぎ着けた。 逮捕後の同年12月、女児は母親と博多署で山田警部補に手紙を贈った。「やまだけいぶほさんへ。だいすき」「かわいいね。しせい(姿勢)がじょうずだねってゆってくれてありがとう」。手紙の裏には、山田警部補の似顔絵も描かれていた。 20年以上の刑事経験の大半を性犯罪捜査に費やしてきた山田警部補だが「被害者からの手紙は初めて」だという。過去には被害を親告したのに、聴取の調整に時間がかかり、耐えかねて告訴を取り下げた被害者もいた。取り下げ書類のミミズがはったような崩れた字が痛々しく、今も頭から離れない。 自身が受けた性被害を警察に説明することは「治りかけたかさぶたをはがすようなもの」と山田警部補は表現する。性暴力について尋ねたアンケートでは、警察に相談した被害者は1割未満との結果もある。今回の事件では、女児の両親にも「子供の気持ちを第一に考えて寄り添ってくれた」と山田警部補は深く感謝する。その上で「あの子はきっと前を向ける。大丈夫」と願うように続けた。 博多署管内には西日本有数の歓楽街・中洲があり、性犯罪の認知件数は県内で最も多い。「容疑者を検挙することが、被害者の心の平穏につながる」。女児の手紙が改めて教えてくれ、山田警部補は今後も被害者に寄り添う捜査を続けることを誓った。【佐藤緑平】
[語る 岸田政権の課題]感染リスク 平時から分析…元厚生労働次官 樽見英樹氏 62
コロナ第7波 「行動制限せず」正しい
――感染症危機に対応する政府の組織体制はどうあるべきか。
コロナ対応は感染防止策や医療提供のほか、水際対策や観光促進策のGo To トラベル、飲食店支援のGo To イートなど、多くの省庁にまたがる。現在は、内閣官房の新型コロナウイルス感染症対策推進室が政府内の総合調整機能を担っている。
これまで、首相官邸が方向性を決めても、各省庁で実行に移されるまでに時間がかかる場合もあった。私が室長を務めた頃から、首相を支えるためには、各省庁より一段高い立場で調整できる組織が必要ではないかという意見はあった。
コロナ禍で、私たちは「感染症が流行し始めてから対策に着手するのでは間に合わない」ということを学んだ。天然痘に似た「サル痘」が欧米を中心に流行しているように、感染症の脅威は新型コロナだけではない。米疾病対策センター(CDC)は、世界中の感染症の情報を集めて分析している。これが、ワクチンや治療薬の早期開発にもつながっている。
日本でも、平時からどのような感染症のリスクがあるのかを把握し、分析する体制が必要だ。リスクに対し、どのような医療物資が必要になり、どう調達するのかといったことを普段から考えておく人と組織ということだ。それを担うのが、内閣感染症危機管理庁や厚生労働省の感染症対策部、「日本版CDC」になるのだろう。
――新型コロナウイルス流行「第7波」に、岸田内閣は感染対策と社会経済活動の両立を重視して対応している。
コロナの感染の広がり方には「癖」がある。2年前に流行が始まった当初は、働き盛りの現役世代が感染して飲食店を通じて広がり、家庭内に持ち込まれる。それが高齢者施設にも広がるという流れだった。
第7波では、保育園や学校で感染した子どもから家庭内に広がるケースが目立つ。働き盛りの世代や飲食店で感染が広がらないのは、おそらくワクチン接種が進んだためだろう。
少なくともオミクロン株の新系統「BA・5」以降は、飲食店の営業制限などで経済活動を抑えるという対策はあまり意味がなくなっている。行動制限はしないという政府の判断は正しい。
ただし、重症化しやすい高齢者や基礎疾患のある人にとって怖い病気であることに変わりはない。高齢者などが身近にいる人が感染対策に気をつけることが大事だ。
――政府は、新型コロナの感染症法上の位置づけを現在の「2類相当」から見直す検討に入った。
「2類相当」か、季節性インフルエンザと同じ「5類相当」かという単純な議論ではなく、きめ細かく考える必要がある。この問題の核心は、全感染者を特定する「全数把握」が必要かどうかだろう。
新型コロナウイルスは変異を繰り返す。どのような型のウイルスがどこで流行しているかを踏まえて対策を打つという観点から、全数把握は今も重要だと思うが、専門家の意見を聞いて決めれば良いと思う。
――保健所や医療機関の負担軽減策は。
全数把握のために保健所や医療機関の業務が逼迫(ひっぱく)し、本来治療や検査を受けるべき人が受けられなくなっているなら意味がない。重症化リスクの低い人には検査キットで自己検査してもらう取り組みをさらに進め、保健所の業務を軽減すべきだ。
本当に治療が必要な人に医療を確実に提供する体制は維持しなければならない。軽症の人は自宅療養してもらうことや、高齢者の在宅医療のために医療機関に協力してもらうことが必要だ。(聞き手 後藤香代)
◆内閣感染症危機管理庁= 政府が内閣官房に創設する方針の新組織。感染症危機に関し、首相の指揮命令を省庁に徹底する司令塔機能を果たす。これと合わせ、厚労省に新設する感染症対策部の下に、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターの統合で日本版CDCを新設し、科学的知見の拠点とする。
[ヒットの秘密]医師と開発 疲れにくさ追求…ドクターグリップ(パイロットコーポレーション) 1991年発売
疲れにくいペンを追求したパイロットコーポレーションの「ドクターグリップ」は、1991年に発売された。当時は、現在のようにパソコンは普及しておらず、企業では帳簿や伝票の多くが手書きだった。主流だったのは、鉛筆のように軸が細いペン。強い筆圧で、腕や肩を痛める人も多かった。(当時、頚肩腕障害,と診断治療、私も症状があり、広島大学の宇土先生に受診した。ペンは、宇土先生が中心に考えられたと聞いている。oioiばば追記)
開発チームは、負担を和らげようと、太さが違うペンを用意し、筋肉にかかる力を計測した。最も疲れにくかったのが、13・8ミリ軸のペンだった。軸全体が同じ太さでは握りづらい。軸の途中を細くした流線形のデザインにし、グリップはゴムで覆った。
実は、新たに開発したのは軸部分だけで、ペン先やインクは従来品を採用した。このため、発売までにかかったのはわずか9か月。医師と共同開発したことにちなみ、商品名はドクターグリップに決まった。社内では「クリニックボール」と呼ばれていたという。
1本500円と価格は高いが、発売後は年間30万本の売り上げ目標に対し、5か月で100万本を突破する大ヒットとなった。発売翌年に入社した広報部、部長代理の田中万理さんは、「会社の備品ではなく、好みの筆記具を自分で購入するスタイルにつながったのではないか」と振り返る。
最近は、学生向けのシャープペンシルも人気となっている。
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油性ボールペン(単色)は6種類あり、税込み660~880円。昨年発売した新商品のシャープペンシル「CL プレイバランス」は、おもりの役割を果たす付属パーツをグリップ内側につけると、好みに合わせて重心が調節できる。芯の太さは0.3ミリと0.5ミリ。税込み770円。
宇土先生は、腰痛予防の運転用枕も考えて下さった。(oioiばば記)