夜噺骨董談義

収集品、自分で作ったもの、見せていただいた品々などを題材に感想談など

神使 渡辺省亭筆 その16

2017-08-07 00:01:00 | 掛け軸
あまりの暑さに庭で息子と水撒きをしていると、祖父が車庫からなにやら取り出してきました。古くから家にある燭台やら二眼レフの古いカメラやら・・・。「捨てるんですか?」と聞くと「いや、もったいないね~。」・・。どうやら小生にきれいにしてとっておいて欲しいということらしい。どうも小生がいろんな物を修理しているのを見ていると、次から次にいろんなものが出てきます。取り合え水洗いして、汚れを落として玄関で干しておくことにしましたが、祖父と息子が古いカメラで意気投合したらしい。

「これはなに?」といつもの始まり・・・。



そんな二人を放っておいて小生は展示室で作品の整理、なんといっても貴重な休日。ともかく休日は滅茶苦茶忙しい・・



屋根裏の展示室の照明を点灯し、二階の照明を消すと展示室はいいムードになります。森の木立にいるような・・・、これも展示室の狙いの設計意図・・。そして本日の作品紹介は木立に居る神の使いを描いた作品です

神使 渡辺省亭筆 その16
絹本水墨淡彩軸装 軸先象牙 合箱
全体サイズ:縦1910*横495 画サイズ:縦1300*横375



題名のない状態での入手で「神使」は仮題です。「神使」と題した理由は下記によります。

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石清水八幡宮と鳩:八幡神は、皇室の祖先である誉田別命(ほんだわけのみこと)を祭神とし、誉田別命が国内を平定するときに、水先案内人となったのが鳩であったとされ、以来、鳩は八幡神の使いであるとされるようになったこと。(春日大社・鹿島神宮・厳島神社)

春日神社と鹿:武甕槌命(藤原氏守護神)が白鹿に乗ってきたとされることから、鹿を神使とする。

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つまり鳩と鹿は神の使いとされていることによります。



この春日神社の鹿と八幡神社の鳩を題材にした作品では本ブログで下記の作品を紹介しています。

三社託 春日百鹿・八幡百鳩・二見浦朝日図 
三幅対 池田孤邨筆
絹本着色軸装 軸先象牙 共箱
全体サイズ:縦1900*横545 画サイズ:縦1040*横360



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三社託:三社とは伊勢神宮(アマテラスオオミカミ),春日神社(春日大明神),石清水八幡宮(八幡大菩薩)のことで、その三社の託宣(たくせん:神託ともいう。神が人に憑 (かか) り,その意志を述べることをいう) を三幅に描いたもの。正直,清浄,慈悲が表現されています。

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ところで渡辺省亭の作品の印章は意外に複雑極まりないようです。単純に「省亭」という印章が多いのですが、その印影が多種様々であり、一概に贋作と決めつけられない作品もあり、最終的には作品の出来不出来しか真贋のポイントがないと思われます。



所定の鑑定人も不在で、共箱の作品も数が少ないようです。ただ省亭の箱書は、弟子が少ないので箱書があるとすると共箱ですが、これを「共箱」が多いと表現してる解説もありますが、この表現は誤解を招きます。

ところで省亭には正妻の「さく」の他にもう一人の妻がおり、そちらの家は外面上はアトリエとし、没するまでの30年に渡りそれぞれの家に通い続けたそうです。「やるね・・・」。



最近まではこのような日本的な作品はあまり好まれていなかったように思います。西洋の技法の影響は受けているものの菊池容斎から徹底した日本画法を仕込まれているので、日本画から離脱した描き方はしていません。



近年の日本画は絵の具も含めて西洋画風のものが好まれていました。極端な例ではスプレーで描いたもの、顔料を油絵のごとく塗り重ねたものなどもあります。



しかしそれはあくまでもひとつの過程であり、行き着くところ日本の美の原点に戻ります。



決して渡辺省亭がそこに位置する代表的な画家とは思いませんが、その一端に位置する画家には相違ないでしょう。



日本人は日本の心を忘れてはならないのです。日本の美から日本の心を学びとることこそ、今の日本人に必要なことでしょう。



先週の日曜美術館で取り上げた漆器、すなわちジャパンしかり、掛け軸、陶磁器、刀剣、金工、それらに日本の心の将来の有り様が隠されているように思えるのは私だけでしょうか?

神の使いはなにを伝えたいのでしょうか?


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