【写真】60~120年に一度しか咲かない竹の花
日本の草花を四季に応じて紹介する『日本の花を愛おしむ 令和の四季の楽しみ方』(著:田中修 絵:朝生ゆりこ 中央公論新社刊)から、いまの季節を彩る身近な植物を取り上げ、楽しく解説します。今回のテーマは「【竹】」です。
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キク、ウメ、ランとともに「四君子」に選ばれている
タケは、まっすぐにすくすくと伸びる成長力と、厳しい寒さの中で緑を保つ生命力を身につけています。
そのため、この植物は、縁起のよいものとして、年の初めに、お正月飾りの門松として、マツとともに用いられます。
タケは、冬には、「松竹梅」の仲間とともに寒さに耐え、春には、「端午の節句」で活躍します。これは5月5日の「菖蒲の節句」ですが、タケはのぼり棒として鯉のぼりを支え、お祝いの若竹煮では、タケノコが調理されます。7月7日の「七夕(しちせき)の節句」は「笹竹の節句」ともいわれ、タケはササとともに、「七夕(たなばた)まつり」の主役を務めます。
芸術の秋には、この植物は、掛け軸や屏風などの画題となって目立ちます。高潔な美しさや気品と風格に満ちた様子を君子にたとえられる「四君子」に、キク、ウメ、ランとともに選ばれており、その姿が描かれます。また、水墨では墨竹画として主題になります。
このように、この植物は、四季折々に欠かせぬ存在ですが、それだけではありません。タケは、生涯を通して、私たちの身近にいます。
子どものころから、身近な暮らしの素材として、竹とんぼ、竹馬、釣り竿など、遊びや趣味などに使われます。
大人になれば、生活の中で、お箸、ざる、火吹き竹、物干し竿、すだれ、うちわや扇子の骨、和傘の骨や柄、タケの皮などで、生活をともにします。楽器としても、尺八で使われます。
また、健康を朱色の「朱竹(しゅちく)」に託して、衣服にあしらわれたり、色紙画として飾られたり、絵画に描かれたりして、「家内安全」「子孫繁栄」「健康長寿」などが願われます。
高齢になると、背中などの手が届かないところがかゆいとき、掻くのに使う「孫の手」のお世話になります。
タケノコは、いつタケになる?
タケは、縄文時代から日本で生育しており、身近にある植物なので、多くの人にいろいろな疑問がもたれます。
よく抱かれる疑問の1つ目は、「いつ、タケノコはタケになるのか」です。タケノコは、タケの皮をかぶっています。成長するにつれて、皮がはがれていきます。全部の皮を脱ぎ終わったときに、「タケ」とよばれます。
2つ目の疑問は、「タケとササの違いは、何なのか」です。タケは、タケノコからタケになるときに、皮をすべて脱ぎ捨てます。それに対し、ササは、いつまでも皮をつけています。これが違いです。
3つ目の疑問は、「タケの花は、咲かないのか」です。タケは花を咲かせますが、60年、あるいは、120年ごとといわれます。そのようにタケの花が咲くのはめずらしいので、何年ごとに咲くかは、正確にはわかっていません。
私たちが普通に食べるタケノコをつくるモウソウチク(孟宗竹)というタケでは、きちんとした記録が2例残っており、それによると、67年ごとになっています。
ただ、だからといって、タケの花を見るときに、「もう一生見ることができない」とせつない気持ちになる必要はありません。タケは、日本に100種類以上あり、どこかで、どれかの種類がほぼ毎年咲いています。また、一部の地域だけで、数年間、咲き続けることもあります。
花の咲く時期は、梅雨の前後が多いですが、突然、冬に咲くこともあります。
成長が速い理由は
「朝に、小さい子どもがタケノコ掘りについて行き、地面に突き出たタケノコの先端に帽子をかぶせて、夕方まで遊んで帰ろうとしたら、タケノコが伸びていて、子どもが帽子に手が届かない」という話があります。これは、タケノコが1日に1メートル以上も伸びることを象徴するものです。
タケノコがこのように速く伸びる現象については、3つの理由が考えられます。
1つ目は、タケノコのときにいくつもできている節目の間が、それぞれ少しずつ伸びるからです。タケノコでは、先端が地上に顔を出したときに、すでに多くの節(ふし)があります。1つの節の間の伸びが少しずつであっても、節目が多くあるので、合計すると伸びが大きくなるのです。
2つ目は、栄養が効率的に使われることです。多くの植物は、茎を太らせながら伸びます。ですから、栄養は、太くなるためにも、伸びるためにも必要なのですが、タケの太さは、タケノコのときにすでに決まっています。
タケの栄養は、肥大するのに使われることはなく、ただ上に伸びるためだけに使われます。しかも、伸びるタケの中は空洞ですから、背丈を伸ばすために栄養が効率的に使われます。
© 婦人公論.jp タケの太さはタケノコの時にすでに決まっている
根で親兄弟とつながっている
3つ目は、タケが伸びるための栄養は、自分でつくるのではなく、地下でつながっている親や先に生まれた兄弟のタケから送られてくるのです。「根でつながっている」と表現されることもありますが、竹林の土の中に張りめぐらされているのは、土の中を横に伸びる茎である「地下茎(ちかけい)」というものです。それが新しい個体を生み出してきます。生まれてくるのがタケノコです。
もともとある節目を強いものにして成長する
タケは、成長過程において、茎にある節を強くしながら、上を目指して伸びます。古くから、この姿は多くの人々を励ましてきました。
入学、就職、転勤などの季節には、新しい生活に臨む人々への励ましの言葉が、人生経験の豊かな人や有識者の方々から贈られます。その中に、人生をタケの成長にたとえ、次のような内容の贈る言葉がよく使われます。
「人生で出会ういろいろな試練は、成長するタケの節目に似ています。タケは、節目をつくりだしながら、上へと成長します。大切なのは、いかに強い節目をつくりだすことができるかです。人生もタケと同じで、いろいろな試練に出会って、強い節目をつくれた人は、強く生きることができるようになります」という趣旨のものです。
新しい生活への挑戦を、タケの成長に見立てると、人生の試練は、そのタケを支える節目を強くする役割と考えられます。試練に出会って強い節目をつくることができれば、人生をたくましく生きていくことができるはずです。ですから、この内容は、若い人たちに贈る言葉として、ふさわしいものです。
ただ、このように、タケの成長を人生にたとえるときには、注意しなければならないことがあります。「タケは、節目をつくりながら、成長する」と思われがちですが、そうではないことです。タケの節目は、生まれてすぐのタケノコのときにすでにつくられているのです。
ですから、成長するにつれて、節は強くなるだけです。タケノコのときにできている節目を強いものにして成長するのは、タケにとっても大切です。ですから、この贈る言葉のように、試練に出会い、節目を強くしながら、新しい生活の土台にしていくことは大切です。
その意味を込めて、贈る言葉として、「タケは、強い節目をつくりだしながら」ではなく、「タケは、節目を強く丈夫なものにしながら」という意味を強調しなければなりません。
© 婦人公論.jp 人生をタケの成長にたとえる時には注意が必要
タケ(竹)
[科名]イネ科
[原産地]東南アジア
[花言葉]節度、節操のある