Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

夢のような倒錯した舞台

2021-03-22 | 
日曜午後のミュンヘンからの中継を観た。新制作「ばらの騎士」初日だった。本来は二日目だったのだが、無観客で初日として中継された。今まで観たこのコメディの公演の中で初めて感動した。正直演出のバリコスキーの嫌味には警戒したが、とても上手に解決していたと思う。

ベルイマン監督「野イチゴ」から針の無い時計:cf.20s
Ingmar Bergman - Wild Strawberries

ベルイマン監督「魔笛」:
🎄THE MAGIC FLUTE 🎶 MOZART 🎞 BERGMAN [IT, EN, FR, SPA, PT (Br)]

ハインリッヒ・マン原作「嘆きの天使」:cf.7㎡34s
O ANJO AZUL, 1930 - Marlene Dietrich - Completo Legendado (Português-BR), subtitles in English

魔笛を吹く94歳の爺さん:cf.1m10s
DER ROSENKAVALIER Trailer


時間の舞台作品として、柱時計を最初から最後まで使った仕掛けも、多くの人はベルイマンの「野イチゴ」を思い出すだろうか。ここからすんなりと「魔笛」、「嘆きの天使」から「フィガロの結婚」へと繋がり、更にロイ演出「コシファンテュッテ」まで想像して貰うと大成功だろう。すると大ギャグの九十四歳のスタティステン即ち歌を歌わない舞台の役者の裸も誤った意味には取られなくなる。

音楽的にも秋からの音楽監督の指揮者ユロウスキーとテムピを各場面毎綿密に合わせたというが、これほどに音楽的な舞台も珍しく、同じ演出家のバイロイトにおける「マイスタージンガー」の下手な不自然感とそこからの皮肉は無かった。インタヴューでも全体の音楽的な流れに関しては指揮者の仕事だとしていたが、そこまで合わせて行くとなると前任者キリル・ペトレンコが引き受けなかった理由も推測可能となる。演出のコンセプトや内容よりもそこまで積極的に合わせようという指揮者は少ないに違いない。

その結果として舞台的な小気味よさや自然な演技や呼吸感に関しては言うまでもないが、今回の場合はなによりもパルランドの大成功に繋がっていた。可成りも音節数も多い内容を耳で伝わるようにの成果は画期的で、指揮者や歌手が期待するように、本来の大編成で演奏しても同様な結果が得られるとしたら、ここに来てようやくこの楽劇の本領が示されたとしても良い。

一幕は交響詩的な作りというが、今回の演奏ではまさしくヴァークナ-的な流れの楽劇が進行すると同時にとても劇的な舞台進行が巧妙で、更に音だけを聴いていれば殆どラディオドラマのように一語一句が聴き取れる。このヒット作品が当時から映画化されて、無声映画として上演されたことなどの奪胎換骨のその雰囲気が溢れたファンタジーに成っていた。

二幕における有名なオックス男爵の偽ヴィーナーヴァルツァーの流れも芝居としてもとても分かり易く、一体今までの舞台は茶番劇で無かったかと思わせた。当然三幕におけるパルランドの語りも劇性があって、最後の三重唱が終ってから、話題になっていた「ヤーヤ―」が完璧に決まっていた。そこの演技だけでも本年度のマルリス・ペーターセンのオペラの最高女声は動かないだろう。そこに絡む父親のファニナルの一節だけでも舞台生活五〇周記念のマルティン・クレンツレが昨年に続いて再び最高男声賞を取るかもしれないほどの存在感があった。

そして大ギャクの爺さんが時計の針を外す。これ程感動させてくれるリヒャルト・シュトラウスの「音楽の為のコメディー」だとは思わなかった。

女性が男性を演じるズボン役のカンカーンのキャラクターの作り方も流石に同性愛の演出家らしくとても上手で、これほど自然に作っているのも珍しい。この要素はかなり大きく、バロックのイタリア人役のテノールなど、この作品におけるセクシャルな要素を知り尽くしているようだ。本当に夢のような倒錯した舞台である。

主役のマルシャリンの偉大なペーターセンに関しては最早言及するまでもなく、その歌のニュアンスを芝居を性格付けをとことんまで追い詰める技やセンスには脱帽しかない。オックスのフィッシュエッサーも「マイスタージンガー」のポーグナーもツェッペンフェルトのそれからすると大分軽かったが、今回は新たな部分も加わってその器用そうなところと新鮮みがなによりもだった。

そしてやはり、一幕のフィナーレのマルシャリンの独り言に付ける音楽の一節もユロスキーの指揮は抜群で、そうした劇場感覚はペトレンコには無かったもので、なによりもオペラ指揮者として大きな期待をしているところである。勿論演出家との協調作業がそこまで深まっているという事には違いないのだが。



参照:
爺さん殺しの音楽監督 2017-11-19 | 雑感
コメディの為の音楽の神髄 2021-03-15 | 文化一般

コメント
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