常染色体優性遺伝性脊髄小脳変性症(dominant SCAs)の発症にCAG repeat数が大きな影響を与えることは周知の事実であるが,その決定係数(coefficient of determination;重相関係数Rの2乗.寄与率とも呼ばれる)を見た場合,CAG repeat数のみでその発症年齢がすべて予測できるわけではなく,それ以外の修飾因子の存在が疑われる.例えば同じCAG repeat病であるHuntington病では,GluR6遺伝子のpolymorphismが発症年齢の修飾因子であることが知られている(PNAS 94:3872-6, 1997).
今回,dominant SCAsの発症年齢修飾因子に関する研究がフランスより報告された.対象は802名のdominant SCAs患者で,病型(SCA1, SCA2, MJD, SCA6, SCA7),発症年齢,CAG repeat数(正常および伸長アリル),患者本人と病気を伝播した親の性別,家族歴を検討した.回帰モデルは[log10 (age at onset) = k - b CAGexp + e]に従い,決定係数を計算した.ちなみに決定係数は独立変数が従属変数のどれくらいを説明できるかを表す値であり,決定係数の値が低いということは,得られた重回帰式の予測能力が低いことを意味する.結果としては,SCA1, SCA2, MJD, SCA6, SCA7でR2を計算し,それぞれ,0.66, 0.73, 0.45, 0.44, 0.75であった(MJD, SCA6はことのほか低く,何らかの影響因子の存在が示唆される).また上記計算式のb値(すなわち,CAG repeatと発症年齢間の負の相関の傾き)は,SCA2のみ-0.044と大きく(他のおよそ2倍),SCA2ではポリグルタミンが及ぼす影響が他の疾患と比べ異なっている可能性を示唆する(注;ataxin-2の細胞内局在が他疾患と異なることを考えると興味深い).また各家族におけるtrans-acting factorの存在を仮定した場合(発症に影響を及ぼす遺伝因子,もしくは環境因子の存在),SCA2とSCA3において発症年齢予測がそれぞれ17.1%および45.5%改善した(しかしその家族因子が具体的に何であるのかは不明).さらにSCA1とSCA6では正常アリルのCAG repeat数も発症に影響を及ぼすことも分かった.
CAG repeat数はすでに個人において決まっているものなので如何ともしがたいが,未特定の家族因子が何であるのか非常に興味深い.すなわち,特定の家族では発症年齢が早くなったり,別の家族では遅くなったりするというわけである.おそらく病因遺伝子以外の遺伝子多型がtransに作用して発症年齢を修飾するか,もしくは特定の環境因子が存在するのであろう.この家族因子の解明は発症や病気の進行を遅らせる可能性もあり,今後,注目すべきである.しかし上記結果は Dutch-French population における結果であり,日本人に当てはまるかは不明である.
Ann Neurol 57; 505-512, 2005
今回,dominant SCAsの発症年齢修飾因子に関する研究がフランスより報告された.対象は802名のdominant SCAs患者で,病型(SCA1, SCA2, MJD, SCA6, SCA7),発症年齢,CAG repeat数(正常および伸長アリル),患者本人と病気を伝播した親の性別,家族歴を検討した.回帰モデルは[log10 (age at onset) = k - b CAGexp + e]に従い,決定係数を計算した.ちなみに決定係数は独立変数が従属変数のどれくらいを説明できるかを表す値であり,決定係数の値が低いということは,得られた重回帰式の予測能力が低いことを意味する.結果としては,SCA1, SCA2, MJD, SCA6, SCA7でR2を計算し,それぞれ,0.66, 0.73, 0.45, 0.44, 0.75であった(MJD, SCA6はことのほか低く,何らかの影響因子の存在が示唆される).また上記計算式のb値(すなわち,CAG repeatと発症年齢間の負の相関の傾き)は,SCA2のみ-0.044と大きく(他のおよそ2倍),SCA2ではポリグルタミンが及ぼす影響が他の疾患と比べ異なっている可能性を示唆する(注;ataxin-2の細胞内局在が他疾患と異なることを考えると興味深い).また各家族におけるtrans-acting factorの存在を仮定した場合(発症に影響を及ぼす遺伝因子,もしくは環境因子の存在),SCA2とSCA3において発症年齢予測がそれぞれ17.1%および45.5%改善した(しかしその家族因子が具体的に何であるのかは不明).さらにSCA1とSCA6では正常アリルのCAG repeat数も発症に影響を及ぼすことも分かった.
CAG repeat数はすでに個人において決まっているものなので如何ともしがたいが,未特定の家族因子が何であるのか非常に興味深い.すなわち,特定の家族では発症年齢が早くなったり,別の家族では遅くなったりするというわけである.おそらく病因遺伝子以外の遺伝子多型がtransに作用して発症年齢を修飾するか,もしくは特定の環境因子が存在するのであろう.この家族因子の解明は発症や病気の進行を遅らせる可能性もあり,今後,注目すべきである.しかし上記結果は Dutch-French population における結果であり,日本人に当てはまるかは不明である.
Ann Neurol 57; 505-512, 2005
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