重症筋無力症は,出現する抗体により抗AchR抗体陽性群と陰性例に大別できる.後者のうち,約70%がanti-muscle-specific tyrosine kinase (MuSK)抗体陽性であることが判明した現在では,臨床的に,①抗AchR抗体陽性群,②抗MuSK抗体陽性軍,③両者陰性群,の3群に分類できる.今回,これら3群に関して,重症度,球麻痺の頻度,予後を比較した研究がトルコより報告された.
対象は①抗AchR抗体陽性群;161例,②抗MuSK抗体陽性群;32例,③両者陰性群;33例であった.この3群間において,性別,年齢,罹病期間・観察期間,外来初診までの期間に有意差は見られなかった.しかし,球麻痺症状を主徴とした症例は抗MuSK抗体陽性群において有意に多かった(p=0.005).クリーゼの頻度は,発症2年以内では抗MuSK抗体陽性群;21.9%,両者陰性群;15.2%,抗AchR抗体陽性群;9.3%の順に高く,全経過を通してはそれそれ順に34.4%,21.2%,13%であった.MGFA (Myasthenia Gravis Foundation of America) 分類による各群の重症度を,ロジスティック回帰分析を用いて行うと,抗MuSK抗体陽性群では,クラス5(気管内挿管)にまで悪化した症例の頻度は2年以内,および全経過を通しても抗AchR抗体陽性群よりも高かった(それぞれp=0.0073,p=0.036).抗MuSK抗体陽性群におけるクリーゼは両者陰性群と比較しても高率であったが,統計学的な有意差はなかった.
予後に関しては,死者は抗MuSK抗体陽性群;2例,抗AchR抗体陽性群;1例,両者陰性群;0例であった.予後判定のスケールとしてpost-intervension scaleを用いて評価すると,予後不良群の頻度は,抗MuSK抗体陽性群;21.9%,抗AchR抗体陽性群;16.1%,両者陰性群;9.1%であり,両者陰性群は他の2群よりも予後は良好であった.抗MuSK抗体陽性群と抗AchR抗体陽性群の間では予後に有意差がなかった.
以上の結果から,抗MuSK抗体陽性群は球麻痺,クリーゼが多く,重症であることが確認された.しかしながら予後に関して抗AchR抗体陽性群と変わりがなかったのは意外な結果であった.この理由として著者らは,抗MuSK抗体陽性群ではステロイド使用量が多くなるため,結果的には予後には差が出なかったと推測している.これに対して両者陰性群は予後がよく,ステロイド維持量も少なく,アザチオプリン使用例も少ないという結果になった.両者陰性群はheterogeneousな疾患群である可能性が高いが,ここに含まれる症例の原因がなんであるのか,とても興味深い.
Neurology 68; 609-611, 2007
対象は①抗AchR抗体陽性群;161例,②抗MuSK抗体陽性群;32例,③両者陰性群;33例であった.この3群間において,性別,年齢,罹病期間・観察期間,外来初診までの期間に有意差は見られなかった.しかし,球麻痺症状を主徴とした症例は抗MuSK抗体陽性群において有意に多かった(p=0.005).クリーゼの頻度は,発症2年以内では抗MuSK抗体陽性群;21.9%,両者陰性群;15.2%,抗AchR抗体陽性群;9.3%の順に高く,全経過を通してはそれそれ順に34.4%,21.2%,13%であった.MGFA (Myasthenia Gravis Foundation of America) 分類による各群の重症度を,ロジスティック回帰分析を用いて行うと,抗MuSK抗体陽性群では,クラス5(気管内挿管)にまで悪化した症例の頻度は2年以内,および全経過を通しても抗AchR抗体陽性群よりも高かった(それぞれp=0.0073,p=0.036).抗MuSK抗体陽性群におけるクリーゼは両者陰性群と比較しても高率であったが,統計学的な有意差はなかった.
予後に関しては,死者は抗MuSK抗体陽性群;2例,抗AchR抗体陽性群;1例,両者陰性群;0例であった.予後判定のスケールとしてpost-intervension scaleを用いて評価すると,予後不良群の頻度は,抗MuSK抗体陽性群;21.9%,抗AchR抗体陽性群;16.1%,両者陰性群;9.1%であり,両者陰性群は他の2群よりも予後は良好であった.抗MuSK抗体陽性群と抗AchR抗体陽性群の間では予後に有意差がなかった.
以上の結果から,抗MuSK抗体陽性群は球麻痺,クリーゼが多く,重症であることが確認された.しかしながら予後に関して抗AchR抗体陽性群と変わりがなかったのは意外な結果であった.この理由として著者らは,抗MuSK抗体陽性群ではステロイド使用量が多くなるため,結果的には予後には差が出なかったと推測している.これに対して両者陰性群は予後がよく,ステロイド維持量も少なく,アザチオプリン使用例も少ないという結果になった.両者陰性群はheterogeneousな疾患群である可能性が高いが,ここに含まれる症例の原因がなんであるのか,とても興味深い.
Neurology 68; 609-611, 2007