Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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ALSにおける自殺の検討

2008年11月03日 | 運動ニューロン疾患
 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は現在点では根本的な治療法のない「難病中の難病」と言われる疾患である.世界のなかで例外的に安楽死や自殺幇助を認めているオランダでは,全死亡の約2-3%が安楽死もしくは自殺幇助による死亡といわれているが,ALSではその10倍の20%という頻度で安楽死が選択されている.このことを背景として,必然的に安楽死や自殺幇助の問題と関連づけてALSが取り上げられることが多い.反対に,安楽死や幇助自殺が合法化されていない国においては,ALS患者さんにおける自殺の実態について検討する必要がある.しかしながら(というか幸いに),自殺の頻度は高いものではないため,これまでALSにおける自殺についてほとんど把握されていない状況であった.

 今回,我が国と同様,安楽死や幇助自殺が合法化されていない国の一つであるSwedenから,ALSにおける自殺の頻度に関する研究が報告された.Swedenでは国家の事業として入院患者はデータベースに登録されているようで,1965 年~2004年に登録された6,642名のALS患者における自殺の頻度やその危険因子が検討された.結果として,この観察期間に,21名(男性14名,女性7名)が自殺していた.一般の人と年齢・性別をマッチさせ,自殺リスクを検討すると,一般における自殺リスクと比較し,トータルでは5.8倍(信頼区間3.6-8.8倍)高いという結果であった.自殺をした患者はしなかった患者と比較し,初回入院の年齢が平均して約7年若かった.また自殺のリスクを検討する目的で,層別解析が行われたが,観察期間が1年未満であること(標準化死亡率11.2倍;一般より11倍以上高い),女性であること(同10.9倍),高卒以上であること(同9.1倍),60歳代であること(同9.0倍;順に60歳代>50歳代以下>70歳以上)はハイリスク因子であった.相対危険度は入院後経時的に低下したものの,発症3年後も一般より高値であった(同2.4倍).がん患者では同一期間に経年代的に相対危険度は減少したが,ALSではこのような明白な傾向は認めなかった(著者はSwedenではこの間,ケアや緩和医療が進歩したにも関わらず,減少がみられないことにショックを受けているが,がんと比較して根本的治療法が開発されていないことと関係があるように思われる).

 結論として,SwedenではALS患者における自殺リスクは高く,とくに病初期において高いということが分かった.おそらくこの原因として,病初期は精神的な動揺が大きいということや,進行期では身体能力が低下するということが考えられる.以上の結果は,ALS患者さんの診療では,より病初期において,精神面に関する配慮や介入を行う必要を示唆している.

Brain 131; 2729-2733, 2008 
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