先日,日本神経学会のresidentホームページに「近未来の脳神経内科は頭蓋骨から診断し治療する!」というエッセイを執筆しました.またCOVID-19のSARS-CoV-2ウイルスが脳に侵入する経路として,頭蓋骨の骨髄ニッチが注目されていることも過去にブログでご紹介しました.頭蓋骨の骨髄は現在,脳との関連でとても注目を集めています.
この内容に関連する研究が,ドイツのマックス・プランク分子生物医学研究所をはじめとする多国籍の研究チームによりNature誌に報告されました.この研究では,成人の頭蓋骨の骨髄が生涯を通じて造血能力を維持し,それどころか拡張し続けるという驚くべき特性を持つこと,さらに生理的・病的な変化に対してダイナミックに適応することが示されました.
まず頭蓋骨の骨髄は加齢とともに血管が拡大し,とくに造血幹細胞(HSCs)の増加を伴いました.この血管と骨髄の拡大は,これまで研究されてきた大腿骨などの長骨とは異なり,老化の影響を受けにくいことが確認されました.図にあるように,若年期→中年期→壮年期→老年期にかけてのマウス頭蓋骨の血管領域は拡大し,血管の面積や直径が大きくなり,特に女性でその拡大が顕著でした.血管内皮細胞の表面に存在する糖タンパク質であるエンドムチン(endomucin)の発現も加齢に伴い有意に増加し,頭蓋骨骨髄の血管構造の安定性とHSCs機能の維持に寄与していました.この血管の拡大はHSCsやその前駆細胞の増加を支え,全身の造血量を増やします.頭蓋骨の骨髄は加齢性変化に対して保護されているということのようです.
さらに頭蓋骨骨髄が生理的・病的な変化に対しても迅速に適応を行うことも示されました.具体的には妊娠,脳梗塞モデル,血液腫瘍モデル(慢性骨髄性白血病),骨粗鬆症に対する副甲状腺ホルモン(PTH)の影響が検討されています.これらは頭蓋骨の血管および造血細胞に顕著な変化を引き起こし,骨髄は拡大していきます.例えば妊娠中に血管が拡張し,造血幹細胞やその前駆細胞が増加することで,母体の血液量や赤血球の需要を満たすための迅速な対応が可能になります.また,脳卒中モデルにおいても頭蓋骨骨髄が迅速に反応し,造血細胞が活性化され,回復に向けた支援を行うことが示唆されました.これに対し,長骨の骨髄はこれらの変化に対して限定的な反応しか示しません.さらに妊娠や脳卒中時,PTH治療時において血管内皮増殖因子(VEGFA)が増加し,骨髄内で血管の拡張と造血が促進されることも示されました.つまりVEGFA-VEGFR2シグナル経路が頭蓋骨骨髄の成長において重要な役割を果たしているようです.
頭蓋骨の骨髄ニッチについてまとめると,以下の特性を持っているようです.
1)老化耐性:加齢に伴う脂肪形成や炎症性サイトカインの増加,血管構造の劣化に対して耐性がある.
2)血管ネットワークとの連携:エンドムチン陽性洞様血管の拡張や血管密度の増加により造血細胞を支えている.これにより妊娠や脳卒中などに迅速に適応する.
3)分子特性:長骨と異なり,HSCの維持に寄与する特有の分子プロファイルを持っている.
頭蓋骨の骨髄ニッチが,脳の免疫を担う細胞を供給すること,脳と直接的なやりとりが可能な経路(頭蓋骨―髄膜結合)が存在することを考えると,頭蓋骨の骨髄が神経系の病態に対し防御的な役割を果たしている可能性は高く,将来,脳神経疾患の治療標的になる可能性を示すものと思われます.
Koh BI, et al. Adult skull bone marrow is an expanding and resilient haematopoietic reservoir. Nature. 2024 Nov 13.(doi.org/10.1038/s41586-024-08163-9)
この内容に関連する研究が,ドイツのマックス・プランク分子生物医学研究所をはじめとする多国籍の研究チームによりNature誌に報告されました.この研究では,成人の頭蓋骨の骨髄が生涯を通じて造血能力を維持し,それどころか拡張し続けるという驚くべき特性を持つこと,さらに生理的・病的な変化に対してダイナミックに適応することが示されました.
まず頭蓋骨の骨髄は加齢とともに血管が拡大し,とくに造血幹細胞(HSCs)の増加を伴いました.この血管と骨髄の拡大は,これまで研究されてきた大腿骨などの長骨とは異なり,老化の影響を受けにくいことが確認されました.図にあるように,若年期→中年期→壮年期→老年期にかけてのマウス頭蓋骨の血管領域は拡大し,血管の面積や直径が大きくなり,特に女性でその拡大が顕著でした.血管内皮細胞の表面に存在する糖タンパク質であるエンドムチン(endomucin)の発現も加齢に伴い有意に増加し,頭蓋骨骨髄の血管構造の安定性とHSCs機能の維持に寄与していました.この血管の拡大はHSCsやその前駆細胞の増加を支え,全身の造血量を増やします.頭蓋骨の骨髄は加齢性変化に対して保護されているということのようです.
さらに頭蓋骨骨髄が生理的・病的な変化に対しても迅速に適応を行うことも示されました.具体的には妊娠,脳梗塞モデル,血液腫瘍モデル(慢性骨髄性白血病),骨粗鬆症に対する副甲状腺ホルモン(PTH)の影響が検討されています.これらは頭蓋骨の血管および造血細胞に顕著な変化を引き起こし,骨髄は拡大していきます.例えば妊娠中に血管が拡張し,造血幹細胞やその前駆細胞が増加することで,母体の血液量や赤血球の需要を満たすための迅速な対応が可能になります.また,脳卒中モデルにおいても頭蓋骨骨髄が迅速に反応し,造血細胞が活性化され,回復に向けた支援を行うことが示唆されました.これに対し,長骨の骨髄はこれらの変化に対して限定的な反応しか示しません.さらに妊娠や脳卒中時,PTH治療時において血管内皮増殖因子(VEGFA)が増加し,骨髄内で血管の拡張と造血が促進されることも示されました.つまりVEGFA-VEGFR2シグナル経路が頭蓋骨骨髄の成長において重要な役割を果たしているようです.
頭蓋骨の骨髄ニッチについてまとめると,以下の特性を持っているようです.
1)老化耐性:加齢に伴う脂肪形成や炎症性サイトカインの増加,血管構造の劣化に対して耐性がある.
2)血管ネットワークとの連携:エンドムチン陽性洞様血管の拡張や血管密度の増加により造血細胞を支えている.これにより妊娠や脳卒中などに迅速に適応する.
3)分子特性:長骨と異なり,HSCの維持に寄与する特有の分子プロファイルを持っている.
頭蓋骨の骨髄ニッチが,脳の免疫を担う細胞を供給すること,脳と直接的なやりとりが可能な経路(頭蓋骨―髄膜結合)が存在することを考えると,頭蓋骨の骨髄が神経系の病態に対し防御的な役割を果たしている可能性は高く,将来,脳神経疾患の治療標的になる可能性を示すものと思われます.
Koh BI, et al. Adult skull bone marrow is an expanding and resilient haematopoietic reservoir. Nature. 2024 Nov 13.(doi.org/10.1038/s41586-024-08163-9)