多系統萎縮症(MSA)では,従来は合併しないと考えられてきた認知症を呈しうる.とくに前頭葉機能障害をしばしば合併し,病期の進行とともに前頭・側頭葉を中心とする大脳萎縮も明らかになってくる.人工呼吸器を装着した症例では顕著な萎縮を認める.前頭側頭型認知症の病型を示す症例や,初発症状として認知症を呈する症例も報告されている.しかしながら,MSAにおける認知機能の低下を予見する因子についてはよく分かっていなかった.このため私たちは,前方視的な検討を行ない,認知機能および前頭葉機能に影響を及ぼす因子について検討を行なった.
対象はGilman分類のprobable MSAの診断基準を満たす連続59症例とした.追跡開始の時点で,認知機能障害を呈する症例は除外した.ミニメンタルステート検査(MMSE),前頭葉機能検査(FAB)の得点と相関する臨床所見,頭部MRI所見(Fazekas分類)を,線形回帰分析,ANOVAを用いて解析した.
さて結果であるが,対象の発症年齢は60 ± 9.0 歳(42–80歳),罹病期間は50 ± 31ヶ月(11–160ヶ月)であった.病型は46例(78%)がMSA-Cであった.MMSE, FAB, 疾患重症度(UMSARSのパート1,2,4)の平均値ないし中央値は,順に26 ± 3.2, 14 ± 2.7, 22 ± 9.1, 23 ± 9.8, 3(2–4)であった.心拍CVRRおよび残尿量は1.70 ± 0.88%および184 ± 161 mlであった.
次に関心事であるMMSEに相関する因子の検討を行った.MMSEは罹病期間(p = 0.03),UMSARSパート1(p = 0.02),パート4(p = 0.04),残尿量(p = 0.002)と負の相関を,CVRR(p = 0.01)と正の相関を示した.一方,FABはUMSARSパート2(p = 0.003), 側脳室周囲白質病変および深部白質病変のグレードと負の相関を示した(p = 0.02および0.01).
MMSEは罹病期間が長くなると低下したが,FABでは罹病期間との相関は認めなかった.またMMSEでは,罹病期間の影響を超えて,顕著な低下(認知障害)を認める一群が存在することが分かった.このためMMSEの罹病期間に関する回帰直線の68%予測区間を下回る症例(図のオレンジの部分)を急速認知機能低下群(RCI群)と定義した.RCI群と非RCI群の臨床所見,MRI所見をロジスティック回帰分析で比較した.
単純ロジスティック回帰分析の結果,RCI群の予測因子はMSA-Pであること(p = 0.03),UMSARSパート1高得点(p = 0.03),パート4高得点(p = 0.03),残尿量高値(p = 0.006)であった.これら4因子を説明変数とするステップワイズ多重ロジスティック回帰分析を行なうと,残尿量のみが有意な予測因子となった(p = 0.04).
以上の結果から,まずMMSEとFAB低下の予測因子は異なることが分かった.また注目すべき点として,以下の2点が挙げられた.
1)大脳白質のMRI信号変化は前頭葉機能障害を予見する
前頭葉機能は,MSAの運動機能(UMSARSパート2)に加え,側脳室周囲白質病変および深部白質病変のグレードが関与している可能性が示唆された.後者に関連して,MSAでは頭部MRIや剖検の評価にて,大脳白質変性を呈した症例が複数報告されている.MSAにおける前頭葉機能障害に大脳白質が重要である可能性が示唆された(ただし今回の検討では大脳皮質の評価は行なっていない).
2)残尿量は罹病期間に比して高度の認知機能低下を予見する
自律神経障害の重篤な症例のなかに,認知機能が罹病期間による影響を超えて高度に低下する症例が存在することを示唆している.この機序は不明であるが,自律神経障害を早期から認める症例は予後が不良であるばかりでなく,認知機能も不良となる可能性がある.
以上の結果は,まだよく明らかにされていないMSAの認知機能障害の機序にヒントを与えるものと考えられる.今後,より多数例を対象として,MMSEやFAB以外の認知機能評価の指標を含めた検討が望まれる.
Hatakeyama M et al. Predictors of cognitive impairment in multiple system atrophy. J Neurol Sci 2018 (online) DOI: https://doi.org/10.1016/j.jns.2018.03.017
対象はGilman分類のprobable MSAの診断基準を満たす連続59症例とした.追跡開始の時点で,認知機能障害を呈する症例は除外した.ミニメンタルステート検査(MMSE),前頭葉機能検査(FAB)の得点と相関する臨床所見,頭部MRI所見(Fazekas分類)を,線形回帰分析,ANOVAを用いて解析した.
さて結果であるが,対象の発症年齢は60 ± 9.0 歳(42–80歳),罹病期間は50 ± 31ヶ月(11–160ヶ月)であった.病型は46例(78%)がMSA-Cであった.MMSE, FAB, 疾患重症度(UMSARSのパート1,2,4)の平均値ないし中央値は,順に26 ± 3.2, 14 ± 2.7, 22 ± 9.1, 23 ± 9.8, 3(2–4)であった.心拍CVRRおよび残尿量は1.70 ± 0.88%および184 ± 161 mlであった.
次に関心事であるMMSEに相関する因子の検討を行った.MMSEは罹病期間(p = 0.03),UMSARSパート1(p = 0.02),パート4(p = 0.04),残尿量(p = 0.002)と負の相関を,CVRR(p = 0.01)と正の相関を示した.一方,FABはUMSARSパート2(p = 0.003), 側脳室周囲白質病変および深部白質病変のグレードと負の相関を示した(p = 0.02および0.01).
MMSEは罹病期間が長くなると低下したが,FABでは罹病期間との相関は認めなかった.またMMSEでは,罹病期間の影響を超えて,顕著な低下(認知障害)を認める一群が存在することが分かった.このためMMSEの罹病期間に関する回帰直線の68%予測区間を下回る症例(図のオレンジの部分)を急速認知機能低下群(RCI群)と定義した.RCI群と非RCI群の臨床所見,MRI所見をロジスティック回帰分析で比較した.
単純ロジスティック回帰分析の結果,RCI群の予測因子はMSA-Pであること(p = 0.03),UMSARSパート1高得点(p = 0.03),パート4高得点(p = 0.03),残尿量高値(p = 0.006)であった.これら4因子を説明変数とするステップワイズ多重ロジスティック回帰分析を行なうと,残尿量のみが有意な予測因子となった(p = 0.04).
以上の結果から,まずMMSEとFAB低下の予測因子は異なることが分かった.また注目すべき点として,以下の2点が挙げられた.
1)大脳白質のMRI信号変化は前頭葉機能障害を予見する
前頭葉機能は,MSAの運動機能(UMSARSパート2)に加え,側脳室周囲白質病変および深部白質病変のグレードが関与している可能性が示唆された.後者に関連して,MSAでは頭部MRIや剖検の評価にて,大脳白質変性を呈した症例が複数報告されている.MSAにおける前頭葉機能障害に大脳白質が重要である可能性が示唆された(ただし今回の検討では大脳皮質の評価は行なっていない).
2)残尿量は罹病期間に比して高度の認知機能低下を予見する
自律神経障害の重篤な症例のなかに,認知機能が罹病期間による影響を超えて高度に低下する症例が存在することを示唆している.この機序は不明であるが,自律神経障害を早期から認める症例は予後が不良であるばかりでなく,認知機能も不良となる可能性がある.
以上の結果は,まだよく明らかにされていないMSAの認知機能障害の機序にヒントを与えるものと考えられる.今後,より多数例を対象として,MMSEやFAB以外の認知機能評価の指標を含めた検討が望まれる.
Hatakeyama M et al. Predictors of cognitive impairment in multiple system atrophy. J Neurol Sci 2018 (online) DOI: https://doi.org/10.1016/j.jns.2018.03.017