Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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放射線の健康への影響 児玉龍彦氏発言 (ぜひ動画を見てください)

2011年07月30日 | その他
東大アイソトープ総合センター長の児玉龍彦氏が,衆議院厚生労働委員会で行なった「放射線の健康への影響」についての魂の発言です.原発事故に対する政府対応について猛烈に批判しています.子供たちを守るために,現状を正確に理解する必要があります.ぜひ多くの人に見ていただけるよう広めてください.児玉氏は以下の3点を訴えています.

1.食品・土壌・水の汚染の検証を,最新鋭機器を用いて行うこと
2.子供の被曝を減少させるための新しい法律をつくること
3.土壌汚染の除染を,民間のノウハウを結集して行う

将来,子供たちが,がんや放射線障害で苦しまないように,真剣にこの問題に向き合う必要があると思います.

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クロイツフェルト・ヤコブ病の早期診断(2)

2011年07月17日 | 感染症
私が気になった点は,CJDの発症前診断,もしくはごく早期に診断ができた場合,「告知」をどうするべきかという問題である.つまり本人に病名を伝えるか,伝えないかということだ.通常,CJDの診断はある程度症状が進行してから行われるため,認知症は進行し,本人にCJDであることを告知するタイミングを逸していることが多い.しかし本例ではどうであろう.主旨がことなるため論文中に告知についての記載はないが,おそらく主治医はこの点で非常に苦悩をしたものと思われる.私も過去に,認知機能が保たれている発症早期に頭部MRIにて診断ができたCJD患者さんに遭遇したことがある.「極めて短時間に,思考も記憶も人格も意識もすべて奪われ寝たきりになる病気であり,かつ治療法もない」という過酷な内容を告知すべきか,すべきでないのか?

自分を患者さんの立場に置き換えてみると,若かったころには告知してもらいたくないと考えたと思う.耐えられず大きく取り乱す可能性も高い.しかし現在の自分であれば,告知してもらい,残された僅かな時間を,家族や友人に何かを残すために使いたいと思う.つまり自分自身であっても年齢や状況によって考えが変わりうる.まして他者である患者さんを自分のものさしで測れる自信はない.どうすればよいか?当時,相談させていただいた臨床倫理コーディネーターの第一人者の先生とのやりとりを経て,自分なりに考えたことを参考までに記載したい.

まず大切なことは,患者さんには病名を「知る権利」も「知らないでいる権利」もあることを認識することだと思う.「知らないでいる権利」を保障するためには,本人が「知りたい」かどうか,そうであればどの程度知りたいのかを少しずつ確認する作業が不可欠である(非常に難しいことだが・・・).その際,本人から「知りたくない」という意思表示があれば告知は行うべきではない.

また「病前性格」を理解する努力も重要である.これは通常,家族から情報を得る.一般の病気では,患者さんのプライバシーや財産管理などの権利を護るために,患者さん本人に説明をし,家族から先に説明をしないことが普通と思う.しかし,今回のようなケースでは,家族が先のほうが良いように思われる.ストレスに弱く,真実を知ることに耐えられない病前性格であれば告知しないという選択肢もありうる.また家族への配慮も極めて重要で,あとになって「告知しておけば良かった」,反対に「告知しなければ良かった」と大きな後悔の念が残らないように,タイムリミットは短いながらも十分に考えていただく必要がある.グリーフケアの立場からもこの点はとても大切である.

そして患者,家族が告知を望んだ場合にはどうすべきか.厚労省研究班の編集した「プリオン病と遅発性ウイルス感染症」という本があるが,そのなかの「患者・家族に対する心理的支援」という章では,「心理支援の真の目標は,不安や心痛の解消ではなく,不安や心痛をいだいている自分を否定せず受け止められるように心理的適応を促す」ことであることを強調している.そのためには十分な情報提供が大切であること,多くの職種が関わる必要があることは言うまでもない.

さて最後に「告知」という言葉について述べたい.この言葉はなにか冷たい響きを感じる.相手への配慮を考えることなしに一方的に伝えようとするニュアンスが汲み取れるからであろう.病名を「知らせる」行為は両方向の対話でなければならない.非常につらい作業ではあるが,哲学者の清水哲郎氏は「医療現場に臨む哲学」のなかで以下のように述べている.「この世を去る悲しみ,場合によっては志半ばにして働きを断つ無念さは当然としても,それと共に死を受け止める姿勢をも持ちうる人間の可能性を信じてみてはどうだろう」.私もその可能性を信じてみたい気持ちが強い.


プリオン病と遅発性ウイルス感染症  (プリオン病に関するモノグラフとしては現在最良)

医療現場に臨む哲学  (医療における哲学を学ぶのに適したとても分かりやすい本)
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クロイツフェルト・ヤコブ病の早期診断(1)

2011年07月17日 | 感染症
クロイツフェルト・ヤコブ病は「きわめて急速に進行する認知症」と「全身の不随意運動」を主徴とする中枢神経の変性疾患である.プリオンが原因である点は狂牛病と共通する.診断は,臨床症状に加え,脳波(徐波化,periodic synchronous discharge;PSD),髄液検査(14-3-3蛋白,タウ蛋白上昇),頭部MRIを組み合わせて行なう.頭部MRIでは,拡散強調画像(DWI)やFLAIR画像にて,病初期より大脳皮質,大脳基底核や視床が高信号を呈する.

さて今回,日本から,発症2ヶ月前にたまたま撮像した頭部MRIにおいて異常所見を認め,その後CJDと診断された症例が報告された.症例は68才男性.姉が以前くも膜下出血で死亡したため,自分も心配になり,2005年10月,頭部MRI検査を受けた.DWIにて側頭葉から後頭葉にかけて高信号域を認めた.その他のシークエンスに異常はなかった.認知機能や神経所見は異常なし.11月,経過観察目的で行なったMRIで,軽度高信号域が拡大したものの,髄液タウ蛋白や14-3-3蛋白には異常を認めなかった.

2006年1月,右手の使いにくさにて発症,ついでミオクローヌスが出現した.認知機能(MMSE)も初診時の30/30から23/30に低下.発症から3週間後(2006年2月),認知症は進行し(MMSE 16/30)入院.MRI所見ではDWIでの高信号域は大脳皮質全体に認め,髄液タウ蛋白の上昇,脳波での高振幅徐波を認めた.プリオン遺伝子コドン129はMet/Metだった.発症から7週後,ADL制限が顕著となり,MMSEもスケールアウト(0/30),さらに無動無言状態となり,2007年1月に亡くなった.剖検が行われ,CJDの診断が確認された.

これまで,脳波,MRI,髄液タウ蛋白・14-3-3蛋白測定のいずれが,CJDの最も早期から異常所見を呈するか明らかではなかった.しかし本例では臨床症状が出現する前から頭部MRI(DWI)にて異常所見が認められた.以上より,頭部MRI(DWI)がCJDの早期診断に最も適した検査である,というのが論文の趣旨である.

なるほど,確かに発症前にたまたま頭部MRIを確認するという症例はきわめて稀で,貴重な症例報告である.ただ個人的にはこれとは別にとても気になることがある.次回,その点について述べたい.

Early detection of sporadic CJD by diffusion-weighted MRI before the onset of symptoms
J Neurol Neurosurg Psychiatry 2011;82:942-943


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筋萎縮性側索硬化症(ALS)における睡眠障害

2011年07月11日 | 運動ニューロン疾患
ALS患者さんの睡眠障害に関するイタリアからの報告である.目的は睡眠障害合併の頻度,重症度,およびそれらに影響を及ぼす因子について明らかにすることである.

対象はALS患者100名と,年齢と性別をマッチさせた対照100名.ALS患者の内訳はNPPV(非侵襲的陽圧換気療法)中が21名,うつを23名で認め,そのうち11名が抗うつ剤による治療中であった.睡眠障害の有無を問診し,さらに睡眠の質を評価するPittsburgh Sleep Quality Index (PSQI;ピッツバーグ睡眠質問票),日中の眠気を評価するEpworth Sleepiness Scale(ESS)を行った.このPSQIは主観的な睡眠障害を評価する自記式質問表で,「主観的睡眠の質,睡眠潜時(入眠までにかかった時間),睡眠時間,睡眠効率,睡眠障害,睡眠薬の内服,日常生活における障害」の7項目を調べることができる.またALSの重症度はALS Functional Rating Scale-Revised(ALSFRS-R)を用いて評価している.ALS患者の12名には終夜ポリグラフ検査を行い,睡眠の特徴について詳細な検討を行なっている.

さて結果だが,ALS患者の59名,対照の36名が睡眠障害を訴えた.PSQIはALS患者が対照と比較し有意に高値(すなわち睡眠の質が不良)であった(6.8±4.0 vs 4.9±3.2).7項目のうち3項目(睡眠潜時,睡眠効率,睡眠障害)がALS患者において有意に不良であった.ALS患者において多い夜間の訴えは夜間頻尿(54%),中途覚醒(48%),筋痙攣・こむらがえり(45%)であった.睡眠の質の増悪因子は,ALSが重症であること,うつであること,日中による眠気が高度であること(ESS)であった.多変量解析の結果,このうちの2つ,ALSの重症度と日中の眠気が睡眠の質と有意に相関した.終夜ポリグラフ検査では,睡眠効率の低下と睡眠の断片化(すなわち中途覚醒),PLMS index上昇(周期性四肢運動),AHI上昇(無呼吸・低呼吸)が認められた.

結論としてALS患者の睡眠の質は不良であること,そして増悪因子としては,ALSの重症度と日中の眠気が重要であることが示された.ALS患者において,筋痙攣・こむら返りやすでに報告されているRLS症状(むずむず脚症状)は就眠困難(寝付きの悪さ)を引き起こす可能性と,症状が重症となり夜間の寝返りがままならなくなると中途覚醒につながる可能性がある.今回の研究では呼吸機能低下患者の割合が高くなく,睡眠の質と肺活量,夜間酸素飽和度とのあいだに相関を認めなかったが,呼吸機能の低下は中途覚醒を起こす可能性がある.球麻痺や睡眠呼吸障害,横隔膜・副呼吸筋の筋力低下に伴う呼吸筋障害が睡眠の質の低下に関与する可能性もある.

以上の結果はALS患者におけるQOLにおいて,睡眠の質についても注目する必要があることを示す.まずは睡眠衛生に関する知識を理解し,その質を高めるよう工夫すること,それでも改善が得られない場合は睡眠薬の使用も検討する.ALS患者では睡眠薬はベンゾジアゼピン系薬剤の筋弛緩作用に伴う呼吸不全の増悪をおそれ使用しない傾向にあるが,作用時間の短いzolpidem(マイスリー)やzopiclone(アモバン)を呼吸状態に注意しながら使用するということも検討して良いのではないかと著者は述べている.もちろんNPPVやTPPV使用中であれば比較的安心して使用して良いと考えられる.

Sleep-wake disturbances in patients with amyotrophic lateral sclerosis.

J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2011 Jan 8. [Epub ahead of print] 


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困ってるひと

2011年07月04日 | 医学と医療
筋膜炎脂肪織炎症候群(fascitis-panniculitis syndrome)という病気をご存知だろうか.筋肉を包む筋膜と,皮膚のあいだにある脂肪組織の炎症が起こり,全身の痛みや皮下の硬結を来す原因不明の全身性疾患である.発熱,関節炎,腹痛を伴う.組織学的には筋膜の炎症と,脂肪細胞の融解壊死・肉芽腫形成が特徴的で,治療後に皮膚陥没を残す.非常にまれな疾患で,私も主治医として担当したことはなく,研修医の頃におひとりだけ病棟に入院されてきたように記憶している.

さて,最近,話題になっている「困ってるひと」を読んだ.筋膜炎脂肪織炎症候群と皮膚筋炎という難病を患っている26歳の大学院生女子の闘病記である.闘病記は学ぶことが多く,意識して読むべきと思うのだが,読んでいてつらくなることも少なくない.しかしこの「困っているひと」は・・・とても面白いのだ.次はどうなってしまうのかと,どんどん読み進めてしまう.その上,難病医療において「福祉制度」がとても大きな障壁となっていることにも気がつかされたり,胸がキュンとするような恋の話もあったり,お薦めである.

著者は上智大学に在学中にビルマ(ミャンマー)難民に出会い,その後,難民キャンプに潜り込み,民主化運動やNGO活動に没頭するという壮絶な生活を送るが,大学院進学後,突如,高熱,全身の関節と筋肉の痛み,口内炎,脱毛に見舞われる.診断がつかず,1年もの検査生活,そして9か月間の入院期間を経て退院・独立するまでが描かれる.その間,ビルマ女子は,難病女子→おしり女子→有袋類へと変貌を遂げる(何のことか分からないと思うが,病気の進行で身体にいろいろな変化が起こるのだ).

印象に残ったのは,医者が百万回「よくなっています」と言うより,1回の「よくやっていますね」と言われるほうが嬉しいということば.
苦痛に耐え,「社会」とも戦っているのは自分なのに,ぜんぜん褒められている感じがしない.上司にプロジェクトの手柄を横取りされた部下のような気持ちがする.「よくなっています」と何がなんでも言いたいのは医者のほうなのではないか.
たしかに長く闘病しているとそういう気持ちになるかもしれません.私も「よくがんばってますね」ということばが使えるようにならないといけないなと思いました.いずれにしても大変な闘病生活をこのような文章に出来るのだから,強い人なのだと思う.ご一読を!


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追伸;病気が膠原病のひとつであるため,内科の先生が主治医のようだが,神経内科医も登場する.「アメリカ帰り,スーパー東大的,世界的,神経内科のダンディー先生」とか,「特殊な筋肉・神経系難病のプロの仕事中毒キテレツC-3PO医師」など.どなたなのでしょうね?
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水俣を訪ねて

2011年07月03日 | 医学と医療
今回,国立水俣病総合研究センターを訪問した.私は新潟水俣病患者さんを診察する機会があり,熊本と新潟におけるメチル水銀中毒についてはいろいろな本を読み勉強をしてきたつもりであった.しかし初めて水俣の地を訪れて,驚くことがいくつもあった.

空路,博多入りし,九州新幹線で鹿児島県出水に到着,そしてオレンジ鉄道に乗り換え,水俣駅に到着した.駅を降りるとすぐ眼前に大きなチッソの工場がありまず驚いた.戦後の高度成長期に,水俣病を引き起こしたことで知られる会社だが,現在もこの地域の産業の中心的役割を果たしている.

水俣市は熊本県最南部に位置する.西は不知火海に面し,東は緑の木々が美しい山々に囲まれている.国立水俣病総合研究センターは山側の高いところにあり,美しい海を一望できる.天草の島々を望むとても風光明媚なところにあった.国立水俣病総合研究センターでは施設の見学や情報交換を行い,そしてセミナーを行わせていただき,とても有意義であった.

2日目は.国立水俣病総合研究センターに附属する施設である水俣病情報センターを訪問させていただいた.情報の提供や学術交流などを目的とする施設で,水俣病のあらましや原因究明,水銀研究の現状,そして世界における水銀汚染問題などの勉強ができる(補足参照).隣接する市立水俣病資料館では,水俣病患者さんを診察したビデオや,水銀中毒となった猫の症状のビデオを見ることができた.神経症状が自分が認識してきたものよりはるかに重症で,正直なところ大きなショックを受けた.

その後,親水公園を訪ねた.この公園は水俣湾のメチル水銀汚染地帯を埋め立てて作った公園であった.とにかくその広さには驚かされた.ここでは小学生やお年寄りが野球やゲートボールに興じていたが(写真),この緑の芝生の下にドラム缶詰めされた汚染土壌(水銀ヘドロ)が大量に埋まっていると思うと信じがたい気持ちになる.そして少し歩くと「水俣病慰霊の碑」がみえてくる.2006年,水俣病公式認定から50年を記念し建立された.碑文にはこう記載されていた.

不知火の海に在るすべての御霊よ
二度とこの悲劇は繰り返しません
安らかにお眠りください

最後に「百間排水口」を見学した.ここはメチル水銀化合物が工場排水と共に排出された排水口で,水俣病原点の地とも言われる.現在も浄化処理された工場排水,そして家庭からの生活排水が流れていているそうだ.

水俣を訪れることができて本当に良かった.水俣病を人類の教訓として重く受け止め,そして伝えていかねばならないと改めて思った.博多から九州新幹線であっという間なので,ぜひ訪問されることをお勧めしたい.


補足:
日本人の毛髪の水銀濃度は全国平均2.12 ppmだが,関東地方で高い傾向にあるそうだ.これはメチル水銀の濃度が高いまぐろの摂取量と相関している(大きな魚であるマグロは生物濃縮のためメチル水銀濃度約1 ppmとダントツに高い).ちなみに成人で神経症状出現が疑われる最小値は50 ppmであり,健康被害を心配する必要はないといえるが,妊婦さんはトロのお寿司は食べ過ぎないほうが良いように思う.


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