Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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レム睡眠行動障害はαシヌクレイノパチーとは限らない

2016年01月30日 | 脳血管障害
私達はレム睡眠中に夢を見る.このとき,筋は弛緩しているため,夢で見ている通りの行動をすることはない.しかしこの仕組みが作動せず,レム期において夢体験の行動化が見られることがある.これがレム睡眠行動障害(RBD)であり,インターネット上で,RBD患者さんのビデオをYouTubeで見ることができる.REM behavior disorderビデオ とても眠っているように思えないが,脳波上は睡眠状態にある.怖い夢や争っている夢が多いため,怒っているような寝言や,相手を叩いたり蹴ったりするような行動が見られる.
原因が不明の「特発性RBD」をしばしば経験するが,脳内におけるαシヌクレインの蓄積(αシヌクレイノパチー)により引き起こされることが多い.つまり,RBDは,αシヌクレイノパチーであるパーキンソン病やレビー小体型認知症,多系統萎縮症の運動前症状と捉えることができる.よってRBDを合併する小脳性運動失調を見た場合,通常,多系統萎縮症を考えてしまう.しかし必ずしもそうとは限らないことを最近認識した・・・それは遺伝性脊髄小脳変性症3型,マシャド・ジョセフ病(Machado-Joseph disease;MJD)である.
 調べたところ,MJDにおけるRBDの報告はいくつもある(Mov Disord 2002; Mov Disord 2003; Neurology2003; Mov Disord 2005など).発症前や発症時に見られ,病期の進行に伴うレム期の減少とともに認められなくなるMSAとは異なり,MJDではレム期頻度は徐々に減りつつも発症後の経過中に出現する例が多い.かつ運動前症状として認められた症例も複数報告されている(Mov Disord 2005).
 つまり認識すべきことは「RBDはαシヌクレイノパチーに特異的なものではなく,特定の部位の病変により,レム睡眠における生理機能に変化が生じて生じる症候である」ということである.具体的には,橋被蓋背側部の神経機構が延髄大細胞性網様核を介し,錐体路の出力を遮断し,夢体験が行動化されないと報告されているが,この経路が種々の原因により障害され,錐体路の出力を遮断できず,夢体験が行動化されるのである.MJDの場合,病因蛋白のataxin-3がこの経路を障害するものと考えられる.またMJD以外の原因を検索したところ(症候性RBD),以下のような疾患が報告されている・・・脳血管障害,脱髄疾患,変性疾患(PSP/CBD),脳幹部腫瘍,傍腫瘍症候群,ウィルソン病.さらに抗コリン作用を有するビペリデン(アキネトン®),三環系抗うつ薬などによる薬剤性RBDも報告されている.傍腫瘍症候群に伴う症例ではステロイド治療でRBDが改善したことも報告されている.
以上より,「RBD=αシヌクレイノパチーとは限らないこと」を認識する必要があると言える.

MJDとRBDの合併に関する文献検索

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多系統萎縮症の予後に影響を及ぼす症候と自律神経機能検査

2016年01月25日 | 脊髄小脳変性症
多系統萎縮症(MSA)は運動症状(パーキンソニズム,小脳性運動失調)に加え,自律神経障害を認める神経変性疾患である.生命予後に対し,種々の臨床症候(病型,発症年齢,性別,初期の自律神経障害)が及ぼす影響については様々な報告が存在する.そのなかでも,自律神経障害が予後を予測する因子として重要であるとする報告が多い(新潟大学Tada et al. 2007など).

MSAの生命予後に影響を及ぼす因子を明らかにする目的で,米国Mayo Clinicにおける多数例での検討がBrain誌に報告されているのでご紹介したい.本研究は後方視的研究(1998年か ら2012年)であるものの,事前に定められた自律神経機能検査が全例に対し行なわた点で,非常に素晴らしい研究といえる.

症例は臨床診断がMSAである685名で,うち594名がGilman分類のprobable MSA,残り91名がpossible MSAである.病型としてはMSA-Pが多く,430名(63%)を占めていた.発症年齢はMSA-CがMSA-Pより有意に若かった(58.4歳VS 62.3歳;P < 0.001).発症から死亡までの期間(中央値)は7.51年(95%信頼区間7.18~7.78年)で,診断から死亡までは3.33年(2.92~3.59年)であった.初発症状は,運動症状(61%),自律神経障害(28%),両者の合併(11%)の順に多かった.

注目の生命予後に影響をおよぼす因子に関しては,病型は生存期間に影響しなかった(P = 0.232). 初発症状も影響しなかった.しかし,単変量解析の結果, 複数の自律神経障害や自律神経機能検査異常が予後不良を示唆することが分かった.さらに多変量解析にて確認したところ,以下の6項目が生命予後不良を示す因子と考えられた(ハザード比の大きい順に示す:図1).

1. 発症3年以内の転倒(ハザード比2.31,P < 0.0001)
2. 膀胱症状;定義は尿意切迫,頻尿,尿失禁である(ハザード比1.96,P < 0.0001)
3. 発症3年以内の尿道カテーテル留置(ハザード比1.67,P < 0.003)
4. 発症1年以内の起立性調節障害;定義は起立時のめまい感,視覚異常,吐き気,脱力,疲労,coat-hanger painである(ハザード比1.29,P < 0.014)
5. composite autonomic severity score(CASS*)で評価した自律神経機能障害の重症度(ハザード比1.07,P < 0.0023)
6. 高齢発症(ハザード比1.02,P = 0.001)

*ちなみにCASSは,発汗ドメイン(0-3),心臓迷走神経ドメイン(0-3),アドレナリン作動性ドメイン(0-4)の合計(0-10)で,点数が高いほど重症の自律神経機能障害を示している(Low RA et al. Mayo Clin Proc 68; 748-752, 1993).
興味深いことは2-5が自律神経障害に関係した項目であることである.1についての詳細な考察はないが,非常に興味深いものと言える.

本研究の限界としては後方視的研究であることがあげられる.近年,MSAの臨床診断は必ずしも容易でないという報告があるが,これに対しては36例で病理診断が行われ,全例がMSAであったという結果を持って,臨床診断に大きな問題はなかろうと述べている.

以上,本研究は,臨床症候によりMSAの生命予後を推定することが可能とした点で意義のある論文と考えられた.とくに自律神経機能検査は,MSAの診断や,自律神経障害に伴う症状に対する早期からの対応を可能にするだけではなく,生命予後を予測する因子としても重要であることが示された.

最後に2名の米国の神経内科医の写真を示す.左がGeorge Milton Shy(1919-67),右がGlenn Albert Drager(1917-67)である.論文に対する査読者のコメントのなかで,この二人が50年以上も前に,臨床病理学的に単一の疾患であると報告していることに触れている(Arch Neurol 2; 511-527, 1960).Gilman分類において,かつての線条体黒質変性症(SND),オリーブ橋小脳萎縮症(OPCA),Shy-Drager症候群はMSA-PとMSA-Cのみに分類され,このShy-Drager症候群がなくなってしまったが,とくに本邦においてはSDSの分類をなくしてしまったことは好ましくないのではないかという議論があった.海外からも"MSA-A"として,自律神経障害を主徴とするMSAについて検討したケースシリーズも若干ながら報告されている.個人的にも,2007年のTadaらの報告以来,この病型を独立させたほうが良いように考えてきたが,その是非はここではこれ以上議論しないまでも,ハザード比や確認のしやすさから,<font color="blue">「発症3年以内の転倒」「膀胱症状」「発症3年以内の尿道カテーテル留置」「発症1年以内の起立性調節障害」の4項目については,今後,十分に確認すべきものと考えられた.



Clinical features and autonomic testing predict survival in multiple system atrophy. Brain. 138:3623-3631, 2015. 

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扶氏医戒之略

2016年01月19日 | 医学と医療
日本の近代医学の祖といわれる緒方洪庵が,ドイツ人医師フーフェランドが書いた医師の心得を日本語訳したものが『扶氏医戒乃略(ふしいかいのりゃく)』である.扶氏とはフーフェランド(ベルリン大学教授1762-1836)のことで,その著書「Enchiridion Medicum」の完訳を,洪庵は「扶氏経験遺訓」として出版しているが,巻末にある医者に対する戒めを12ヵ条に要約したものが「扶氏医戒之略」である.読みなおしても,ほとんどの項目は違和感がなく,いまなお貴重な教えとなる(耳の痛いものが多く,かつ10-12の具体的なシチュエーションには驚く).その現代語訳をご紹介したい.

扶氏医戒乃略
緒方洪庵訳 Chrstoph Wilhelm Hufeland (1762-1836) 著

1.人のために生活して、自分のために生活しないことが医業の本当の姿である。安楽に生活することを思わず、また名声や利益を顧みることなく、ただ自分を捨てて人を救うことのみを願うべきであろう。人の生命を保ち、疾病を回復させ、苦痛を和らげる以外の何ものでもない。

2.患者を診るときはただ患者を診るのであって、決して身分や金持、貧乏を診るのであってはならない。貧しい患者の感涙と高価な金品とは比較できないだろう。医師として深くこのことを考えるべきである。

3.治療を行うにあたっては、患者が対象であり、決して道具であってはならないし、自己流にこだわることなく、また、患者を実験台にすることなく、常に謙虚に観察し、かつ細心の注意をもって治療をおこなわねばならない。

4.医学を勉強することは当然であるが、自分の言行にも注意して、患者に信頼されるようでなければならない。時流におもね、詭弁や珍奇な説を唱えて、世間に名を売るような行いは、医師として最も恥ずかしいことである。

5.毎日、夜は昼間に診た病態について考察し、詳細に記録することを日課とすべきである。これらをまとめて一つの本を作れば、自分のみならず、病人にとっても大変有益となろう。

6.患者を大ざっぱな診察で数多く診るよりも、心をこめて、細密に診ることの方が大事である。しかし、自尊心が強く、しばしば診察することを拒むようでは最悪な医者と言わざるをえない。

7.不治の病気であっても、その病苦を和らげ、その生命を保つようにすることは医師の務めである。それを放置して、顧みないことは人道に反する。たとえ救うことができなくても、患者を慰めることを仁術という。片時たりともその生命を延ばすことに務め、決して死を言ってはならないし、言葉遣い、行動によって悟らせないように気をつかうべきである。

8.医療費はできるだけ少なくすることに注意するべきである。たとえ命を救いえても生活費に困るようでは、患者のためにならない。特に貧しい人のためには、とくにこのことを考慮しなければならない。

9.世間のすべての人から好意をもってみられるよう心がける必要がある。たとえ学術が優れ、言行も厳格であっても、衆人の信用を得なければ何にもならない。ことに医者は、人の全生命をあずかり、個人の秘密さえも聞き、また最も恥ずかしいことなどを聞かねばならないことがある。したがって、医師たるものは篤実温厚を旨として多言せず、むしろ沈黙を守るようにしなければならない。賭けごと、大酒、好色、利益に欲深いというようなことは言語道断である。

10.同業のものに対しては常に誉めるべきであり、たとえ、それができないようなときでも、外交辞令に努めるべきである。決して他の医師を批判してはならない。人の短所を言うのは聖人君子のすべきことではない。他人の過ちをあげることは小人のすることであり、一つの過ちをあげて批判することは自分自身の人格を損なうことになろう。医術にはそれぞれの医師のやり方や、自分で得られた独特の方法もあろう。みだりにこれらを批判することはよくない。とくに経験の多い医師からは教示を受けるべきである。前にかかった医師の医療について尋ねられたときは、努めてその医療の良かったところを取り上げるべきである。その治療法を続けるかどうかについては、現在症状がないときは辞退した方がよい。

11.治療について相談するときは、あまり多くの人としてはいけない。多くても三人以内の方が良い。とくにその人選が重要である。ひたすら患者の安全を第一として患者を無視して言い争うことはよくない。

12.患者が先の主治医をすてて受診を求めてきたときは、先の医師に話し、了解を受けなければ診察してはいけない。しかし、その患者の治療が誤っていることがわかれば、それを放置することも、また医道に反することである。とくに、危険な病状であれば迷ってはいけない。

馬場茂明著 「聴診器」より


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新しい脳の捉え方 ―コネクトーム・脳透明化・次世代スパコン―

2016年01月16日 | 医学と医療
神経内科医になり,脳や神経疾患を理解するため,まず画像診断による脳の形態を学んだ.つぎに遺伝子から神経疾患が分かるのではないかと考え大学院に進んだ.さらに,脳の切片を作ったり,擦り潰して生化学的な解析を行ったが,それでも脳の本当の機能や神経疾患の本態に到達できないようなもどかしさを感じていた.いずれの方法も,脳のアクティブな活動を捉えていない感じがした.「脳の回路や活動」を直接見ることができれば,脳や疾患の理解が変わるのではないだろうか?

新しい脳の研究法を紹介する,まさにワクワクさせられる本や動画を紹介したい.最初の動画は,スタンフォード大学のセバスチャン・スン博士によるコネクトーム(connectome)の説明である(タイトル:私はコネクトームである,日本語字幕あり)
動画1. 【セバスチャン・スン: 私はコネクトームである】

コネクトームは,コネクト(connect)と「全体」を表すomeという接尾語を合成したことばである.コネクトームは,ニューロンやある機能を持った脳の領野などの間の接続状態を表した地図,つまり神経回路マップを意味する.たとえば線虫の場合,神経細胞は300個,その接続であるシナプスは7000個と言われるが,そのコネクトームは10年がかりの解析の結果,下図のように解明されている.


ヒトの場合は 1000億個の神経細胞と100兆個のシナプスがあると言われ,そのコネクトームは線虫とは比べものにならないが,このコネクトームの多様性こそが,その人のこころとか人格を決めているのではないかという仮説がある(I am a connectome仮説).つまりコネクトーム研究は,科学や医療にインパクトを持つだけでなく,「人間とは何か」「わたしとは何者か」に答えをもたらす可能性がある.

しかし線虫でも複雑なのに,ヒトのコネクトームは研究が可能なのであろうか?多くの研究者はコネクトーム研究こそが重要であると考えていながら,その研究があまりに困難であるため手つかずとなっていたのであった.しかしセバスチャン・スン博士は,現在の技術水準はこの困難を克服できるレベルに達しつつあると言っている.強力な自動化技術と画像処理能を備えた次世代スパコンや汎用人工知能の開発により,ヒトのコネクトームの解明を促進させるというのだ.

バスチャン・スン博士はコネクトームを調べる方法として,二次元の電子顕微鏡の写真を三次元に再構成して,神経細胞同士のつながり(シナプス)を見る方法を示している(下図).


さらに最近の科学の発達は,もっと分かりやすくシナプスを見る方法を実現している.そのひとつが脳透明化技術である.この発見はコネクトーム研究を大きく加速すると言われている.3DISCO,Sca/e,CLARITYなど幾つかの方法が報告されている.生物試料は水,脂質,タンパク質といった屈折率が異なる化学物質の集合体であるが,脱水して屈折率の高い化合物に置換することで試料内部での光の散乱を減少させ,それによって組織を透明化するという技術である.蛍光タンパク質による細胞の可視化技術と脳透明化を組み合わせると,脳の細胞の連絡(コネクトーム)が直接観察できるようになる.CLARITYの動画を提示するが,海馬などの構造がそのまま正確に捉えることができる.脳の美しさに息を呑むことと思う.この技術は,過去に提供された古い脳にも,新たな研究の可能性を生み出すものと考えられる.
動画2. 【See-through brains】


さらに機能的MRI(fMRI)もコネクトーム研究に有用である.種々の活動に関連した脳機能マッピングを行い,その連絡地図(コネクトーム)を分析・解明する方法だ.最近,Nature communicationsに報告された論文は,スタンフォード大学の1人の脳科学者が,毎週火曜日と木曜日の朝にfMRIを撮像し,それを18ヶ月間も続け,ヒトの脳の機能的なコネクトームが経時的に変化するのか調べたという研究である.この結果,脳の安静時のコネクトームは基本的に変わらないことが示されたが,図のように、何と火曜日と木曜日では大きな変化が見られた.この違いは何によってもたらされたかというと,火曜日の朝にはコーヒーを飲まなかったというのだ.つまりカフェイン摂取でコネクトームがこんなにもダイナミックに変化するというのだ.この変化の意味は不明だが,海外の学会などで欧米人はみなコーヒー片手に現れるところを見ると,木曜日のコネクトームが会議には適しているのだろう.我々は脳の働きに関して,まだこのようなことさえ知らないのだ.

動画3. 【Stanford researcher scans his own brain for a year and a half】

次世代スパコンの登場は間違いなくコネクトーム研究を加速するだろう.次世代スパコンは,加えて「神経回路」のシュミレーションを可能とする.例えば小脳の機能をシュミレーションする組み込み型小脳プロセッサの開発は,ロボットに転ばないように学習させることが可能である.

そして人工知能の開発に関しては,「脳はそれぞれよく定義された機能を持つ機械学習器が一定のやり方で組み合わされる事で機能を実現しており,それを真似て人工的に構成された機械学習器を組み合わせる事で人間並みかそれ以上の能力を持つ汎用の知能機械を構築可能である」という仮説が生まれ,研究が進められている(全脳アーキテクチャ中心仮説).現在,次世代スパコンの開発は世界中でしのぎを削るものとなっているが,日本のスパコン開発で期待を集める齊藤元章氏は,人の脳にある神経細胞やシナプスを,同じ数のコアとインターコネクトで置き換えることで,人の知能に,ある意味で追いつく汎用人工知能が実現できるのではないかと考えている(写真はスーパーコンピュータ菖蒲).このようにして生まれる人工知能は,ビッグデータを機械学習することにより,人間が気がつかない現象や法則を見出すものと考えられる.


今後,新たな方法で脳を捉える時代に突入する.恐らくその進化は,脳科学や神経内科学にこれまでにない変化をもたらすだろう.例えば画像では何の異常も見いだせないうつ病や統合失調症なども,コネクトームに変調が見られるのではないだろうか.そしてその変調は,シナプスを変化させる(再荷重,再接続,再配線,再生)することにより治療することができるのではないか,脳の研究は近い将来,まさにそのような時代に突入するのだ.ぜひ若い人にはダイナミックに変化する脳の先端研究に取り組んで欲しいと思う.

最後におすすめの本を紹介する.セバスチャン・スン博士による「コネクトーム:脳の配線はどのように「わたし」をつくり出すのか」は本当にワクワクさせられた.また次世代スパコンがもたらす壮大で驚くべき新世界については,齊藤元章氏による「エクサスケールの衝撃」に詳しい.人工知能の入門書としては次の2冊をおすすめする.
人類を超えるAIは日本から生まれる (廣済堂新書)
人工知能は人間を超えるか (角川EPUB選書)
これらはご一読をおすすめしたい本である.

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400万ビューを超えていました

2016年01月16日 | その他
アクセス欄を見たら,今日,400万ビューを超えておりました.多くの方に読んでいただけているのだと改めて驚きました.留学中であった2004年に,臨床の勉強も続けようと,読んだ論文を備忘録代わりに書き始めたのがきっかけでした.ラットの手術をしながら待ち時間の間にブログを書いたことを思い出します.最初のエントリーは「感染性心内膜炎に伴う脳塞栓症例に対し,いつ弁置換術を行うべきか?」です.内容的には自身の興味を反映して,神経変性疾患や脳血管障害の論文,自身やチームの取り組みの紹介,そして最近は創薬,トランスレーショナル・リサーチの話題が多くなっています.
 おそらく医療関係者だけでなく,神経疾患で悩まれる方やご家族の方も読んでくださっているのだと思います.できれば多くの方を励ますものになると良いのですが,第三者によるチェック機構がありませんので,論文や学会で学んだことを客観的,正確にご紹介することを大事に考えています.

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2015年の神経内科学10大成果

2016年01月01日 | 医学と医療
新年,明けましておめでとうございます.
New England Journal of Medicine誌 Journal Watchが,神経内科学分野の,2015年の10大成果を発表しました.以下,10論文の要旨とリンクをまとめます.本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます!

1.次世代の血栓回収ステントによる血管内療法の効果を示したMR CLEAN試験
Berkhemer OA et al. A randomized trial of intraarterial treatment for acute ischemic stroke. N Engl J Med2014 Dec 17; [e-pub ahead of print].
・・・内頸動脈系の近位部閉塞が確認された発症後6時間以内の虚血性脳卒中患者では,次世代の血栓回収ステントを用いて機械的血栓除去術を行ったほうが通常治療のみよりも3か月後の転帰良好例が有意に増加した.

2.パーキンソン病の症状は診断の10年前から出現していることを示唆した試験

Schrag A et al. Prediagnostic presentations of Parkinson's disease in primary care: A case-control study. Lancet Neurol 2015 Jan; 14:57.
・・・イギリスからの報告で,8166名のパーキンソン病患者さんが,診断される2,5,10年前に,健常者と比較してどのような症状を呈していたかを調べた論文.発症5-10年前では振戦と便秘,2-5年前でも振戦,バランス障害,便秘,低血圧,勃起障害,排尿障害,めまい,疲労,うつ,不安が健常者と比べ有意に多かった.

3.治療抵抗性てんかんの外科手術施行の障壁を明らかにした研究
Roberts JI et al. Neurologists' knowledge of and attitudes toward epilepsy surgery: A national survey.Neurology 2015 Jan 13; 84:159.
・・・抗てんかん薬による内服治療に抵抗性であるてんかんに対し,外科手術は有効で安全であるにもかかわらず,その一部にしか行われていない理由をカナダの神経内科医にアンケートし,明らかにした研究.回答をした神経内科医の半数しか「治療抵抗性てんかんの定義」や「外科手術をどのような症例に,いつ行うか」を理解していなかった.2000年以降に卒業した医師は正しく理解している比率が高くなった.

4.Neuropathic Pain(神経障害性疼痛)の治療に関するメタ解析
Finnerup NB et al. Pharmacotherapy for neuropathic pain in adults: A systematic review and meta-analysis. Lancet Neurol 2015 Feb; 14:162.
システマティック・レビューとメタ解析の結果,第一選択は三環系抗うつ薬,SNRI,プレガバリン,ガバペンチンとした.第2選択としてリドカイン・パッチ(エビデンス不足で,第一選択から外れる),高濃度カプサイシン,トラマドール,第3選択(副作用があるため)として強オピオイド,ボツリヌス毒素とした.

5.片頭痛に対する急性期治療の有効性と慢性化の頻度の関係を明らかにした研究
Lipton RB et al. Ineffective acute treatment of episodic migraine is associated with new-onset chronic migraine. Neurology 2015 Jan 21; [e-pub].
・・・アメリカからの報告で,急性期の片頭痛治療の効果(4段階に分類)と,1年後の片頭痛慢性化の関係を調べた研究.この結果,急性期の治療効果が悪い症例ほど,慢性化の頻度が高いことが分かった.maximum, moderate, poor, very poorと治療効果が不良であるほど,1年後の慢性化率は1.9%, 2.7%, 4.4%, 6.8%と高くなり,かつ片頭痛の頻度の増加と身体障害の増悪をもたらした.

6.筋萎縮性側索硬化症の血液バイオマーカー
Lu C-H et al. Neurofilament light chain: A prognostic biomarker in amyotrophic lateral sclerosis.Neurology 2015 May 1; [e-pub].
・・・167名のALS患者さんと健常対照者における血液・髄液ニューロフィラメント軽鎖を,経時的に検討した研究.以下の3つのことが明らかにした.1)ALS患者さんでは健常者と比較して高値で,髄液と血中で相関があること,2)15ヶ月間の観察で,上昇が持続したこと,3)高値例ほど,機能予後,生命予後が不良であること.

7.てんかん重積発作とそれに関連した死亡を検討した研究
Betjemann JP et al. Trends in status epilepticus–related hospitalizations and mortality: Redefined in US practice over time. JAMA Neurol 2015 Jun 1; 72:650.
脳卒中後のてんかん重積発作は致命的な神経症状である.てんかん重積発作による入院と死亡率の経年変化(1999年~2010年)を調べた.この結果,てんかん重積発作による入院は10万人につき8.9 から13.9人・年と56%の増加がみられたが,これに伴う死亡は100万人につき1.8 から1.9人・年と6%の増加にとどまった.

8.多発性硬化症再発に対する経口対静注ステロイドの効果を比較した研究
Le Page E et al. Oral versus intravenous high-dose methylprednisolone for treatment of relapses in patients with multiple sclerosis (COPOUSEP): A randomised, controlled, double-blind, non-inferiority trial. Lancet 2015 Jun 28; [e-pub].
Oral vs. Intravenous High-Dose Glucocorticoids for MS Relapses: Your Choice
・・・199名の多発性硬化症患者が参加した,メチルプレドニゾロン1000mg,3日間を,経口ないし静注で投与し,その効果を比較した非劣性試験(多施設盲検試験).この結果,28日後のEDSS改善を主要評価項目とする効果の同等性が証明された.副作用についても差はなかった.

9.非破裂脳動脈瘤の治療介入決定スコアの開発
Etminan N et al. The unruptured intracranial aneurysm treatment score: A multidisciplinary consensus.Neurology 2015 Sep 8; 85:881.
・・・非破裂脳動脈瘤の治療介入の決定に有用なスコアシステムの開発.治療介入に関わる特徴(年齢,危険因子,推定余命,併存疾患),画像所見(サイズ,部位,形状,個数)など29項目を用いて,unruptured intracranial aneurysm treatment score (UIATS)を開発した.

10.多系統萎縮症はプリオン病か?
Prusiner SB et al. Evidence for α-synuclein prions causing multiple system atrophy in humans with parkinsonism. Proc Natl Acad Sci U S A 2015 Sep 22; 112:E5308.
・・・近年,シヌクレイノパチーやタウオパチーでは,プリオン様の伝播が神経変性の機序として注目されている.MSA患者脳のホモジネートを,マウスや培養細胞へ接種したところ,αシヌクレイン凝集体が形成されたが,パーキンソン病脳や対照脳のホモジネートではこのような変化は見られなかった.マウスでは神経症状も出現した.MSAのαシヌクレインは,パーキンソン病におけるαシヌクレインとは異なるものと結論づけている.

Neurology Editors' Choice: Top Stories of 2015


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