上記タイトルのアンケート調査をまとめた冊子を著者のおひとりからお送りいただいた.非常に示唆に富む内容で,パーキンソン病(PD)患者さんの診療に有益な情報と思われるのでご紹介したい.なおWEB上でもダウンロードが可能なので,関心のある方はぜひご一読頂きたい.
まずこの研究が行われた背景は,PD患者同士の会話で,痛みが強いので主治医に相談したものの,「PDには痛みがない」と言われ,訴えに耳を傾けてもらえないようなことが少なからずある,つまりPDにおける「痛み」が症状として理解されていないのではないかということが話題になったそうだ.一人の患者さんの言葉がアンケートの末尾に記載されているので引用したい.「なぜ医師は『痛みはないはずだ』というのだろうか.こんなにも大勢の人が痛みを訴えているのにどうして認めてくれないのだろう」
アンケートについてまとめてみる.方法はPD友の会におけるアンケート用紙の手渡しとインターネット・ホームページ上の配信で,回収率は68%.回答総数は27都道府県にわたる502人(男性211人,女性291人).発症後10年未満の患者さんが53.6%であった.痛みの部位は全身を14の部位に分けて記載してもらった.
さて結果であるが「痛みあり」と回答した人はなんと389/502=77.5%!(男性72.5%,女性81.1%).部位は腰部が圧倒的に多く,63.2%の患者さんは腰痛を訴えていた.ついで腕,背中,肩が同数であった.痛みの箇所も複数みられることが多く,70歳代で痛みのあった人(112人)では平均3.2箇所,40歳代(32人)でも平均4.8箇所と多かった.
痛みがひどくなる状況は,薬が切れた時が最も多く64人,ついで同じ姿勢でいるときや立っている時が45人,朝起きた時が28人,からだの曲がり・姿勢異常13人,寝不足・疲れのあるとき13人,常に痛いが11人であった.ジスキネジアは3人であった.
痛みのあるときの対処法は,シップ58人,マッサージ56人,動かない・横になる・じっと耐える・コルセットが55人,ストレッチ・リハビリ・カイロプラクティス・指圧が44人,温める・ホカロン・カイロ・風呂が23人,痛み止め20人,パーキンソン病治療薬14人であった.
著者らは考察として,痛みの頻度は4人に3人と多く,PDの症状としてもっと注目すべきであること,非運動症状の中でも主要症状と考えて良いこと,病歴の短い患者さん・若い患者さんでもみられる症状であること,腰痛は加齢で生じる腰部の合併症にPDに伴う姿勢異常が関与して生じている可能性があることを考察している.
最後に個人的に気がついたことを述べたい.まず痛みの出現する時間は,痛みの原因や治療を考える上で大きなヒントになると思われる.
「薬が切れた時」の痛み → パーキンソン病自体に伴う痛み → オフ時間を減らす抗パーキンソン病薬の調節を行う.
「朝起きた時」の痛み → 朝のオフ症状に伴う痛み → 早朝のL-DOPA内服,もしくは眠前長時間作用するドパミンアゴニストの内服.
「同じ姿勢でいるときや立っている時に痛み」が起こる機序は何であるのかよく分からなかった.「からだの曲がり・姿勢異常」については,一部,抗パーキンソン病薬の増量で軽減する患者さんも経験的にはいらっしゃるので検討しても良いかもしれない.「寝不足・疲れ」はパーキンソン症状自体も増悪させるので生活指導や不眠に対する治療を行う必要がある.
痛みの対処法としてさまざまな工夫が行われていることが分かる.どうすれば痛みを軽減できるのかヒントが含まれているように思う.マッサージ,コルセット,ストレッチ,温める,といったことは痛みで困っている患者さんにお薦めしてもよさそうである.
いずれにしても「痛み」は,患者さんのQOLやADLに運動症状と同等,場合によってはそれ以上の影響を及ぼすことをよく理解する必要がある.
パーキンソン病における「痛み」についてのアンケート調査
まずこの研究が行われた背景は,PD患者同士の会話で,痛みが強いので主治医に相談したものの,「PDには痛みがない」と言われ,訴えに耳を傾けてもらえないようなことが少なからずある,つまりPDにおける「痛み」が症状として理解されていないのではないかということが話題になったそうだ.一人の患者さんの言葉がアンケートの末尾に記載されているので引用したい.「なぜ医師は『痛みはないはずだ』というのだろうか.こんなにも大勢の人が痛みを訴えているのにどうして認めてくれないのだろう」
アンケートについてまとめてみる.方法はPD友の会におけるアンケート用紙の手渡しとインターネット・ホームページ上の配信で,回収率は68%.回答総数は27都道府県にわたる502人(男性211人,女性291人).発症後10年未満の患者さんが53.6%であった.痛みの部位は全身を14の部位に分けて記載してもらった.
さて結果であるが「痛みあり」と回答した人はなんと389/502=77.5%!(男性72.5%,女性81.1%).部位は腰部が圧倒的に多く,63.2%の患者さんは腰痛を訴えていた.ついで腕,背中,肩が同数であった.痛みの箇所も複数みられることが多く,70歳代で痛みのあった人(112人)では平均3.2箇所,40歳代(32人)でも平均4.8箇所と多かった.
痛みがひどくなる状況は,薬が切れた時が最も多く64人,ついで同じ姿勢でいるときや立っている時が45人,朝起きた時が28人,からだの曲がり・姿勢異常13人,寝不足・疲れのあるとき13人,常に痛いが11人であった.ジスキネジアは3人であった.
痛みのあるときの対処法は,シップ58人,マッサージ56人,動かない・横になる・じっと耐える・コルセットが55人,ストレッチ・リハビリ・カイロプラクティス・指圧が44人,温める・ホカロン・カイロ・風呂が23人,痛み止め20人,パーキンソン病治療薬14人であった.
著者らは考察として,痛みの頻度は4人に3人と多く,PDの症状としてもっと注目すべきであること,非運動症状の中でも主要症状と考えて良いこと,病歴の短い患者さん・若い患者さんでもみられる症状であること,腰痛は加齢で生じる腰部の合併症にPDに伴う姿勢異常が関与して生じている可能性があることを考察している.
最後に個人的に気がついたことを述べたい.まず痛みの出現する時間は,痛みの原因や治療を考える上で大きなヒントになると思われる.
「薬が切れた時」の痛み → パーキンソン病自体に伴う痛み → オフ時間を減らす抗パーキンソン病薬の調節を行う.
「朝起きた時」の痛み → 朝のオフ症状に伴う痛み → 早朝のL-DOPA内服,もしくは眠前長時間作用するドパミンアゴニストの内服.
「同じ姿勢でいるときや立っている時に痛み」が起こる機序は何であるのかよく分からなかった.「からだの曲がり・姿勢異常」については,一部,抗パーキンソン病薬の増量で軽減する患者さんも経験的にはいらっしゃるので検討しても良いかもしれない.「寝不足・疲れ」はパーキンソン症状自体も増悪させるので生活指導や不眠に対する治療を行う必要がある.
痛みの対処法としてさまざまな工夫が行われていることが分かる.どうすれば痛みを軽減できるのかヒントが含まれているように思う.マッサージ,コルセット,ストレッチ,温める,といったことは痛みで困っている患者さんにお薦めしてもよさそうである.
いずれにしても「痛み」は,患者さんのQOLやADLに運動症状と同等,場合によってはそれ以上の影響を及ぼすことをよく理解する必要がある.
パーキンソン病における「痛み」についてのアンケート調査