Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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脳梗塞に対する(本当の)世界初の神経保護薬(NXY-059)について

2006年02月28日 | 脳血管障害
 前回の記事で述べたSAINT I trial について議論したい.SAINT は Stroke Acute Ischemic NXY-059 Treatmentの略である.このNXY-059は,free radical scavengerであって,すでに動物モデル(focal ischemiaのreperfusion model)にてその有効性が示されている.すなわち,基礎研究で得られた有効性を臨床にtranslateしようということで企画された大規模臨床研究である.SAINT I はdouble-blind, placebo-controlled phase III studyであり,治験にエントリーした患者数は1,722 名にも及ぶ(24カ国・158施設;アジアではマレーシア,韓国,シンガポール,香港が含まれているが,悲しいかな日本は仲間外れ).対象はNIHSS が6点以上で,四肢の麻痺を認める発症6時間以内(!)の脳梗塞患者.NXY-059 治療(点滴静注)は3日間行われる.Primary endpointは,発症90日目のmodified Rankin scale,さらに副次Primary endpointとしてNIHSSを用いている.
 結果として,placebo群847名,NXY-059 群858名がランダムに割り付けられ,うちt-PA(Alteplase)が併用されたのはそれぞれ29.4%,28.0%であった.modified Rankin scaleはNXY-059 群が有意に良好(p= 0.038)であったが,NIHSSおよび死亡率に関しては両群で有意差を認めなかった.NXY-059 群にとくに問題となる副作用はなかった.興味深いことは,t-PAを使用した症例において,NXY-059群では症候性脳出血の頻度が2.5%であったのに対し,placebo群では6.4%であった点である(p=0.036).
 さて本研究を考察したい.まずSAINT I trial は,まだFDAに承認されたわけではないものの,動物モデルでの有効性が始めてヒトにおいても確認された最初の神経保護薬であると考えられる.しかし,その効果は残念ながら,さほど大きなものとは言えない.やはり責任血管が完全閉塞してしまった(再灌流のない)脳梗塞では,病変部位(penumbra)に薬剤が届く効率はきわめて悪いのだろう.むしろ興味深いのはt-PAとの併用の効果である.Post-hoc analysisの結果であるのは残念だが,それでもfree radical scavengerはt-PA使用後の症候性出血を抑制する可能性が出てきた.これはfree radicalやMMP9などの上昇に伴うischemic vasculopathyを抑制する効果によるものかもしれない.今回の研究から分かることは,free radical scavengerはどんな脳梗塞に効くというものでは決してないこと,かつ早期投与であっても効果がそれほど強力ではないということ,そして従来のようにニューロンのみをターゲットにした治療薬では効果が得られない,すなわち神経・血管すべて(neurovascular unit)に対して保護作用をもたらす薬剤でなければ脳梗塞の神経保護薬になり得ないということである.いずれにしても,現在,症例数(とくにt-PA併用症例)を増やしたSAINT II trialや,脳出血に対するNXY-059の効果を検討するCHANT trialが進行中で,その結果が待たれる.
 つぎに日本が誇るエダラボン(商品名ラジカット)について考察したい.このfree radical scavengerは,1993~1996年に行われたphase III placebo-control double-blind controlの結果を踏まえ,2001年から使用可能になっているが,論文としては2003年にようやく発表されたわが国の臨床第III相試験の1件のみである.これによると総症例数は252例で,エダラボン群125例,プラセボ群127例と割り付けてある(Cerebrovascular Dis 2003; 15; 222-229).しかし,現在承認されている用法に合致した発症24時間以内に治療を開始した症例は,エダラボン群42例,プラセボ群39例とかなり少ない.また本研究の特徴としては,①軽症患者が多く(穿通枝領域の血栓性小梗塞に該当する患者が多いと言われている).② post-hoc stratified analysisを用いており,本当にRCTと呼んでよいのか怪しい(コホート研究レベル?).おそらく動物モデルでの結果を考慮してみても,エダラボンをreperfusionのない症例に使用しても効果はあまり期待できないと考えるのが妥当であろう.個人的には,おそらくNXY-059と同様,t-PAとの併用か,もしくは皮質と比較して抗酸化物質含量の少ない白質領域の脳梗塞(ラクナ梗塞)でしか効果を発揮できないような気がする.
 エダラボンを外国の友人に話しても誰も知らない.世界に先駆けて承認されたという宣伝の神経保護薬エダラボンではあるが,ちょっと世界に自慢できる感じではない.また患者さんの後遺症を軽減したいという純粋な気持ちから,この薬剤を今現在,使用している神経内科医も多数いると思われるが,その効果は必ずしも保障されたものではないということを認識すべきである.そしていつも書いていることだが,日本の薬剤承認のメカニズムはどこかおかしいことも強調したい.世界で使用されていて承認されるべき薬剤がいつになっても承認されず,検討が不十分なエビデンスの乏しい薬剤がむしろ承認されてしまう.薬剤は,そのエビデンスレベルを十分に理解した上で使用しなければならない.

NEJM 354; 588-600, 2006 
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Stroke Conferenceで感じたこと

2006年02月24日 | 脳血管障害
America Heart Association(AHA)のStroke Conferenceに参加した.「脳梗塞は治療できない」と言って,治療的ニヒリズムに浸っていた時代は終わりつつあるとさえ感じさせられるほどの充実した内容だった.脳梗塞の治療はやはりt-PAを中心に展開しているが,日本とは状況がかなり異なっている.つまりt-PAの弱点を補う戦略が次々に考えられ,そしてそのアイデアに基づき治験が展開されている.以下,t-PAの弱点を思いつくまま列挙する.

① therapeutic time windowが3時間と短い.
② 発症後3-6時間経過した症例の中で,t-PAが有効である症例を見出す術がない.
③ 血栓溶解の成功率は必ずしも高くない(時間が経過するほど低下し,血小板成分が多いほど溶けにくい).
④ 血栓溶解が成功した後にreperfusion injuryや出血が生じる可能性がある.
⑤ t-PA自体neurotoxicである可能性がある.

①については,新世代t-PAの開発(fibrinへの特異性が高く,かつ半減期が長い第3,4世代のt-PA製剤tenecteplase, desmoteplaseの治験開始)や,telemedicine(遠隔医療)やヘリコプター整備の必要性が議論された.②については発症後3-6時間の患者で血栓溶解可能な患者を,MRI(PWI-DWI mismatch)を用いて見出そうとする試み(DEFUSE study)が脚光を浴びた.③に対してはt-PAと抗血小板剤(GPIIb/IIIa antagonist)の併用が検討され,さらに機械的に血栓を除去する方法も急速に進歩してきた.カテーテルの先にコイル状の血栓除去器をつけたMERCIはすでにFDA承認済みだが,その改良型のmulti-MERCI,さらにカテ先に血栓破壊用レーザーを取り付けたEPAR laser(治験開始),同じくカテ先に超音波装置を取り付けたEKOS(治験開始;t-PAと併用した治験IMS-II)など驚くべきことばかりである.④,⑤に対しては,はじめて基礎実験から臨床へのtranslateができた神経保護薬NXY-059(free radical scavenger)の治験結果(SAINT I)や,t-PAの神経毒性を抑制すると考えられるactivated protein Cの併用の可能性が検討された.
 今回書きたかったことは,ひとつひとつの治験の結果ではなく,なぜこうも日本とアメリカで状況が異なっているのかということである.少なくとも自分の目には10年以上の開きができてしまったような気がする.おそらくその要因のひとつは日本には大規模臨床試験を行う土壤が整備されていないことと,大規模臨床研究を理解し,かつ実践できるドクターが日本では不足しているのではないか?ということである.例えばfree radical scavengerにしてもNXY-059は1700人超の症例(6時間以内に治療開始)をrandomizeしているのに対し,日本が誇る(?)エダラボンは現在承認されている用法に合致した「発症24時間以内に治療を開始した症例」は,なんと81例ときわめて少ない.日本の脳卒中臨床研究において何か大きな問題が存在するのではないかと思わずにはいられなくなる.
 また今回の学会では,若手臨床家向きのランチョンセミナーが開かれた.テーマはどうやって臨床研究をスタートするか,そのためにはなにが必要かという内容であった.研究費の稼ぎ方や治験コーディネーターの重要性が論じられていたが,なかなかこういう話は日本では聴くことができない.さらに今回の学会で気がついたことは基礎研究,とくに動物モデルを用いた治療研究の演題数がかなり少ないということだ(1割程度か).これはStrokeの分野ではかなり臨床研究にシフトしていることを意味している.
 いずれにしても,大規模臨床研究を理解し,かつ実践するということを真剣に考えない限り,欧米で使えるエビデンスのある薬剤が,日本では全く使えないという状況がますます加速するものと思われる.憂慮すべき事態だ.

International Stroke Conference 2006
http://strokeconference.americanheart.org/portal/strokeconference/sc/
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プリオン説はほんとうか?

2006年02月22日 | 感染症
 もう何年も前の話になるが、米国神経学会(AAN)のplenary sessionにて、少しばかり狂気にも似た情熱を孕んだ聴衆のなかに自分が紛れ込んでいたときのことを印象深く憶えている。聴衆の視線の先には、眩いばかりのスポットライトとスモークを背にし、エネルギーと自信に満ちた顔つきの白髪の男性がいた。スタンリー・プルシナーである。
 プルシナーは1982年、「遺伝子を持たないタンパク質が感染し、増殖する」という異端の説を提唱する。このプリオン説は、「感染し、増殖する病原体は、ウイルスにせよ、細菌にせよ、すべて遺伝子(核酸)を持っている」という中心原理(セントラル・ドグマ;タンパク質は自分だけで複製できない)に例外を作るものであり、当然、多くの科学者からの批判の的となったが、その後、プルシナー一派が次々とプリオン説を支持するデータを提示するのに対し、反対派はその対案を示すことができず、ついには1997年10月、プルシナーはノーベル生理学・医学賞を単独受賞する。異端の説であったプリオン説が、科学的真実として世界から完全に受け入れられた瞬間であった。
 個人的にも本当に蛋白が次から次へと感染するのだろうか?と不思議に思った時期はあったが、「プリオン蛋白の構造(conformation)が、αへリックスからβシートに変化する」という図や、「正常型プリオンは異常型プリオンに出会うと異常型に変換されてしまう」という発症メカニズムの図をreviewなどで繰り返し見せられるにつれ、徐々にこの説を信じるようになった。しかしなぜプリオンだけ感染し、同じConformational diseaseのアルツハイマー病やポリグルタミン病は感染しないのだろう?
 今回、とても面白い本を読んだ。プリオン病関連本は昨今の狂牛病ブーム(?)の影響でピンからキリまで出版されたようであるが、本書は一般向けに書かれた本であるものの、決していい加減なものではない。前半はプリオン病とは何か?から始まり、プリオン説が誕生した経緯、さらにそれを支持する証拠がどんどん紹介され、知識の整理に役立つ。さらにプルシナーの野心家・戦略家としての素顔を垣間見ることができてとても面白い。しかも後半に入り、プリオン説に対する著者の挑戦が怒涛の勢いで展開される。病原体として認知される上で不可欠な条件「コッホの3原則」をプリオンはまだ満たしていないこと、前半で取り上げたプルシナー一派の実験の弱点・問題点・ウソ(?)が提示され、さらにプリオン説の反証となるびっくりするような新たな実験データも示される。そして何とウイルスが病原体の正体である可能性と著者らの最近の取り組みについて言及していく。ノーベル賞を受賞した説に対し、何とも無謀な挑戦と最初は思ったが,説得力は十分!!ウイルスは本当に存在するような気がしてきた。単に勉強になるだけでなく,ちょうど良質のミステリーを読んだような気分にさせてくれる。おすすめの一冊。

プリオン説はほんとうか?―タンパク質病原体説をめぐるミステリー 福岡伸一(講談社ブルーバックス)
本の題名をクリックするとAmazonにリンクします。

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神経内科医が主人公のミステリー

2006年02月22日 | 医学と医療
左心室縮小形成術、むしろ創始者の名前を冠したバチスタ手術のほうが通りがよいかもしれない。拡張型心筋症に対する手術術式のひとつで、肥大・変性した心筋を切りとり小さく作り直すという単純な発想に基づいた大胆な手術である。難易度の高い心臓移植の代替手術として知られるが、要は余分なものは取ってしまうというラテンのノリの手術である。
ちょっと趣を変えて良質の推理小説の紹介。年1回「このミステリーがすごい!大賞」が発表されているが、今年の大賞受賞作はの主人公はなんと神経内科医である。東城大学医学部臓器制御外科桐生助教授をリーダーとするチーム・バチスタは、バチスタ手術100%の成功率を誇っていたが、3例立て続けに術中死が発生。原因不明の術中死とメディアの注目を集める手術が重なる事態に、病院長は神経内科講師で不定愁訴外来責任者田口に内部調査を依頼する・・・
これ以上はネタばれになってしまうのでやめておくが、著者は詳細不明ながら勤務医の先生。現在の大学病院や医局制度の描写、医療過誤やリスクマネージメントの問題の扱いなどとても丁寧で、ストーリーのみならず、この辺もなかなか楽しく、一気に読ませる内容であった。あと後半、「Ai(エー・アイ)」なる聞きなれない専門用語が出てくるが、この辺は勉強になった(その言葉こそ知らなかったが個人的には一度経験したことはある)。あとは主人公が神経内科医の知識をフル活用してもらえていれば大満足の作品であったが、その辺は続編を期待したい。

チーム・バチスタの栄光 海堂尊。宝島社
(本の題名をクリックするとAmazonにリンクします)

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シャロン首相の主治医はどう考えたか?(その3;脳出血に手術は有効か?) 

2006年02月13日 | 脳血管障害
問.以下の脳出血のなかで手術適応のあるものを選択しなさい.
a. 皮質下出血,b. 被殻出血,c. 視床出血,d. 脳幹出血,e. 小脳出血

 懐かしい国家試験問題ではじめたわけだが,皆さんはどう答えるだろうか?
ここではPFOを発見後開始されたワーファリン内服により,シャロン首相はoral anticoagulant therapy-associated intracranial hemorrhage (OAT-ICH)を起こされたという過程のもとで治療法についての考察を続ける.以前,推測したようにアミロイドアンギオパチーが基礎疾患として存在したのであれば,多発性脳出血の可能性もあるかもしれない.いずれにしても入院当日には手術が行われたわけだが,その適応はどう決定されたのであろうか?
 さて上記の試験問題について.少なくとも自分が学生であったときには楽勝だったはずで,a, b, eと答えていた.医者になってからは少しばかり成長して,これに混合型出血が加わったり,血腫量やCT上の脳圧迫所見,年齢,意識レベル(傾眠~昏迷レベル)を加味したりして脳外科医に相談していた.では自信満々に「被殻出血,小脳出血,皮質下出血が手術適応」と教科書に記載されていた根拠は何だったのだろうか?
 調べてみるとこの答えの根拠となったのは,1990年の本邦における全国調査らしい(金谷.高血圧性脳出血の治療の現況.全国調査の成績より.脳卒中12; 509-524, 1990).これによると手術適応の基本は被殻出血,ないし混合出血で,CT上の圧迫所見があり,血腫量が31ml以上の大きな出血で,かつ神経学的重症度分類が1(清明)ないし5(昏睡)では手術適応がない.小脳出血,皮質下出血も適応あり,ということになっている.ただし,全国調査というretrospective studyの結果であり,この研究のみをもってその信憑性を判断することは難しい.
 では世界レベルでみたエビデンスレベルはどうなのだろうか?2000年にStroke誌に掲載されたsystematic reviewを読むと,1966~1999年までに行われたすべてのRCTをまとめたメタ解析では外科治療に有用性は認めていない.しかしCTが導入されたあとの時代に行われた5つのRCT(1989~1999年)に限ってみると,ORはtotalで0.63(95%CI 0.35-1.14),すなわち手術は有効であるという結論になる.もちろん外科治療は手術の腕前や麻酔管理,ICU管理など,さまざまな因子が絡んでくるので施設間によって成績が違ってくるだろうが,少なくとも上記の結果は手術療法はうまく行えば有効である可能性を示唆する.
一方,適応部位についてのエビデンスは不十分な状態である.AHAのガイドラインを見てみるとgrade Bで推奨されているのは皮質下出血のみで,小脳出血はgrade C,被殻出血を含むその他の部位は不明,というレベルである.
 いずれにしても外科治療はうまく行えば有効である可能性があるわけで,期待を込めて行われたのがSTICH (Surgical Trial in Intracerebral Hemorrhage)という国際共同研究である.27カ国107施設が参加し,1033例が登録された試験で,対象は「発症72時間以内にCTにて特発性テント上出血と診断された症例」で,小脳出血,脳幹出血,動脈瘤やAVM,外傷に伴う出血などは除外してある.ただし「血腫除去の必要性が不確かと考えられた症例」という制約があって,最初の段階で手術が必要と脳外科医が判断した症例はこの研究に含まれていない(!!!).そして対象は①登録後24時間以内に手術を施行した群,および②保存療法群の2群に割り振られたわけだが,②に関しては,その後,患者の状態が変化したときには手術を施行してよいという決まりがあり,この研究をさらにややこしいものにしている.アウトカムの評価は6ヵ月後のGOS,死亡率,mRS,Basel indexである.脱落や割り振り後の家族の反対などで最終的に手術は465例,保存療法は529例となったが,後者のうち140例が状態の悪化,再出血,IICPなどで手術が行われている.さて結論だが,残念ながら両群間で,いずれの項目に関しても有意差が認められなかった.
 ただこの研究は労力のわりに日常診療に与えた恩恵は乏しいと言われてもしかたがない.というのは①脳外科医が「血腫除去の必要性が確かと考えた症例」が含まれていないこと(その基準も症例数も不明),②inclusion criteriaに血腫サイズや意識レベルを考慮していないこと,が理由だ.すなわち,一番知りたいはずの目の前の脳出血患者に手術を行うことが有効なのかという問いに答えられる研究デザインではなく,残念ながら診療にさほど役に立たないのである.
とりあえず最新のStroke誌のreviewでは,脳出血の手術適応の目安として「皮質下ないし小脳出血で,直径は最低3cm,かつ意識障害がある症例」とし,「被殻出血で意識障害(GCS 7-12)のある症例についてはいまなお不明」と記載している.この辺が現在,精一杯のところであり,シャロン首相に行った手術に根拠があるのかと言えば,あるようなないような,何とも歯切れの悪い答えにならざるを得ない.ましてOAT-ICHの手術療法の有効性についてはさっぱり分からない.
 ところで,以上を踏まえると最初の試験問題,どう学生さんに答えさせるべきでしょうか? 医学教育も今の時代,難しいですね.

Lancet 365; 387-397, 2005
Stroke 37; 301-304, 2006
Stroke 31; 2511-2516, 2000

追伸;来週から学会発表のはしごでしばらくお休みします.AHA にも行ってきます.
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ステロイドミオパチーは検査診断できるか?

2006年02月06日 | 筋疾患
ステロイドミオパチーは厄介な病態である.とくに多発性筋炎や皮膚筋炎のステロイド治療の際に,治療開始後に生じた筋力低下が,原疾患の増悪によるものか,ステロイドミオパチーによるものかの鑑別はきわめて重要だが難しい.診察所見のみで鑑別することはしばしば困難であり,鑑別に有用な検査所見がないか当然考える.総説などで取り上げられているのは①%クレアチン尿,②3-メチルヒスチジン尿中排泄である.①は比較的有名であり,ステロイドミオパチーではクレアチンの筋からの放出を反映する尿中へのクレアチン排泄増加,および筋肉の量を反映すると考えられる尿中クレアチニン排泄の減少が認められるということから,両者を組み合わせて「%クレアチン尿」という指標(%クレアチン尿=尿中クレアチン(g/day)/{尿中クレアチン(g/day)+尿中クレアチニン(g/day)})が1970年代に提唱されている.健常者では10%未満であるのに対し,ステロイドミオパチーでは上昇し,かつ筋力低下の程度とよく相関するという.
今回,本邦より%クレアチン尿の使用上の問題点が報告されている.筋疾患を除く原疾患に対する治療としてステロイド内服を検討した26例を対象とした前向き研究で,ステロイド内服前後(とくに使用前)における%クレアチン尿を計算した.この結果,%クレアチン尿(中央値)は男性2.5%,女性17.1%であり,女性において有意に高値であった(p=0.041).カットオフ値として知られる10%を超えた症例は,男性3/14例(21.4%),女性8/12例(66.7%)と高頻度であった.さらに腎機能障害(軽度であっても)が認められる患者では筋症状が見られなくても%クレアチン尿値が大きく変動した.%クレアチン尿が治療前にかかわらず高値を示した症例が多数存在した原因として,①尿クレアチン・クレアチニン排泄量の測定法の問題(原著の時代はJaffe反応を利用した化学法を用いているが,現在は特異性が高く誤差が少ない酵素法を用いている),②尿中クレアチン排泄量における性差(原因不明ながら女性では尿中クレアチン排泄量が高い),③高蛋白食摂取,④腎機能(腎尿細管における再吸収低下によっても尿中クレアチン排泄量は増加する)が挙げられている.
結論としては「ステロイド開始後における1時点のみの%クレアチン尿測定はステロイドミオパチーの診断において有用性が乏しい」ということである.ただ,この研究の弱点は,ステロイドミオパチー発症者における%クレアチン尿の変動についての評価がなされていない点である.今後の課題ということになるが,重要な疾患の検査にも関わらず,しっかりしたエビデンスがないまま放置されてきたものの代表と言えるかもしれない.治療のみならず検査も,ときには疑ってかかったほうが良いのかもしれない.

脳と神経2006. Vol.58 No.1
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