Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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寒さによる頭痛,脳卒中とその対策

2014年12月17日 | 頭痛や痛み
地元テレビ局のディレクターさんから,「寒さと脳の病気の関係について教えてほしい」との依頼があり,寒さと頭痛・脳卒中の関係について勉強してみた.このディレクターさんからは過去にも「うとうとした時,ビクッとするのはなぜ?」「しゃっくり(吃逆)を止める方法を教えて!」「5月病って何?」など難問を依頼され,どうにか答えてきた経緯がある.今回の質問については,インタビューでは難しい用語は避けたが,ここでは少し詳しく述べてみたい.

1. 寒さと頭痛に関連はあるか?

寒冷曝露は頭痛を来すことが知られている.最近,改訂され日本語版も発表された国際頭痛分類第3版β版を見ると,この頭痛は「寒冷刺激による頭痛」と記載され,学術的にも正式な頭痛として認められている.また,さらに「外的寒冷刺激による頭痛」と,「冷たいものの摂取または冷気吸息による頭痛」に分類されている.非拍動性の急性前頭部痛である.前者はとても寒いところや冷水に飛び込んだ際に生じる.また後者の代表例は,アイスクリーム頭痛である(これは以前,病名として使用されていたが,3版β版では使用されなくなった).

(機序)「外的寒冷刺激による頭痛」では寒冷刺激に伴い,血管は収縮するが,その後,反応性に拡張し,血管・神経(三叉神経)に炎症をもたらし,頭痛をもたらす可能性が指摘されている(Raskin NH).後者は口,咽頭から寒冷刺激が入り,三叉神経,舌咽神経が刺激され,三叉神経核に伝わり,痛みとして認識されると教科書には記載されている(一種の関連痛といえる)(Wolff HG).しかし,あまり熱心で研究されている頭痛ではないようで,きちんとした論文は調べた範囲では見当たらない.

Raskin NH. Headache 2nd ed. Churchill Livingstome, London  
Wolff HG (ed.): Headache and other head pain, 2nd ed. Oxford University Press 

(対策)寒冷刺激を避けること,保温は有効である.
余談だが,肩こりによる頭痛(緊張型頭痛)はエアコンの冷風による悪化する.冷風を避けることや温湿布が有効と記載されている.

2. 寒さと脳卒中に関連はあるか?

脳卒中の一部は冬に多く起こることが知られている.本邦の報告で,脳出血は冬(年末年始)に多いこと(図),心原性脳塞栓は冬に多いことが知られている.一方,ラクナ梗塞やアテローム性梗塞は夏に多く(脱水等による),1月にも再増加する.
(豊田章宏.全国労災病院46000例からみた脳卒中発症の季節性(2002~2008).脳卒中33; 226-235, 2011)
著者による解説記事 (図も同ホームページから引用)

(機序)冬の脳卒中は急な温度変化が誘因となる.外出し,いきなり寒いところに出るのは危険である.血管の急速な収縮,急激な血圧の上昇が起こる.とくに高血圧を有する人ではこの傾向が強いとの記載がある.また糖尿病,高血圧,高脂血症といった動脈硬化の危険因子を有する人の場合は要注意である.

(注意すべき状況)室内から外出する際には気をつける必要があるが,家の中(脱衣場やトイレといった寒いところ)でも注意が必要である.入浴前後に脳卒中を起こすことがあるが,脱衣の際の寒さに加え,急に熱い湯に入ると,血圧が急激に上昇する.また寝室も早朝には室温が下がるが,温度が低下すると,適温と比較して,血圧が高くなることも報告されている.

(対策)気温の低い日は保温に努め,血圧上昇を避ける.寒い日の外出は防寒具(マフラー,手袋)を使用する.脱衣所や浴室の洗い場,トイレを暖め,居室との温度変化を減らす.入浴時には手足への「湯かけ」や半身浴を行い,急激な血圧上昇を防ぐ.入浴後は脱水を防ぐための水分摂取する.万が一,症状(顔の麻痺,手の麻痺,ろれつ不良;Face, Arm, Speech, Time→FAST)の出現があったら,直ぐ救急車を呼ぶ.発症後4.5時間以内から,根本的治療である血栓溶解療法を受けられる.

アイスクリーム頭痛については過去にも記載したことがあるので,こちらもご覧いただきたい.
「なぜアイスクリームで頭痛が起こるか?」




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認知症の脳を観る(日本認知症学会学術集会@横浜)

2014年12月01日 | 認知症
第33回日本認知症学会学術集会が横浜で行われた.新潟大学脳研究所病理学の高橋均教授による「認知症の脳を観る」という特別講演がとくに印象に残った.非常に示唆に富むご講演であったが,とくに重要な点は以下の2点のように思われた.

1)認知症は加齢に伴い出現する疾患であるため,加齢を克服するぐらいの意気込みで研究をしなければいけない!

神経細胞は1秒間に1~2個,1日に直すと8万6400個~17万2800個も減っていく.これが脳の加齢である.この他にも,老人斑や神経原線維変化も出現する.これらは正常でも起こるし,病的に増えるのがアルツハイマー病(AD)である.ADでは運動皮質では軽度で,海馬で高度という特徴がある.1994年のNeurology誌のeditorialに書かれたIf we live long enough, will we all be demented? という有名な質問があるが,この答えはyesだと思う.ADに限らず,すべての認知症を来す疾患は,加齢と密接なつながりがあるのだろう.

2)剖検から様々なことを学ぶことができる.剖検例を増やし,学問をさらに発達させるべきだ!

多数の認知症患者さんの病理所見を通して,臨床から背景病理を予測することがいかに難しいかを示していただいた.以下,具体例を示す.

・ Corticobasal syndrome(CBS)の臨床診断で,剖検はAD.通常のADと異なり,一番傷害されているのは運動皮質で,海馬は軽かった.
・ DLBの臨床診断で,剖検はやはりAD.一番傷害されているのは運動皮質で,グリアにtauがたまっているという点が極めて非典型的だった.
・ 認知症はないにもかかわらず,Pick小体が見られた症例を経験した.
・ 進行性核上性麻痺(PSP),大脳皮質基底核変性症(CBD)のような4R tauopathyは各々,tufted astrocyteとastrocytic plaqueを病理学的特徴とする.両者は共存することはないと言われるが,共存した症例を2例経験した.
・ FTDとUpper MNを主徴とする症例で,astrocyteにglobular astrocytic inclusion(Gallyas染色では染まらない)を認めた.
・ ALSD(ALS+dementia)症例で,astrocyteがtau, TDP43dで染まり,globular astrocytic inclusionを認めた(ALSではアストロサイトにTDP43が蓄積することはない).
・ FTDやPick病で,運動症状を認めなくても,運動ニューロンにTDP43が蓄積する症例を経験した.

臨床と病理は従来考えられてきたほど単純なものではない.しかし,将来,病態特異的な治療法を行うには,これを克服することが不可欠で,そのためにも剖検脳を用いた病理・生化学的解析は必要である.

さて,高橋教授がご講演の最初に出されたスライドは,脳研究所ではとても有名な写真である.昭和46年6月に撮影されたもので,亡くなった患者さんの脳を肉眼的に検討するブレインカッティングの様子だ(ブレインカッティングは,今も脳研究所で行われている).中央が中田瑞穂初代所長,その右隣で覗き込んでおられるのが植木幸明脳外科教授,左で標本を説明しているのが前神経病理学教室教授(現新潟大学脳研究所名誉教授)の生田房弘先生である.脳の研究に取り組む先達の姿を見て,身の引き締まる思いがする.このような学問の積み重ねが現在につながっているのであり,今後もつなげていく必要がある.


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