今回のキーワードは,目からウロコのPCR検査,38試験から考える抗体検査の有用性,軽症化の決め手は細胞傷害性T細胞の誘導? Wernicke脳症ミミック,多発性硬化症患者における重症化因子,入院患者における高頻度の神経軸索損傷,期待のトシリズマブの2つの後方視的研究,デキサメタゾンによる死亡率の抑制!です.
一番うれしいニュースは,安価で使い慣れたステロイド薬デキサメタゾンが発症28日間の死亡率を低下させるというものです.しかしプレスリリース・マスコミ報道が先行し,つぎにプレプリント論文が公開され,まだ正式な査読を受けていないのも事実です.一刻も早くこの結果を臨床現場に伝えたいという想いは十分理解できる反面,COVID-19に対しては一流誌でも査読が危うい昨今,今回のような手順に対して不安な気持ちも持ちます.
◆PCRの試薬不足を補い,コストを抑える「プール検査」
ふたたび患者数が増加して,PCR検査を多数行う必要が生じると,試薬が不足し,検査に要する費用が高額になる恐れがある.この問題に目からウロコのアイデアが米国から報告された.何人かの検体をひとまとめにして検査し,もし陰性ならその全員がPCR陰性と判断し,もし陽性なら各患者サンプルを個別に検査するという「プール検査」という方法だ.このプール検査の効率は,有病率,検査の感度,ひとまとめとする患者数によって変わる.有病率(事前確率)が30%未満であれば効率が良く,かつコストパフォーマンスが高い.よくあり得るシナリオの有病率1%,感度70%とした場合,13人分まとめて検査するのが最適で,全例検査した場合のわずか16%の検査数で済むことが示された.今後,プール検査を導入しても良いように思われる.
JAMA Netw Open. 2020;3(6):e2013075.(doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2020.13075)
◆抗体検査の有用性は38試験を検討してもいまだ不透明.
エビデンスに基づく医療において最高水準であるコクランレビューが,抗体検査の現状を検討した.38試験を検討した結果,IgG/IgM抗体検査の感度は発症から1~7日では30.1%と低く,データを使用しにくいが,発症8~14日で72.2%,15~21日で91.4%になった.21~35日目は96.0%だがデータが少なく,35日を超えると完全にデータ不足で評価困難となった.一方,特異度は98%を超えていた.この結果から,発症後15~21日目に抗体検査を1000人に対して行った場合,有病率(事前確率)ごとに偽陰性,偽陽性を計算すると,有病率50%の場合(例:呼吸器症状を呈した医療従事者に対する検査),偽陰性43人で,偽陽性7人になる.有病率が20%の場合(例:高リスク環境下での調査),偽陰性17人,偽陽性10人となる.有病率が5%(例:全国調査)の場合,偽陰性4人,偽陽性12人となる.→ このぐらいの検査であることを認識する必要がある.
結論として,抗体検査は,発症後15日以上経過してから使用すれば,過去の感染を検出する有用な検査となる可能性が高い.しかし,抗体上昇の持続期間は不明で,発症35日以降のデータはほぼ皆無であることから,集団免疫による防御を目的とした抗体検査の有用性は不明である.また感度は主に入院患者を対象に評価されているため,軽症ないし無症状感染者で見られる低い抗体レベルを検出できるかどうかも不明である.
Cochrane Systematic Review. June 25, 2020(doi.org/10.1002/14651858.CD013652)
◆重症患者では1細胞レベルで大きな遺伝子発現変化が生じている.
イスラエル,フランス,中国のグループからの報告.同じように見える細胞集団でも,ひとつひとつの細胞で遺伝子発現パターンが異なるため,1細胞レベルでのウイルスに対する遺伝子発現解析が重要という考えがある.その検討を実現する方法が「シングルセルRNAシーケンシング(scRNA-seq)」である.近年,多くの疾患で威力を発揮しているアプローチである.今回,感染細胞と非感染細胞を見分けて,scRNAデータを処理するためのまったく新しいアルゴリズム「Viral-Track」が開発された.まずヒトB型肝炎の生検サンプルなどを用いて,その有用性を検証したのち,重症6名および軽症3名の気管支洗浄液を試料として,Viral-Trackを用いた検討を行った.まず,ほとんどの感染細胞はACE2とTMPRSS2を発現した繊毛細胞と上皮前駆細胞であること,しかしオステオポンチンをコードするSPP1陽性マクロファージにも感染が認められ,このマクロファージはケモカイン(CCL7/8/18)の発現が強いことを示した.つぎに重症患者では軽症患者と比較して,大きな遺伝子発現変化が生じ,とくに免疫系への劇的な影響が示された.また重症のうち1名の細胞には,メタニューモウイルスという鼻かぜを起こす別のウイルスが混合感染しており,抗ウイルス性サイトカインであるⅠ型インターフェロンの産生が顕著に抑制されていた.つまり混合感染は宿主の1細胞レベルの抗ウイルス作用を弱めてしまうため,ウイルスに対抗するため免疫細胞が過剰に活性化する可能性も示唆された.さらに興味深いことに,重症例ではCD4+ T細胞は多いものの,CD8+ T細胞(細胞傷害性T細胞)はほとんど認められなかったのに対し,軽症例では全例にCD8+ T細胞を認めた.つまり細胞傷害性T細胞を誘導できた患者が軽症で済む可能性が考えられる.
Cell. 2020 May 8;181(7):1475-1488.e12.(doi.org/10.1016/j.cell.2020.05.006. )
◆神経疾患(1)Wernicke脳症類似の2症例.
スペインから,外転神経麻痺と脳症を呈した60歳と35歳の女性の症例報告.頭部MRIでは,共通して,橋,乳頭体,視床下部に異常信号を認め,Wernicke脳症類似の所見であった.PCRは鼻咽頭ぬぐい液で陽性であったが,髄液は陰性であった.ヒトSARS-CoV感染でも,視床下部炎や視床下部障害を引き起こすことが報告されている.Wernicke脳症との鑑別にneuro-COVID-19を挙げる必要がある.
Neurol Neuroimmunol Neuroinflam. June 25, 2020(doi.org/10.1212/NXI.0000000000000823)
◆多発性硬化症(MS)の重症化の危険因子.
MS患者におけるCOVID-19の重症化に関連する危険因子について,フランスから後方視的,観察的コホート研究が報告された.対象はMS患者347名(平均44.6歳,女性249名)で,重症化の定義は7点のスケール(1[入院不要]から7[死亡]まで)で,3(入院していて酸素療法を必要としない)以上とした.総合障害度を示すEDSS中央値は2.0で,284名(81.8%)がDMTを使用されていた.結果として,73名(21.0%)が重症で,12名(3.5%)がCOVID-19で死亡した.重症の割合は,DMTを受けている群に比べて,DMTを受けていない群の方が高かった(46.0% vs 15.5%;P<0.001).多変量ロジスティック回帰モデルでは,年齢(10年あたりのオッズ比:1.9),EDSS(EDSS≧6のオッズ比,6.3),および肥満(オッズ比,3.0)が重症化の独立した危険因子であった.EDSSはCOVID-19重症度スコアの最も高い変動と関連しており(R2,0.2),次いで年齢(R2,0.06),肥満(R2,0.01)であった.以上より,EDSS,年齢,肥満がCOVID-19重症化の独立した危険因子であり,DMTは重症化に関連を認められなかった.
JAMA Neurol. Published online June 26, 2020.(doi.org/10.1001/jamaneurol.2020.2581)
◆入院患者の57%で神経軸索損傷がみられる.
イタリアから,神経軸索損傷のバイオマーカーである血清ニューロフィラメント軽鎖(NfL)を測定した研究が報告された.対象は入院患者131名であったが,神経疾患の併存が見られた24名(認知症19名,最近の脳梗塞・脳出血の既往5名)が除外され,患者107名と対照群54名で検討が行われた.患者の平均値は73.3±89.5 pg/mLで,61名(57%)で対照群より上昇を認めた.上昇していた患者は,そうでなかった患者と比較し,ICU入室,気管内挿管の頻度が高かった(p<0.01).さらにより長い罹病期間を要した(p<0.01).嗅覚・味覚障害,疲労,頭痛などの神経症候と血清NfL値との間には関連はなかった.つまり特定の神経症候を呈さない患者においても,軸索損傷が起こりうる可能性が示唆された.→ 57%もの感染患者でNfLレベルが上昇したことは,脳神経がCOVID-19の標的となりやすいことを示す.
J Neurol Neurosurg Psychiatry 2020(doi.org/10.1136/jnnp-2020-323881)
◆新規治療(1)抗IL-6受容体抗体トシリズマブ,2つの後方視的観察試験
イタリアから,トシリズマブが人工呼吸器管理と死亡のリスクを減らせるか検証することを目的とした後方視的観察研究が報告された.トシリズマブは,体重8 mg/kg(最大800 mg)を12時間間隔で2回に分けて静脈内投与するか,静脈内投与が不可能な場合は162 mgを各大腿部に1回ずつ2回に分けて皮下投与した(計324 mg).主要評価項目は,人工呼吸器装着または死亡を複合したものとした.対象は544名の重度肺炎を有する成人患者とした.標準治療群では365名中57例(16%)が人工呼吸器を要したのに対し,トシリズマブ群では179名中33名(18%)であった(p=0.41).標準治療群では73名(20%)の患者が死亡したのに対し,トシリズマブ投与群では13名(7%,p<0.0001)が死亡した.性,年齢などで調整した後,トシリズマブ投与は,人工呼吸器装着または死亡のリスクを39%低下させた(調整後ハザード比0.61,95%信頼区間0.40-0.92;p=0.020).しかしトシリズマブ群の179名中24名(13%)が新たな感染症を併発したのに対し,標準治療群では365名中14名(4%)と少なかった(p<0.0001).トシリズマブは,静脈内投与でも皮下投与でも,重症肺炎患者における人工呼吸器装着や死亡のリスクを低下させる可能性がある.
Lancet Rheumatology. June 24, 2020(doi.org/10.1016/S2665-9913(20)30173-9)
◆もうひとつは米国Cleveland Clinicからの後方視的コホート研究で,画像上肺浸潤があり,炎症マーカーが上昇している低酸素血症を呈する入院患者に,トシリズマブの単回投与(体重8 mg/kg)を行った.全身ステロイド,ヒドロキシクロロキン,アジスロマイシンが大多数の患者に併用されていた.トシリズマブ群28名と非使用群23名の比較で,トシリズマブ群は非投与群に比べて昇圧治療がより短期間で済んだ(2日間対5日間).また統計的には有意ではなかったが,トシリズマブ群は臨床的改善までの中央値と侵襲的人工呼吸の持続時間の短縮をもたらした.今後の前方視的研究の結果が待たれる.
EClinicalMedicine. June 20, 2020(doi.org/10.1016/j.eclinm.2020.100418)
◆新規治療(2)デキサメタゾンは重症化例の標準治療となる可能性がある
マスコミ報道(プレスリリース)が先行した,オックスフォード大学が主導する英国内の175の医療機関が参加したRECOVERY試験のプレプリントが公開された.コルチコステロイドは,免疫介在性肺障害を軽減し,呼吸不全や死亡への進行を抑制する可能性がある.このためその効果を検証するRandomised Evaluation of COVID-19 therapy (RECOVERY) trialが,入院患者を対象とした無作為化対照オープンラベル試験として行われた.デキサメタゾン6 mgを1日1回,最大10日間投与した群2104名と,通常治療のみの群4321名を比較した.主要評価項目は28日間の死亡率とした.デキサメタゾン群では454名(21.6%),通常治療群では1065名(24.6%)が28日以内に死亡した(年齢調整率比0.83;P<0.001).比例および絶対死亡率の低下は,割付け時の呼吸補助の状態に応じて変化した.デキサメタゾンは,通常治療と比較して,人工呼吸器管理中の患者では死亡数を35%減少させ(29.0% vs. 40.7%,RR 0.65; p<0.001),人工呼吸器は不要なものの酸素吸入を行っている患者では20%減少させた(21.5% vs. 25.0%,RR 0.80; p=0.002).しかし割付け時に呼吸補助受けていない患者では死亡率は減少せず,有意差はないがむしろ増加した(17.0% vs. 13.2%,RR 1.22; p=0.14).副作用についての記載は乏しいが,COVID-19以外の感染症に伴う死亡の増加はなかった.結論として,入院患者において,デキサメタゾンは,割付け時に人工呼吸器管理または酸素吸入を行っている患者では死亡率を減少させたが,軽症例では無効であった.→ デキサメタゾンは安価で,容易に使用できることから,重症化を予防する治療として今後使用されるだろう.ただし病初期では無効で,感染リスクもあること,解析も予備的な段階で,プレプリントであることから,慎重な態度も必要であろう.
medRxiv. June 22, 2020(doi.org/10.1101/2020.06.22.20137273)
一番うれしいニュースは,安価で使い慣れたステロイド薬デキサメタゾンが発症28日間の死亡率を低下させるというものです.しかしプレスリリース・マスコミ報道が先行し,つぎにプレプリント論文が公開され,まだ正式な査読を受けていないのも事実です.一刻も早くこの結果を臨床現場に伝えたいという想いは十分理解できる反面,COVID-19に対しては一流誌でも査読が危うい昨今,今回のような手順に対して不安な気持ちも持ちます.
◆PCRの試薬不足を補い,コストを抑える「プール検査」
ふたたび患者数が増加して,PCR検査を多数行う必要が生じると,試薬が不足し,検査に要する費用が高額になる恐れがある.この問題に目からウロコのアイデアが米国から報告された.何人かの検体をひとまとめにして検査し,もし陰性ならその全員がPCR陰性と判断し,もし陽性なら各患者サンプルを個別に検査するという「プール検査」という方法だ.このプール検査の効率は,有病率,検査の感度,ひとまとめとする患者数によって変わる.有病率(事前確率)が30%未満であれば効率が良く,かつコストパフォーマンスが高い.よくあり得るシナリオの有病率1%,感度70%とした場合,13人分まとめて検査するのが最適で,全例検査した場合のわずか16%の検査数で済むことが示された.今後,プール検査を導入しても良いように思われる.
JAMA Netw Open. 2020;3(6):e2013075.(doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2020.13075)
◆抗体検査の有用性は38試験を検討してもいまだ不透明.
エビデンスに基づく医療において最高水準であるコクランレビューが,抗体検査の現状を検討した.38試験を検討した結果,IgG/IgM抗体検査の感度は発症から1~7日では30.1%と低く,データを使用しにくいが,発症8~14日で72.2%,15~21日で91.4%になった.21~35日目は96.0%だがデータが少なく,35日を超えると完全にデータ不足で評価困難となった.一方,特異度は98%を超えていた.この結果から,発症後15~21日目に抗体検査を1000人に対して行った場合,有病率(事前確率)ごとに偽陰性,偽陽性を計算すると,有病率50%の場合(例:呼吸器症状を呈した医療従事者に対する検査),偽陰性43人で,偽陽性7人になる.有病率が20%の場合(例:高リスク環境下での調査),偽陰性17人,偽陽性10人となる.有病率が5%(例:全国調査)の場合,偽陰性4人,偽陽性12人となる.→ このぐらいの検査であることを認識する必要がある.
結論として,抗体検査は,発症後15日以上経過してから使用すれば,過去の感染を検出する有用な検査となる可能性が高い.しかし,抗体上昇の持続期間は不明で,発症35日以降のデータはほぼ皆無であることから,集団免疫による防御を目的とした抗体検査の有用性は不明である.また感度は主に入院患者を対象に評価されているため,軽症ないし無症状感染者で見られる低い抗体レベルを検出できるかどうかも不明である.
Cochrane Systematic Review. June 25, 2020(doi.org/10.1002/14651858.CD013652)
◆重症患者では1細胞レベルで大きな遺伝子発現変化が生じている.
イスラエル,フランス,中国のグループからの報告.同じように見える細胞集団でも,ひとつひとつの細胞で遺伝子発現パターンが異なるため,1細胞レベルでのウイルスに対する遺伝子発現解析が重要という考えがある.その検討を実現する方法が「シングルセルRNAシーケンシング(scRNA-seq)」である.近年,多くの疾患で威力を発揮しているアプローチである.今回,感染細胞と非感染細胞を見分けて,scRNAデータを処理するためのまったく新しいアルゴリズム「Viral-Track」が開発された.まずヒトB型肝炎の生検サンプルなどを用いて,その有用性を検証したのち,重症6名および軽症3名の気管支洗浄液を試料として,Viral-Trackを用いた検討を行った.まず,ほとんどの感染細胞はACE2とTMPRSS2を発現した繊毛細胞と上皮前駆細胞であること,しかしオステオポンチンをコードするSPP1陽性マクロファージにも感染が認められ,このマクロファージはケモカイン(CCL7/8/18)の発現が強いことを示した.つぎに重症患者では軽症患者と比較して,大きな遺伝子発現変化が生じ,とくに免疫系への劇的な影響が示された.また重症のうち1名の細胞には,メタニューモウイルスという鼻かぜを起こす別のウイルスが混合感染しており,抗ウイルス性サイトカインであるⅠ型インターフェロンの産生が顕著に抑制されていた.つまり混合感染は宿主の1細胞レベルの抗ウイルス作用を弱めてしまうため,ウイルスに対抗するため免疫細胞が過剰に活性化する可能性も示唆された.さらに興味深いことに,重症例ではCD4+ T細胞は多いものの,CD8+ T細胞(細胞傷害性T細胞)はほとんど認められなかったのに対し,軽症例では全例にCD8+ T細胞を認めた.つまり細胞傷害性T細胞を誘導できた患者が軽症で済む可能性が考えられる.
Cell. 2020 May 8;181(7):1475-1488.e12.(doi.org/10.1016/j.cell.2020.05.006. )
◆神経疾患(1)Wernicke脳症類似の2症例.
スペインから,外転神経麻痺と脳症を呈した60歳と35歳の女性の症例報告.頭部MRIでは,共通して,橋,乳頭体,視床下部に異常信号を認め,Wernicke脳症類似の所見であった.PCRは鼻咽頭ぬぐい液で陽性であったが,髄液は陰性であった.ヒトSARS-CoV感染でも,視床下部炎や視床下部障害を引き起こすことが報告されている.Wernicke脳症との鑑別にneuro-COVID-19を挙げる必要がある.
Neurol Neuroimmunol Neuroinflam. June 25, 2020(doi.org/10.1212/NXI.0000000000000823)
◆多発性硬化症(MS)の重症化の危険因子.
MS患者におけるCOVID-19の重症化に関連する危険因子について,フランスから後方視的,観察的コホート研究が報告された.対象はMS患者347名(平均44.6歳,女性249名)で,重症化の定義は7点のスケール(1[入院不要]から7[死亡]まで)で,3(入院していて酸素療法を必要としない)以上とした.総合障害度を示すEDSS中央値は2.0で,284名(81.8%)がDMTを使用されていた.結果として,73名(21.0%)が重症で,12名(3.5%)がCOVID-19で死亡した.重症の割合は,DMTを受けている群に比べて,DMTを受けていない群の方が高かった(46.0% vs 15.5%;P<0.001).多変量ロジスティック回帰モデルでは,年齢(10年あたりのオッズ比:1.9),EDSS(EDSS≧6のオッズ比,6.3),および肥満(オッズ比,3.0)が重症化の独立した危険因子であった.EDSSはCOVID-19重症度スコアの最も高い変動と関連しており(R2,0.2),次いで年齢(R2,0.06),肥満(R2,0.01)であった.以上より,EDSS,年齢,肥満がCOVID-19重症化の独立した危険因子であり,DMTは重症化に関連を認められなかった.
JAMA Neurol. Published online June 26, 2020.(doi.org/10.1001/jamaneurol.2020.2581)
◆入院患者の57%で神経軸索損傷がみられる.
イタリアから,神経軸索損傷のバイオマーカーである血清ニューロフィラメント軽鎖(NfL)を測定した研究が報告された.対象は入院患者131名であったが,神経疾患の併存が見られた24名(認知症19名,最近の脳梗塞・脳出血の既往5名)が除外され,患者107名と対照群54名で検討が行われた.患者の平均値は73.3±89.5 pg/mLで,61名(57%)で対照群より上昇を認めた.上昇していた患者は,そうでなかった患者と比較し,ICU入室,気管内挿管の頻度が高かった(p<0.01).さらにより長い罹病期間を要した(p<0.01).嗅覚・味覚障害,疲労,頭痛などの神経症候と血清NfL値との間には関連はなかった.つまり特定の神経症候を呈さない患者においても,軸索損傷が起こりうる可能性が示唆された.→ 57%もの感染患者でNfLレベルが上昇したことは,脳神経がCOVID-19の標的となりやすいことを示す.
J Neurol Neurosurg Psychiatry 2020(doi.org/10.1136/jnnp-2020-323881)
◆新規治療(1)抗IL-6受容体抗体トシリズマブ,2つの後方視的観察試験
イタリアから,トシリズマブが人工呼吸器管理と死亡のリスクを減らせるか検証することを目的とした後方視的観察研究が報告された.トシリズマブは,体重8 mg/kg(最大800 mg)を12時間間隔で2回に分けて静脈内投与するか,静脈内投与が不可能な場合は162 mgを各大腿部に1回ずつ2回に分けて皮下投与した(計324 mg).主要評価項目は,人工呼吸器装着または死亡を複合したものとした.対象は544名の重度肺炎を有する成人患者とした.標準治療群では365名中57例(16%)が人工呼吸器を要したのに対し,トシリズマブ群では179名中33名(18%)であった(p=0.41).標準治療群では73名(20%)の患者が死亡したのに対し,トシリズマブ投与群では13名(7%,p<0.0001)が死亡した.性,年齢などで調整した後,トシリズマブ投与は,人工呼吸器装着または死亡のリスクを39%低下させた(調整後ハザード比0.61,95%信頼区間0.40-0.92;p=0.020).しかしトシリズマブ群の179名中24名(13%)が新たな感染症を併発したのに対し,標準治療群では365名中14名(4%)と少なかった(p<0.0001).トシリズマブは,静脈内投与でも皮下投与でも,重症肺炎患者における人工呼吸器装着や死亡のリスクを低下させる可能性がある.
Lancet Rheumatology. June 24, 2020(doi.org/10.1016/S2665-9913(20)30173-9)
◆もうひとつは米国Cleveland Clinicからの後方視的コホート研究で,画像上肺浸潤があり,炎症マーカーが上昇している低酸素血症を呈する入院患者に,トシリズマブの単回投与(体重8 mg/kg)を行った.全身ステロイド,ヒドロキシクロロキン,アジスロマイシンが大多数の患者に併用されていた.トシリズマブ群28名と非使用群23名の比較で,トシリズマブ群は非投与群に比べて昇圧治療がより短期間で済んだ(2日間対5日間).また統計的には有意ではなかったが,トシリズマブ群は臨床的改善までの中央値と侵襲的人工呼吸の持続時間の短縮をもたらした.今後の前方視的研究の結果が待たれる.
EClinicalMedicine. June 20, 2020(doi.org/10.1016/j.eclinm.2020.100418)
◆新規治療(2)デキサメタゾンは重症化例の標準治療となる可能性がある
マスコミ報道(プレスリリース)が先行した,オックスフォード大学が主導する英国内の175の医療機関が参加したRECOVERY試験のプレプリントが公開された.コルチコステロイドは,免疫介在性肺障害を軽減し,呼吸不全や死亡への進行を抑制する可能性がある.このためその効果を検証するRandomised Evaluation of COVID-19 therapy (RECOVERY) trialが,入院患者を対象とした無作為化対照オープンラベル試験として行われた.デキサメタゾン6 mgを1日1回,最大10日間投与した群2104名と,通常治療のみの群4321名を比較した.主要評価項目は28日間の死亡率とした.デキサメタゾン群では454名(21.6%),通常治療群では1065名(24.6%)が28日以内に死亡した(年齢調整率比0.83;P<0.001).比例および絶対死亡率の低下は,割付け時の呼吸補助の状態に応じて変化した.デキサメタゾンは,通常治療と比較して,人工呼吸器管理中の患者では死亡数を35%減少させ(29.0% vs. 40.7%,RR 0.65; p<0.001),人工呼吸器は不要なものの酸素吸入を行っている患者では20%減少させた(21.5% vs. 25.0%,RR 0.80; p=0.002).しかし割付け時に呼吸補助受けていない患者では死亡率は減少せず,有意差はないがむしろ増加した(17.0% vs. 13.2%,RR 1.22; p=0.14).副作用についての記載は乏しいが,COVID-19以外の感染症に伴う死亡の増加はなかった.結論として,入院患者において,デキサメタゾンは,割付け時に人工呼吸器管理または酸素吸入を行っている患者では死亡率を減少させたが,軽症例では無効であった.→ デキサメタゾンは安価で,容易に使用できることから,重症化を予防する治療として今後使用されるだろう.ただし病初期では無効で,感染リスクもあること,解析も予備的な段階で,プレプリントであることから,慎重な態度も必要であろう.
medRxiv. June 22, 2020(doi.org/10.1101/2020.06.22.20137273)