Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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嬉しかった念願のヒポクラテスの木の植樹!!

2023年03月31日 | 医学と医療
ポリクリ(病棟実習)で学生と一緒に「ヒポクラテスの誓い」を読んでいます.自分が学生のとき,医学部長でいらした武藤輝一先生がしてくださったことです.武藤先生は講義の最後に「病院前のヒポクラテスの木を見に行くように」とおっしゃられました.「ヒポクラテスの木」とは,ギリシャのコス島にある,ヒポクラテスがその木陰で弟子たちに医学を教えたというプラタナスの大樹のDNAを引き継いだ木のことです.日本にはいくつかの系統がありますが,有名なものが蒲原株です.これは著名な整形外科医,医史学者で俳人でもある蒲原宏博士が,1969年にギリシャのコス島で木の実を採取し,日本に持ち帰り,みずから播種育成されたものが起源です.残念ながら岐阜大学にはなく学生に見せてあげられないので,日本の脳神経外科の礎を築いた中田瑞穂先生の画「ヒポクラテス像」を購入し,廊下に掲げて見てもらっていました.

ただやはりヒポクラテスの木を学生に見せてあげたいと思い,蒲原先生にご連絡をしたところ,ご快諾をいただき移植の準備が始まりました.学生のときに眺めたあの木から挿し木,分苗移植したものが順調に育ち,2年かけてついに移植できるまでに育ちました.1年半前(図中央)と比べ,だいぶ幹が太くなりました.そして本日,学生や教室の仲間,事務の皆様に手伝っていただいて念願の植樹をしました!中田瑞穂先生は新潟大学に植樹する際,病床で「やがて大夏木になれと植ゑらるゝ」と俳句を詠まれましたが,私も同じ気持ちになって,無事に大きな木に育ってほしいと祈るような気持ちになりました.蒲原宏博士先生とこれまで樹木の管理育成をしてくださったS氏に心から感謝したいと思います.


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アルツハイマー病治療薬レカネマブの米国における適正使用ガイドライン 

2023年03月31日 | 認知症
3月27日,J Prev Alzheimers Dis誌にアルツハイマー病治療薬レカネマブの適正使用ガイドラインが論文として発表されました.読んだ感想としては,患者さんの安全を守るため,エビデンスに基づく厳格な推奨がなされており,非常に望ましいものと思いました.本邦においてもこれを踏襲すべきと思います.その理由は,レカネマブは使用法を誤ると無効なだけでなく,致死的な合併症も来たしうる薬剤であるためです(これは多くの方に知っていただきたいです).

個人的に注目したガイドラインの要点は以下になります.
1)安全性と有効性のためにレカネマブの臨床試験と同様に治療を行う
2)臨床医・施設で重篤な事象の管理に関するプロトコルを作成する
3)患者とそのケアパートナーはこの治療の潜在的な利益,潜在的な有害性,およびモニタリングの必要性を理解する → そのための説明・教育プログラムが必要となる
4)安全性確保のために遺伝子検査(APOE遺伝子型)が推奨される
5)4回以上の微小出血やその他の脳血管障害の証拠がある患者を治療から除外する
6)抗凝固剤による治療を必要とする患者には使用しない
7)レカネマブ使用中の患者には虚血性脳卒中に対する血栓溶解療法を実施しない
8)無症候性ARIAを監視するために,ベースライン時,第5,7,14回目の治療前,(症例によっては)治療52週後にMRIを撮像し,ARIAを示唆する症状がある場合もMRIを行う(図).



1)はガイドラインの基本的な姿勢を示していますが,有効性と安全性の臨床試験と同様の診療を求めています.大賛成ですが,当然,医療機関に求められるハードルは高くなり,相応の準備が必要になります.
2―4)はまだ準備ができていないのではないかと思います.4)の遺伝子検査はAPOE4遺伝子型を有する場合,脳アミロイドアンギオパチーや脳血管障害合併リスクが高く,重篤な副作用(出血合併症)を来たしうるため行いますが,遺伝子診断の体制づくりや,遺伝子診断後の患者さんのフォローアップ等が重要になります.
5-7)も重篤な出血合併症を防止するために不可欠ですが,アルツハイマー病患者には抗凝固薬を必要とする患者も少なからずいますし,脳梗塞を発症しても血栓溶解療法は行えないということは,患者さんにかなり難しい判断を迫ることになるのではないかと思います.

いずれにしてもレカネマブの非常に重要な問題を真正面から議論しているガイドラインであり,本邦でも踏襲することが望まれます.少なくともハードルが高いとか,準備の時間がないとか,負担が大きいとかといった理由で見切り発車ということは避けるべきと思います.時間をかけても万全の体制を作るべきと思います.
Cummings, J., Apostolova, L., Rabinovici, G.D. et al. Lecanemab: Appropriate Use Recommendations. J Prev Alzheimers Dis (2023).


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これからの医療に必要な「協働意思決定」と「リバタリアン・パターナリズム」を理解しよう!

2023年03月26日 | 医学と医療
当科では若手医師や学生に,Evidence-Based Medicine(EBM)の5つのステップを意識したトレーニングをしてもらっています.しかしEBMも「患者さん中心の視点」を伴わないと,単に「医療者による押し付け」になってしまいます.よって私達には①正しいエビデンスを調べて分かりやすく伝えるスキルと,②患者さんの考えを引き出すスキルの2つが求められます(図中).言い換えると,「医療者と患者さんが互いに大切にしているものを理解すること」が大切で,このような過程を経て治療方針を決定することを「協働意思決定」と呼びます.

3月23日にこの「協働意思決定」の勉強会を企画し,リモートで行いました(図左).全国から多くの多職種の皆様がご参加くださいました.安城更生病院脳神経内科の杉浦真先生に「神経疾患の協働意思決定」という特別講演を,金沢大学附属病院遺伝診療部の関屋智子先生には,若年の家族性ALS患者さんをモデルとしたグループディスカッションをしていただきました.非常に実りのある勉強会になりました.以下,大変勉強になった杉浦先生のご講演で印象に残った点をメモしたいと思います.

◆治療の意思決定は,医学的な判断だけでは困難であり,個々の価値観の基づいた医療(value-based medicine)が必要である.難病に限らず,医療全体にこの考えかたが必要になる.

◆神経難病は難しい意思決定の連続である.選択する医療処置やケアがその後の人生にどのような意味や価値をもたらすのかを考える必要がある.

◆治療方針の決定の歴史は,パターナリズム→インフォームド・コンセント→shared decision making→collaborative decision makingと言える.これは「同意」から「合意」への変遷である.

◆協働意思決定は,患者・家族(価値観・自分らしさ・Narrative)と,医療者(身体的情報・医学的知識・Evidence)の双方向コミュニケーションを繰り返し,合意を目指すものと言える.

◆医療者はソムリエに似ている.いろいろな情報を聞いて最適なワイン/医療を選ぶ.

「リバタリアン・パターナリズム」とは,望ましい選択が明らかな場合,選択の自由を確保しつつ,推奨される選択肢を選びやすくすることを言う.患者さんの価値観を理解したうえであれば,適切な選択肢を選べるようそっと背中を押すこと(ナッジnudgeすること)は認められるのではないか.

◆協働意思決定を繰り返し行うことがadvanced care planning(ACP)になる.

◆倫理的問題とは倫理的価値観の対立(ジレンマ)である.まずそれに気づくことが大切で,次の段階として倫理コンサルテーションに移る.価値観は多様なので対立しやすいこと,価値観に優位性はないことを理解する.

◆倫理的問題には多職種で取り組むことが大切である.個人もしくは単一の領域で対応することには限界がある.多職種による多様性を取り入れることで独善,すなわち「思いやりが思い込みになること」を避けることができる.

◆医療チームのなかにも価値観の対立が生じうることを理解する.そして「心理的安全性(psychological safety)」が担保されるチーム,すなわち,どんなことを話してもみんなが受け止めてくれるチームを目指す必要がある.

◆専門職は「患者さんが自分の人生を納得して完走するための伴走者」である.専門職としての矜持を持つことが大切である.それは誇りと責任をもつこと,そして他者を思いやりの心で支援することである.

リバタリアン・パターナリズムを学ぶのに良い本として「大竹 文雄ら.医療現場の行動経済学―すれ違う医者と患者」(図右)をお勧めします.



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マイハンマー 2023(No 20-27)

2023年03月25日 | 医学と医療
私は診察用のハンマー(打腱器)を集める趣味があります.先日,学生のために行った神経診察道場でマイハンマーを披露しました.2年前にブログで紹介したときの写真を見ると19本でしたが,8本ほど増えていました.少し面白いものもあるので解説します.

★2年前のもの

注.11-13の円盤型は記載が不十分で,いずれも似ていますが正式には名称が異なりました.
11.Babinski型.柄が金属製でしならないタイプ.
12.Queen-Squareカナダ型.柄がプラスチック製です.
13.Rabiner型.Babinski型をRabiner(1892-1986)が改良し,柄を円盤に対して垂直だけでなく,水平方向に付け替えられるもの.

★2年間で増えた8本のハンマー


20.Déjerine型.Déjerine型はJoseph Jules Déjerineによるフランスモデルで,ヘッドが円筒型で左右対称です.Dejerine型も形に多少のバリエーションがありますが,これはオリジナルの形に近く,英国Queen Squareの神経学者Gordon Holmes卿(1876-1965)が所有していたものに近いです.輸入品.

21.Queen Square型.Babinski型に似ていますが,柄が竹製でよくしなる点が異なります.英国Queen SquareのNational Hospital for Nervous Diseases病院の看護師であったMiss Wintleが1920年代に考案したと言われています.原型と言われているVernon型ハンマーの柄を竹に変更しました.しなりでよく反射が出るという先生もいますが,私は狙いをよく外してしまい苦手です.輸入品.

22.Buck型.もしくはBabinski-Buck型として日本でも入手可能です.柄の先端に小さな刷毛が入っていて,触覚の検査に使用できます.ただBuckもしくはBabinski-Buckがどなたなのか調べても分かりませんでした(どなたかご存知でしょうか?).

23. 吉村型.吉村喜作博士が使用していたモデル.明治39年に「バビンスキー現象ニ就キテ」という論文を執筆し,現在のChaddock反射をChaddockより5年早く見出していた先生です(本来は吉村反射と呼ばれても良かったのに残念です).ただ軽すぎて腱反射は出しにくいです.

24. McGill型.柄が二股で,2点識別覚を調べることができるという特徴があります.文献が見つかりませんが,McGill大学(カナダ・モントリオール)で使用されていたのかなとと思います.

25. 音叉付き.腱反射に加え,聴覚や振動覚の検査が可能です.

26-27. アスターKNTシステムハンマー.日本の職人さんがアルミの無垢材から1本ずつ丁寧に削って製作したものです.高価なので,音叉なしの1本で我慢しようとしましたが,音叉付きの説明文「柄の先端に2つの突起部がついており,BabinskiとChaddock反射を同時に誘発できる(2ヶ所を同時に擦る)ことができる」という驚きの説明に負けて購入しました(笑).ずしりと重いです.株式会社アスター電機製.

まだまだ持っていないタイプのハンマーがありますし(Krauss型,Vernon型等),北海道大学の教授でいらっしゃった田代邦雄先生は50本以上のハンマーをお持ちであったと総説(Clin Neurosci 22;892-896, 2004)にお書きになられているので,さらに少しずつハンマーを蒐集してまいりたいと思います.

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ブレインフォグとは何か? ―海外で注目されている図―

2023年03月24日 | COVID-19
ブレインフォグはCOVID-19罹患後症状(long COVID)の代名詞のようになっていますが,私はパンデミック以前にこの用語を聞いたことがありませんでした.つまり以前から使用されてきた医学用語ではなく,SNSなどで患者さんから発信され定着したものと考えられます.その定義は曖昧で,意味する症状はさまざまであると感じていました.

英国からこの問題を調査した研究が報告されました.方法は2021年10月の1週間,掲示板型ソーシャルニュースサイトであるRedditから「brain fog」を含む投稿を抽出しています.この結果,1663件の投稿が確認され,うち717件が解析の対象になりました.一人称で自分の症状を書いていたのは141件で,内訳は多い順に,健忘(51件),集中力低下(43件),解離現象(本来一つにまとまり繋がっている意識や記憶,知覚,アイデンティティが,一時的に失われた状態)(34件),認知の遅延に対する過剰な努力(26件),コミュニケーション障害(22件),頭がぼーっとする(10件),疲労(9件)など,症状の重なりも見られました.50%の投稿は,病気や疾患に関する投稿欄にあり,COVID-19(87件)だけでなく,精神疾患,神経発達障害,自己免疫疾患,機能性障害,薬物使用・中断などの欄に記載されていました.図は結果をまとめたものですが,twitterでは海外の多くの患者さんが引用し,「まさのそのとおり」とか「自分はこの症状が当てはまる」などと議論されています.



つまりブレインフォグは,健忘,集中力低下,解離現象,過剰な認知的努力,コミュニケーション障害,疲労などの多彩な症状が含まれ,今までにない異質な体験を表すために使用されているものと考えられました.その原因もCOVID-19以外にもさまざまなもので生じます.ブレインフォグという便利な言葉で済まさずに,その内容を問診でしっかり理解することが大切だと感じました.著者らは具体的な症状を理解することが,根底にある病態機序の解明につながると述べています.

McWhirter L et al. What is brain fog? J Neurol Neurosurg Psychiat 2023;94:321-325.

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睡眠薬スボレキサント(ベルソムラ®)によるアルツハイマー病予防の可能性!

2023年03月20日 | 認知症
アルツハイマー病の発症機序として,アミロイドβの沈着(老人斑)が引き金となり,異常にリン酸化したタウ蛋白が凝集し,神経原線維変化が形成され,神経細胞死に至るという「アミロイドカスケード仮説」が支持されています.睡眠薬の二重オレキシン受容体拮抗薬(OX1R/OX2R デュアルアンタゴニスト)は,アミロイドβを過剰発現するマウスモデルにおいて,アミロイドβと老人斑を減少させることが示されていますが,タウのリン酸化への影響は不明です.今回,米国ワシントン大学から,二重オレキシン受容体拮抗薬スボレキサント(商品名ベルソムラ)がヒト脳脊髄液のアミロイドβ,タウ,リン酸タウに対して効果をもたらすか検証したランダム化比較試験がAnn Neurol誌に報告されました.

参加者は45~65歳の認知機能に障害のない38名で,偽薬群13名(グラフの赤),スボレキサント10mg群13名(青), 20mg群12名(緑)に無作為に割り付けました.20:00から36時間,2時間ごとに腰椎留置カテーテルで6 mlの脳脊髄液を採取しました.そして参加者は21:00に偽薬またはスボレキサントを内服してもらいます.免疫沈降法と液体クロマトグラフィー質量分析法により,アミロイドβ,タウ,リン酸化タウを測定すると,リン酸化タウ(スレオニン181)と非リン酸化タウ(スレオニン181)の比は,偽薬と比較して,スボレキサント20mg群で10~15%減少しました.その他のタウリン酸化(セリン202およびスレオニン217)はスボレキサントによって減少しませんでした.一方,スボレキサント20 mgは偽薬と比較して,内服5時間後からのアミロイドβを10~20%減少させました.



以上より,通常の内服量であるスボレキサント20 mg は,脳内におけるタウリン酸化とアミロイドβの濃度を短時間で低下させることが示されました.ただしスレオニン181のリン酸化が抑制され,セリン202とスレオニン217が抑制されないのかはDiscussionでも議論されていますがよく分かっていないようで,追試もしくは機序の解明が必要なようです.いずれにしても日常診療で使用されている睡眠薬で,副作用(傾眠,頭痛,疲労)も許容範囲,今後アルツハイマー病予防薬としてrepositioningされる可能性があります.長期的効果はレカネマブと比較してどうなのだろう?ととても注目されます.
Lucey BP, et al. Suvorexant acutely decreases tau phosphorylation and Aβ in the human CNS. Ann Neurol. 2023 Mar 10.

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(3月18日)  

2023年03月18日 | COVID-19
今回のキーワードは,long COVID患者に対するワクチン接種は120日後の寛解率を2倍に高める,抗ウイルス薬の塩野義製薬ゾコーバはlong COVIDを改善するかもしれない,経口糖尿病治療薬メトホルミンはlong COVIDの予防薬として有望である,感染後に出現する特定のケモカインに対する自己抗体は良好な予後と関連する,COVID-19感染後4〜7週間で発症したパーキンソン病6例の症例集積研究,感染後のてんかんは軽症例でも生じ,とくに小児で高い,母体の感染後,胎児脳に皮質出血を伴うSARS-CoV-2ウイルス感染が生じうる, COVID-19に伴う頭痛の機序として三叉神経血管系が有力視されている,全身におけるACE2発現マップ,です.

Long COVIDの治療研究がいよいよ報告され始めました.ワクチン接種,抗ウイルス薬ゾコーバは持続感染が病態として有力視されていたことを考えると理にかなっていますが,驚いたのは経口糖尿病治療薬メトホルミンの効果です.メトホルミンは安価で副作用もなく,long COVID治療のブレークスルーになると指摘する研究者もいます.一方,注目されていたCOVID-19感染後のパーキンソン病の症例集積研究も報告されています.感染がまったく新たにパーキンソン病を引き起こすというより,アルツハイマー病でも推測されているように,感染に伴う炎症が脳に波及し,もともと存在していた脳の病理変化(アミロイドβやαシヌクレイン病理)を加速させるものと考えられます.

◆long COVID患者に対するワクチン接種は120日後の寛解率を2倍に高める.
Long COVID患者におけるワクチン接種の効果を検討した研究がフランスから報告された.対象は感染後3週間以上,症状が持続する成人910人で,ワクチン接種群455人,対照群455人とした.接種群では,ワクチンを参加登録後60日目までに接種した.120日後に評価を行った.ワクチン接種によってlong COVID症状(全部で53症状と設定)は減少した(接種群13.0対対照群14.8,平均差-1.8).寛解率は2倍であった(16.6%対7.5%,ハザード比1.93;図1).ワクチン接種により日常生活への影響度も軽減した(インパクトツールスコア24.3対27.6,平均差 -3.3).症状が許容できない患者の頻度も低下した(38.9%対46.4%,リスク差 -7.4%).以上よりlong COVID患者に対するワクチン接種は,120日後の症状を軽減し,寛解率を高め,生活に及ぼす影響を軽減した.
BMJ Medicine 2023;2:e000229.



◆抗ウイルス薬の塩野義製薬ゾコーバはlong COVIDを改善するかもしれない.
Nature誌のNewsに,2月21日に開催されたレトロウイルスと日和見感染症に関する会議(CROI 2023@シアトル)で発表された塩野義製薬の経口抗ウイルス薬ゾコーバ(ensitrelvir)について紹介されている.軽~中等度のCOVID-19患者において,感染可能なSARS-CoV-2ウイルスが検出されなくなるまでの期間を29時間短縮することがPh2/3試験(SCORPIO-SR)の第3相解析で示された.SARS-CoV-2陽性期間を短縮できた薬剤としてはゾコーバが最初のものとなる.また当初予定のなかった付加的(exploratory)解析で,投与開始時の症状スコアが中央値以上の集団において,ゾコーバ125 mgはCOVID-19に特徴的な咳や喉の痛み,倦怠感,味覚・嗅覚異常など14症状のいずれかの長期持続を認める患者の割合を,偽薬群と比較して有意に減少させた(14.5% vs 26.3%;45%の相対リスク低下;p<0.05).以上より抗ウイルス薬がlong COVIDを改善する可能性が示された.残存ウイルスがlong COVIDの原因であり,抗ウイルス剤がlong COVIDを予防するという仮説を支持する結果である.しかし本研究はlong COVIDへの効果を検討することを当初目的としていなかった点で問題がある.
Nature News, 03 March 2023

◆経口糖尿病治療薬メトホルミンはlong COVIDの予防薬として有望である.
メトホルミン,イベルメクチン,フルボキサミンの3剤のいずれかがlong COVIDを予防できるか検討した研究が米国から報告された.2x3並行群間ランダム化試験で,偽薬対照を効率的に共有している.試験の特徴として,対象を30~85歳の肥満を認める患者としている(中央値45歳,女性56%).参加者1323人のうち8.4%がlong COVIDと診断された.イベルメクチン(ハザード比0.99),フルボキサミン(1.36)は無効であったが,メトホルミンは有効性を認め,ハザード比0.58であった(P=0.009;図2).メトホルミンは偽薬と比較して,long COVID発症率が42%相対減少し,10.6%から6.3%への4.3%の絶対減少した.メトホルミンの効果は,ウイルス変異株を含むサブグループ間で一貫していた.また症状発現から4日以内に開始された場合,ハザード比は0.37まで向上した.2週間のメトホルミン投与による副作用のリスクはほぼなく,コストも1~2ドルときわめて安い.メトホルミンはlong COVID予防において重要な薬剤となる可能性がある.
Preprint with the Lancet.



◆感染後に出現する特定のケモカインに対する自己抗体は良好な予後と関連する.
ケモカインはサイトカインの一種で,白血球などの遊走を引き起こし炎症の誘発に関わる.COVID-19でっも,ケモカインが気管支肺胞液などに多量に検出され,肺の炎症を促進し,重症化の一因となる可能性が高い.今回,SARS-CoV-2感染後,ケモカインに対する自己抗体が出現し,特異的なケモカイン抗体の高発現が良好な予後と関連することが示された.具体的には,CXCL5,CXCL8,CCL25に対する自己抗体が検出された.これらのケモカインは,炎症と組織の再構築を促進する好中球などを引き寄せるため,自己抗体の存在は有害な炎症反応を弱めることによる保護効果を示すものと考えられる.またCCL21,CXCL13,CXCL16に対する自己抗体は,感染後1年のlong COVID患者と比較して回復した人で増加していた.ケモカイン抗体はHIV-1感染症や自己免疫疾患でも認められるが,これらの疾患では標的とするケモカインがCOVID-19とは異なっている.ケモカインのNループに結合するCOVID-19回復者由来のモノクローナル抗体は,細胞の遊走を阻害した.免疫細胞の移動を制御するケモカインの役割を考えると,ケモカイン抗体は炎症反応を調節する可能性があり,今後,治療標的となる可能性がある.
Nat Immunol (2023).


◆COVID-19感染後4〜7週間で発症したパーキンソン病6例の症例集積研究.
SARS-CoV-2ウイルスは神経向性ウイルスで,急性期に神経合併症をきたすのみならず,アルツハイマー病発症のリスクを増加させる.つまり感染からの回復後に神経疾患を発症しうる.イタリアからCOVID-19感染後にパーキンソン病(PD)を発症した6例の症例集積研究が報告された.感染後平均4〜7週間でPDを発症した.COVID-19の重症度との関連は認められず,画像検査にて明らかな脳構造の異常は認めなかった.全例で発症時に一側性の安静時振戦を認め,治療反応性は良好であった(5例L-DOPA,1例ロピニロール).3名で前駆症状としてレム睡眠行動異常症を認めたことから,著者らはこれらの症例において,COVID-19感染がもともと潜在していたαシヌクレイン脳病理を促進し,顕在化させたと推測している.→ アルツハイマー病リスク上昇も同様の機序が推測されている.
Eur J Neurol. 2023 Feb 18.

◆感染後のてんかんは軽症例でも生じ,とくに小児で高い.
英国から,COVID-19感染後6カ月間のてんかん発症のリスクについて検討した研究が報告された.電子カルテ86万934件を解析した.COVID-19では感染後6カ月以内のけいれん発作の発生率は0.81%であった(インフルエンザと比較したハザード比1.55).てんかんの発生率は0.30%であった(ハザード比1.87).COVID-19後のてんかんは,入院歴のない人,16歳未満で高かった.COVID-19感染後6カ月間の新規けいれん発作およびてんかん診断の発生率はインフルエンザより高く(図3),重症度が低い患者でもリスクがあることが示された.また小児はリスクが高く,小児におけるCOVID-19感染予防の重要性が示唆された.
Neurology. 2023 Feb 21;100(8):e790-e799.



◆母体の感染後,胎児脳に皮質出血を伴うSARS-CoV-2ウイルス感染が生じうる.
母体のウイルス感染とそれに伴う免疫応答は,胎児の脳の発達に影響を及ぼしうることが知られている. 英国からSARS-CoV-2ウイルスが胎児の脳に与える影響を調べた研究が報告された.驚くべきことに妊娠初期および中期の胎児脳組織において,SARS-CoV-2ウイルスの存在が確認され,大脳皮質出血も合併していた.スパイク蛋白は,大脳皮質の神経細胞や前駆細胞にはほとんど検出されなかったが,出血したサンプルの脈絡叢に豊富に存在していた.SARS-CoV-2ウイルスは,胎盤,羊膜,臍帯の組織にもわずかに検出された.大脳皮質出血は,血管の完全性(integrity)の低下と,胎児脳への免疫細胞の浸潤の程度と関連していた.以上の結果は,SARS-CoV-2ウイルスが妊娠初期の胎児脳に影響を及ぼす可能性を示しており,長期的な神経発達への影響について確認を行う必要がある.
Brain. 2023 Mar 1;146(3):1175-1185.

◆COVID-19に伴う頭痛の機序として三叉神経血管系が有力視されている.
SARS-CoV-2感染およびワクチン接種後の頭痛に関する総説が発表されている.病態機序について議論している.感染急性期の頭痛は①局所ないし全身の炎症に伴う三叉神経血管系の活性化,②ウイルスによる直接障害(?),long COVIDとしての頭痛は①局所の炎症に伴う三叉神経血管系の持続的活性化,②自己免疫(?),③潜在的な片頭痛素因の賦活(?)が推測されている.またCOVID-19ワクチン後の頭痛では①TNFαによる髄膜の感作,②ノセボ効果が推測されている.また現時点ではエビデンスに基づく有効な治療法は確立されていない.
Cephalalgia. 2023 Jan;43(1):3331024221131337

◆全身におけるACE2発現マップ.
SARS-CoV-2ウイルスの受容体であるACE2に関する総説.図4はACE2の全身の発現を示している.中央の赤はバルク(従来の)RNAシーケンス研究で,ACE2はおもに小腸,脂肪組織,腎臓,心臓,呼吸器系,精巣,胎盤で発現していることを示す.限られた範囲ではあるが脳でも発現している.これらの結果は,各臓器における細胞特異的発現を確認するためのシングルセルRNA(scRNA-seq)シーケンス研究によって裏付けがなされている.青は高発現,灰色は低発現の細胞タイプを示す.脳では血管に発現し,周皮細胞が高発現,内皮細胞が低発現であることを示している.
Cell. 2023 Mar 2;186(5):906-922.




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ワクチン接種の効果を高める方法 -接種前後の十分な睡眠と前回と同じ側に接種する-

2023年03月15日 | COVID-19
COVID-19のワクチン接種は完全に重症化予防を目的としたものになり,年1回ないし2回になります.具体的には,65歳以上,もしくは64歳までで基礎疾患を有する方および医療従事者等は5~8月に春夏接種を受けますが,それ以外の方は9月以降に秋冬接種を受けることになります.ワクチン接種回数が減りますので,ワクチンによる免疫反応をできるだけ高めたいと思います.2つほどワクチン効果を高める論文を見かけました.

ひとつめは睡眠です.健康な成人において,ワクチン接種(インフルエンザや肝炎ウイルスワクチン)前後の睡眠時間と免疫反応の関係を調べたメタ解析です.客観的に評価された短時間睡眠(6時間未満)の人は,免疫反応が顕著に低下するそうです(計304名;全体effect size = 0.79).接種前後の数日間は十分な睡眠時間を確保することが免疫反応を高め,長期間持続させる可能性がありお勧めです.
Curr Biol. 33;998-1005. 2023




ふたつめは接種する腕のサイドです.ファイザーワクチン接種の2回目を,1回目と同側,もしくは対側を選択した場合に免疫反応に差があるのか調べた論文です.303人を対象とし,2回目の接種を同側(147名)または対側(156名)に振り分けました.この結果,対側にワクチン接種した場合,同側に接種した場合と比較して,ウイルス中和活性やスパイク特異的CD8 T細胞レベルは有意に低いことが分かりました(p=0.023および0.004).つまり初回接種に刺激されたのと同じリンパ節を2回目も刺激すると,ブースト効果が高いようです.よく眠ることと,前回と同じ側に接種することが良さそうです.
Lancet preprint.


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第11回日本難病医療ネットワーク学会学術集会 告知①

2023年03月14日 | 医学と医療
このたび、標題の学術集会を、2023年11⽉24⽇(⾦)〜25⽇(⼟)に愛知県産業労働センター(ウインクあいち)にて開催させていただくことになりました。本学会は職種や所属の枠を超えて広く難病の課題を検討し、医療とケア体制の向上を図ることを目的として2013年に設立されました。10年がたち、しっかりとした基盤が確立されましたが、いよいよ次のステージに入り、全学会員が連携して新たな挑戦を始めることを高らかに謳いたいと考え、「難病医療ネットワークの新たな時代,新たな挑戦」というスローガンを選びました。多職種からなる多くの学会員が集い、熱く議論し、目標の実現を目指す会にしたいと思います。下記のようにしっかり難病医療を学べるプログラムをご準備し、かつ講師陣も太鼓判です。みなさんにお目にかかることを心待ちにいたしております。非学会員のご参加も大歓迎です!!

【講演・シンポジウム予定】
◆難病医療における倫理(大会長講演)
◆難病医療の最前線
①ニューロリハビリテーション,②転倒防止,③嚥下障害,④小児神経難病,⑤障害者の就労支援
◆基礎から学ぶ難病医療
①災害医療,②在宅看護,③臨床倫理,④移行医療,⑤協働意思決定,⑥SMON
◆シンポジウム
①治療と暮らしの営みを両立するための支援の在り方,②移行医療シンポジウム,③在宅介護シンポジウム,④難病児の自立/自律を支援するための多職種の協働(難病看護学会との合同シンポジウム),⑤難病コーディネーターシンポジウム
◆コミュニケーションワークショップ

学会HP
学術集会HP



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日本医学会連合 COVID-19 expert opinion第4版の公開

2023年03月13日 | COVID-19
日本神経学会も参画しました日本医学会連合 COVID-19 expert opinion第4版が公開されました.
内容は以下の項目になります.

一般外来 p6,救急外来p9
入院(内科系) p12,(外科系) p16
入院患者の見舞いの対応 p19
集中治療と呼吸管理 p20
合併症 p23
特殊な状況の対応:移植医療における対応p26,小児p27,産婦人科p28
内視鏡対応p30
こころのケア(患者および医療従事者)p31
口腔科(歯科・口腔外科)診療と医科歯科連携p33
復職・復学(通常の職種、医療従事者)p34

なお罹患後症状については「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント」をご覧ください.


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