多発性硬化症において疲労は非常に高頻度に認められる症状である.その機序については不明であり,本邦ではあまり積極的な治療が行われていないというのが実情のようである.治療薬に関して欧米ではamantadineやmodafinil(日本未発売.ナルコレプシーの治療薬として有名)といった中枢神経に対して刺激作用を持つ薬剤が使われるが,効果は十分ではないという.
今回,Mayo ClinicからアスピリンがMSの疲労に対する治療薬として有効であるという小規模ランダム化比較試験(cross-over trial)が報告された.これは別の理由でたまたまアスピリンを内服したMS患者の疲労が回復したという臨床的経験に由来するもので,このグループはopen labelのstudyを経て,今回の小規模RCTを行い,結果がよければ大規模RCTに進もうと考えているわけである.
対象は30名のMS外来患者で,18-65歳,Fatigue severity scale(FSS)4点以上が8週間持続し,かつ少なくとも4ヶ月以上にわたり再発がない症例としている.IFNbetaやglatiramer acetateなどの治療薬は使用可とした.方法はアスピリン650mgを1日2回の群(1300mg)とplacebo群に分け,それぞれを6週間使用し,2週間のwashout期間を設けた後,アスピリンとplaceboを入れ替えてさらに6週間使用した.Primary efficacy measureはmodified fatigue impact scale,secondaryはglobal fatigue change (GFC) self-assessmentなど.結果として3年間で56名の患者が対象になり,26名が除外され, 24名の女性,6名の男性がエントリー.20名がRRMS,8名がSPMS,2名がPPMS.最終的に脱落などで24名を解析.結果はアスピリン群ではmodified fatigue impact scaleはアスピリン群で有意に改善した(p=0.043).また患者の自覚症状についてもアスピリン使用時は10/26(38.5%)で改善を認めたのに対し,placebo phaseでは1/26(3.9%)であった(p=0.012).重篤な副作用は認めなかった.
今後,今回の小規模RCTの結果をもとに,大規模RCTに移行するようである.アスピリンの内服量が1300mgという点は気にはなるが,非常に興味深い結果である.またちょっとした治療経験がエビデンスとして確立していく過程にはどのようなステップを踏む必要があるのかを示している点でも参考になる論文である.
Neurology 64; 1267-1269, 2005
今回,Mayo ClinicからアスピリンがMSの疲労に対する治療薬として有効であるという小規模ランダム化比較試験(cross-over trial)が報告された.これは別の理由でたまたまアスピリンを内服したMS患者の疲労が回復したという臨床的経験に由来するもので,このグループはopen labelのstudyを経て,今回の小規模RCTを行い,結果がよければ大規模RCTに進もうと考えているわけである.
対象は30名のMS外来患者で,18-65歳,Fatigue severity scale(FSS)4点以上が8週間持続し,かつ少なくとも4ヶ月以上にわたり再発がない症例としている.IFNbetaやglatiramer acetateなどの治療薬は使用可とした.方法はアスピリン650mgを1日2回の群(1300mg)とplacebo群に分け,それぞれを6週間使用し,2週間のwashout期間を設けた後,アスピリンとplaceboを入れ替えてさらに6週間使用した.Primary efficacy measureはmodified fatigue impact scale,secondaryはglobal fatigue change (GFC) self-assessmentなど.結果として3年間で56名の患者が対象になり,26名が除外され, 24名の女性,6名の男性がエントリー.20名がRRMS,8名がSPMS,2名がPPMS.最終的に脱落などで24名を解析.結果はアスピリン群ではmodified fatigue impact scaleはアスピリン群で有意に改善した(p=0.043).また患者の自覚症状についてもアスピリン使用時は10/26(38.5%)で改善を認めたのに対し,placebo phaseでは1/26(3.9%)であった(p=0.012).重篤な副作用は認めなかった.
今後,今回の小規模RCTの結果をもとに,大規模RCTに移行するようである.アスピリンの内服量が1300mgという点は気にはなるが,非常に興味深い結果である.またちょっとした治療経験がエビデンスとして確立していく過程にはどのようなステップを踏む必要があるのかを示している点でも参考になる論文である.
Neurology 64; 1267-1269, 2005