三叉神経痛は,顔や口の中など三叉神経によって支配される領域に発生する痛みのことで,原因としてはヘルペス感染や動脈による圧迫などにより生じる.治療としては薬物療法,神経ブロック,手術による三叉神経の圧迫の解除が挙げられる.薬物療法としては,抗てんかん薬カルバマゼピン,フェニトイン,ガバペンチンが使用される.このなかで大規模のランダム化比較試験にてその有効性が証明されているのはカルバマゼピンであるが,重篤な副作用を呈する患者さんも稀に存在する.
2006年,再発性の三叉神経痛に対し,片頭痛薬スマトリプタン(5-HT1B/1D受容体作動薬)の皮下注射が有効であることが,本邦24症例を対象にしたランダム化比較試験にて示された(Headache 46; 577-582, 2006).この試験では8割の患者にて除痛効果が得られ,5割の患者では痛みが完全に消失した.なぜ片頭痛治療薬が三叉神経痛に有効か不思議に思われるかもしれない.トリプタンは片頭痛の原因となる頭蓋内の血管に作用して,異常に拡張した血管を収縮させるとともに,炎症を抑え,三叉神経に作用して疼痛物質(CGRPやサブスタンスPなど)が放出されるのを防ぐ.三叉神経痛の病態でも血管拡張や三叉神経根の炎症,神経疼痛物質が関与するものと推測されており,治療標的が片頭痛と見事にオーバーラップするわけである.
ただしスマトリプタンの皮下注射の問題点としては,痛みを伴うこと,病院を受診して注射をしてもらうか,自己注射を覚える必要があるといった煩わしさが挙げられる.今回,この問題を解消するスマトリプタンの点鼻療法が三叉神経痛に有効か,またカルバマゼピンを内服中の患者に対する発作時の治療としても有効か,さらにカルバマゼピンの減量効果があるのかを検討した論文が本邦より報告された.
3例の特発性三叉神経痛に対して行われた前向きのcase seriesである.症例1は右第1,2枝領域の三叉神経痛を呈した70歳女性.カルバマゼピン 300 mg/dayにて治療を開始したが,第1枝領域の痛みは改善しなかった.スマトリプタン20 mgを点鼻したところ,15分後にVAS(visual analogue scale)8→0と完全に除痛でき,かつ効果は持続し,その後カルバマゼピンを200 mg/dayに減量できた.症例2は右第2,3枝領域の三叉神経痛を呈した68歳女性.カルバマゼピン 600 mg/dayを要したが,スマトリプタン20 mgを激痛時に点鼻したところ,20分後にVAS 10→2に軽減した.その後,間欠的にスマトリプタン点鼻を行い,カルバマゼピンは200 mg/dayに減量できた.症例3は右第2枝領域の三叉神経痛を呈した56歳女性.カルバマゼピン 200mg/day 投与開始したが,痛みが改善せずイミグラン点鼻薬を投与したところ30分後にVAS 7→3に軽減した.3症例とも副作用はなかった.
イミグラン点鼻薬の間欠的使用は,速効性で,質の高い除痛が可能であり,患者の満足度も高いようだ.1回の注射で効果はおよそ半日続くが,カルバマゼピンの容量を減量できるところを見ると,短時間の作用のみでないようだ.トリプタンは三叉神経痛の治療補助薬として有用である可能性が示唆される.今後,多数の症例においてその有効性について検討する必要がある.
Headache 2009 [Epub ahead of printing]
2006年,再発性の三叉神経痛に対し,片頭痛薬スマトリプタン(5-HT1B/1D受容体作動薬)の皮下注射が有効であることが,本邦24症例を対象にしたランダム化比較試験にて示された(Headache 46; 577-582, 2006).この試験では8割の患者にて除痛効果が得られ,5割の患者では痛みが完全に消失した.なぜ片頭痛治療薬が三叉神経痛に有効か不思議に思われるかもしれない.トリプタンは片頭痛の原因となる頭蓋内の血管に作用して,異常に拡張した血管を収縮させるとともに,炎症を抑え,三叉神経に作用して疼痛物質(CGRPやサブスタンスPなど)が放出されるのを防ぐ.三叉神経痛の病態でも血管拡張や三叉神経根の炎症,神経疼痛物質が関与するものと推測されており,治療標的が片頭痛と見事にオーバーラップするわけである.
ただしスマトリプタンの皮下注射の問題点としては,痛みを伴うこと,病院を受診して注射をしてもらうか,自己注射を覚える必要があるといった煩わしさが挙げられる.今回,この問題を解消するスマトリプタンの点鼻療法が三叉神経痛に有効か,またカルバマゼピンを内服中の患者に対する発作時の治療としても有効か,さらにカルバマゼピンの減量効果があるのかを検討した論文が本邦より報告された.
3例の特発性三叉神経痛に対して行われた前向きのcase seriesである.症例1は右第1,2枝領域の三叉神経痛を呈した70歳女性.カルバマゼピン 300 mg/dayにて治療を開始したが,第1枝領域の痛みは改善しなかった.スマトリプタン20 mgを点鼻したところ,15分後にVAS(visual analogue scale)8→0と完全に除痛でき,かつ効果は持続し,その後カルバマゼピンを200 mg/dayに減量できた.症例2は右第2,3枝領域の三叉神経痛を呈した68歳女性.カルバマゼピン 600 mg/dayを要したが,スマトリプタン20 mgを激痛時に点鼻したところ,20分後にVAS 10→2に軽減した.その後,間欠的にスマトリプタン点鼻を行い,カルバマゼピンは200 mg/dayに減量できた.症例3は右第2枝領域の三叉神経痛を呈した56歳女性.カルバマゼピン 200mg/day 投与開始したが,痛みが改善せずイミグラン点鼻薬を投与したところ30分後にVAS 7→3に軽減した.3症例とも副作用はなかった.
イミグラン点鼻薬の間欠的使用は,速効性で,質の高い除痛が可能であり,患者の満足度も高いようだ.1回の注射で効果はおよそ半日続くが,カルバマゼピンの容量を減量できるところを見ると,短時間の作用のみでないようだ.トリプタンは三叉神経痛の治療補助薬として有用である可能性が示唆される.今後,多数の症例においてその有効性について検討する必要がある.
Headache 2009 [Epub ahead of printing]