Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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三叉神経痛に対するカルバマゼピンとトリプタンの併用療法

2009年01月18日 | 頭痛や痛み
 三叉神経痛は,顔や口の中など三叉神経によって支配される領域に発生する痛みのことで,原因としてはヘルペス感染や動脈による圧迫などにより生じる.治療としては薬物療法,神経ブロック,手術による三叉神経の圧迫の解除が挙げられる.薬物療法としては,抗てんかん薬カルバマゼピン,フェニトイン,ガバペンチンが使用される.このなかで大規模のランダム化比較試験にてその有効性が証明されているのはカルバマゼピンであるが,重篤な副作用を呈する患者さんも稀に存在する.

 2006年,再発性の三叉神経痛に対し,片頭痛薬スマトリプタン(5-HT1B/1D受容体作動薬)の皮下注射が有効であることが,本邦24症例を対象にしたランダム化比較試験にて示された(Headache 46; 577-582, 2006).この試験では8割の患者にて除痛効果が得られ,5割の患者では痛みが完全に消失した.なぜ片頭痛治療薬が三叉神経痛に有効か不思議に思われるかもしれない.トリプタンは片頭痛の原因となる頭蓋内の血管に作用して,異常に拡張した血管を収縮させるとともに,炎症を抑え,三叉神経に作用して疼痛物質(CGRPやサブスタンスPなど)が放出されるのを防ぐ.三叉神経痛の病態でも血管拡張や三叉神経根の炎症,神経疼痛物質が関与するものと推測されており,治療標的が片頭痛と見事にオーバーラップするわけである.

 ただしスマトリプタンの皮下注射の問題点としては,痛みを伴うこと,病院を受診して注射をしてもらうか,自己注射を覚える必要があるといった煩わしさが挙げられる.今回,この問題を解消するスマトリプタンの点鼻療法が三叉神経痛に有効か,またカルバマゼピンを内服中の患者に対する発作時の治療としても有効か,さらにカルバマゼピンの減量効果があるのかを検討した論文が本邦より報告された.

 3例の特発性三叉神経痛に対して行われた前向きのcase seriesである.症例1は右第1,2枝領域の三叉神経痛を呈した70歳女性.カルバマゼピン 300 mg/dayにて治療を開始したが,第1枝領域の痛みは改善しなかった.スマトリプタン20 mgを点鼻したところ,15分後にVAS(visual analogue scale)8→0と完全に除痛でき,かつ効果は持続し,その後カルバマゼピンを200 mg/dayに減量できた.症例2は右第2,3枝領域の三叉神経痛を呈した68歳女性.カルバマゼピン 600 mg/dayを要したが,スマトリプタン20 mgを激痛時に点鼻したところ,20分後にVAS 10→2に軽減した.その後,間欠的にスマトリプタン点鼻を行い,カルバマゼピンは200 mg/dayに減量できた.症例3は右第2枝領域の三叉神経痛を呈した56歳女性.カルバマゼピン 200mg/day 投与開始したが,痛みが改善せずイミグラン点鼻薬を投与したところ30分後にVAS 7→3に軽減した.3症例とも副作用はなかった.

 イミグラン点鼻薬の間欠的使用は,速効性で,質の高い除痛が可能であり,患者の満足度も高いようだ.1回の注射で効果はおよそ半日続くが,カルバマゼピンの容量を減量できるところを見ると,短時間の作用のみでないようだ.トリプタンは三叉神経痛の治療補助薬として有用である可能性が示唆される.今後,多数の症例においてその有効性について検討する必要がある.

Headache 2009 [Epub ahead of printing] 
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脳疾患における高体温による予後への影響に関するメタ解析

2009年01月11日 | 脳血管障害
 高体温は,脳梗塞や脳外傷などにおいてしばしば合併し,予後を悪化させることが知られている.しかしながらどのような脳疾患でも予後を悪化させるのか?その影響は統計学的に有意で,大きなものであるのか?またどのような評価尺度においてその影響が確認されるのか?については十分検討されていない.今回,脳疾患における高体温の影響を調べたメタ解析の結果がMGHより報告された(メタ解析とは,過去に独立して行われた複数の臨床研究のデータを収集・統合し,統計的方法を用いて解析した系統的総説のことである).

 方法については,まず採用する論文の選択は,PubMedによる検索で「stroke, neurological injury, thermoregulation, fever, and cooling」という用語をカバーするものとし,1995年1月以降,英語で書かれたヒトに関する1139論文をまず収集した(注;PubMedのLimits機能を使えば簡単に調べることができる).このうち症例報告やreviewなどを除外し,かつ詳細な検討を行い,データが信頼できる論文に限定したところ,最終的に脳梗塞,脳出血,クモ膜下出血,外傷を対象とした39論文が残った.これらの論文は,67の高体温の予後への影響を調べる臨床研究仮説を含み,かつ14431 名の患者を含むものであった.メタ解析は後述する7つの予後判定尺度に対して行った.

 結果としては,高体温は7つの予後判定尺度すべてにおいて有意な予後の悪化を認めた.具体的には相対危険度(高体温群の予後不良となるリスクを,非高体温群のリスクで単純に割ったもの)は以下のとおりであった.

 死亡率, 1.5
 Glasgow Outcome Scale, 1.3(転帰の評価法)
 Barthel Index, 1.9(ADL評価)
 modified Rankin Scale, 2.2(身体機能障害評価)
 Canadian Stroke Scale, 1.4
 ICU滞在時間, 2.8
 病院滞在時間, 3.2

 以上の結果から,どのような脳疾患でも高体温は予後を有意差を持って悪化させ,かつ代表的な7つの評価尺度においてその影響は確認された.

 自分が以前勉強したことのある米国大学のstroke care unitでは,発症3時間を超えた脳梗塞患者に対しては,高体温と高血糖のコントロールに注意を払っていた.今回の結果は,どんな脳疾患でも発熱を防止し,かつ発熱がみられたら解熱させる必要を示唆するものである.なお高体温が神経障害を増強する機序としては,基礎研究の結果から,①興奮性アミノ酸毒性,フリーラジカル,乳酸・ピルビン酸の増加,②虚血性脱分極の増悪,③BBB破綻,④酵素反応障害,⑤細胞骨格の不安定化が指摘されている.

Stroke 39: 3029-35, 2008 

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進行性核上性麻痺や多系統萎縮症に対するリルゾール治験の結果(The NNIPPS Study)

2009年01月04日 | その他の変性疾患
 「パーキンソン・プラス症候群」とは,進行性核上性麻痺(PSP)や多系統萎縮症(MSA)のようにパーキンソン症状に加え,錐体外路系以外の神経変性に伴う症状を呈する疾患群をさすが,これらに対するリルゾールの効果を検証するランダム化比較試験(NNIPPS: Neuroprotection and Natural History in Parkinson Plus Syndromes)の結果が報告された.この試験はヨーロッパ(仏独英)のNNIPPS study groupにより行われた研究である.

 リルゾールはグルタミン酸毒性仮説に基づいて開発されたALS治療薬で,海外ではじめて認可され,日本でも唯一のALS治療薬として1999年から承認されている.パーキンソン・プラス症候群に対してリルゾールの効果が検討された理由は,上記のグルタミン酸毒性抑制以外にも,電位依存性ナトリウムチャネルの阻害作用,フリーラジカル消去作用,抗アポトーシス作用,神経栄養作用など多岐にわたる薬理効果を有することと,MSAの疾患モデルであるαシヌクレイン変異マウスに対し,一部神経症状の改善をもたらしたことが挙げられる(しかし確固たる根拠があってこの薬剤が選ばれたというわけではないようだ).

 方法は,30歳以上で発症し,1年以上持続する無動・筋強剛(akinesia-rigidity syndrome)を呈する症例のうち,PSPないしMSAのinclusion criteriaを満たす症例を対象とした(NNIPPS criteriaという新しい診断基準を作成した).primary end-pointは生存,secondary end-pointは運動機能スケールの低下速度とした.必要症例数はPSPおよびMSAの各群の死亡の相対危険度の40%減少を検出できるように設定した.患者を実薬群(50-200mg/day)と偽薬群に分け,36か月にわたり経過観察した.

 結果として767名が無作為に割りつけられ,そのうち760名に対しIntent To Treat (ITT) 解析が行われた(層別解析ではPSPが362名,MSAが398名であった).経過観察の中央値は1095日(249~1095日)であった.経過観察中,342名が死亡し,うち112名で剖検が行われた.リルゾールの効果に関しては,PSPおよびMSAいずれの群においても生存に対する有効性は認められなかった.同様に運動機能の低下に関しても効果はなかった.特に問題となる副作用もなかった.剖検症例をもとにNNIPPS 診断基準の妥当性が検討されたが,非常に確度が高いことが分かり,この診断基準は今後の治療研究に十分使用できるものであると考えられた.

 以上のような結果で,残念ながらリルゾールはPSPやMSA(MSA-P)に無効であったわけだが(調べてみると,パーキンソン病やハンチントン病,ニューロパチック・ペインでもランダム化比較試験が行われていて,いずれも無効であった),それでもこの論文を取り上げたのは,病態解明に関する基礎研究の途上で,まだ十分にその病態機序が分からなくても,可能性があるのであれば,きちんと計画された大規模研究ならchallengeしてみても良いという考えもあるのだということを認識したことと,そのためには大規模な臨床研究を計画するスキルをこれからの臨床医は身につける必要があるということである.とくに後者については一部の大学ではそのような勤務医向けの講義を行っているところもあるようである(しかし残念ながらまだ稀である).ぜひ若いドクターには基礎研究のみでなく,積極的に臨床研究のデザインの仕方や評価の仕方について学んでほしい.

Brain. 2008 Nov 23. [Epub ahead of print] 

追伸;忙しくて更新する余力がなかったのですが,新年になりましたのでまた頑張ろうと思います.本年もどうぞ宜しくお願いいたします.
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