Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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私が考える臨床神経学 ―若手脳神経内科医へのメッセージ―

2022年12月27日 | 医学と医療
標題は「脳神経内科」誌(科学評論社)の最新号(Vol 97. No 6)の特集タイトルです.私どもの大先輩の先生方が,若手脳神経内科医のためにご自身のご経験やアドバイスを語ってくださっています.多くの脳神経内科の先生方にお読みいただきたいと思いました.以下,印象深いことばをピックアップします.  

◆私が臨床神経学に対して“憧れ”を抱くのは,臨床神経学という場が,患者さんとの「我と汝」という一期一会の二人称的関係を中心にして成り立っているからなのです(岩田誠先生).

◆人は誰でも歳をとり,病気にかかり,いずれも死に至る.患者の今の姿は,皆さんの将来の姿でもある.患者が人生の先輩であることに敬意を払うべきである(宇高不可思先生).

◆鳥の目のように視野を広く持って全体の俯瞰を心掛ける(bird’s eye-view).見えたものを丹念に見比べ観照する.自分は1度限りの存在であるので自分が納得できることをし続ける(self-discovery, self-respect).オリジナルのことの追求を止めない.自分の井戸を掘り続ける(dig my own well continually).他人の掘った井戸に首を突っ込んで水を飲むのを潔しとしない.他人の批評には努めて,心静かに耳を傾ける(高須俊明先生).

◆患者さんの病状を把握するだけでなく,患者さんの背景,すなわち趣味や生きがい,家族関係や経済状態,病気以外で困っていることなどを知ることです.そうすることで患者さんと医師との間が,単なるコンタクトというレベルではなく,ラポールの段階に進むことができ,より良い人間関係が成立し,必要な場合には適切なアドバイスを提供することが可能になるのではないかと思います(服部孝道先生).

◆筆者の医学生時代に祖父江逸郎教授の神経学の講義の中で先生は教科書の1行の記述の裏には大変な努力があることを強調されていたが,今になってその意味がわかるようになった(若山吉弘先生).

◆現今の卒後教育は,勤務時間制限があり,義務・責務の概念が薄れ,勝手な個人的事情も配慮され,同時に教育スタッフも無理に教え込む事はなくそのため覇気のない平凡な教育に満足しているのが現状である.かかる環境の中で,いかに自身の良医たるべき目標を建て研鑽を積むかはそれぞれ皆さんの考え方次第であろう(廣瀬源二郎先生).







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アルツハイマー病に対するレカネマブ第3相試験 3例目の死亡例の報告

2022年12月24日 | 認知症
Science誌の報告です.臨床試験(Clarity AD)に参加し偽薬群であったフロリダ州の79歳女性が,延長試験において8月より初めて抗体を投与されたあとから体調が悪化し,2回目の点滴から頭痛を認め,「文章を完成させることができない」状況となり,日常生活に混乱を生じるようになりました.9月14日に脳卒中様発作を来したのち,けいれん発作が生じ,多臓器不全や肺炎も併発し,入院から5日後に死亡しました.病院の記録によると重篤な「アミロイド関連画像異常(ARIA)」が疑われ(図),ステロイドによる治療(ヘパリンも併用)が行われたが救命できませんでした.臨床像も画像所見も「教科書的な重篤なARIA」と考えられました.

調査したボストン大学のAndreas Charidimou先生は「ARIAは名称の変更が必要だ.この症例が示すように,単なる画像異常ではなく,致命的な臨床症候群なのだから・・・」と述べています. またバンダービルト大学のMatthew Schrag先生は以下の問題を指摘しています.「薬剤の適切な使用について考えるとき,私達はすべてのデータを必要とします.この治療関連死は,9月中旬に発生したにもかかわらず,先月開催された第15回アルツハイマー病臨床試験(CTAD)会議では公表されませんでした.このエピソードは,エーザイとバイオジェンに対する私の信頼を損なうものです.患者の安全が最も重要であり,私はこの治療法が安全であるとは確信していません.この薬剤の上市を急ぐのは間違いです」.実際に第3相試験において13人の死亡が報告され,実薬群と偽薬群で同程度であったと報告されていますが,死亡例の詳細は公表されておらず,レカネマブが死亡要因になったかどうかは評価できないと記事には記載されています.

重要なことは①レカネマブによるARIAではときに死に至ることや,軽症であっても長期的な影響は不明であることを認識すること,そして②レカネマブの安全性について透明性を確保した上で議論することであると考えられます.ちなみにレカネマブに関する懸念,死亡した最初の2例についてはこちらに解説しています.
Scientists tie third clinical trial death to experimental Alzheimer’s drug. Science Dec 21, 2022.


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DUNC研究:病院の休憩時間に紅茶とビスケットを ―今年のBMJ誌クリスマス論文―

2022年12月23日 | 医学と医療
英国ではアフタヌーンティが有名ですが,紅茶にビスケットを浸して食べるダンキング(dunking)という習慣があるそうです.英国人によると,とても美味しくなるのだそうです.さて由緒ある英国の医学誌British Medical Journalの年1回のお楽しみ,クリスマス論文が発表されています.AIが放射線専門医試験に合格するかとか,がんの原因に関するエセ科学とかありますが,標題の論文が自分の1番好みだったのでご紹介します.

研究目的は,病院のスタッフルームで利用できるリソースを用いて,口の中をやけどすることなく最高の一杯の紅茶を飲むために必要な時間と,ダンキングに適したビスケットを決定することです.研究デザインは前方視的非盲検化試験で,外科のスタッフルームで紅茶を入れ,ビスケットの比較を行いました.4種類の丸型非チョコレートビスケットとして,オート麦,ダイジェスティブ,リッチティー,ショーティを準備し,ティーカップは色や口当たりに関して治験責任医師の好みに基づいて決定しました.主要評価項目は,紅茶がやけどをしない安全な温度に達するまでの時間と,ビスケットの栄養,歯ごたえ,紅茶の吸収力,浸したあとの破損の状況としました.さて結果ですが,ティーカップに240 mLの沸騰したてのお湯を加えた後,紅茶の温度の中央値は82℃(範囲81~84℃).30 mLの牛乳を足して400秒,40 mLの牛乳を足して370秒たつと,世界共通の飲み頃温度61℃が達成できました!著者らは牛乳40 mLでの紅茶の色がもっとも好ましいと考えました.紅茶に浸したとき,もっとも形態を維持しブレイクポイント(破損)しなかったのはオート麦のビスケットでした.またダンキングは紅茶を冷ます効果があることからも推奨されますが,その効果はオート麦ビスケットで最も目立ちました.研究の結果,オート麦>ダイジェスティブ>ショーティ>リッチティーの順にオススメということになりました(図).

以上より,医療従事者は10分の時間があれば安全に紅茶を飲むことができ,そしてビスケットとしてはオーツ麦がオススメです.どんなに忙しくても10分の時間を作ることは,医療従事者のブレイクポイントの防止(=気分やパフォーマンスの向上)に役立つかもしれません.私もオート麦ビスケットを試してみます 笑(https://amzn.to/3v8z7ip).ちなみに研究タイトルのDUNCは「紅茶を浸す(dunk)」とかけていますね.
Jones C, Francis J. Direct Uptake of Nutrition and Caffeine Study (DUNCS): biscuit based comparative study. BMJ. 2022 Dec 19;379:e072839.(doi.org/10.1136/bmj-2022-072839)



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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(12月18日)  

2022年12月18日 | COVID-19
今回のキーワードは,COVID-19重症例では老化に関連する遺伝子発現の変化が生じて認知機能低下につながる,症状出現後230日目でも非呼吸器系組織でウイルス複製が生じること,ヒト脳に感染後も複製しうることが示された,脂肪組織へのSARS-CoV-2ウイルス感染は局所・全身性炎症の誘発を通して重症化に寄与する,急性期の遺伝子発現パターンで数カ月後に生じるlong COVIDの症状を予測できる,COVID-19は糖尿病の新規発症リスクを66%高める,ウイルス受容体ACE2の発現を減少させる薬剤が発見されなんとウルソであった,COVID-19ワクチン後に体位性起立性頻脈症候群(POTS)が生じるが,COVID-19感染後よりも5.35倍低い,です.

米国では「ウイルス持続感染が long COVID の原因」という仮説を検証する大規模研究Long COVID Research Initiative(https://lc19.org/)が進められ,どの臓器がリザーバーなのか議論されています(リザーバーとはウイルスが潜む組織・細胞のことで,帯状疱疹ウイルスでは感覚神経節,サイトメガロではマクロファージ,EBウイルスではB細胞などになります).COVID-19患者の剖検は日本では極めて稀ですが,米国では脳を含めた剖検が多数行われていて,ヒトの各臓器におけるウイルスの検出や,感染後の遺伝子発現の検討が報告され始めています.そして,症状出現後230日目でも非呼吸器系組織でウイルス複製が生じていることや,脂肪組織にも感染し炎症反応が生じて予後の増悪を招くこと(肥満が予後不良因子であることの説明),感染後13日目の視床から複製能を持つSARS-CoV-2ウイルスが回収されたこと!等,気味の悪い論文が報告されています.おそらく持続感染の人体への影響が分かるには年単位でのフォローが必要だろうと思われます.油断はせず,引き続き感染予防やワクチンは極力行うべきと思います.

◆COVID-19重症例では老化に関連する遺伝子発現の変化が生じて認知機能低下につながる,
COVID-19重症例では老化が加速することを示す知見が集積されつつある.COVID-19と加齢はともに認知機能の低下を伴うことから,COVID-19は加齢と同様の分子シグネチャー(痕跡)を示す可能性がある.米国からの研究で,COVID-19重症者 21人,無症候感染者1人,非感染者22人.アルツハイマー病1名,ICUや人工呼吸器の治療歴がある非感染者9人を含む54人の死後脳の前頭葉皮質の全トランスクリプトーム解析(RNA-seq)が報告された.この結果,老化に伴って変化する多くの生物学的経路が,重症COVID-19でも変化していた.トランスクリプトームの変化において,認知機能低下とCOVID-19との間にも強い相関を認めた.さらにCOVID-19が加齢と同様の遺伝子発現パターンを示すか検討したところ顕著な類似性を認めた.つまり加齢で発現が増加する遺伝子は重症COVID-19でも発現が増加し,加齢で発現が減少する遺伝子は重症COVID-19でも減少していた.最後にCOVID-19と加齢の関連を説明する病態メカニズムを検討した.COVID-19患者サンプルからSARS-CoV-2ウイルスRNAは検出されなかったが,腫瘍壊死因子(TNF)およびI/II型インターフェロン応答経路の発現が上昇していた.既報でもTNFとインターフェロンは,脳の老化と認知機能の低下に関与していることが示されている.以上より,COVID-19感染者では,TNFおよびインターフェロンによって媒介される老化に関連する遺伝子発現変化が生じ,認知機能低下につながる可能性が示唆された.著者らはCOVID-19サバイバーの神経学的フォローアップの重要性と,重症患者の急性期における炎症管理が神経保護につながる可能性を強調し,「パンデミックが社会にどのような影響を及ぼすか備えるためにも重要な知見であるが,この結果は何年か先にならないと分からないかもしれない」とインタビューに答えている.
Nat Aging (2022).(doi.org/10.1038/s43587-022-00321-w)

◆症状出現後230日目でも非呼吸器系組織でウイルス複製が生じること,ヒト脳に感染後も複製しうることが示された.
COVID-19の呼吸器以外の感染負荷やウイルスが消失するまでの時間については,特に脳においては十分に解明されていない.米国NIH等の多施設共同研究が報告され,COVID-19で死亡した44名の患者の剖検を施行(うち11名は中枢神経系を広範囲に採取),急性感染から症状発現後7ヶ月以上までの,脳を含む人体全体のSARS-CoV-2ウイルスの分布,複製,細胞特異性のマッピングと定量化が行われた.この結果,SARS-CoV-2ウイルスは,重症のCOVID-19で死亡した患者を中心に,全身に広く分布することが分かった.具体的には,感染初期では呼吸器組織に有意に高いウイルス負荷を示したが,症状発現後2週間の間に非呼吸器系の複数の部位(心筋,リンパ節,坐骨神経,眼組織,そして硬膜を除く中枢神経のすべての採取部位;図1)でウイルス複製が確認され,14日以降で,27例中14例で少なくとも1つの組織で活発なウイルス複製中に生成されるサブゲノムRNAが検出され,さらに数ヶ月間(症状発現後230日目でも)非呼吸器系組織でウイルス複製が起こる可能性が示された(組織内の残留血液や肺からの二次汚染は否定的と考えられた).驚くべきことに,改良型Vero E6細胞株を用いて,13日目の視床から複製能を持つSARS-CoV-2ウイルスを回収しており,SARS-CoV-2ウイルスはヒト脳に感染したのち複製する能力を有することを決定的に立証している.
また注目すべきは,早期患者では呼吸器系組織では,非呼吸器系組織と比べSARS-CoV-2 RNAは100倍以上高かったにもかかわらず,後期患者ではこの差が非常に小さくなっていたことである.つまり非呼吸器組織におけるウイルスクリアランスの効率の悪さが示唆された.これはSARS-CoV-2ウイルスが免疫を回避するメカニズムが存在するものと推測される.将来的には,このウイルスのクリアランスを促進する治療アプローチの開発が必要である.
Nature (2022).(doi.org/10.1038/s41586-022-05542-y)



◆脂肪組織へのSARS-CoV-2ウイルス感染は局所・全身性炎症の誘発を通して重症化に寄与する.
肥満はCOVID-19の予後不良因子として知られるが,その機序は不明であった.SARS-CoV-2ウイルスの脂肪組織への感染が関与するかを検証するため,COVID-19による剖検例(入院後1~12日後に死亡)の評価と,in vitroでのSARS-CoV-2ウイルス感染に対する脂肪組織の反応について検討した研究が米国スタンフォード大学から報告された.剖検例では,脂肪細胞にSARS-CoV-2 RNAを確認し,それに伴う炎症細胞浸潤も確認された(図2).そして感染の標的となる細胞として,脂肪細胞および炎症性脂肪組織常在マクロファージが同定された.成熟脂肪細胞はSARS-CoV-2感染に対して許容状態であった.マクロファージは不稔感染(※)を示したが(※ウイルスの増殖が途中で終わり完全なウイルスが作られないため細胞破壊が起こらないこと),SARS-CoV-2ウイルスは感染マクロファージとバイスタンダー脂肪前駆細胞の両方で炎症反応を引き起こした.以上より,脂肪組織へのSARS-CoV-2ウイルス感染が,脂肪細胞内でのウイルス複製,および脂肪組織に存在するマクロファージへの感染による局所および全身性炎症の誘発を通して,COVID-19の重症化に寄与する可能性が示唆された.
Sci Transl Med. 2022 Dec 7;14(674):eabm9151.(doi.org/10.1126/scitranslmed.abm9151)



◆急性期の遺伝子発現パターンで数カ月後に生じるlong COVIDの症状を予測できる.
Long COVIDは臨床的に不均一で,分子病態は不明である.米国より急性期後も経過観察を行ったCOVID-19入院患者で全血遺伝子発現プロファイリングを実施した165名を対象とした研究が報告された.退院1年後の後遺症と関連する急性期の遺伝子発現パターンを同定した.抗体産生細胞である形質細胞において,急性期に相反する2種類の遺伝子発現パターンを示す後遺症のサブセットを同定した.具体的には,肺に後遺症を抱える患者では,免疫グロブリン関連遺伝子の発現量が減少していた.一方,嗅覚・味覚障害,睡眠障害などの後遺症を持つ患者では,抗スパイク抗体価に依存した免疫グロブリン関連遺伝子が高発現していた.同じ形質細胞で観察されたこれらの相反するパターンはlong COVIDの異なる臨床像につながる複数の独立したプロセスの存在を示唆し,かつそれらは急性感染時にすでに存在していた.つまり急性期のデータを用いて,数ヵ月後,患者に何が起こるかを予測できる可能性があること,また急性期の重症度だけではlong COVIDの分子過程を説明できないことが示唆された.
Nat Med (2022).(doi.org/10.1038/s41591-022-02107-4)

◆COVID-19は糖尿病の新規発症リスクを66%高める.
COVID-19が,糖尿病の新規発症を引き起こす可能性が指摘されている.COVID-19感染者において新たに診断される糖尿病の発生率を推定することを目的としたメタ解析が報告された.COVID-19患者427万747人と対照群4320万3759人からなる適格基準を満たす8研究を同定した.年齢の中央値は43歳,50%が女性であった.COVID-19は糖尿病発症の66%高いリスクと関連していた(リスク比1.66;95%CI 1.38;2.00)(図3).リスクは年齢,性別,試験の質によって影響を受けなかった.以上より,COVID-19は糖尿病の新規発症リスクの高さと関連することが示された.回復後は耐糖能(血糖値)のモニタリングが必要である.
Sci Rep 12, 20191 (2022). (doi.org/10.1038/s41598-022-24185-7)



◆ウイルス受容体ACE2の発現を減少させる薬剤が発見され,なんとウルソであった.
ACE2のようなウイルス受容体の調節による感染予防は,ワクチン接種を補完する新しい予防アプローチとなる可能性がある.しかしACE2の発現を制御する機構は不明であった.英国ケンブリッジ大学からNature誌にACE2の発現メカニズムに関する研究が報告された.消化器系や呼吸器系を含む複数の感染組織において,ACE2の転写を直接制御する因子として核内受容体ファルネソイドX受容体(FXR)が同定された.さらに利胆目的に日常診療で使用されるウルソデオキシコール酸(UDCA;商品名ウルソ)と市販の化合物であるz-guggulsteroneが,ヒト肺,胆管細胞,腸のオルガノイドおよびマウスとハムスターのそれぞれに対応する組織で,FXRシグナルを抑制し,ACE2発現を減少させることが示された.またウルソの内服はヒトの鼻上皮細胞におけるACE2発現も低下させた(図4).移植に使用されなかったヒト肺を用いた感染実験も行われ,ウルソを添加した血液を灌流させると感染は抑制された.さらに実臨床でも肝疾患でウルソを使用された人と,そうでない人を比較すると,入院は30%,ICU入室は10%減っていることを確認した.以上より,ACE2発現を制御するFXR経路の修飾が,感染の軽減に有益である可能性が示唆された.今後の臨床試験が期待される.
Nature (2022).(doi.org/10.1038/s41586-022-05594-0)



◆COVID-19ワクチン後に体位性起立性頻脈症候群が生じるが,COVID-19感染後よりも5.35倍低い.
体位性起立性頻脈症候群(POTS;postural orthostatic tachycardia syndrome)は,起立時に血圧はあまり変化しないにもかかわらず,心拍数が異常に増加し, 失神前駆症状・運動不耐・疲労・ふらつき・眩暈などの起立性不耐を示す.原因は不明であるが,軽度の自律神経障害やβ受容体過敏性が推定されている.SARS-CoV-2ウイルス感染後にも生じるが,COVID-19ワクチン接種との関連については不明である.米国からワクチン後POTSの検討が報告された.ワクチン接種者28万4592人において,オッズが最も高い副反応は心筋炎,自律神経失調症,POTS,肥満細胞活性化症候群,尿路感染症であった.ワクチン接種後90日目のPOTSは曝露前90日目よりも高く,オッズ比は1.33であった.POTSは,COVID-19ワクチン接種後に診断される頻度は増加するが,その頻度はCOVID-19感染後よりも5.35倍低かった.COVID-19ワクチンとPOTSの関連についてはさらなる研究が必要である.
Nat Cardiovasc Res (2022).(doi.org/10.1038/s44161-022-00177-8)



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「エクソシスト」のモデルとなった脳炎の病態 ―活性化NMDA受容体の画像化―

2022年12月10日 | 自己免疫性脳炎
若年女性に好発するNMDA受容体脳炎という病気があります.医師としてのキャリアのなかでも忘れられない病気です(https://bit.ly/3FDrl6i).映画「エクソシスト」のモデルとも言われています(Ann Neurol. 2010;67:141-2).日本では映画「8年越しの花嫁 奇跡の実話」で知られています.「エクソシスト」は英語で悪魔祓い(祈祷師)のことですが,この疾患はまるで悪魔に憑依されたかのような精神症状,運動異常症,痙攣発作を呈します.現代のエクソシストは脳神経内科医で,祈祷のかわりに免疫療法で治療します.

病名の「NMDA(N-methyl-d-aspartate)受容体」はシナプス後膜に局在するイオンチャネル型グルタミン酸受容体です.興奮性神経伝達によりシナプス可塑性や学習・記憶に関わります.NMDA受容体脳炎では,おもに卵巣にできた奇形腫のため,NMDA受容体に対する自己抗体が産生されます.実験の結果,この自己抗体がNMDA受容体を架橋して「内在化」させてしまい,細胞膜表面の受容体が減少することが本症の病態機序と推測されてきました.しかしその証明は剖検脳の海馬におけるNMDA受容体の減少のみでした.



さてJAMA Neurol誌にNMDA受容体を画像化した報告があり驚きました.NMDA受容体のイオンチャネル内に結合する放射性リガンド[18F]GE-179を用いたPET検査でした.NMDA受容体はグルタミン酸が結合し活性化するとイオンチャネルが開き,Na+,K+,Ca2+ などの陽イオンが通過します.このPETでは受容体の活性化を評価できます.対象は患者5名と,健常対照29名です.患者のうち4名は退院後2〜8カ月の血清中に持続的に自己抗体を認める時期に検査を行い,残り1名は退院後16カ月目で抗体が検出されなくなった時期に行っています.自己抗体が残存する4名では程度の差がありますが,開放型活性化NMDA受容体の密度が平均30%減少し,前側頭葉と上頭頂葉で顕著でした.しかし認知症状は軽度で,脳の代償能力の高さが示唆されました.一方,抗体が陰性になった1名はむしろ受容体密度が上昇しており,受容体機能のリバウンドが示唆されました.以上より,NMDA受容体の「内在化」仮説が生体でも証明され,かつ大脳辺縁系以外の広い皮質領域がこの疾患では障害されていることが示されました.



本症では退院後の回復過程でも長期間さまざまな症候(過眠症,食欲亢進,性欲亢進)を呈します.睡眠中に突然目を開け,体を起こしたり話をしたりするconfusional arousals(混乱性覚醒)を起こすこともあります.カンファレンスでは,こういった症候にNMDA受容体の機能変化(活性化の抑制からリバウンド)が関わっているのかもしれないなどと議論をしました.



受容体の画像化 JAMA Neurol. 2022 Dec 5.(doi.org/10.1001/jamaneurol.2022.4352)
受容体内在化 Lancet Neurol. 2011;10:63-74.(doi.org/10.1016/S1474-4422(10)70253-2)
自己免疫性脳炎の睡眠障害 Lancet Neurol. 2020;19:1010-1022(doi.org/10.1016/S1474-4422(20)30341-0)

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(12月4日)  

2022年12月04日 | COVID-19
今回のキーワードは,もっとも高頻度のCOVID-19急性期神経合併症は認知機能障害である,SARS-CoV-2感染は短期間にアルツハイマー病類似の神経炎症パターンを再現する,歯肉のバイオフィルムと口蓋扁桃およびアデノイドがSARS-CoV-2ウイルスリバーバーである,COVID-19後に発症するけいれん発作・てんかんはインフルエンザと比べ非入院患者や小児で多い,脳障害バイオマーカーの増加と炎症性サイトカインの関連は,他のウイルス感染患者でも発生する,です.

現在,第8波の只中です.本邦ではオミクロン変異株BF.5が主流になりつつあるようですが,若年者でも命に関わる重篤な神経合併症を来たします.当科でも劇症脳炎患者の治療中です.感染予防とワクチン接種の励行をぜひお願いしたいと思います.

さて第41回日本認知症学会学術集会(東京)にて,「COVID-19は認知症の新たな危険因子か?」というシンポジウムを開催しました.オミクロン変異株での長期的なデータはこれからですが,少なくともこれまでのデータでは答えはYESです.認知症をきたすウイルスはSARS-CoV-2が初めてではなく,HIV,HSV,EBV等が挙げられますが,COVID-19は感染者が多数であり,将来への影響が大きな問題です.学会で私は病態機序について提示しました.ウイルスが嗅覚伝導路を介して眼窩前頭皮質などに感染し萎縮をもたらすことや,ウイルスの持続感染説が有力で,ウイルスが何らかの組織・臓器(リザーバー)に潜む可能性があること,ウイルス感染がアルツハイマー病理を加速する可能性があることなどについて解説しました.下記をご参照いただければと思います.

日本認知症学会学術集会スライド

毎日新聞(有料記事)

◆もっとも高頻度のCOVID-19急性期神経合併症は認知機能障害である.
COVID-19第1波流行時(2021年7月31日まで)に欧州神経学会が作成した登録データを使用し,1523人の患者の神経合併症と転帰を検討した国際研究が報告された.欧州23カ国と非欧州7カ国において,入院,外来,救急外来を受診したCOVID-19患者に関するデータを収集した.神経合併症は1213人(79.6%)で認められ,978名(64.2%)が基礎疾患として1つ以上の全身/神経系の慢性疾患を有していた.急性/亜急性神経合併症の主なものは,認知機能障害(29.5%)が最も多く,ついで脳卒中(25.7%),睡眠覚醒障害(16.4%),自律神経障害(14.7%),末梢神経障害(9.5%),運動異常症(9.3%),運動失調症(8.8%)および痙攣発作(8.3%)であった.これらの合併症は,年齢,全身および神経系基礎疾患,感染の重症度・非神経症状,転帰等に差があり特徴が異なる.
Eur J Neurol. Oct 31, 2022(doi.org/10.1111/ene.15617)

◆SARS-CoV-2感染は短期間にアルツハイマー病類似の神経炎症パターンを再現する.
SARS-CoV-2感染は,アルツハイマー病(AD)の発症や重症化を促進する可能性が指摘されている.英国からSARS-CoV-2感染者,AD,SARS-CoV-2感染AD患者剖検例における前頭葉皮質Brodmann 第9野(BA9)と海馬の転写産物および病理学的特徴を比較した研究が報告された.転写産物をvolcano plotを用いて解析すると3群は概ね同じ傾向を示し,ADとSARS-CoV-2感染ADを比較すると,BA9および海馬の双方で顕著に類似していた.具体的には神経炎症,TREM1(炎症反応に関与),細胞老化などの経路が活性化し,逆に神経伝達物質の放出にかかわるSNARE活性化の低下を認めた.また病理学的にはウイルスは血管内皮に局在し,ミクログリアは血管周囲に存在し,SARS-CoV-2感染AD患者では有意なミクログリア結節性病変の増加が認められた(結節性病変はHSVやHIVなどのウイルス感染症等で見られる所見;図1).またHIF-1αはADの有無にかかわらず,SARS-CoV-2感染により著しく発現が上昇した.以上より,SARS-CoV-2感染とADにおいて,転写および細胞レベルで同様の神経炎症プロファイルを認めた.つまりSARS-CoV-2感染が短期間に,転写および細胞レベルでAD類似の神経炎症パターンを再現し,ADの病態を促進する可能性が示唆された.
bioRxiv [Preprint]. 2022 Nov 23:2022.11.23.517706.(doi.org/10.1101/2022.11.23.517706)



歯肉のバイオフィルムがSARS-CoV-2ウイルスリバーバーである.
SARS-CoV-2ウイルスのリザーバーを検索したブラジルからの研究.ICU入室患者から採取した歯肉上および歯肉下のバイオフィルム(微生物が固相表面に形成した集合体)中のSARS-CoV-2 RNAの存在について検討した.COVID-19陽性者52名のうち26名(50%)がPCR陽性であった.ICU患者は,歯周病状態や全身的なウイルス量に関係なく,歯肉縁上および歯肉縁下のバイオフィルムにSARS-CoV-2 RNAを保有していた.
J Periodontol. 2022 Oct;93(10):1476-1485.(doi.org/10.1002/JPER.21-0623)

口蓋扁桃およびアデノイドがSARS-CoV-2ウイルスリバーバーである.
同じくブラジルからの研究.2020年10月から2021年9月の間にアデノ扁桃摘出術を受けた48名の小児を調査した.SARS-CoV-2ゲノム検出率は,扁桃腺で20%,アデノイドで16.27%,鼻腔サイトブラシで10.41%,鼻腔洗浄液で6.25%であった.免疫染色では,陽性扁桃16検体中15検体において,上皮とリンパ区画の両方でSARS-CoV-2核タンパクの存在が確認された.フローサイトメトリーでは,CD123+樹状細胞が最も頻繁に感染する細胞タイプ(10.57%)であった.以上より扁桃腺とアデノイドは無症候性小児におけるSARS-CoV-2の重要な感染部位であることが示唆された.リンパ組織がSARS-CoV-2のリザーバーとなり,感染伝播に関わる可能性がある.しかしリンパ組織が持続感染をどれくらいの期間,維持できるのかは不明である.
Braz J Otorhinolaryngol. 2022;88:9.(doi.org/10.1016/j.bjorl.2022.10.016)

◆COVID-19後に発症するけいれん発作・てんかんはインフルエンザと比べ非入院患者や小児で多い.
英国からCOVID-19感染後6カ月間の痙攣発作やてんかんとの関連について検討した研究が報告された.8100万人の電子健康記録ネットワークを用いて,COVID-19感染者とインフルエンザ感染者をマッチングさせている.それぞれ15万2754人の患者からなる2つのコホートが得られた.COVID-19群はインフルエンザ群と比較して,痙攣発作やてんかんのリスクが上昇していた(図2左).COVID-19の6カ月以内の痙攣発作の発生率は0.81%(インフルエンザとの比較でハザード比:HR 1.55)であった.てんかんの発症率は0.30%(同1.87)であった.COVID-1後のてんかん発症率は,インフルエンザ群に比べて,入院歴がない人,16歳以下で高かった.ピークとなるHRの時期は,年齢や入院の有無によって異なっていた(16歳以下で感染後50日,17歳以上で21日.非入院で41日,入院で9日:図2右).以上より,COVID-19罹患後6カ月間の新規痙攣発作およびてんかんの発生率は,全体としては高頻度ではないが,インフルエンザ群より高かった.この差は入院していない人でより顕著であり,感染が軽症でもてんかんや痙攣発作のリスクがあることを認識する必要がある.16歳未満,とくに小児は危険性が特に高い.現在,第8波で小児の感染が問題になっているが,小児の感染予防を積極的に進める根拠の一つとなる研究である.
Neurology. 2022 Nov 16:10.1212/WNL.0000000000201595.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000201595)



◆脳障害バイオマーカーの増加と炎症性サイトカインの関連は,他のウイルス感染患者でも発生する.
COVID-19感染後に観察された脳障害がCOVID-19に特有のものか,他のウイルス感染症でも生じるものかは不明である.英国からCOVID-19入院患者175名とインフルエンザ入院患者45名を対象に,脳障害の血清マーカーであるニューロフィラメント軽鎖(NfL),グリア線維酸性蛋白(GFAP),総タウと,自己抗体生産,サイトカインプロファイルの動態,およびそれらの関連を検討した研究が報告された.急性期のCOVID-19患者の検討では,重症度に依存してNfLとGFAPは上昇し,4カ月後の追跡調査でも脳障害が持続して認められた.これらのバイオマーカーは,炎症性サイトカインの上昇や自己抗体の存在と関連していた.回復期(入院から80日以上)では持続的なサイトカイン反応が認められ,様々な抗原に対するIgM反応が優位にみられた.自己抗体としては,肺サーファクタント蛋白A(SFTPA1)に対するIgG反応が,脳損傷マーカーとは無関係に,中・重症患者で高値となり,抗ミネリン関連糖タンパク(MAG)やLGI1,GLRA1等に対する自己抗体も認められた(図3).また亜急性期のインフルエンザ患者では,SARS-CoV-2感染と同様の免疫反応が検出され,血清の脳障害バイオマーカーも同様であった.以上より,脳障害バイオマーカーの増加と炎症性サイトカインプロファイルとの関連は,COVID-19に特有のものではなく,重症インフルエンザ患者でも同様に発生することが示された.
Brain. 2022 Nov 21;145(11):4097-4107.(doi.org/10.1093/brain/awac321)





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アルツハイマー病病態修飾薬レカネマブの有効性と3つの懸念

2022年12月02日 | 認知症
レカネマブは,アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリルに結合するモノクローナル抗体です.速報として18ヶ月間の第3相試験(Clarity AD)が成功したことが報道されていましたが,詳細がNEJM誌に発表されました.

【Clarity ADの結果概略】対象はPETまたは脳脊髄液検査でアミロイドが検出された50〜90歳の早期アルツハイマー病患者で,レカネマブ群898人,偽薬群897人です.2週間ごとに静脈内投与します.主要評価項目は,CDR-SB(Clinical Dementia Rating-Sum of Boxes,範囲0〜18点で高いほど障害が強い)の18カ月間における開始前からの変化です.開始前のスコアは両群とも約3.2点で,18ヵ月間の進行がレカネマブ群1.21点,偽薬群1.66点,つまりレカネマブは0.45点(27%)進行を抑制しました(P<0.001;図1A).副次評価項目でもPETによるアミロイド負荷,アルツハイマー病評価尺度ADAS-cog14,アルツハイマー病複合スコアADCOMS,日常生活動作尺度ADCS-MCI-ADLのいずれもレカネマブ群が有意に良好でした.



一方,安全性はレカネマブ群対偽薬群で,死亡0.7%対0.8%(6例対7例:いずれの死亡もレカネマブに関連したものではないとの記載),重大合併症14.0%対11.3%,ARIA-E(アミロイド関連画像異常-浮腫/浸出)12.6%対1.7%,ARIA-H(同-出血性変化)17.3%対9.0%,症候性ARIA-H 0.7%対0.2%でした.ARIA-Eは開始3ヶ月以内に生じたものの,いずれも軽症ないし無症候で治験の中断には至りませんでした.ただしARIA-EはApoE e4ホモでは高率でした(ARIA-E 32.6%対3.8%).

【懸念1:脳アミロイドアンギオパチ-合併例における脳出血】
Science誌のNewsに,レカネマブ投与を受けた2例の死亡事例が紹介されました.いずれも偽薬群の治験参加者で,本人が希望し,オープンラベル試験延長の一環としてレカネマブが投与されたようです.第1例は80代後半男性,経口抗凝固剤アピキサバン使用中に脳出血にて死亡.第2例は65歳女性,開始1ヶ月後にARIA-EとHをきたし,さらに脳梗塞を発症しました.治療にあたったノースウェスタン大学では,リスクは比較的小さいと判断し血栓溶解薬tPAの静注を行ったものの,脳内大出血を来たし数日後に死亡しました.2例とも剖検にて脳血管にAβが沈着する脳アミロイドアンギオパチ-(CAA)と診断されました(アルツハイマー病患者の約半数はCAAを合併します;図2).同大学の神経病理学者Rudolph Castellani教授は個人的意見として「もしレカネマブが投与されていなかったら,彼女は生きていただろう」と述べています.


Science誌NEWSからの引用.CAAでは血管平滑筋(赤)がAβ(青)で置き換わっているところを示している.抗アミロイド抗体を投与すると,血管基底膜(緑色)が炎症を起こして脆弱となり血液脳関門が破綻する.

治験前にMRIを行い,4つ以上の微小出血あるいは重篤なCAAの可能性を示す所見を認めた場合には治験登録されません.しかし死亡した2例のいずれもCAAであったことは,その除外は容易でないことを示唆します.つまりスクリーニングやモニタリングが厳密でないリアルワールドでは,副作用の頻度がさらに増加するおそれがあります.開始前のPETないし脳脊髄液検査に加え,CAAの綿密なスクリーニングとApoE genotyping,さらにtPAや抗凝固薬の同時使用に対する警告は必要だろうと思います.
引用元へのリンク

【懸念2:レカネマブ用量依存性脳萎縮】
図3はレカネマブ第2相試験(Alzheimers Res Ther 2021;13:80)において,レカネマブ群で脳全体の容積が投与量依存性に減少したことを示すものです.



つまり抗体によるアミロイドのクリアランスが脳の縮小を早める可能性があります.この論文では「長期的な意味は不明であり,より長期の追跡調査や第3相試験で評価されるかもしれない」と書かれてありますが,今回の論文に記載はありませんでした.これまでの議論として,縮小した脳容積は,抗体により除去されたアミロイドプラークが占有していたスペースを反映しているという説がありましたが,Aβが占める容積の推定量はMRI検査で検出できないほど小さく,説明としては不適切という議論があります.以下の4つの検討が必要であると議論されています.

1)脳容積の減少は認知機能低下や副作用と関係があるのか?
2)脳容積の減少とARIAの間には関係があるのか?
3)脳容積の減少は神経変性のバイオマーカー上昇と関連するか?
4)脳容積の減少を認めた患者は長期的に認知機能低下の増悪を来すか?

脳萎縮が抗体薬による副作用ではないという説得力のある証拠を示す必要があると思います.記事ではアデュカヌマブの試験データはすでにFDAで入手可能であり,これらの分析を緊急に進め,早期に一般公開する必要があると述べています.
引用元へのリンク

【懸念3:臨床的有効性の解釈】
先日の日本認知症学会で本試験の著者のひとり岩坪威先生は「軽度,中等度,重度ADになる期間を2.51年,3.13年,2.34年遅らせる.時間が経つほど遅延効果をもたらす」ことを指摘されていました.一方,Vanderbilt大学でアルツハイマー病研究の主任研究者を務めるSchrag Matthew先生のtwitterの発言が注目されていますが(@schrag_matthew),「主要評価項目CDR-SBにおけるレカネマブの効果は18点のうちの0.5点にも及ばず微々たるものだ.また27%の減少は変化量の比較であって,絶対値の差はグラフのスケールを変えるとわかるようにわずか2.5%である」と述べています(図1B).また治療による恩恵は最初の12ヶ月に起こり,それ以降,両群の軌跡がほぼ平行となっている点(図1A)に注目し,「疾患修飾的治療ができているなら,その差は時間とともに大きくなり続けるはずだ」と指摘しています.結論として,「アミロイドを低下させる治療の効果は僅かであり,むしろアルツハイマー病の唯一の原因ではないと自信を持って言えるようになった.アミロイド仮説に終止符を打つときが来た」と述べています.
つまり有効性の解釈についても様々な捉え方があるわけです.
C.H. van Dyck, et al. Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease. New Engl J Med. Nov 29, 2022





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