ペースメーカー装着中の患者で見出されるような臨床症状を認めない心房性頻脈性不整脈も,脳梗塞や全身性塞栓症の危険因子となるかは不明である.今回,ペースメーカーまたは植込み型除細動器(ICD)を装着している患者を対象に,①無症候性心房性頻脈性不整脈の頻度,②その不整脈が脳梗塞や全身性塞栓症の危険因子になるかを明らかにするために行われた23カ国の多施設共同研究(ASSERT研究)の結果がNew Eng J Med誌に報告された.
対象は,65歳以上の高血圧患者で,登録前8週間以内にペースメーカーまたはICD植え込み術を施行された症例(前者が95%)とした.心房細動や心房粗動の既往歴のある症例は除外した.心房性頻脈性不整脈は脈拍190/分以上,6分以上持続と定義し,その有無を3ヶ月間評価した.一次エンドポイントは,脳梗塞または全身性塞栓症とし,二次エンドポイントは,血管関連死(vascular death)、心筋梗塞、脳卒中、体表心電図での心房性頻脈性不整脈とした.これらエンドポイントは平均2年半観察を行った.心房性頻脈性不整脈を認めた群と,認めなかった群で,臨床的心房細動の発生頻度やエンドポイントの比較を行った.
結果であるが,対象は2580名(!).うち登録の3ヶ月以内に,無症候性の心房性頻脈性不整脈は261例(10.1%)に認められた.心房性頻脈性不整脈は2.5年までの経過観察では34.7%に認められた.心房性頻脈性不整脈を認めた症例の15.7%がその後,臨床的心房細動を呈するようになった.
無症候性心房性頻脈群は非頻脈群に比べ、臨床的心房細動の発生が有意に多かった(ハザード比5.56;95%信頼区間3.78~8.17;P<0.001).さらに,無症候性心房性頻脈群は非頻脈群に比べ,脳梗塞および全身性塞栓症の発生が有意に多かった(ハザード比2.49;95%信頼区間1.28~4.85;P=0.007).一次エンドポイントを認めた51例中11例は3ヶ月以内に心房頻脈性不整脈を認めていたが,臨床的心房細動は認めなかった.
無症候性心房性頻脈が一次エンドポイントの発生に及ぼす住民寄与危険度(すなわち,その危険因子に暴露されなければ一次エンドポイントの発生がどれくらい減少するかを示す)は13%であった.無症候性心房性頻脈は,種々の危険因子の補正後も一次エンドポイントの予測因子であった(ハザード比2.50;95%信頼区間1.28~4.89;P=0.008).
以上より,ペースメーカーないしICD植え込み患者においては,無症候性心房性頻脈は少なからず(10.1%)に起こっていること,また無症候性心房性頻脈は脳梗塞および全身性塞栓症の危険因子であることが極めて多数例での検討で明らかになった.今後,このようなペースメーカー等で無症候性心房性頻脈を認めた症例に対しても抗凝固療法を行う必要があるか検討されることになる.しかし,本研究はペースメーカーやICD植え込み症例が対象で,もともと心房細動が生じやすい素因があった可能性もあるため,今回の結果を65歳以上の高血圧患者全体に当てはめて良いのかわからない.
また本論文では心房細動の治療法の一つであるペースメーカー治療の有効性についても検討している.オーバードライブサプレッションという機能を持ったペースメーカーでは,心房細動が誘発された際,心房に対してオーバードライブ(連続刺激)を打ち,心房細動を抑制することができるそうだ.オーバードライブペーシングは心房性期外収縮がきっかけになって心房細動が起きている場合にも有効と言われる.本研究では無症候性心房性頻脈の評価が終わった後,心房オーバードライブペーシングによる治療介入の有無で,無作為に2群に割り付けを行い,6ヶ月間の心房細動予防効果についても検討している.この結果,<font color="red">心房オーバードライブペーシングは心房細動予防に関して無効という結果になり,その有効性を証明できなかった.こちらはさらっと付け足し的に書かれているが,これまで有効と考えられていた治療でもあり,とても重要な知見といえる.
Subclinical Atrial Fibrillation and the Risk of Stroke; the ASSERT Investigators
N Engl J Med 2012; 366:120-129January 12, 2012
対象は,65歳以上の高血圧患者で,登録前8週間以内にペースメーカーまたはICD植え込み術を施行された症例(前者が95%)とした.心房細動や心房粗動の既往歴のある症例は除外した.心房性頻脈性不整脈は脈拍190/分以上,6分以上持続と定義し,その有無を3ヶ月間評価した.一次エンドポイントは,脳梗塞または全身性塞栓症とし,二次エンドポイントは,血管関連死(vascular death)、心筋梗塞、脳卒中、体表心電図での心房性頻脈性不整脈とした.これらエンドポイントは平均2年半観察を行った.心房性頻脈性不整脈を認めた群と,認めなかった群で,臨床的心房細動の発生頻度やエンドポイントの比較を行った.
結果であるが,対象は2580名(!).うち登録の3ヶ月以内に,無症候性の心房性頻脈性不整脈は261例(10.1%)に認められた.心房性頻脈性不整脈は2.5年までの経過観察では34.7%に認められた.心房性頻脈性不整脈を認めた症例の15.7%がその後,臨床的心房細動を呈するようになった.
無症候性心房性頻脈群は非頻脈群に比べ、臨床的心房細動の発生が有意に多かった(ハザード比5.56;95%信頼区間3.78~8.17;P<0.001).さらに,無症候性心房性頻脈群は非頻脈群に比べ,脳梗塞および全身性塞栓症の発生が有意に多かった(ハザード比2.49;95%信頼区間1.28~4.85;P=0.007).一次エンドポイントを認めた51例中11例は3ヶ月以内に心房頻脈性不整脈を認めていたが,臨床的心房細動は認めなかった.
無症候性心房性頻脈が一次エンドポイントの発生に及ぼす住民寄与危険度(すなわち,その危険因子に暴露されなければ一次エンドポイントの発生がどれくらい減少するかを示す)は13%であった.無症候性心房性頻脈は,種々の危険因子の補正後も一次エンドポイントの予測因子であった(ハザード比2.50;95%信頼区間1.28~4.89;P=0.008).
以上より,ペースメーカーないしICD植え込み患者においては,無症候性心房性頻脈は少なからず(10.1%)に起こっていること,また無症候性心房性頻脈は脳梗塞および全身性塞栓症の危険因子であることが極めて多数例での検討で明らかになった.今後,このようなペースメーカー等で無症候性心房性頻脈を認めた症例に対しても抗凝固療法を行う必要があるか検討されることになる.しかし,本研究はペースメーカーやICD植え込み症例が対象で,もともと心房細動が生じやすい素因があった可能性もあるため,今回の結果を65歳以上の高血圧患者全体に当てはめて良いのかわからない.
また本論文では心房細動の治療法の一つであるペースメーカー治療の有効性についても検討している.オーバードライブサプレッションという機能を持ったペースメーカーでは,心房細動が誘発された際,心房に対してオーバードライブ(連続刺激)を打ち,心房細動を抑制することができるそうだ.オーバードライブペーシングは心房性期外収縮がきっかけになって心房細動が起きている場合にも有効と言われる.本研究では無症候性心房性頻脈の評価が終わった後,心房オーバードライブペーシングによる治療介入の有無で,無作為に2群に割り付けを行い,6ヶ月間の心房細動予防効果についても検討している.この結果,<font color="red">心房オーバードライブペーシングは心房細動予防に関して無効という結果になり,その有効性を証明できなかった.こちらはさらっと付け足し的に書かれているが,これまで有効と考えられていた治療でもあり,とても重要な知見といえる.
Subclinical Atrial Fibrillation and the Risk of Stroke; the ASSERT Investigators
N Engl J Med 2012; 366:120-129January 12, 2012