血栓溶解薬「組織型プラスミノゲン・アクチベーター(t-PA)」は発症3時間以内の脳梗塞患者に静脈注射すると,3ヶ月後の機能回復が偽薬群に比べ有意に良好であることが示され(N Engl J Med 1995),「初の本格的脳梗塞治療薬」として全世界で承認された.しかしその後,therapeutic time windowの延長を目的として,発症6時間までの患者を対象にしたstudyが行われたが(具体的にはECASS(European Cooperative Acute Stroke Study)1,ECASS 2,ATLANTISといったstudyがこれにあたる),残念ながらこれらは6時間以内のt-PAの有効性を証明できなかった.この原因として,合併症としての脳出血が大きく影響していることも明らかになっている.
しかし,良く考えてみると3時間の次の検討が「6時間」というのは,time windowが一気に倍になるわけで,その間に設定しても良かったはずである.実際にtime windowを3時間から5割増しで延長したstudyが今月になって2つ報告された.
ひとつは9月15日のLancet誌に掲載されたSITS-ISTR study(the Safe Implementation of Treatments in Stroke (SITS), a prospective internet-based audit of the International Stroke Thrombolysis Registry (ISTR))である.これは,前向き観察研究であるISTR(脳卒中血栓溶解療法国際登録)のなかの,SITS(治療の安全な実施)というデータを用いて検討したもので,具体的にはtPAの使用状況を記録している35カ国700カ所以上の医療施設が共同で構成するデータのなかの,治療基準を満たし実際に治療を受けた患者の記録を用いた検討である.この解析で明らかになったのは,tPA治療を発症3時間後から4.5時間後に受けた患者664例と,推奨されている3時間以内に治療を受けた患者11,865例を比較したところ,両者の間で転帰に有意差がなかったというものである.
ふたつめはランダム化比較試験(RCT)であるECASS 3である.この結果は,9月25日の世界脳卒中会議(ウィーン)で発表され,同時にN Engl J Med誌に発表された.方法はCT上,脳出血や大きな脳梗塞合併例を除外後,患者をalteplase群(0.9 mg/kg)とプラセボ群の2群にランダムに割り振った.一次エンドポイントは発症90日後のdisabilityで,二次エンドポイントは4つの神経学的障害を評価するスコア(modified Rankin score,Barthel index,NIHSS,Glasgow outcome scale)とした.安全エンドポイントは死亡,クモ膜下出血,そのほかの重篤な合併症とした.
結果としては821名がエントリーし,418 名がalteplase群に,403名がプラセボ群に割り振られた.alteplase群の平均投与時間は3時間 59分であった.予後良好群(mRSで0ないし1)はalteplase群で有意に多かった(alteplase群:プラセボ群=52.4%:45.2%,odds比1.34,95% CI, 1.02-1.76; P=0.04).NNT(number needed to treat)は14となった.懸念された脳出血はalteplase群で高く,症候性出血に関してはalteplase群:プラセボ群=2.4%:0.2%(P=0.008)で,すべての出血を含めるとalteplase群:プラセボ群=27.0%:17.6%(P=0.001)であった.しかし死亡率についてはalteplase群:プラセボ群=7.7%:8.4%(P=0.68)で有意差はなく,そのほかの重篤な合併症に関しても両群間で有意差は見られなかった.
結論として,3時間から4.5時間のt-PAは脳出血の合併は増加するものの,有意に予後を改善するという結果である.つまり1995年のNINDS study以来,ようやく2つ目のt-PAの有効性を示したRCTとなる.これまでのstudyで有効性を示すことができなかったのは, 症例を6時間まで含めてしまったことに加え,エンドポイントの設定や不十分な統計学的検出力のstudy design(つまり3 ~4.5時間のコホート(症例数)が少なかった) が考えられるとのことである .
以上よりtime windowの50%もの延長が可能になったわけで,より多くの患者がt-PAによる治療の恩恵を受けることになる.このECASS 3の結果の報告を受けてヨーロッパ脳卒中会議等で現行のガイドラインの修正が検討されるとのことだ.ただECASS 3の筆者は,discussionの最後に,できるだけ早期に治療を開始することで,より大きな効果が得られるのであって,4.5時間まで治療を遅らせることができるということではないと念を押している.
N Engl J Med 359:1317-1329, 2008.
しかし,良く考えてみると3時間の次の検討が「6時間」というのは,time windowが一気に倍になるわけで,その間に設定しても良かったはずである.実際にtime windowを3時間から5割増しで延長したstudyが今月になって2つ報告された.
ひとつは9月15日のLancet誌に掲載されたSITS-ISTR study(the Safe Implementation of Treatments in Stroke (SITS), a prospective internet-based audit of the International Stroke Thrombolysis Registry (ISTR))である.これは,前向き観察研究であるISTR(脳卒中血栓溶解療法国際登録)のなかの,SITS(治療の安全な実施)というデータを用いて検討したもので,具体的にはtPAの使用状況を記録している35カ国700カ所以上の医療施設が共同で構成するデータのなかの,治療基準を満たし実際に治療を受けた患者の記録を用いた検討である.この解析で明らかになったのは,tPA治療を発症3時間後から4.5時間後に受けた患者664例と,推奨されている3時間以内に治療を受けた患者11,865例を比較したところ,両者の間で転帰に有意差がなかったというものである.
ふたつめはランダム化比較試験(RCT)であるECASS 3である.この結果は,9月25日の世界脳卒中会議(ウィーン)で発表され,同時にN Engl J Med誌に発表された.方法はCT上,脳出血や大きな脳梗塞合併例を除外後,患者をalteplase群(0.9 mg/kg)とプラセボ群の2群にランダムに割り振った.一次エンドポイントは発症90日後のdisabilityで,二次エンドポイントは4つの神経学的障害を評価するスコア(modified Rankin score,Barthel index,NIHSS,Glasgow outcome scale)とした.安全エンドポイントは死亡,クモ膜下出血,そのほかの重篤な合併症とした.
結果としては821名がエントリーし,418 名がalteplase群に,403名がプラセボ群に割り振られた.alteplase群の平均投与時間は3時間 59分であった.予後良好群(mRSで0ないし1)はalteplase群で有意に多かった(alteplase群:プラセボ群=52.4%:45.2%,odds比1.34,95% CI, 1.02-1.76; P=0.04).NNT(number needed to treat)は14となった.懸念された脳出血はalteplase群で高く,症候性出血に関してはalteplase群:プラセボ群=2.4%:0.2%(P=0.008)で,すべての出血を含めるとalteplase群:プラセボ群=27.0%:17.6%(P=0.001)であった.しかし死亡率についてはalteplase群:プラセボ群=7.7%:8.4%(P=0.68)で有意差はなく,そのほかの重篤な合併症に関しても両群間で有意差は見られなかった.
結論として,3時間から4.5時間のt-PAは脳出血の合併は増加するものの,有意に予後を改善するという結果である.つまり1995年のNINDS study以来,ようやく2つ目のt-PAの有効性を示したRCTとなる.これまでのstudyで有効性を示すことができなかったのは, 症例を6時間まで含めてしまったことに加え,エンドポイントの設定や不十分な統計学的検出力のstudy design(つまり3 ~4.5時間のコホート(症例数)が少なかった) が考えられるとのことである .
以上よりtime windowの50%もの延長が可能になったわけで,より多くの患者がt-PAによる治療の恩恵を受けることになる.このECASS 3の結果の報告を受けてヨーロッパ脳卒中会議等で現行のガイドラインの修正が検討されるとのことだ.ただECASS 3の筆者は,discussionの最後に,できるだけ早期に治療を開始することで,より大きな効果が得られるのであって,4.5時間まで治療を遅らせることができるということではないと念を押している.
N Engl J Med 359:1317-1329, 2008.