Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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研究をする理由 ―若い研究者,医師,そして医学生にぜひ見ていただきたい動画―

2024年08月20日 | 脊髄小脳変性症
私は大学院生時代に脊髄小脳変性症のひとつ,歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)の研究を行っていました.その研究が新聞報道され,そのお蔭で何人ものDRPLA患者さんやご家族からご連絡や激励をいただきました.そのなかに塩沢淳子さんと娘さんのクリちゃんがいました.いまもSNSなどでやり取りをしておりますが,その塩沢さんから「先日,ハワイの医大生に話をしました.後半ドクターも話をしていて,下畑先生のリベラルアーツのに通じるものがあると感じました.是非後半だけでも見てください」というご連絡をいただきました.

YouTube動画:Don't give up hope!希望を捨てないで!

塩沢さんと,脳神経内科医のKore Kai Liow先生(Hawaii Pacific Neuroscience)がとても大事なことを話しておられ,感動して目頭が熱くなりました.20分弱の動画で,前半はクリちゃんやご主人の病気のこと,そして後半が最新の治療研究についてになります.若い研究者,医師,そして医学生に見ていただきたいです.なぜ私たちがが研究をするのか,その理由が分かります.そして最後に驚くような奇跡も起こります.


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CANVASから考える慢性咳嗽の神経メカニズム

2024年08月17日 | 脊髄小脳変性症
CANVAS(cerebellar ataxia, neuropathy, and bilateral vestibular areflexia syndrome)に認める特徴的なひきつるような慢性咳嗽(smasmodic cough)の機序はよく分かっていませんでした.しばらく前に文献1の研究が報告され,咳の原因としてGERDや食道の蠕動障害(esophageal dysmotility)が関与している可能性が示されました.これを証明するために食道マノメトリーや24時間食道内pH確認を行っています.ただし本当にこれだけが理由かと個人的には思っていました.
文献1.Palones E, et al. J Neurol. 2024 Mar;271(3):1204-1212.(doi.org/10.1007/s00415-023-12001-9

もうひとつ興味深い総説がフランスから発表されました.図1ではまずCANVASにおける慢性咳嗽の有病率がこの10年間の論文で徐々に増加していることを示しています.おそらく慢性咳嗽が認知されてきたことが一番の要因と考えられます.



つぎに「cough hypersensitivity syndrome(CSS)」の概念を紹介しています(表1).これは通常では咳を引き起こさないような軽度の刺激に対して,過剰な咳反射が生じる状態です.CHSは原因が明らかでない慢性咳患者に見られることが多く,図2に述べる神経機構が関与していると推察されています.つまり咳嗽を来す神経過敏性は,主に後根神経節や迷走神経,延髄の孤束核・傍三叉神経核などの変性により引き起こされるというものです.

表1.Cough hypersensitivity syndromeの特徴
1)喉や胸の上部の易刺激性: 咽頭,喉頭,上気道の異常感覚
2)非咳嗽性刺激による咳の誘発(allotussia): 例として,話すこと,笑うこと
3)吸入刺激への咳感受性の増加およびトリガーの増加(hypertussia):
4)制御が難しい咳発作
5)トリガー要因:機械的刺激(歌う,話す,笑う,深呼吸),温度変化(冷たい空気),化学的刺激(エアロゾル,香り,臭い),仰向けになること,食事



1. 後根神経節
後根神経節が萎縮し,感覚神経細胞が傷害される(neuronopathy).これにより神経が過敏になり,通常では咳を引き起こさない程度の刺激でも強く反応する.
2. 迷走神経
迷走神経の障害により,喉頭や気道の粘膜に終止するC線維(化学感受性侵害受容器)やAδ線維(低閾値機械受容器)が,刺激に対して過敏に反応する.
3. 孤束核および傍三叉神経核
迷走神経からの感覚信号が処理される延髄の神経核である.迷走神経からの感覚信号入力に過敏になり,信号処理に異常をきたすことで,わずかな刺激でも強い咳反射が誘発される.

治療については,GABAアナログ(抑制性神経伝達物質)やオピオイドが効果的である可能性が記載されています.また,P2X3アンタゴニスト(感覚神経終末に存在するATPに反応する受容体で,咳反射の発動に関与する)の効果についても言及されていますが,その具体的な効果はまだ不明です.脳神経科内科医と呼吸器科医の協力が重要と書かれています.
文献2.Guilleminault L, et al. Cerebellar ataxia, neuropathy and vestibular areflexia syndrome: a neurogenic cough prototype. ERJ Open Res. 2024 Jul 29;10(4):00024-2024.(doi.org/10.1183/23120541.00024-2024

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多系統萎縮症の診断基準を満たし,免疫治療が奏効した自己免疫性小脳失調症(自己免疫性MSA imics)が存在する!

2024年08月05日 | 脊髄小脳変性症
当科の東田和博先生らが,多系統萎縮症(MSA)の診断基準を満たした自己免疫性小脳失調症(autoimmune cerebellar ataxia;ACA)の2症例を「臨床神経」誌に報告しました.症例1は72歳男性,症例2は68歳男性,両者ともに小脳性運動失調症,自律神経障害,錐体路徴候を認めましたが,症例1では自然経過で症状の改善を認めた点と脳脊髄液検査で炎症所見を認めた点,症例2では急速な進行を認めた点がMSAとして非典型的でした.既知の抗体は検索した範囲で陰性でしたが,ラットの脳切片を用いた免疫組織染色にて両者の血清中にプルキンエ細胞細胞質を標的とする自己抗体を検出しました(図).このため免疫療法を施行したところ,運動失調の改善を認めました.



以上より,MSAの診断基準を満たす治療可能なACAが存在することが示されました.とくに無治療で症状が改善した症例,変性疾患としては急速な進行を呈する症例,脳脊髄液の異常所見を認める症例,MSAには通常合併しない症候を認める症例などではACAを鑑別診断に挙げて,既知の抗体の検索,さらにはラットの脳切片を用いた免疫組織染色(tissue-based assay;TBA)で未知の抗体スクリーニングを行い,免疫療法の可能性について検討する必要があると考えられました.

東田和博,大野陽哉,加藤雅彦,竹腰顕,吉倉延亮,木村暁夫,下畑享良.多系統萎縮症の診断基準を満たし,免疫治療が奏効した自己免疫性小脳失調症の2症例.臨床神経 2024;64:589-593(doi.org/10.5692/clinicalneurol.cn-001979

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多系統萎縮症の診断はもはや簡単なものとは言えなくなった!@第18回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス(宇都宮)

2024年07月11日 | 脊髄小脳変性症
標題の学会にて故郷の栃木県に来ております.私は大会長の村松慎一先生(自治医大学)に貴重な機会を頂戴し,教育セミナー「MSAの診断」という講演をさせていただきました.要旨は以下のとおりです.

◆MDS MSA診断基準(2022)は早期診断の実現を目指したものの,発症から3年以内の感度は不十分,かつ複数の問題があり,とくに mimicsをいかに除外するかは重要な課題であること.
◆hot cross bun signを呈するimaging mimicsとして,SCA27BやRFC1遺伝子関連スペクトラム障害,そして自己免疫性小脳失調症(Homer-3,KLHL11,Ri,GAD,amphiphysin,IgLON5抗体)など報告がこの10年で増えていること.
◆レム睡眠障害の合併もαシヌクレイノパチーとは限らないこと.
◆非典型的な経過や症候(舌ミオリズミア,眼球運動制限,線維束性収縮,有痛性筋痙攣等)を認める場合,IgLON5抗体関連疾患を鑑別診断に加えること.
◆MSAの診断基準を満たしていても,亜急性の経過,経過中の改善エピソード,CSF異常を認めるときは自己免疫性小脳失調症の可能性を疑うこと.
使用したスライドはこちらから自由にご覧いただけます.



当科からは以下の4演題も発表しています.いずれも臨床的インパクトは大きいと考えております.ぜひ議論させていただきたいと思います.
① Bergmann gliaに対するIgG陽性の小脳性運動失調症の臨床的特徴.竹腰顕ら(優秀演題.臨床部門ジュニア)

② 繰り返す食後の嘔吐とdistal esophageal spasmを呈した多系統萎縮症の1例.大野陽哉ら(eNeurol Sci. 13 April 2024に報告.

③ 正常圧水頭症と進行性核上性麻痺の併存例に対するシャント術の効果の予測因子.山原直紀ら(臨床神経2024; 64: 113-116に報告.

④イブニングビデオセッション.しびれ感,筋力低下とともに不随意運動を呈した60歳男性.森泰子ら(投稿中) → ニューロパチーが主体でありながら中枢性と考えられる不随意運動を呈する症例.診断に驚くと思います.



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振戦が目立つ遺伝性脊髄小脳変性症はなにか?

2024年06月27日 | 脊髄小脳変性症
Tremor Other Hyperkinet Mov誌の最新号に興味深い図表が掲載されていましたのでご紹介します.標題の疑問に対するScoping review論文の表で,姿勢時(運動時)振戦,安静時振戦,頭部振戦の3項目についてヒートマップ図にしています.一目瞭然で分かりやすいです.とくに色の濃い(=出現頻度の高い)SCA12,SCA2,SCA3,SCA15/SCA16,SCA27について本文の解説を簡潔にまとめます.



①SCA12(インドに多く,本態性振戦と間違えうる)
PPP2R2Bの5’UTR領域にあるCAGリピートの伸長で,最初に発見されたのはドイツ系アメリカ人1家系.その後インド人家系が相次いで報告された.渉猟した限り日本人での報告はない.振戦はほぼ全例で認め,初発症状として高頻度に現れる.左右差あり.上肢の姿勢時振戦が最も多いが,運動時・安静時振戦もあり(コメント欄に動画).頭部振戦が多い.声帯,顎,舌,口周囲,体幹にも認める.ジストニアをよく合併し,dystonic tremorを呈する.振戦が出現したあとに運動失調が出現すること,アルコール摂取で改善することから,本態性振戦と誤診される.

②SCA2(頭部振戦が多い)
SCA2患者の49.6%に振戦が見られ,9.7%で初発症状となるという報告がある.姿勢時または運動時振戦が多く,安静時振戦は稀だが,パーキンソン病様の表現型を呈することがある.頭部,体幹(起立性),口唇,舌,軟口蓋の振戦を呈し,特に頭部が多く,35%に合併するという報告もある.パーキンソニズムを呈する症例ではレボドパに反応することがある.

③SCA3(2種類の振戦を呈し,ジストニアを伴いうる)
SCA3患者の8.3%に振戦が認められると言う報告がある.姿勢時・運動時および安静時振戦が認められる.体幹,起立時に認める.速い振戦と遅い振戦(6.5-8 Hzと3-4 Hz)の2種類が報告され,遅い振戦に対しレボドパが有効なことがある.振戦とジストニアの関連が示唆されている.クロナゼパムの有効例がある.

④SCA15/SCA16(日本人家系も報告されている)
同じITPR遺伝子変異より生じる同一の疾患と考えられる.上肢,体幹,頭部の姿勢時振戦を呈する.引用文献の2家系のうちの1家系の患者さんを診察したことがあるが,頭部振戦と起立時の振戦が目立ち,運動失調を認めるのに長距離マラソンができる患者さんで印象的であった.
Neurology. 2004;62(4):648-51.(doi.org/10.1212/01.wnl.0000110190.08412.25

⑤SCA27
FGF遺伝子変異で,SCA27Aと27Bが含まれる.SAC27AはFGF14遺伝子のヘテロ接合点突然変異,27Bは第1イントロンの深部に存在するGAAリピート伸長で,最近の報告では200リピート程度が発症の閾値となる.私達が経験することが多いのはSCA27Bで,姿勢時振戦が16%に認められるとする報告がある.

Table 1が各タイプごとの詳しい情報が書かれていますので,ご確認いただければと思います.

Mukherjee A, et al. Tremor in Spinocerebellar Ataxia: A Scoping Review. Tremor Other Hyperkinet Mov (N Y). 2024 Jun 20;14:31.(doi.org/10.5334/tohm.911)オープンアクセス

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MSA-PとMSA-Cは同じ疾患か? ―鉄沈着から眺めると両者の病態はまったく異なる―

2024年06月05日 | 脊髄小脳変性症
先月の日本神経精神薬理学会@東京にて,アミロイドβ,タウ,αシヌクレインに対する抗体療法のシンポジウムで演者を務めました.今後の展望を質問され,「病態メカニズムの全貌が解明されないかぎり,治療はうまくいかないだろう」という発言をして,治療の成功を期待する会場の雰囲気に水を差してしまいました.ただ脳虚血の治療研究にて脳の複雑さ・治療の難しさを痛感しており,抗体により単一の分子の発現を減らすだけで複雑な孤発性神経変性疾患を治療できるほど甘くはないと考えています.例えば今回ご紹介するカナダからの多系統萎縮症(MSA)についての論文を読むと,αシヌクレインは本当に病態の主役なのか,そもそも「MSAとは何なのか?」と考えさせられ,私達を混乱させます.

研究ではMSA 7例(MSA-P 4例,MSA-C 4例,C+P 1例)を対象として,鉄沈着の部位,細胞の種類,それぞれのサブタイプごとの違いについて検討し,以下の結果を見出しました.
・鉄沈着はMSA-Pでより顕著.
・鉄沈着が最も高度なのは淡蒼球,被殻,黒質.
MSA-Pでは基底核,MSA-Cでは脳幹に多く,分布が異なる.最も差を認めたのは被殻(図).
MSA-Pではミクログリアに鉄が蓄積する→鉄を含むミクログリアはフェロトーシスを誘発し,神経変性に関与する可能性がある.
MSA-Cではアストロサイトが主体か,もしくは同等 → アストロサイトは鉄毒性に対して耐性があり,フェロトーシスに対して保護的に作用する可能性がある.
・オリゴデンドロサイトの鉄沈着は黒質で最も高度.
・神経細胞の鉄沈着はは最も少ない.
・細胞外の領域に鉄が顕著に観察される → これもフェロトーシスに関与?
鉄とαシヌクレインの蓄積パターンには顕著な違いがあり,αシヌクレイン陽性神経細胞の鉄沈着も陰性である.
・αシヌクレイン陽性オリゴデンドロサイトにおける鉄沈着の頻度は,淡蒼球,被殻,黒質で10.1%,8.4%,24.3%(PSPのリン酸化タウ陽性アストロサイトと比べるとだいぶ低い)



以上より,鉄蓄積のパターンがMSA-PとCで異なり,かつαシヌクレイン蓄積と無関係に生じているため,鉄関連病態はαシヌクレイン病理の下流にあるわけではないことが示唆されます.もとともSND,OPCA,SDSという異なる疾患が,αシヌクレイン陽性GCIという共通の病理学的所見をもとに一つの疾患MSAに統合されたわけですが,鉄沈着から見てみると,MSA-PとCで,局在ばかりか蓄積する細胞も異なり,本当に同じ疾患として統合して良いのかと混乱してきます.現在,鉄をキレートする治療薬(ATH434)の臨床試験が海外で進行中ですが,今後,鉄代謝にさらに注目が集まっていくことは必然だろうと思います.
Lee S, et al. Cellular iron deposition patterns predict clinical subtypes of multiple system atrophy. Neurobiol Dis. 2024 May 16;197:106535.(doi.org/10.1016/j.nbd.2024.106535)オープン・アクセス

おまけ:フェロトーシス(ferroptosis):鉄依存性の酸化ストレスによって引き起こされるプログラムされた細胞死の一形態です.この過程では,細胞膜の脂質が過剰に酸化され,細胞が死に至ります.鉄は活性酸素種(ROS)の生成を促進し,脂質の過酸化を引き起こします.抗酸化物質であるグルタチオンの枯渇や,脂質過酸化を防ぐ酵素GPX4の機能低下がフェロトーシスを促進します.

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多系統萎縮症におけるαシヌクレイン封入体の超微細構造は多彩で,ミクログリアにも認められる

2024年05月17日 | 脊髄小脳変性症
多系統萎縮症に特徴的な病理所見として,オリゴデンドロサイトにおけるαシヌクレイン陽性glial cytoplasmic inclusion(GCI)があります.他のαシヌクレイノパチーでは主として神経細胞にαシヌクレインが認められるので大きな相違があります.またαシヌクレインはもともと神経細胞に豊富に発現しているのに対し,オリゴデンドロサイトでは発現が低く,オリゴデンドロサイトに蓄積するαシヌクレインがどこから来たものなのか,その起源についてもよく分かっていません.今回,各細胞のαシヌクレイン封入体の超微細構造を明らかにした研究がスイスからBrain誌に報告されました.

この目的のために,6人の剖検脳の被殻と黒質を光学顕微鏡と電子顕微鏡で検索し,128個のGCIを同定しました.興味深いことに,オリゴデンドロサイト,神経細胞,dark cellに「3つの異なるタイプ」のαシヌクレイン封入体が存在しました(図).以下,細胞ごとに特徴を示します.

1)オリゴデンドロサイト:GCI様フィブリル(線維)が一貫してオートファジーのオルガネラであるリソソームやペルオキシソームと共局在する.ミトコンドリア異常はなし.→ αシヌクレインの蓄積にオートファジー経路が関与することを示唆する.
2)神経細胞:神経細胞細胞質封入体(NCI)は,線維状および膜状の構造を持ち,パーキンソン病の封入体に類似する.→ MSAとパーキンソン病の類似性が示唆される.
3)dark cell:electron dense(電子密度の高い)な細胞でdark cell と呼ぶことができる.この細胞はミクログリアと考えられる.異なるタイプがあり,GCI様フィブリルまたは非GCI様超微細構造が認められる.→ 「αシヌクレイン蓄積の様々な段階」を示している可能性がある.またGCI様フィブリルが認められたことは,この細胞がMSAにおける病的αシヌクレインの発生や伝播に重要な役割を果たしている可能性を示唆する.



いずれにせよMSAではαシヌクレイン病理は,複数の細胞の複雑な相互作用によって引き起こされる可能性があります.PSPにおけるタウに関しても同様の相互作用が提唱されています(Ann Neurol. 2022 Oct;92(4):637-649).行ったことはシンプルなのですが,徹底的に観察することの大切さを教えてくれる論文だと思いました.



Böing C, et al. Distinct ultrastructural phenotypes of glial and neuronal alpha-synuclein inclusions in multiple system atrophy. Brain. 2024 May 2:awae137.(doi.org/10.1093/brain/awae137)


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小脳性運動失調とエピソード性の把握ミオトニアを呈した男性例・・・さて診断は?

2024年05月08日 | 脊髄小脳変性症
当科の森泰子先生らは,失調性歩行障害を主訴とする80歳男性を担当しました.家族歴なし.73歳より月1-2回,短期間,手を握ると開きにくくなることを自覚するようになり,また一過性の構音障害も経験しました.一過性脳虚血発作が疑われたものの各種検査で異常はなく,その後,構音障害と歩行困難は徐々に悪化し持続性になりました.慢性咳嗽なし.82歳時の神経症候では,小脳性運動失調,手袋・靴下型感覚障害,両側前庭動眼反射の障害がみられ,眼振はなし.手指には萎縮と拘縮がみられました.手指の曲げ伸ばしはでき,強く握ると開きにくい症状は残存していました(把握ミオトニア:図).叩打ミオトニアなし.RFC1遺伝子,DMPK遺伝子とも変異なし.



しかしFGF14遺伝子イントロンに229の純粋GAAリピート伸長を認めました.脊髄小脳失調症27 B(SCA27B)の原因遺伝子です.初期の報告では250リピートが病原性の閾値と示唆されていましたが,近年,200〜250のリピートが本症を発症しうることを示唆する報告がなされており,229リピートは病的である可能性があります.本例の特徴は初発症状のエピソード性の把握ミオトニアですが,SCA27Bではエピソード性運動失調を示すこと,またFGF14は神経系において電位依存性ナトリウムチャネルの機能を調節していることから説明ができなくもないように思います.今後の症例の集積が必要と思われます.なお本研究は横浜市立大学宮武聡子先生,輿水江里子先生,松本直通教授との共同研究として行いました.
Mori Y, Miyatake S, Kunieda K, Yoshikura N, Hayashi Y, Higashida K, Kimura A, Koshimizu E, Matsumoto N, Shimohata T. A cerebellar ataxia patient harboring 229 pure GAA repeat units in FGF14 presenting with grip myotonia. Neurol Clin Neurosci. 06 May 2024(doi.org/10.1111/ncn3.12826


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多系統萎縮症における胸のつかえ,嘔吐の原因 ―遠位食道痙攣(distal esophageal spasm)の発見―

2024年04月15日 | 脊髄小脳変性症
以前,私どもは多系統萎縮症(MSA)では食道の機能障害により,食道内の食べ物の停滞が生じ,場合によっては逆流して誤嚥性肺炎や窒息による突然死の原因となりうることを報告しました(Taniguchi H, et al. Dsyphagia 2015).今回,当科の大野陽哉先生と國枝顕二郎先生が食道機能障害についてさらに検討し,「遠位食道痙攣(distal esophageal spasm:DES)」という現象が生じうることを初めて明らかにしました.

症例は74歳男性.3年前に起立性低血圧にて発症し,同時に胸に食べ物が詰まった感じ,食後の反復性嘔吐を呈しました.小脳性運動失調が認められ,MSA-Cと診断しました.ビデオ透視による嚥下検査では,下部食道狭窄と食道内のバリウム停滞が認められました.


内視鏡検査では下部食道の過収縮が認められました.


さらに高解像度食道マノメトリー検査では下部食道の早期収縮と食道蠕動運動の低下が認められました.


下部食道括約筋の統合弛緩圧は正常であったため,アカラシアは除外されました.シカゴ分類ver 4.0に基づき,食道運動障害は「遠位食道痙攣」に分類されました.治療としては内視鏡的バルーン拡張術を行い,その後,胸部の詰まった感じと嘔吐は改善しました.本例は,MSA患者においてDESが食道食物の停滞と食後嘔吐を引き起こす可能性があることを示した点とその治療法を示した点で非常に重要と考えられました.

以上より,ビデオ内視鏡による嚥下検査に加えて,高解像度食道マノメトリー検査は,再発性の嘔吐や胸のつかえを呈するMSA患者に有用と考えられます.このように食道機能を注意深く評価することで,誤嚥性肺炎や窒息死を予防することができる可能性があります.
Ono Y*, Kunieda K*, Takada J, Shimohata T. (*equally contributed) Distal oesophageal spasm in a patient with multiple system atrophy: A case report. eNeurol Sci. 13 April 2024. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2405650224000078

MSAの食道機能障害
Taniguchi H, et al. Esophageal Involvement in Multiple System Atrophy. Dysphagia. 2015 Dec;30(6):669-73.(doi.org/10.1007/s00455-015-9641-2

DESの総説
Zaher EA, et al. Distal Esophageal Spasm: An Updated Review. Cureus. 2023 Jul 7;15(7):e41504.(doi.org/10.7759/cureus.41504

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CANVASを画像からMSA-C,SCA3と区別するポイント

2024年04月11日 | 脊髄小脳変性症
RFC1遺伝子関連スペクトラム障害は,RFC1遺伝子のAAGGG反復配列の伸長に伴う疾患です.代表的な表現型は小脳性運動失調,感覚性ニューロパチー,両側前庭障害を3徴とする多系統障害型の運動失調症候群であるCANVAS(cerebellar ataxia with neuropathy and vestibular areflexia syndrome)です.症候は運動緩慢や自律神経不全など多様性に富むため,多系統萎縮症(MSA-C)や脊髄小脳失調症3型(SCA3)などが主な鑑別診断となります.Mov Disord Clin Pract誌に,フランスから画像から鑑別できるか検討した報告が掲載されています.自験例6例と既報例13例で,FDG-PET,DaTスキャン,MIBG心筋シンチを行なっています.結論は以下です.

◆FDG-PET:CANVASでは主に小脳の代謝低下を示すが,脳幹と線条体の代謝は保たれており,MSA-CやSCA3と鑑別できる.
◆DaTスキャンにおける取り込み低下は,臨床的パーキンソニズムと関連しているようで,正常から重度の障害までさまざま.
◆MIBG心筋シンチはCANVASではSCA3と同様に取り込み低下を示しうるが,ほとんどのMSA-Cでは正常である.



図のFDG-PETは,Case 1,4,5では前側・頭頂葉の代謝低下が認められます.Case 1,3,4では小脳の代謝低下も認めます.しかし線条体と脳幹の代謝は保たれています.DaTスキャンはCase 1,4は正常,Case 3は高度低下,Case2は非対称性中等度低下を示し,さまざまです.
Horowitz T, et al. Molecular Imaging in CANVAS: A Contribution for Differential Diagnosis? Mov Disord Clin Pract. 2024 Apr 4.(doi.org/10.1002/mdc3.14041

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