Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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ハンチントン病はなんとβ遮断薬により進行抑制できるかもしれない!

2024年12月05日 | 舞踏病
遺伝性神経変性疾患であるハンチントン病(HD)の進行を遅らせる可能性のある治療法として,β遮断薬の効果を検討した観察研究が,アメリカのアイオワ大学を初めとするチームによって行われ,JAMA Neurology誌に発表されました.まさか古典的な心臓の薬であるβ遮断薬にそのような作用があるとはとても驚きました.

まず背景ですが,HD患者では心拍数の上昇や血圧の上昇など交感神経系の過剰な活性化が認められることが知られており,これが病状の進行に関与している可能性が示唆されていました.β遮断薬は交感神経の活性を抑制する作用があるため,HD患者に対して治療的な効果が期待されるのではないかという仮説が立てられました.

国際的な縦断的研究プラットフォーム「Enroll-HD」のデータを活用し,β遮断薬がHDの発症時期や症状進行に与える影響を検討しました.具体的には約150の研究施設から提供された縦断的データを解析しました.HDの発症前段階にある「前運動型HD(premanifest HD;preHD)」の患者と,症状が顕在化した「初期運動型HD(early motor-manifest HD;mmHD)」を対象にしました.参加者はβ遮断薬を1年以上使用しているグループと,使用していないグループに分けられ,それぞれの症状の進行が比較されました.

まずpreHD患者ですが,β遮断薬使用群174名では,非使用群174名に比べて,運動症状の年次リスクが有意に低いことが分かりました.また運動症状の診断が下されるまでの期間を示した生存曲線(図1)では,β遮断薬使用群は非使用群よりも34%低いリスクでした(ハザード比0.66, P=0.02).つまりβ遮断薬がHDの症状の出現を遅らせる可能性が示唆されました.



続いてmmHD患者ですが,β遮断薬使用群149名では,非使用群149名に比べて,症状の進行が有意に遅いことが分かりました.運動スコア(total motor score;TMS),総合機能スコア(total functional capacity;TFC),および認知機能スコア(symbol digit modalities test;SDMT)の進行速度を比較した結果,β遮断薬使用群のスコア悪化速度は非使用群よりも有意に遅いことが分かりました(図2).例えば,TMSの年間悪化速度は,β遮断薬使用群で2.62ポイント/年であったのに対し,非使用群では3.07ポイント/年でした.また選択的β遮断薬使用者は,いずれのスコアも非使用群より進行速度が遅くなりましたが,非選択的β遮断薬では有意差は見られませんでした.



本研究は観察研究であるため,因果関係を確定することはできず,さらなる臨床試験が必要ですが,β遮断薬がHD治療の新たな可能性を開くものであることが示されました.β遮断薬が交感神経系にどのように作用し,HDの進行に影響を与えるかについて,さらなるメカニズムの解明が必要と思われました.またいかに難攻不落の神経難病の治療シーズをどのように見出すか最新の科学技術が駆使されていますが,このように臨床症状の中に隠れていることもあるのだなと,観察することの大切さを認識しました.
Schultz JL, et al. β-Blocker Use and Delayed Onset and Progression of Huntington Disease. JAMA Neurol. 2024 Dec 2.(doi.org/10.1001/jamaneurol.2024.4108)

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ハンチントンが150年前に記載した舞踏病論文を読み感動する

2022年07月31日 | 舞踏病
George Huntington(1850–1916)は,彼の名前を冠した疾患,すなわちハンチントン病の臨床像を論文に記載したアメリカの医師です(Huntington G. On chorea. Med Surg Rep 1872;26:317-321).その論文が執筆されて今年はちょうど150年になります.初めて読んでみました.



内容を要約すると,まず舞踏運動の症候について詳細に,また見事に記載しています.つぎに小児における舞踏運動(シデナム舞踏病)の特徴と原因,舞踏病の剖検所見と責任病巣(小脳が指摘されているが機序は不明と記載),舞踏運動を起こすさまざまな原因,そして治療(瀉下薬,強壮剤,鍼灸,原因の除去等)について記載しています.最後にロングアイランドにのみ存在する遺伝性舞踏病に関して述べています.3つの特徴として,①遺伝性であること,②心神喪失と自殺の傾向があること,③成人してから重大な病気として現れることが記載されています.印象深いのは「この病気の種が存在することが知られている人々の間では,この病気は一種の恐怖とともに語られ,『あの病気』として言及されるときには,切実な必要性以外にまったく触れられない」と記載していることです.150年前から家族の負担の大きさを理解し,重要視していたことが窺えます.

Mov Disord誌にこの論文の解説とハンチントン病研究の歴史を紹介する論文が発表されています.これによるとHuntingtonはハンチントン病の患者を8歳の頃から,医師である父親の回診に同行して観察していたそうです.そして「それ以来,この病気に対する私の興味は完全に絶えることがなかった」というHuntingtonの言葉が紹介されています.私も初めてこの疾患の患者さんの主治医になったときのことは忘れられませんので,子供であったHuntingtonの受けた衝撃は想像に難くありません.

またこの解説論文で初めて知りましたが,Huntingtonがハンチントン病を最初に記載したわけではなく,すでに複数の論文報告があったのだそうです.しかしなぜ彼の名を冠した病名がついたかというと,19世紀末になり専門医の間で舞踏病について多くの議論がなされ,そのなかで私の敬愛するウィリアム・オスラー卿が論文「On Chorea and Choreiform Affections」を1894年に発表し,そのなかで用いた「ハンチントン舞踏病」という病名が急速に広まったそうです.神経学の大家であるオスラー卿は「医学の歴史において,ある病気がこれほど正確に,これほど図式的に,これほど簡潔に説明された例はほとんどない」とHuntingtonの業績を称えています.最後にもう一つの驚きは,この論文はHuntingtonが生涯に発表したわずか3本の論文のうちの1本だったそうです.「On chorea」は以下に全文が掲載されています.ぜひご一読ください.

Huntington G. On chorea. George Huntington, M.D. J Neuropsychiatry Clin Neurosci. 2003 Winter;15(1):109-12. (doi.org/10.1176/jnp.15.1.109)
Franklin GL, et al. "On Chorea": 150 Years of the Beginning of Hope. Mov Disord. 2022 Jun 10.(doi.org/10.1002/mds.29121)

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舞踏運動の鑑別診断update

2016年04月11日 | 舞踏病
Neurology Clinical Practice誌のFive new thingsは,新しい知識を学ぶのに良い連載であるが,今月号ではハンチントン病以外の舞踏運動を取り上げている.原疾患の診断により治療が可能なことが少なからずあるため,鑑別診断が重要となる.さらにこのテーマは,Huntington's Disease-like 2やBenign hereditary chorea(BHC2)など大学院時代から取り組んできたものでもあり個人的にも関心が深い.

Margolis RL et al. Huntington's Disease-like 2 (HDL2) in North America and Japan. Ann Neurol. 2004 Nov;56(5):670-4.
Shimohata T et al. Novel locus for benign hereditary chorea with adult onset maps to chromosome 8q21.3 q23.3. Brain. 2007 Sep;130(Pt 9):2302-9.
下畑享良ら.舞踏運動の鑑別診断.脳と神経 61(8), 963-971, 2009

ではFive new thingsをまとめたい.

【ADCY5関連ジスキネジア】
adenylate cyclase 5(ADCY5)遺伝子変異は小児期発症の舞踏運動の原因となる(常染色体優性ないしde novo変異).表現型としては発作性舞踏運動(とくに夜間に増悪),ジストニア,ミオクローヌス,低トーヌスを示す.経時的な進行は目立たない.家族性良性舞踏病の原因のひとつと言える.治療としてベンゾジアゼピンが有効.またADCY5は線条体や心筋に高発現するため,最初のレポートの家系では心筋症や心不全が認められた.YouTubeにて動画を見ることができる.
ADCY5-related dyskinesia


【C9ORF72遺伝子変異】
C9ORF72の6塩基反復配列(GGGGCC)の異常伸長は,常染色体優性遺伝形式を示し,ALSや前頭側頭型認知症以外に,ハンチントン病様症状を示す.これらの種々の表現型が同一家系内でも認められることがあるが,その機序は不明である.健常者は2-20リピート程度,それ以上から200~300リポートがintermediate,それ以上から数千までが発症者になる.発症は小児にも見られるが,多くは成年期以降である.上位運動ニューロン徴候や前頭葉徴候がヒントとなる.病理所見はTDP43-opathyであるが,基底核にとくに病理変化が強いかは不明である.

【脳内鉄蓄積を伴う神経変性症候群】
脳内鉄蓄積を伴う神経変性症候群(NBIA: Neurodegeneration with brain iron accumulation)における神経疾患表現型のスペクトラムが拡大している.これらの疾患はMRI(とくにT2WI)の基底核や中脳,小脳の特徴的な所見から気が付かれることが多い(図).多くはPKAN(パントテン酸キナーゼ関連神経変性症)やmembrane protein-associated neurodegeneration(MPAN)のように小児期発症の常染色体劣性遺伝であるが,BPAN(Beta-propeller Protein-Associated Neurodegeneration)のようなX染色体劣性の疾患や,神経フェリチノパチーのような常染色体優性の疾患もある.PLA2G6 associated neurodegeneration(PLAN)の原因遺伝子であるPLA2G6遺伝子はさまざまな表現型を示すことが判明し,当初,ジストニア・パーキンソニズムを呈すると報告されたが,Infantile neuroaxonal dystrophy(INAD)やPARK14に加え,小児発症の舞踏運動も呈しうる.


無セルロプラスミン血症は常染色体劣性,セルロプラスミン遺伝子変異で生じるが,フェロキシダーゼ活性を喪失するためフェリチンレベルが上昇する.成人発症で,認知機能障害,精神症状,行動異常,失調,ジストニアに加え舞踏運動を呈しうる.小脳,基底核,膵臓に鉄が沈着し,糖尿病も併発する.鉄キレート剤が有効な可能性あり.

神経フェリチノパチーは上述のとおり,NBIAで唯一,常染色体優性,フェリチン軽鎖遺伝子変異で生じる.舞踏運動,ジストニア,パーキンソニズムを呈しうる.血清フェリチンは減少する.鉄沈着は基底核,進行すると赤核,歯状核にも見られるようになる.鉄キレート剤の効果は不明である.
以上より,舞踏病では頭部MRIの鉄沈着のチェックに加え,セルロプラスミンとフェリチンの測定は確認すべきである.

【舞踏運動を引き起こす自己抗体】
シデナム舞踏病における抗大脳基底核抗体のような舞踏運動に関連した自己抗体が多数報告されている.傍腫瘍性,ないし非傍腫瘍性の2つに分類できる.随伴症状として,小脳性運動失調,脳炎,痙攣,睡眠障害,stiff-person症候群などを認める.奇妙なことに舞踏運動が一側性のこともあるが,機序は不明(脳が元来対称性でないことが関与しているという説がある?).対処としては,まずCTやPETを用いて腫瘍の検索を行う.見つかった場合にはその治療を行う.見つからない場合は免疫療法(IVIG,ステロイド,血漿交換)が奏効する可能性がある.

腫瘍を認めない舞踏運動に関連した自己抗体
leucine-rich glioma-inactivated 1 (LGI1), NMDA, IgLON5, contactin-associated
protein 2 (CASPR), GAD65, CRMP-5/CV2

傍腫瘍性舞踏運動に関連した自己抗体
Hu, Yo, LGI1, NMDA, IgLON5,CASPR, GAD65, CRMP-5/CV2, striational muscle

【舞踏運動に対する深部刺激療法】
淡蒼球内節(GPi)に対する深部刺激療法は,ハンチントン病や神経有棘赤血球症での有効性が少数例での検討ながら報告されているが,むしろ症状の進行を認めない非変性疾患は良い適応となる.具体的には,視床出血,脳性麻痺,非ケトン性高浸透圧性昏睡があげられる.しかし進行性でも程度が非常に高度な場合には検討してもよいだろう.




Walker RH. The non–Huntington disease choreas. Five new things. Neurol Clin Pract 10.1212/CPJ.0000000000000236

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親の遺伝子診断の結果を子供に,いつ,誰が,どうやって知らせるか?知らせないか?

2016年02月06日 | 舞踏病
自らがハンチントン病の家系の一員であったウェクスラーは,ハンチントン病の遺伝子診断に関連して,the choice not to know nowという表現を用いて,ハンチントン病のリスクのあるひとにおいて,十分な事前のカウンセリングの後に,検査を受けるか,もしくは「今は知らないでおく」かの選択をすべきと述べた.つまり遺伝子検査の結果を「知らないでいる権利(right not to know)」は,症状を呈していない,遺伝性疾患を発症する可能性のある個人において,発症前の遺伝子診断によって,遺伝的リスクの有無を明らかにすることを選択しないでおく権利のことと言える(神経疾患の遺伝子診断ガイドライン2009).

私は大学院生時代,遺伝子診断係を担当し,CAGリピート病をはじめとする遺伝子診断を多数行った.そのなかで遺伝子診断が,本人だけではなく,その家族に大きな影響を及ぼすことや,発症前診断・出生前診断の倫理的問題について考える機会を得た.また自分なりに遺伝カウンセリングについても勉強し,遺伝子診断については理解したつもりであったが,最近,「知らないでいる権利」に関連して考える出来事があったので記載したい.

あるCAGリピート病が疑われる患者さん(孤発例)を担当した(図矢印).この疾患は,診断や発症の予測はできるが,治療法は確立していない.認知機能とBernard Loの基準を用いて「自己決定能力」は保たれていると判断し,ご本人と妻に遺伝子診断のメリットとデメリットを説明したところ,遺伝子診断の希望があった.結果は陽性で,その結果をご説明し,その後の療養について相談を開始した.そのあと,家系内のリスクのある個人(すなわち子供)に,父の遺伝子診断の結果を伝えるかを相談した.つまり遺伝病の家系の一員であるという情報を「いつ,誰が,どうやって知らせるか?」の相談である.

そのとき私は「そもそも子供に知らせなければいけないのであろうか?」と思った.若いころは,このようなことはあまり考えなかったが,今回は「そのリスクを伝えないという選択肢があっても良いのではないか?知らないで過ごしたほうが,幸せなのではないか?」「このような『知らないでいる権利』もあるのではないか?」と考えたのだ.

しかし確信は持てず,遺伝子診療および研究倫理のエキスパートである先生に連絡をとり,相談をしてみた.そして,以下を教えていただいた.
1.「知らないでいる権利」の前提は,「家系内に遺伝病があるということを知っていること」である.つまりこの権利はあくまでも遺伝学的検査の結果に対してのものである.
2.欧州やカナダでは,基本的に親から子供に発症のリスクを伝えるべきと考えられており,そのためのハンドブックもある.そのハンドブックには,まだ子供であっても,親が病気であることを教えることから始め,徐々に自分にもリスクがあることを説明をしていくこと,リスクを説明する際は医療者の支援を求めることが記載されている.
3.一方,日本では,「知らなかったお蔭で,何も考えずに青春を過ごせた」という意見もあり,家系員であることを伝えることは親の義務であるとまでは合意されていないものの,基本的には親から子供に話し,医療者がその応援をするという考え方が支持されている.ただし個々の事例によるという余地を残す必要があると考えられていること.

そもそも自分は「知らないでいる権利」の前提について理解してなかった.しかしそれでも,私が疑問を持ったような,遺伝性疾患の家系員であることを「知らないでいる権利」はないのだろうか?ただし,それを認めた場合,伝えないという判断を親がすることになり,本人の意思は無視されるという問題が生じることは容易に思いつく(そもそも権利とは言えないかもしれない).しかし子供の性格をよく知る親が,事実を知ることに耐えられないと思った場合,子供,もしくは成人であっても伝えないという選択肢もありうるのではないだろうか?

いずれにしても,現在,病気を予見する技術が,治す技術や患者さんを支援する体制より大きく先行している.遺伝病のリスクを抱えたひとを支える体制づくりをより充実させる必要がある.

参考となるホームページ
知らないでいる権利

ウェクスラー家の選択



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Tardive syndromeの治療

2015年08月28日 | 舞踏病
抗精神病薬を長期間,内服していると,顔,口周辺,顎,舌,さらに手足や体にジスキネジアが出現しうる.内服開始後数カ月,ときには数年以上経ってから現れることがあるため,遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia; TDD)と呼ばれる(動画).またジストニアとなることがあり,遅発性ジストニアと呼ばれる.両者は近年,tardive syndrome(TDS)とまとめて記載されている.難治性の病態であり,予防が一番重要である.最近,TDS患者さんを治療する機会があり,米国神経学会(AAN)治療ガイドラインを勉強したのでまとめてみたい.5つのclinical questionに答える形で記載されている.

AANガイドラインでのエビデンスレベル
Level A. Established effective/ineffective
Level B. Probably effective/ineffective
Level C. Possibly effective/ineffective
Level U. Inadequately or conflicting

Q1: 神経遮断薬(ドパミン受容体遮断薬)の中止はTDS治療に有益か?
A: エビデンス不十分で分からない(Level U).American Psychiatric Association Task Forceは,抗精神薬の中止は可能な患者のみに行うべきと推奨している.経験的には短期間での中断はジスキネジアを増悪させる可能性があるとのこと.精神症状の再発の予見因子としては,若年,もともとの抗精神薬の用量が多いこと,短い入院期間が知られている.

Q2: 定型抗精神薬から非定型抗精神薬への切り替えは,TDSの症状を軽減するか?
A: エビデンス不十分で分からない(Level U, Class IV studies).

Q3: TDSの治療に有効な薬剤はなにか?
以下,薬剤ごとにエビデンスを記載する.

1. Amantadine
神経遮断薬と併用した場合,最初の7週間以内においてTDSを軽減しうる (Level C,1 Class II study, 2 Class III studies).長期の効果は不明であるが,短期間であれば神経遮断薬との併用を考慮して良い.

2. Acetazolamide
AcetazolamideとチアミンがTDSを軽減したという1つのClass III研究があるが,エビデンス不足である(Level U).

3. 第一世代抗精神病薬
Level U.Haloperidolは2週間までの使用でTDSを軽減する可能性があるが (2 Class II studies, 1 Class III study),副作用としてakinetic-rigid syndromeを来しうる(1 Class II study). Thiopropazateが口ジスキネジアを軽減するかは十分なエビデンスがない (1 Class III study).thiopropazate, molindone, sulpiride, fluperlapine, flupenthixolについてもエビデンスはない.
→ haloperidolはTDSを軽減しうるが,長期間の使用のデータはなく,akinetic-rigid syndromeをきたしうるため推奨されない.

4. 第二世代抗精神病薬
Level U.Clozapineについては相反する2つのデータがある(Class III studies).Risperidone恐らくTDDの軽減に有効(2 Class II studies, 1 Class III study).Olanzapineも恐らくTDDの軽減に有効である(2 Class III studies).Risperidoneとolanzapineの安全性は48週までしか評価がなされていない.quetiapine, ziprasidone, aripiprazole, sertindoleの有用性は不明.しかしこれらの薬剤はそれ自体がTDSを引き起こしうるため,治療への推奨はできない.Risperidoneやolanzapineで治療を行う場合,注意を要する.

5. 電気けいれん療法
エビデンス不十分で分からない(Level U).

6. ドパミン枯渇薬
Tetrabenazine (TBZ)はTDS症状を軽減する可能性がある(Level C,2つの同じ結果のClass III研究).TBZはTDSの治療として考えて良いかもしれない.Reserpineやα-methyldopaがTDS治療に有効という研究があるが(Class III),エビデンスは不十分である(Level U).
→TBZの長期内服がTDSを引き起こすかについてはエビデンスがないが,パーキンソニズムを引き起こしうるので注意が必要.

7. ドパミン・アゴニスト
エビデンス不十分で分からない(Level U).

8. コリン作動性薬剤・抗コリン薬
GalantamineはおそらくTDS治療には無効で (Level C negative,1 Class II study),治療として考えない方が良いかもしれない.その他のコリン作動薬,ないし抗コリン薬についてはエビデンス不十分で分からない(Level U).

9. Biperiden (Akineton)中止
エビデンス不十分で分からない(Level U,1 Class III study).

10. 抗酸化薬
イチョウ葉エキス(EGb-761) は恐らく有効だが(Level B,1 Class I study),統合失調症の入院患者に限定したデータである. エイコサペンタエン酸は恐らく無効である(Level C negative,1 Class II study).ビタミンEの有効性に関しては相反するデータが出ている(Level U,4 Class II and numerous Class III studies).Melatoninは2-mg/d doseでは無効だが (1 Class II study),10-mg/d doseでは有効 (1 Class II study)で,相反するデータが出ている(Level U).他の抗酸化剤であるビタミンB6 , selegiline, yi-gan san, in treating TDSについてはデータ不十分である(Level U).

11. GABAアゴニスト
clonazepam は短期間(約3ヶ月)であれば恐らく有効(Level B,1 Class I study).baclofenエビデンス不十分で分からない(Level U).

12. Levetiracetam
エビデンス不十分で分からない(Level U, 1 Class III study).

13. カルシウム・チャネル拮抗薬
Diltiazemは恐らくTDDを軽減しないので,治療として考えないほうが良い(Level B negative,1 Class I study).Nifedipineについてはデータ不十分(Level U).

14. Buspirone
エビデンス不十分で分からない(Level U,1 Class III study).

Q4: ボツリヌス毒素によるchemodenervationは有効か?
A: エビデンス不十分で分からない(Level U).

Q5: 手術は有効か?
A: 淡蒼球深部刺激療法についてはエビデンス不十分で分からない (Level U,Class IV studies).

以上,本ガイドラインに則って治療を行うとすると,まずClonazepamで治療を始める(ただし長期投与の影響については不明).イチョウ葉エキスは,日本で購入できるサプリメントとは成分が違うため,日本のサプリメントは薦めにくい.よって次はAmantadine,Tetrabenazine (TBZ)が候補になる(ただじいずれも保険適応なし).

Neurology 81; 463-469, 2013

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ハンチントン病における舞踏運動に対する薬物療法

2013年04月08日 | 舞踏病
舞踏運動は,認知機能障害や精神症状とともにハンチントン病(HD)の重要な徴候である.通常,発症早期から出現,徐々に増悪するADLを障害し,転倒の危険性を高め,体重減少をもたらす.HDでは舞踏運動の治療はとても大切である.

しかし舞踏運動の神経化学的背景は複雑で,十分に解明されていない.基本的にはドパミンやグルタミン酸伝達の異常により,線条体や大脳皮質障害を介して舞踏運動をきたすと考えられている.これまで上記に関わる神経伝達物質や受容体が検討され,酸化的ストレスやグルタミン酸による興奮性神経細胞毒性を標的とする神経保護薬が検討されてきたが,根本的治療はない.

さて,米国神経学会によるHDの舞踏運動に対する薬物療法のガイドラインをまとめたい.「成人のHD患者にみられる舞踏運動の治療として,確立された評価スケールによって有効性が確認されている薬剤は何か?」を検討している.systematic review は,2011年2月までに発表され,少なくとも20人以上を対象とした論文に対して行なわれた.評価スケールとしてはUnified Huntington's Disease Rating Scale(UHDRS)が用いられた(106点中28点が舞踏運動に対するもので,顔面,頬部,口,舌,体幹,四肢の舞踏運動を評価する.点数が大きいほど重症,点数の減少の程度で治療効果の大きさを定義している).長期的使用(12ヶ月を超える)と短期的使用(12ヶ月以下)に分けて,薬剤の有効性と副作用について検討している.

評価の対象となった薬剤は以下のとおりである.
A. ドパミン作用調節薬:テトラベナジン(小胞型モノアミントランスポーター阻害剤で,ドパミン減少作用をもつ),クロザピン(非定型抗精神病薬)
B. グルタミン酸作用調整薬:アマンタジン(黒質線条体からのドパミン放出促進),リルゾール(グルタミン酸受容体活性化の抑制作用)
C. エネルギー代謝物:エイコサペンタエン酸エチル,クレアチン
D. その他:ドネペジル,コエンザイムQ10,ミノサイクリン,ナビロン(合成カンナビノイド)

推奨は以下の6項目である.
1. テトラベナジン(100 mg/day), アマンタジン(300–400 mg/day), リルゾール (200 mg/day)は有効(Level B). とくにテトラベナジンは抑制効果が強く,リルゾールはそれにつぐ. アマンタジンの効果の程度は不明.副作用のチェックが重要で,テトラベナジンではうつ,自殺,パーキンソニズム,リルゾールでは肝酵素上昇に注意する.
2. ナビロンは舞踏運動を軽度抑制するが(Level C),とくに薬剤乱用の恐れがある場合には長期使用は勧められない(Level U).
3. リルゾール 200 mg/dayは舞踏運動を緩和する傾向があるが,100mgでは中等度以上の効果は望めず,長期的効果もない(Level B).
4. エイコサペンタエン酸エチル(Level B),ミノサイクリン(Level B),クレアチン(Level C)に高度の抑制効果はない.
5. コエンザイムQ10 に中等度以上の抑制効果はない(Level B).
6. クロザピン, その他の神経遮断薬,ドネペジルの効果は不明である(Level U).

ちなみにテトラベナジンはFDAがHDに対し認可した唯一の薬剤であり,その他は適応外使用ということになる.また本ガイドラインの問題点としては,①治験の対象が通常,歩行可能でADLが保たれている症例や,高度のうつ・認知症を認めない症例を対象としているため,進行期を含めた患者全体に当てはめられないこと,②臨床的に意義のあるUHDRSスケールの最小値が分かっていないこと,③治療に対する自己決定や,費用対効果(テトラベナジン, リルゾール,ナビロンは高額)について未検討であることが挙げられる.

今回のガイドラインを読んで,「日本とはだいぶ使用薬剤が違う!」と思った人が多いのではないだろうか.理由として2つのことが思いつく.ひとつは,日本で伝統的に使用されている神経遮断薬がクロザピンを除くと見当たらないためである.クロザピンのほかに,チアプリド(グラマリール)に対する2つの試験があるようだが,確立された評価スケールが使用されていなかった.つまり日本で使用されている神経遮断薬は,エビデンスは確立されておらず,さらに副作用として知られるパーキンソニズムが,どのような影響を与えているのか不明なまま長期間使用されてきたということだ.もう一つの理由は,海外では,神経保護薬だけでなく,対症療法についての治療研究が並行して行われているためである.日本では新規薬剤の介入研究自体が多くなく,行われたとしても病態解明研究に基づく将来の神経保護薬開発が主体で,今まさに症状で困っている人に有益な対症療法の研究が十分ではない可能性がある.このような研究の推進とサポートする体制が必要だと思う.

ちなみにテトラベナジンはXenazine/Nitoman の商品名で欧州,アメリカなどで販売されているが,日本でも昨年,製造販売承認が厚労省に提出されている.

Pharmacologic Treatment of Chorea in Huntington Disease
Evidence-based guidline: Pharmacologic treatment of chorea in Huntington disease
Neurology 79; 597-603, 2012


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成人における自己免疫性舞踏病

2013年02月25日 | 舞踏病
成人の舞踏病はさまざまな原因で生じるが,普通,ハンチントン病を思い浮かべる.しかし遺伝子診断を行なっても,IT-15(ハンチンチン)遺伝子のCAGリピート伸長を認めないことを少なからず経験する.このような症例の中には歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)や,私どもが以前報告した家族性良性舞踏病2型(BHC2)のような変性疾患もあるが,自己免疫的機序を介して発症する舞踏病も認められる(文献1,2).

自己免疫が関与する舞踏病としては,SLEや抗リン脂質抗体症候群のほか,傍腫瘍性として小細胞癌に合併するCRMP-5(collapsin response-mediator protein 5)-IgG関連傍腫瘍性舞踏病,傍感染性としてシデナム舞踏病(成人では多くはない)が有名である.ちなみにこれらの疾患とハンチントン病の鑑別のポイントは,亜急性の発症,症状の変動,自然寛解を認めることが知られている.しかし,これら自己免疫性舞踏病に関する臨床,血清学的データは乏しい.今回,傍腫瘍性と特発性(非傍腫瘍性)の舞踏病の臨床像を比較した研究がMayo clinicから報告されたので紹介したい.

対象は1997年から2012年までの16年間に経験した36名の自己免疫性舞踏病症例である.うち21名(58%)が女性で,発症年齢の中央値は67歳,18歳から87歳に及んでいた.シデナム舞踏病は18歳よりも若い発症であった.Olmsted郡における罹病率は1.5/100万人年と推定された.舞踏病の家族歴は全例で認められないが,13名(40%)に自己免疫疾患の家族歴を認めた.いずれの症例も頭部MRIで基底核における虚血を示唆する所見はなく,診断に有用ではなかった.全例で発症は亜急性であった.舞踏運動の部位としては,全身性舞踏運動が16名,局所性が20名(hemichorea 9名,limbs chorea 8名,顔面・舌 3名)であった.ハンチントン病ではhypometric saccadic eye movementが有名であるが,36名におけるabnormal saccadic eye movementは4例と稀であった(全例傍腫瘍性であった).3名がホルモン療法(エストロゲン2名,プロゲステロン1名)開始後3ヶ月以内に発症し,中止後も舞踏運動は改善しなかった.この現象は妊娠舞踏病や経口避妊薬誘発舞踏病に通じるものと考えられ,女性ホルモンの使用は,SLEやAPS症例における舞踏病発症の危険因子と考えられた.また血清学的な検討に関しては,NMDA受容体抗体陽性例はなく,またマウス脳を用いた免疫グロブリン(IgG)染色パターンの検索でも基底核に特異的な反応を認めた症例もなかった.しかし2名で,舞踏病では初めて報告されるシナプスIgG抗体(GAD65およびCASPR2)を認めた.

36名の内訳として14名の傍腫瘍性舞踏病と22名の非傍腫瘍性舞踏病が認められた.傍腫瘍性の14名中13名で組織所見が確認され,小細胞癌と腺癌が多かった.うち6名で腫瘍関連自己抗体が陽性で,とくにCRMP-5 IgGとANNA-1が多かった(ほかにはANNA-2,amphiphysinが認められた).抗癌剤治療を受けた7名中3名,免疫療法を受けた11名中5名で舞踏運動の改善を認めた.つまり,免疫療法の有効率は高くなかった.

一方,非傍腫瘍性群では22例中19例で自己免疫疾患を認め,SLEないし抗リン脂質抗体症候群が多かった.自己抗体は21例で認められ,やはりSLEないし抗リン脂質抗体症候群関連の抗体であった.

傍腫瘍性群および非傍腫瘍性群の比較では,傍腫瘍性群は高齢で(p=0.001),男性に多く(p=0.006),4kg以上の体重減少(中央値11kg)がしばしば認められ(p=0.02),末梢神経障害をより多く合併した(p=0.008).有意差は認めないものの重症例が多い傾向を認めた(p=0.06).末梢神経障害の原因は化学療法や糖尿病の合併によるものではなかった.

以上より,自己免疫性舞踏病は稀ではあるものの,その背景に腫瘍や自己免疫性疾患が存在しうるため鑑別診断として検討する必要がある.とくに男性,高齢発症,末梢神経障害の合併,体重減少を認める症例では,悪性腫瘍の検索が必要である.

Autoimmune chorea in adults. Neurology 80; 1-12, 2013

文献1.舞踏運動の鑑別診断 BRAIN and NERVE 61;963-971, 2009
文献2.Novel locus for benign hereditary chorea with adult onset maps to chromosome 8q21.3 q23.3. Brain 130:2302-2309, 2007

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良性遺伝性舞踏病2型(BHC2)はタウオパチー?

2012年01月23日 | 舞踏病
2007年に新潟大学脳研究所が中心となり,良性遺伝性舞踏病2型(benign hereditary chorea type 2;BHC2)という新しい疾患の存在を明らかにした(Brain. 2007).常染色体優性遺伝形式を呈する疾患で,神経学的には舞踏運動のみを成人期以降に発症する.認知症や精神症状など,その他の神経学的異常を呈さないことから「良性」と名付けられた.良性遺伝性舞踏病としては,TITF-1(thyroid transcription factor-1 gene)遺伝子が原因で,幼児期ないし小児期に発症する疾患が報告されていたが,それとは臨床像も原因遺伝子も異なっている.むじろ古くから存在が知られる,いわゆる「老人性舞踏病」と臨床像が類似している.原因遺伝子座は同定されたが(8q21,3-q23.3),原因遺伝子までは未同定であるため,BHC2と診断されたのは連鎖解析が行われた本邦2家系のみである(下記の記事参照).

新しい遺伝性舞踏病が日本から報告された

今回,そのうちの1家系内の罹患者の剖検所見が報告された.症例は剖検時83歳の方で,およそ40歳時に両上肢の舞踏運動にて発症した.舞踏運動は60歳頃までに体幹から下肢にまで認めるようになった.全身の筋トーヌス低下が認められた.その後,お亡くなりになるまで症状の増悪はみられなかった.

神経病理学的には,脳の萎縮は亡くなる31年までの画像所見と比較し,明らかではなかった.線条体(とくに尾状核)における軽度から中等度の神経細胞脱落とアストロサイトーシスが認められた.また両側大脳白質におけるアストロサイトーシスを伴う萎縮が認められた.加えて,まばらながらびまん性に4リピートタウ陽性のneurofibrillary tangle(神経細胞体でのタウの蓄積),argyrophilic thread(オリゴデンドロサイトでの蓄積),そしてtufted astrocyte(アストロサイトでの蓄積)が大脳,脳幹,小脳に認められた.また動眼神経核の神経細胞の細胞質には特徴的なエオジン好性の封入体が認められた.この封入体は ubiquitinやp62,タウ,リン酸化タウ,ポリグルタミン,TDP43,αシヌクレインでは染色されなかった.

臨床病理学的に,舞踏運動・筋トーヌス低下は線条体と大脳白質の変性に伴う症状と考えられた.PSP様の病理学的変化の意義は不明であるが,本疾患が進行性核上性麻痺(PSP)と同じく4リピートタウオパチーである可能性と,もしくはPSPを併発した可能性がある.ただし本例ではPSPを示唆する神経症状(核上性眼球運動障害,無動など)は認めなかったことから,後者は積極的には考えにくく,本疾患は4リピートタウオパチーである可能性を高いように現時点で考えている.

Neuropathology. 2012 Jan 12. [Epub ahead of print]
Benign hereditary chorea 2: Pathological findings in an autopsy case.
 


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TDP43 遺伝子変異はハンチントン病様表現型を呈しうる?

2009年10月05日 | 舞踏病
神経細胞およびグリア細胞内のユビキチン陽性,リン酸化TDP43陽性封入体を認める疾患として,ユビキチン陽性封入体を伴う前頭側頭葉変性症(FTLD-U),ALS,そして運動ニューロン疾患を伴う前頭側頭型認知症(FTLD-MND)がある.TDP43をコードするTARDBP 遺伝子の変異は,遺伝性および孤発性ALSにおいて報告されているが,さらに最近,FTLD-MNDの2症例でも,遺伝子変異が報告された.今回,このTARDBP遺伝子における既報にない変異により,前頭側頭型認知症(FTD),核上性眼球運動麻痺,そして舞踏運動をきたした症例が報告された.

症例は35歳のハンガリー人男性.家族歴では,父が52歳で肺がんで死亡,母が60歳で健康,精神発達遅滞を兄に認めるものの,そのほかは異常はない.

現病歴としては,性格変化とつじつまの合わない会話にて発症.その後,易転倒性,不安,不穏,多動,不眠,夜間徘徊,インポテンツを呈した.このため36歳時に精神科を受診し,その後,神経内科を紹介された.

神経学的には,垂直方向性眼球運動制限,上肢の舞踏運動,眼瞼痙攣,常同運動,原始反射を認めたが,筋強剛,筋力低下,小脳失調,感覚障害はなし.神経心理では,顕著な感情鈍麻,幼稚な行動,脱抑制が見られた.血液生化学,検尿,脳波には異常なし.頭部MRIでは中脳蓋の顕著な萎縮と尾状核の萎縮を認めた.臨床的にFTDと診断されたが,症状は急速に進行し,37歳時に心不全後の肺うっ血のため死亡し,剖検が行われた.

神経病理学的には,扁桃体,尾状核,被殻,淡蒼球,視床下角,oculomotor cortex,黒質等の神経細胞脱落とグリオーシスが顕著で,何とこれらの部位にリン酸化TDP43陽性封入体を認めた(409/410のセリン残基に対する市販の抗体を用いている).封入体は神経細胞の核内にも細胞質にもみられ,後者では細長いもの,球状のもの,糸くず状とさまざまな形態を示した.これらの封入体はユビキチンやp62(ユビキチン結合タンパク)による抗体で,軽度染色されたが,βアミロイド,αシヌクレイン,リン酸化タウは陰性であった.

病理所見より,TDP43 proteinopathyが疑われ,剖検脳を用いてTARDBP遺伝子の解析が行われたが,exon 6のcodon 263にK263E変異を認めた(この部位は高度に保存されているC末端領域で,遺伝子変異が集積している).この遺伝子変異は530人のコントロールDNAでは認められなかった.またProgranulin遺伝子とハンチントン病の原因遺伝子であるIT-15遺伝子に変異は認めなかった.

非常に驚いた,何ともインパクトのある症例報告である.ひとつめのインパクトは,TDP43 proteinopathyが,ALSとFTDという2つの表現型の間のスペクトラムをとるだけではなく,もっと幅広い表現型を呈する可能性があることを示したことである.もう一つのインパクトは,ハンチントン病の鑑別診断として,TDP43 proteinopatrhyを今後,考えねばならなくなるかもしれないことである(ハンチントン類似の遺伝性舞踏病はHDL1~3まであるが,もしかしたら将来HDL4になるかもしれない.このへんについては下記の邦文総説を参照).このような症例が本当に存在するのか,もしあるのであればその頻度はどの程度なのか,今後の検討がとても重要である.

Mov Disord 24; 1843-1847, 2009 
Brain & Nerve 61;963-971, 2009 

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新しい遺伝性舞踏病が日本から報告された

2007年04月08日 | 舞踏病
 舞踏運動は振幅が大きく踊るような,短時間の突発的な不随意運動である。解剖学的には線条体(尾状核,被殻),内包前脚,淡蒼球外節,視床,視床下核の病変で生じうる。舞踏運動を呈する疾患にはさまざまなものがあるが、遺伝性に発症する疾患としては、Huntington病 (HD), Huntington病類縁疾患1型(HDL1), 2型(HDL2), DRPLA, 脊髄小脳変性症17型(SCA17)、そして良性遺伝性舞踏病(BHC)が知られている。良性遺伝性舞踏病はなぜか昔から教科書に載っている病気だが,その存在の有無に関しては様々な論争があった.しかし,2002年になりTITF-1(thyroid transcription factor-1 gene)遺伝子に欠失を認める家系が発見されTITF-1遺伝子がBHCの原因遺伝子であることが判明した.この疾患は上述の疾患とは明らかに臨床像が異なり,発症は幼児期ないし小児期,非進行性で生命予後は良好.永続的な知能障害はなく,舞踏病も成長に伴い改善することが多い(つまり成人発症の良性舞踏病の報告はなかった).

 今回、新潟大学から成人発症良性遺伝性舞踏病の2家系が報告された.ともに常染色体優性遺伝をしめす.発症者は上下肢や体幹・頭部に,緩徐に進行する舞踏運動を呈する.四肢の著明な筋トーヌス低下が見られる.認知症は伴わない.発症年齢は 40 ~66歳(平均54.3歳).舞踏運動は少量のセレネースで治療可能.頭部画像所見では全例,線条体の萎縮はない(ただしSPECT上では尾状核の低血流が認められる).

 遺伝子検索では上記に挙げた既知の疾患は否定され,TITF-1遺伝子にも異常は認めなかった.連鎖解析では,染色体8q21.3–q23.3 にtwo-point LOD scoreが4.74(D8S1784)という結果であった.2家系の解析から原因遺伝子の候補領域はM9267からD8S1139までの21.5 Mbに絞られた.本疾患はbenign hereditary chorea type 2(BHC2)と名付けられた.

 本疾患は神経学的には舞踏運動のみを成人期以降に発症し,認知症などその他の神経学的異常を呈さないことからあまり症状を自覚せず病院にも通院しないということもあるかもしれない.また老人性舞踏病(senile chorea)という疾患概念が存在するが,それらとの関連があるのかどうかについても興味が持たれる.症例の集積による臨床像の解明と原因遺伝子の発見が待たれる.

Brain April 2, 2007(Advance Access published online)
Comments (6)
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