Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(4月29日)mRNAワクチンは感染と異なり自己抗体を誘導しない 

2023年04月29日 | COVID-19
今回のキーワードは,2価ワクチンブースターは重症化リスクが高い人の入院・死亡を接種後120日まで抑制する,COVID-19発症後,多くの自己免疫疾患の新規発症リスクが大幅に上昇する,ワクチン接種は感染とは異なり自己抗体の誘導を伴わずに,抗ウイルス免疫の恩恵を受けることができる,XBB.1.16は幼児に多く感染を認め結膜炎を呈する,軽症COVID-19の約4分の1に視覚構成障害を認め,それに対応する脳構造変化や免疫マーカーの異常がある,ワクチンやブースターの接種にもかかわらず,long COVIDはQOLに悪影響し,かつ入院の有無で認知機能障害パターンに違いがある,long COVID患者では,予想に反して若年群での認知機能障害が最も顕著で,不均一である,抗ウイルス剤はやはりlong COVIDの発症を抑制する,です.

ワクチン接種の必要性について議論がなされていますが,それを考える上で有用な知見が報告されました.感染による自然免疫とワクチン接種の大きな違いとして,mRNAワクチン接種では自己抗体が誘導されないことが示されました.COVID-19感染は自己抗体産生を介して,種々の自己免疫疾患のリスク因子となることが2021年に報告されていましたので,ワクチン接種はたとえ自己免疫疾患患者でも自己抗体を誘導しないことが分かったのは重要な情報だと思います.

一方,オミクロン株になって呼吸器感染症というより神経感染症としての側面がクローズアップされています.軽症感染でも視覚構成障害が4分の1の症例に生じていることは大きな驚きですし,またlong COVIDでは若年者ほど認知機能障害の程度が目立つことも予想外でした.オミクロンによるCOVID-19では,①高齢者・基礎疾患を有する患者の重症化,②重症感染者の認知症,軽症感染者の視覚構成障害といった脳へのダメージ,③long COVID患者における脳へのダメージ(急性期の重症度によりその特徴が異なる),④アルツハイマー病やALSなどの神経疾患の発症リスク上昇といった問題が議論されています.

◆2価ワクチンブースターは重症化リスクが高い群の入院・死亡を接種120日まで抑制する.
イスラエルから,COVID-19の2価mRNAワクチンブースター接種の入院と死亡抑制効果を検討した研究が報告された.対象は2022年9月から2023年1月の間の65歳以上の56万9519人で,うち13万4215人(24%)が2価mRNAワクチンブースター接種を受けた.接種後120日まで,COVID-19による入院は,接種群32名と非接種群541名発生した(調整ハザード比0.28;図1).入院の絶対リスク低減率は0.089%で,入院1件を防ぐために接種が必要な人数は1118人であった.以上より,重症化リスクが高い集団における2価mRNAワクチンブースター接種の重要性が確認された.ただしより長期間の観察が必要である.→ 重症化予防効果の持続期間は4ヶ月までしか証明されていないので,とくに高齢者や基礎疾患がある人は6ヶ月で接種したほうが無難だろう.それ以外の人は年1回接種になるわけだが,免疫機能には個人差があるため一定頻度で重症化が生じることや,後述する認知機能への影響が問題になるのだろう.
Lancet Infect Dis. April 13, 2023(doi.org/10.1016/S1473-3099(23)00122-6)



◆COVID-19発症後,多くの自己免疫疾患の新規発症リスクが大幅に上昇する.
総説.COVID-19発症後の自己免疫疾患のリスク増加は,症例報告や小規模の症例集積研究で示唆されてきたが,これを強く裏付ける大規模コホート研究が米,独,英から3つ報告された.リスクの増加は約20~40%でほぼ一致している.非常に多くの自己免疫疾患でハザード比の増加が認められる(図2).COVID-19の重症度は,軽度から中等度の患者で,発症リスクが高かった.一部の疾患を除き,年齢,性別,人種による差は認めなかった.注目されている自己抗体は,EBウイルスを含むヘルペスウイルスに対するものである.EBウイルスのウイルス再活性化はlong COVIDのメカニズムの1つとして考えられている.→ EBウイルスは多発性硬化症の病因としても注目されている.最近,インフルエンザウイルスのようなCOVID-19を含まないウイルス感染であってもアルツハイマー病やALSの発症リスクを大幅に高めることが報告されているので,おそらくCOVID-19感染に伴う神経疾患の発症は今後,増加すると予測される.
Eric Topl. The heightened risk of autoimmune diseases after Covid. April 24, 2023.



◆ワクチン接種は感染とは異なり自己抗体の誘導を伴わずに,抗ウイルス免疫の恩恵を受けることができる.
mRNAワクチンが導入されて以来,予防接種と感染による自然免疫のどちらがより優れた予防効果をもたらすかが議論されてきた.ワクチンはCOVID-19の重症度を劇的に低下させるが,まれに副反応を引き起こす.またSARS-CoV-2感染が自己抗体を誘導することから,ワクチン接種でも,特に自己免疫疾患患者において,自己抗体を誘導する可能性が疑問視されてきた.米国Yale大学から,全身の自己抗体をスクリーニングできるRapid Extracellular Antigen Profiling(REAP)法を用いて,健常者145名,自己免疫疾患患者38名,mRNAワクチン関連心筋炎患者8名のワクチン接種後の抗体反応を検討した研究が報告された.方法として,ワクチン接種前後の血液における自己抗体を測定し,これをCOVID-19患者における自己抗体と比較した.ほとんどの人が接種後に強固なウイルス特異的抗体応答を示した.そしてCOVID-19感染者では多くの自己抗体が誘導されたのに対し,ワクチンは上記のいずれの群においても自己抗体の誘導を来さなかった(図3).以上より,mRNAワクチンは,SARS-CoV-2に対する抗体を誘導するが,感染とは異なり自己抗体反応を来さないことが示された.著者らは感染に頼るのではなく,ウイルスに対する防御免疫を生成するワクチンの利点を強調している.→ この情報は重要で,関節リウマチなどの自己免疫疾患を将来発症するリスクを考えると,積極的に感染して免疫をつけるなど考えないほうが良いと思われる.
Nat Commun 14, 1299 (2023).(doi.org/10.1038/s41467-023-36686-8)



◆XBB.1.16は幼児に多く感染を認め,結膜炎を呈する.
現在インドの多くの地域でCOVID-1が急増している.オミクロン株の新しい亜種であるXBB.1.16は,オミクロンの他の亜種よりも攻撃的,免疫回避的であり,この特徴が感染急増の原因となっている.米国でも現在,XBB.1.16が増加している.プレプリント論文だが,北インドの小児科病院における感染小児の臨床像について報告された.年長児よりも幼児に感染を多く認め,軽度の呼吸器疾患が主徴であった.注目すべき所見として,感染児の42.8%に粘液性分泌物やまぶたの粘着を伴うかゆみのある非化膿性結膜炎を認めている(図4).入院を必要とした子どもは一人もいなかった.対症療法ですべて回復した.→ アレルギー性結膜炎との鑑別が難しいかもしれない.
medRxiv. April 20, 2023.(doi.org/10.1101/2023.04.18.23288715)



◆軽症COVID-19の約4分の1に視覚構成障害を認め,それに対応する脳構造変化や免疫マーカーの異常を認める.
ブラジルから,COVID-19患者の中で最も多いものの,研究がなされていない軽症例についての検討が報告された.軽症COVID-19から回復後,少なくとも4ヶ月経過した成人を対象に,神経心理学的検査を行い,さらに眼科的検査,免疫マーカー測定,構造MRIおよび18FDG-PETも施行し,脳の変化と臨床症候の相関を解析した.多くの神経心理学的検査での障害の頻度は8%前後であったが,視覚構成能力の検査であるレイRey複雑図形検査では26%という高頻度の障害が認められた(図5).この変化は,脳画像検査の変化と相関し,かつ末梢免疫マーカーのupregulationとも相関していた.現在,軽症感染者が多数存在するが,より包括的な認知機能障害の評価とフォローアップを行い,症状の持続やリハビリの必要性を明らかにする必要がある.
Mol Psychiatry 28, 553–563 (2023).(doi.org/10.1038/s41380-022-01632-5)


上図の引用元

◆ワクチンやブースターの接種にもかかわらず,long COVIDはQOLに悪影響し,かつ入院の有無で認知機能障害パターンに違いがある.
米国から入院の有無(=重症度)による神経後遺症(Neuro-PASC)の特徴の違いを検討する目的で,入院患者連続100名と非入院患者500名を比較した前方視的研究が報告された.2020年5月から2021年8月の間に専門外来で評価された患者が対象である.入院群は非入院群よりも高齢で(53.9歳 vs 44.9歳),既往症の有病率が高かった.発症から平均6.8ヶ月後の主な神経症状はBrain fog(81.2%),頭痛(70.3%),めまい(49.5%)で,嗅覚障害,味覚障害,筋痛だけは非入院群でより高頻度であった(59対39%,57.6対39%,50.4対33%,すべてp < 0.003).入院群は非入院群より神経学診察に異常をきたす頻度が高かった(62.2 vs 37%,p < 0.0001).両群とも,認知機能,疲労,睡眠,不安,抑うつの領域でQOLが損なわれていた(図6A).入院群は,非入院群および健常者に比べ,処理速度,注意,ワーキングメモリーのタスクが不良であった.一方,非入院群は,注意のみ健常者より不良であった.以上より,ワクチンやブースターの接種にもかかわらず,Neuro-PASCは発生し続け,入院・非入院にかかわらず,QOLに影響を及ぼす神経症状が持続していた.しかし両群で併存疾患,神経症候,認知機能障害のパターンに大きな違いがあることから,特徴に合った介入が必要である.
Ann Neurol. 2023 Mar 26.(doi.org/10.1002/ana.26649)



◆long COVID患者では,予想に反して若年群での認知機能障害が最も顕著で,不均一である.
スペインから,COVID-19後遺症患者の種々の認知領域を検討した研究が報告された.対象は26歳から64歳(平均47.48歳)の214名(女性85%)で,処理速度,注意,遂行機能,言語モダリティをオンラインで調査した.年齢により3群(26-39歳;29名,40-49歳;97名,50-64歳;88名)に分類し,年齢の影響も検討した.まず少なくとも85%の患者が1つの神経心理学的検査で障害を示した.中でも注意と遂行機能は,重度の障害を持つ者の頻度が高かった.注意障害は患者の年齢に関係なく,各群の25%以上が中程度の障害を示した.一方,処理速度や言語記憶の障害は,若年群は高齢群に比べてかなり不良であった.予想に反して,ほぼすべてのタスクにおいて,年齢が上がるほど障害が軽くなった.つまり高齢群では,注意とスピード処理に軽度の障害があるのみで,認知機能は比較的保たれていたが,若年群は最も顕著で不均一な認知機能障害を示した.著者は,加齢は免疫系を弱めため,自己免疫反応も弱くなることから,自己免疫仮説を支持する結果であると考察している.
Sci Rep 13, 6378 (2023).(doi.org/10.1038/s41598-023-32939-0)

◆抗ウイルス剤はやはりlong COVIDの発症を抑制する.
米国から感染後5日以内の抗ウイルス剤モルヌピラビルが,急性期以降の有害な健康アウトカムのリスク低減と関連しているかを検討したコホート研究が報告された.2022年1月からの1年間に感染し,重症化する危険因子が少なくとも1つある患者22万9286人が登録された.うち1万1472名はモルヌピラビルの処方を受け,21万7814名は抗ウイルス薬や抗体治療を受けなかった.無治療群と比較して,モルヌピラビル群ではPASCのリスクが低減した(図7:相対リスク0.86,180日後の絶対リスク低減率2.97%),急性期以降の死亡(ハザード比0.62,0.87%),急性期以降の入院(0.86,1.32%)も低下した.後遺症13項目のうち,不整脈,肺塞栓症,深部静脈血栓症,疲労・倦怠感,肝疾患,急性腎障害,筋肉痛,認知機能障害の8項目のリスク低減と関連した.PASCリスクの低減はワクチン未接種者,1~2回のワクチン接種者,ブースター接種者,初感染および再感染者,いずれにおいても認められた.重症化リスクの高い感染者において,感染5日以内にモルヌピラビルを使用することは,14%と軽度ではあるがPASCのリスクを低減する.→ long COVIDの防止にはワクチンと抗ウイルス剤ということになる.
BMJ 2023;381:e074572(doi.org/10.1136/bmj-2022-074572)




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機能性運動障害はinconsistencyとincongruenceの2本柱で症候学的に診断する

2023年04月26日 | 運動異常症
米国神経学会年次総会(AAN2023)にてAlberto J Espay教授(シンシナティ大学)の機能性運動異常症(FMD)の講義を拝聴しました.昨年,Lancet誌に発表された短報の詳しい解説で,YouTubeで下記動画も公開されています.

Looking of inconsistency and incongruence

提示症例は4ヶ月前に突然発症した,頭部と右腕の間欠的な不随意運動を呈した67歳女性です.前医の画像検査や脳波は正常でした.そして「心因性」と言われた後,納得がいかずEspay教授の専門外来を受診しました.

広頸筋の間欠的収縮と頭部の回転運動を伴う発作性頸部後屈でした.この運動異常には振幅と周波数の変動が見られ,また複雑な指タッピングを行うと一時的に抑制されたり,指タッピングの周波数と同期したりしました.歩行時には縦横の歩幅が変動し,失立失歩も認め,さらに頭部の動きも変化しました.またプルテストに対する反応が過剰でした.下図はさまざまなタスク時の頸部運動の変化を示しています.



重要なことはFMDの診断は除外診断により行うのではなく,症候学的に,2つの観点から,積極的に行うことです.つまり①運動異常の振幅,分布,重症度にinconsistencyを認めること(一貫性がないこと),そして②上述の指タッピングにより徴候が変化したり歩行時に失調が出現したりするといったincongruenceを認めること(一致・適合しないこと.解剖学的に説明できないこと)を示すことで診断ができます.つまりこの2つを示せば,心理的ストレスや疾病利得などの精神的問題や画像検査などの検査は不要で,症候学的に確定診断できることになります.

この患者さんには,自分が認知していない不適切な思考がFMD発症の素因となるという説明を聞いて,納得・安心し,認知行動療法士とともに治療・リハビリに励むことを切望しました.2ヶ月後,このFMDは消失しました.適切に診断し,その結果を伝えることが,その後の認知行動療法,理学療法,作業療法が成功する鍵となります.
Hess CW, Espay AJ, Okun MS. Inconsistency and incongruence: the two diagnostic pillars of functional movement disorder. Lancet. 2022 Jul 23;400(10348):328.

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新しい「ホムンクルス」の脳地図

2023年04月22日 | 医学と医療
左図は神経科学でもっとも有名な図のひとつ,「運動ホムンクルス」です.ホムンクルスはラテン語で「小さな男」の意味です.身体の各部位を制御する一次運動野の領域を示しています.神経外科医Wilder Penfield(1891-1976)が1937年に発表しました.一次運動野を電気的に刺激すると,身体の特定の部位が痙攣することに気づいたことに端を発します.手,足,口が,他の部位と比較して不釣り合いに大きいことが特徴です.



今回,Nature誌に機能的MRI(fMRI)を用いた一次運動野の詳細なマッピング研究が報告されています.その結果書き換えられた新しいホムンクルスが右図になります.「行動と運動制御の統合-分離モデル」と名付けられたもので,一次運動野は従来のものよりはるかに複雑であることが分かりました.

まず従来と異なる点は,①足(緑),手(シアン),口(オレンジ)の3つの機能領域が同心円状に配置され(エフェクター領域),それぞれの領域の中で,遠位の身体部分(足先~足首,指~手,舌~顎)の領域が近位の身体部分(膝・尻,肘・肩,喉頭・眼)の領域により囲まれていることです.そして②これらの領域の境界には皮質の厚さが減少したインターエフェクター領域(赤茶色)があり,この領域は特定の身体部位にかかわるものではなく,重要な思考,身体の生理機能の維持,行動の計画などを司る脳領域との接続を通じて,複数の筋を含む複雑な動き(協調運動)を調整しているようで,身体認知行動ネットワーク(somato-cognitive action network; SCAN)を形成しているようです.つまり一次運動野には2つのシステムが存在し,足,手,口のエフェクター領域は細かい運動制御を分離し,SCANは身体運動を統合することになります.この発見は,脳卒中や外傷などによる一次運動野の特定の障害パターンの理解と,それに適した治療を選択するのに将来的に役立つ可能性が指摘されています.
Gordon EM, et al. A somato-cognitive action network alternates with effector regions in motor cortex. Nature. 2023 Apr 19.

おまけ
Montreal Neurological Institute (通称Neuro)を訪問し見学をさせてもらった際,院内にWilder Penfield先生の肖像画を見つけました.そして帰るときに,病院の壁に”The problem of neurology is to understand man himself”(人間を理解することを目指し,神経学の歴史はこれからも続く)という先生の言葉が刻まれているのを見つけて,非常に感激したことを覚えています.




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感謝1000万ビュー -印象に残るブログ投稿20-

2023年04月20日 | その他
拙ブログのアクセス欄を見たら,1000万ビューを超えておりました.約20年かけて1079回投稿していました.最初の投稿は2004年で,留学中でした.脳梗塞の基礎研究を行っていましたが,臨床の勉強も続けねばと読んだ論文を備忘録代わりに書き始めたのがブログを始めたきっかけでした.

ブログで取り上げた内容は自身の興味の変化を反映して,神経変性疾患・脳血管障害の論文から創薬,トランスレーショナル・リサーチ,そして臨床倫理と医師のバーンアウト,さらにCOVID-19に移り,最近は自己免疫性神経疾患や機能性神経障害の話題が増えてきています.アクセスがこれだけ多いのは,医療関係者だけでなく,いろいろな病気で悩まれる方やご家族の方も読んでくださっているのだと思います.そういった方々を励ますものになると良いのですが,少なくとも論文で学んだことを客観的,正確にご紹介することを心がけたいと思っています.

最後に1000万ビュー突破記念(笑),思い出深い投稿20です.

アインシュタインの脳

眠れない一族 (最高にスリリングなプリオン病の本)

患者さんがおばけを見たときのチェックポイント

「機内に医療関係者はいらっしゃいますか?」―脳神経内科医の役割―

「1リットルの涙」 ―脊髄小脳変性症と神経内科医―

若い女性に好発する脳症の正体

アイスクリーム頭痛研究の最前線 ―その遺伝と誘発法,そしてねこ―

なぜ「ヒト乾燥脳硬膜」による医原性ヤコブ病が日本に多いのか?

水俣を訪ねて

◆昭和34年の神経診察

ポケモンGOと「ヒポクラテスの木」に現れた蛇

臨床神経学の創始者,Romberg先生のお墓参り

シャルコー先生を巡るたび

Jean-Martin Charcot先生の書簡 1886

驚愕のアスペルガーの真の姿 ―私たちはこの失望から何を学ぶべきか?-

医者としての本居宣長 ―アスペルガー症候群説への異論―

マイハンマー

たかが英語,されど英語

医師のバーンアウト対策に必要な視点とは

NHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」を見て


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血清αCGRPレベルは慢性片頭痛の初めてのバイオマーカーである

2023年04月18日 | 頭痛や痛み
Ann Neurol誌のオンライン版に,慢性片頭痛(chronic migraine;CM)患者におけるCGRP関連抗体治療期間中の血清αおよびβCGRPレベルの推移を検討した研究がスペインから報告されています.1984年にカルシトニン遺伝子関連ペプチドとして初めて単離されたものがCGRPで,中枢・末梢神経系に幅広く分布します.αとβの2種類が存在し,産生量は身体の部位によって異なります.感覚ニューロンでは,αCGRPはβCGRPの約6倍存在し,消化管においてはβCGRPのみ認めます.CGRP関連抗体治療の副作用である便秘はβCGRPの抑制によるものと推測されています.

対象はCGRP関連抗体投与を開始したCM患者103人と,健常対照者(HC)78人で,初回投与前,2週間後(M0.5),3ヶ月後(M3)に血清を採取,αおよびβCGRPの血清レベルを各々に特異的なELISAを用いて測定しました.

さて結果ですが,ベースラインのαCGRP値は,CM患者で中央値50.3 pg/mL,HC で37.5 pg/mLと,CM患者で有意に上昇し,かつ抗体治療(n=96)で有意に減少しました(M0.5: 40.4 pg/mL; M3: 40.9 pg/mL).このαCGRP低下は,月間の片頭痛日数の減少と正の相関がありました.さらにpatient global impression of change scaleおよび鎮痛剤の過剰使用の改善と有意に関連していました.一方,βCGRPは,CM患者(4.2 pg/mL)とHC(4.4 pg/mL)で差がなく,抗体治療でも変化しませんでした(M0.5 : 4.5 pg/mL; M3: 4.6 pg/mL ).さらに便秘を認めるCM群と認めないCM群の間にも差はありませんでした.



以上より,CMに対する抗体治療は上昇したαCGRPレベルを正常化し,かつその変化は有効性の指標と相関することから,αCGRPはCMの初めてのバイオマーカーとなるものと考えられました.今後,αCGRPを測定してからCGRP関連抗体の処方を決めたり,中止の目安になったりするのかもしれません.

一方,βCGRPの減少が便秘の原因という仮説は証明できませんでした.この理由として,αCGRPと比較しβCGRPの濃度が約10分の1と低いことから,血清がβCGRP測定に適した試料ではない可能性が示唆されました.血清より唾液でははるかに高いペプチド濃度を示すことが確認され,今後,検討が必要と著者は述べています.
Gárate G, et al. Serum alpha and beta-CGRP levels in chronic migraine patients before and after monoclonal antibodies against CGRP or its receptor. Ann Neurol. 2023 Apr 11.(doi.org/10.1002/ana.26658)

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書評「神経症状の診かた・考えかた 第3版」

2023年04月17日 | 医学と医療
大変光栄なことに,general neurologistとして尊敬する福武敏夫先生(亀田メディカルセンター脳神経内科部長)より,ご著書の書評の執筆をご依頼いただきました.本当に多くのことを学ばせていただいた大好きな本の改訂第3版です.以下,ご一読いただければと思います.
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
繰り返し読み続けたい,エキスパートの診かた・考えかた
書評者:下畑 享良(岐阜大大学院教授・脳神経内科学)

 著者の福武敏夫先生は脳神経内科領域のオーソリティとして,誰もが認める存在である。私は先生と本書の大ファンで,本書は初版から繰り返し読み続けている。病歴聴取と神経診察の実例を通して,一貫したエキスパートの診かた・考えかたを学ばせていただいた。まさに第2版の帯に書かれていた「傍らに上級医がいる」ような感覚になるテキストである。関心のある項目から読み始めてもよいが,本書を持ち歩き,私のように繰り返し読むことをお勧めしたい。きっと先生方の血肉になると思う。

 内容は第I編では日常的によく遭遇する症状(頭痛,めまい,しびれ,パーキンソン病,震え,物忘れ,脊髄症状など)を,第II編では緊急処置が必要な病態(けいれん,意識障害,急性球麻痺,急性四肢麻痺,脳梗塞)を,そして第III編では神経診察の手技上のポイントと考えかたに加え,画像診断におけるピットフォールを,いずれも具体的な実例を基に解説されている。私は「どうしたらこれほど具体的で豊富な事例を記載できるのですか?」と尋ねたことがあるが,福武先生は「一日の終わりに診療した患者のことを思い出し,ノートにつけて勉強している」と答えられ,合点がいくと同時に先生の不断の努力に改めて尊敬の念を抱いた。

 今回の第3版では多くの記載の追加がなされたが,特に第I編に多彩な全身症状のもととなる「肩こり」が追加されたことと,序章として「臨床力とは何か?」が加わったことは注目に値する。実は後者の「臨床力とは何か?」は自分がずっと考えてきた問いであり,ぜひ福武先生に伺ってみたいと考え,自身が編集委員を務める『Brain and Nerve』誌において原稿依頼をした経緯があった。先生は「例えば,ホスピタルツアーをここで終わりにするとか,医療・医学のレベルアップのために教科書を一行でも書き換えるとか(中略)そういう気概を『臨床力』と呼びたい」と答えられた。そして第3版の目的を,後進の脳神経内科医の「情熱と気概を喚起」することとお書きになっている。私たちが「気概」を得るためにどうしたらよいか? 知識は不可欠だが,それだけでは不十分であり,好奇心(患者への人間としての興味)が大切で,さらに観察力,幅広い注意力,型にはめない推理力・思考力が必要だと述べておられる。つまりガイドラインや診断基準に安易に当てはめるだけではダメということである。それらはある意味で過去のものであり,それらをマスターすることイコール臨床力ではないということだ。全ゲノム解析や多彩な自己抗体の測定により,治療可能な疾患を見出せる時代においてこそ,患者を正しく理解するための症候学の重要性が増していることを認識する必要がある。「症候学は古い学問ではない。日々最も新たにならなければならない分野であり,『最新』の研究こそ症候学のversion upに寄与しなければならないし,寄与しない研究は意味がない」という先生の言葉は肝に銘じる必要がある。神経学を学ぶ者にとって必携の書として本書をご推薦したい。

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自己免疫性脳炎・関連疾患ハンドブック先行販売です!@第120回日本内科学会総会

2023年04月15日 | 自己免疫性脳炎
昨日から開催されている第120回日本内科学会総会の書籍販売コーナーでご覧いただけます(図左).368ページ,ずっしり重いです.高級紙のせいもありますが,自己免疫性脳炎の領域の近年の進歩が顕著で(図右上),これほどの情報量があるということかと思います.重い本が気になる方は電子版もあります.来週以降発売予定です(isho.jpとm2plusで発売).

【本書をお勧めする理由】
1.複雑な自己免疫性脳炎の診断・検査・治療の進め方がわかります.とくにどのようなときに,どの抗体を,どこに依頼するかがわかります.
2.第4章の「自己抗体一覧」は特に便利です(図右下).最新45種類の自己抗体を岐阜大学チーム5人(下畑,木村,吉倉,竹腰,大野)でまとめました.簡単に情報を確認することができます.
3.抗体等により分類した代表的な13疾患(自己免疫性辺縁系脳炎,NMDAR,AQP4,MOG,LGI1,Caspr2,GFAP,IgLON5,DPPX,GlyR,Sez6l2,KLHL11など)の最新情報を得ることができる.
4.認知症,精神病,てんかん,小脳失調症,運動異常症,睡眠異常症,自律神経節障害,小児疾患のなかに紛れている自己免疫性脳炎をどのように見出したら良いかが分かります.

本邦初の自己免疫性脳炎のハンドブックです.脳神経内科医のみならず,内科医,精神科医,総合診療医,小児科医等,多くの先生のお役に立つのではないかと思います.ぜひ手にとっていただければと思います.


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ヒアリングが苦手でも,いかに初めての国際学会を乗り切るか?

2023年04月13日 | 医学と医療
期待の若手,大野陽哉先生と山原直紀先生が,米国神経学会(AAN)で口演およびポスター発表するので,今日は私が仮想座長になって本番さながらの予行練習をしました.初めての国際学会の発表なので,あらかじめ図の参考書を渡してプレゼンの勉強をしてもらいました(このシリーズがベストだと思います).そして今日は「ヒアリングが苦手でも,いかに国際学会を乗り切るか?」を自分の経験をもとに伝授しました.目標は「質問されたあと,無言で立ちすくむことを避けること」です.なんとか良い議論をして自信をつけ,将来,留学したり国際的な研究をしてほしいと思います.以下,私がしたアドバイスです.

【口演】
◆開始前に座長に挨拶に行って,英語が苦手だからもしものときはサポートしてほしいとお願いする.
I'm not very good at English, so if I can't hear the audience's questions, I need your help.

大会場だと音声がよく聞き取れないことはしばしばある.そのようなときは耳に手を当てて聞こえないというジェスチャーをしたり,座長にヘルプを求めたりする.

◆英語が聞き取れなかったときの返事を用意しておく.
I did not catch your question. Could you repeat it a little slower?

◆単語が聞き取れたけど,全体の質問がわからないときは,その単語を使って確認を求める(すると追加の説明をしてもらえる).
Your question is about xxxx, correct?

◆とにかくたくさんの想定問答集を考えておいておく.質問に答えられなくても「あなたの質問の答えは分からないが,それはともかく,自分は次のことが重要だと思う」とか言って,自分のペースに持ち込む.
I cannot answer your question, but in relation to it, I consider ・・・・

◆最後の手段,聞き取れなかったり,答え方がわからないときは,最悪,以下の文言で逃げる(笑).
I consider that your question is very important, but I do not have an answer for you at this time.

【ポスター発表】
◆ポスターはとにかく目に止まりやすいものを作成する.あまりに細かくぎっしり書き込みと読みにくいし,説明にも時間がかかる.経験的に文字や図が大きく,遠くからも読みやすいもののほうが,ポスター前を通りすぎず,立ち止まってくれる.

◆通り過ぎそうな人に目で訴えて捕まえ(笑),例えば以下のように声をかける.
Are you interested in XXXX? This presentation will be useful for your clinical practice.

◆ポスターを印刷したハンドアウトを置いておくと,立ち寄る人が増える.

◆じっくり聴きたい人もいるし,逆に時間がなくて簡潔に聞きたい人もいるので,プレゼンはフルバージョンとショートバージョンの両方を練習しておく.

◆ポスター発表はアイコンタクトもできるし,図を指したりして説明できるので,口演より難易度は低いと思い込む.

そしてなんといっても開き直って「日本人なんだから完璧な発音も文法も無理でしょう」と思うことです.自分はこれに気づくのに時間がかかりました.以下,当科の採択演題です.

【AAN演題】
◆Ono Y et al. Frequencies of anti-IgLON5 disease in patients with progressive supranuclear palsy/corticobasal syndrome who meet clinical diagnostic criteria. (platform)
◆Yamahara N et al. Persistent meningitis followed by anti-NMDAR encephalitis: case series and literature review. (poster)
◆Shimohata T et al. Clinical features and biomarkers of acute encephalitis with claustrum sign. (poster)

【強力なお勧めの教科書】
国際学会English挨拶・口演・発表・質問・座長進行

国際学会English スピーキング・エクササイズ口演・発表・応答 音声CD付


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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(4月8日):衝撃!SARS-CoV2ウイルスは頭蓋骨から脳に到達する

2023年04月08日 | COVID-19
今回のキーワードは,頭蓋骨から脳内にスパイク蛋白が到達し,持続的な神経細胞障害が生じる,PCR陽性から5日以内のパキロビッドによりlong COVIDは26%減少する,オミクロン株になっても,インフルエンザより入院患者の死亡率は依然として高い,2価ワクチンに変わっても,脳卒中,急性心筋梗塞,肺塞栓症のリスクは増加しない,COVID-19では頭痛に関与する血清CGRPが増加している,です.

Long COVIDの原因として「ウイルスの持続感染説」が有力でしたが,どこにウイルスが存在するのか,どのようにしてブレインフォグや認知症を来すのか(どのようにしてウイルスが脳に影響を及ぼすのか)はよく分かっていませんでした.今回,プレプリント論文ですが,long COVID研究における非常に大きな,そして驚くべき新知見が報告されました.なんとウイルススパイク蛋白の供給源は頭蓋骨のようで(図1),脳に到達したスパイク蛋白が神経細胞障害,脳血管障害,炎症性変化を来すことが示されました!COVID-19以外の原因で死亡した人々の頭蓋骨の29%にもスパイク蛋白は存在しており,軽度の感染でも長期間持続して頭蓋骨に存在することを示唆しています.



◆頭蓋骨から脳内にスパイク蛋白が到達し,持続的な神経細胞障害が生じる.
ドイツからの報告.マウスモデルおよびヒト死後組織を用いて,頭蓋骨骨髄―髄膜―脳実質にスパイク蛋白が集積していることを明らかにした.

図2.まずSARS-CoV-2の標的となる全組織を発見するために,マウスを透明化するクリアリング技術を用い,SARS-CoV-2ウイルス(武漢株,アルファ変異株)のスパイク蛋白,そしてインフルエンザのスパイク蛋白であるハマグルチニン(HA)タンパク質を注射し,標的となる臓器を確認した.この結果,明らかにSARS-CoV-2ウイルスは非常に多くの臓器を標的とすることが示された.


図3.多くの臓器とともに,頭蓋骨骨髄ニッチ(造血幹細胞が存在する特殊な微小環境)や,最近発見された頭蓋骨-髄膜結合(skull-meninges connection;SMC)にスパイク蛋白(緑)の集積が発見され,ウイルスの脳への新しい感染ルートと考えられた.デキストラン(紫)は血管を描出している.


図4.COVID-19による死亡例の頭蓋骨の骨髄ニッチや髄膜にもスパイク蛋白が検出された.


図5.COVID-19患者27例の脳組織はほぼPCR陰性であったが,免疫染色ではスパイクタンパク質は髄膜および大脳皮質に存在し,ウイルス粒子と比較して半減期が長いことが示唆された.


図6.プロテオミクス解析により,COVID-19患者の骨髄,髄膜,脳において,神経変性,好中球細胞外トラップ(NETs),IL18パスウェー,PI3K/AKTシグナル,補体・凝固系カスケードに関わるいくつかの調節異常が認められた.またマウスモデルにSARS-CoV-2スパイクS1蛋白の静脈注射だけで,頭蓋骨骨髄,髄膜,および脳で幅広いプロテオミクス変化を引き起こした(インフルエンザHAタンパク質では生じなかった).これらの変化はCOVID-19に感染したヒトのサンプルで観察したものと同様であった.


図7.スパイク蛋白を頭蓋骨の骨髄に直接注入すると,マウスの大脳皮質組織において急性および長期の神経細胞傷害(アポトーシスやアミロイド前駆蛋白APP発現の増加として観察される)が生じたが,インフルエンザHAは何の変化ももたらさなかった.


図8.驚くべきことに,過去にCOVID-19に罹患し死亡した人の60%に回復後長い時間を経てスパイク蛋白の蓄積が確認された.またCOVID-19以外の原因で死亡した患者では29%に認められた.RT-PCRによるウイルス検出時間を超えて人間の頭蓋骨に確認されたスパイク蛋白は,COVID-19の症状を長期的に発症させる原因である可能性がある.
bioRxiv April 5, 2023.


◆PCR陽性から5日以内のパキロビッドによりlong COVIDは26%減少する.
米国からCOVID-19の急性期におけるニルマトルビル(パキロビッド)による治療が,long COVIDリスクを低減させるか検討した研究が報告された.SARS-CoV-2陽性反応後5日以内にニルマトルビルの経口投与を受けた3万5717人と治療を受けなかった24万6076人を比較した.対照群と比較して,ニルマトルビル群はlong COVIDリスクの低減と関連していた(RR, 0.74; ARR, 4.51%)(図9).また急性期以降の死亡(HR, 0.53; ARR, 0.65%) および急性期以降の入院(HR, 0.76; ARR, 1.72%)リスクの低減とも関連していた.
JAMA Intern Med. 2023 Mar 23.(doi.org/10.1001/jamainternmed.2023.0743)


◆オミクロン株になっても,インフルエンザより入院患者の死亡率は依然として高い.
COVID-19はオミクロン株になり弱毒化し「インフルエンザと同じだ」とも言われる.米国から2022-2023年の秋から冬にかけて,COVID-19と季節性インフルエンザで入院した患者の死亡リスクを評価した研究が報告された.COVID-19による入院は8996件,インフルエンザによる入院は2403件であった.30日後の死亡率は,COVID-19で5.97%,インフルエンザで3.75%,超過死亡率は2.23%であった.インフルエンザと比較して,依然,COVID-19は高い死亡リスクと関連していた(ハザード比,1.61).ただしCIVID-19入院患者の死亡率は,パンデミック初期から減少している(2020年17%~21%→今回6%).これはワクチン接種者・既感染者の増加,医療ケアの改善によると考えられる.実際に死亡リスクは,COVID-19ワクチンの接種回数が多いほど減少する(未接種対接種でP = .009,未接種対ブースター接種でP < .001).
JAMA. April 6, 2023.(doi.org/10.1001/jama.2023.5348)

◆2価ワクチンに変わっても,脳卒中,急性心筋梗塞,肺塞栓症のリスクは増加しない.
2023年1月,米国疾病管理予防センターのVaccine Safety Datalinkは,65歳以上の人において2価ワクチン注射後21日以内に虚血性脳卒中のリスクが増加する可能性があることを警告した.1価ワクチン接種後に脳卒中,急性心筋梗塞,肺塞栓症の発生率が増加しないことは報告されているが,2価ブースター接種後に1価ブースターと比較して,これらのイベントのリスクが増加するか検討した研究がフランスから報告された.評価期間中,93万2583人が2価ワクチンを,12万1362人が1価ワクチンを接種した.接種21日後の時点で,2価ワクチン接種者は1価ワクチン接種者と比較して,虚血性疾患イベントのリスク上昇を示すデータは得られなかった.具体的には虚血性脳卒中(ハザード比,0.86),出血性脳卒中(ハザード比,0.86),心筋梗塞(ハザード比,0. 92),肺塞栓症(ハザード比, 0.83),4つのイベントの合計(ハザード比, 0.87)でいずれも有意差なし.2価ワクチンは1価ワクチンと同様に使用できる.
N Engl J Med. 2023 Mar 29.(doi.org/10.1056/NEJMc2302134)

◆COVID-19では頭痛に関与する血清CGRPが増加している.
COVID-19急性期の頭痛のメカニズムは不明であるが,片頭痛に類似した特徴から,三叉神経系の活性化が関与している可能性が指摘されている.スペインからCOVID-19入院患者で頭痛を認める25名と,頭痛を認めない15名,そして健常対照25名の,三叉神経・血管活性化のバイオマーカーである血清α-CGRP値を比較した(朝に測定した).①頭痛ありCOVID-19では55.2±34.3 pg/mL,②頭痛のないCOVID-19では43.3±12.8pg/mL,③対照では33.9±14.0 pg/mLであった.①は③より有意に高値で(p < 0.01),②も③より有意に高値で(p = 0.05),②は①より-28.2%低かったが,有意差はなかった(p = 0.36).→ 著者らはCOVID-19における頭痛にCGRPが関与している可能性があると言っているが,頭痛の有無で有意差がなく,グラフ(図10)を見ても健常対照との比較でもSDのばらつきは大きく,多数例での検討が必要なようである.むしろ頭痛はスパイク蛋白に対する髄膜炎症の為せる技のような気がする.
BMC Neurol. 2023 Mar 17;23(1):109.(doi.org/10.1186/s12883-023-03156-z)


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「自己免疫性脳炎・関連疾患ハンドブック」予約開始です!

2023年04月06日 | 自己免疫性脳炎
自己免疫性脳炎に関連する新たな自己抗体がつぎつぎに同定されています.これに伴い,新たな疾患概念が確立されています.さらにこれらの疾患はさまざまな臨床像を呈しうることも判明し,これまで認知症,精神病,てんかん,小脳性運動失調症,運動異常症,睡眠異常症,自律神経障害と診断されてきた症例のなかに含まれている可能性があります.自己免疫性脳炎では,免疫療法が有効であることが少なからず存在することから,これらの疾患を正しく早期に診断することは極めて重要な課題と言えます.

以上を踏まえ,自己免疫性脳炎に焦点を絞ったユニークな書籍を企画しました.本書は,①自己免疫性脳炎と自己抗体・傍腫瘍抗体に関する総論,②代表的な自己免疫性脳炎・脳症とその主な臨床病型,③神経・精神疾患と自己免疫,そして④これまでに明らかになった自己抗体一覧(とても便利です)から構成されています.脳神経内科医や内科,小児科,総合診療医のみならず,救急医,精神科医になどの医師全般に役立つ内容になったと確信しています.ぜひ手にとっていただければと思います.

定価 7,920円(本体 7,200円+税10%)B5判・368頁 ISBN978-4-7653-1956-0
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金芳堂ホームページ

◆目次
I 総論
1 定義・歴史・展望
2 自己免疫性脳炎の疫学と特徴
3 自己免疫性脳炎の診断・検査の進め方
4 自己免疫性脳炎・脳症の治療
5 抗神経抗体の分類と病態(細胞内抗原抗体vs細胞表面抗原抗体)
6 傍腫瘍性神経症候群関連自己抗体の分類と病態

Ⅱ 自己免疫性脳炎·脳症の主な臨床病型
1 抗NMDAR脳炎
2 自己免疫性辺縁系脳炎
3 視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)
4 MOG抗体関連疾患(MOGAD)
5 抗LGI1脳炎・抗Caspr2脳炎
6 Bickerstaff脳幹脳炎
7 橋本脳症
8 自己免疫性GFAPアストロサイトパチー
9 IgLON5抗体関連疾患
10 DPPX抗体関連脳炎
11 抑制性シナプスに対する自己免疫疾患
12 Sez6l2抗体関連脳炎
13 KLHL11抗体関連脳炎

Ⅲ 神経・精神疾患と自己免疫
1 自己免疫性認知症
2 自己免疫性精神病
3 自己免疫性てんかん
4 自己免疫性小脳失調症(傍腫瘍性小脳変性症)
5 自己免疫性小脳失調症(抗神経抗体を伴う非傍腫瘍性小脳性運動失調症)
6 自己免疫性運動異常症
7 自己免疫性睡眠異常症
8 自己免疫性自律神経節障害
9 免疫チェックポイント阻害薬と自己免疫性脳炎
10 小児の自己免疫性脳炎

Ⅳ 自己抗体一覧
1 細胞表面抗原抗体
2 細胞内抗原抗体

◆執筆者一覧
本書の趣旨に賛同し,熱のこもったご原稿をご執筆くださった著者の先生方に感謝申し上げます.
■編著
下畑享良  岐阜大学大学院医学系研究科 脳神経内科学分野
■執筆者一覧(執筆順)
大石真莉子 山口大学大学院医学系研究科臨床神経学
神田隆   山口大学大学院医学系研究科臨床神経学
中嶋秀人  日本大学医学部内科学系神経内科学分野
河内泉   新潟大学大学院医歯学総合研究科医学教育センター/新潟大学医歯学総合病院脳神経内科
木村暁夫  岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野
田中惠子  新潟大学脳研究所モデル動物開発分野/福島県立医科大学多発性硬化症治療学講座
飯塚高浩  北里大学医学部・脳神経内科学
横山和正  東静脳神経センター/順天堂大学医学部脳神経内科
中島一郎  東北医科薬科大学医学部脳神経内科学
三須建郎  東北大学病院脳神経内科
渡邉修   鹿児島市立病院脳神経内科
古賀道明  山口大学大学院医学系研究科臨床神経学(脳神経内科)
米田誠   福井県立大学大学院健康生活科学研究科
原誠    日本大学医学部 内科学系神経内科学分野
松井尚子  徳島大学大学院医歯薬学研究部臨床神経科学
矢口裕章  北海道大学神経内科
石川英洋  三重大学大学院医学系研究科神経病態内科学講座
新堂晃大  三重大学大学院医学系研究科神経病態内科学講座
竹内英之  国際医療福祉大学 医学部 脳神経内科
髙木学   岡山大学学術研究院医歯薬学域精神神経病態学
神一敬   東北大学大学院医学系研究科てんかん学分野
吉倉延亮  岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野
大野陽哉  岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野
筒井幸   特定医療法人祐愛会 加藤病院精神科/秋田大学医学部 神経運動器学講座精神科分野
神林崇   筑波大学 国際統合睡眠科学機構/茨城県立こころの医療センター
中根俊成  日本医科大学脳神経内科
鈴木重明  慶應義塾大学医学部神経内科
福山哲広  信州大学医学部小児医学教室
竹腰顕   岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野




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