ワーファリンはビタミン K に拮抗し,ビタミン K 依存性凝固因子の産生を抑制して,抗凝血作用を発揮する.抗凝固療法の基本的薬剤として汎用されるが,使用に際しては出血の危険性が常にあり,プロトロンビン時間(PT-INR)測定は不可欠である(米国でワーファリンは,救急外来に担ぎ込まれる医薬品の副作用として第2位の薬剤.ちなみに第1位はインスリン.JAMA 2006).厄介なことに薬剤感受性における個体差は大きい.特に治療初期にはPT-INR測定を頻回に行い,治療域を逸脱しないように注意する必要がある.
ワーファリンに対する感受性の個体差のメカニズムが解明され,各個人のワーファリン使用量を予測することできればとても有用と考えられる.つまり,各個人に最適な予防法や治療法を可能とする医療「オーダーメイド医療」がワーファリン内服による抗凝固療法においても実現できないかというアイデアである.この発想は,2005年にワーファリンの使用量を規定するvitamin K epoxide reductase complex 1 (VKORC1) 遺伝子の存在が報告され一気に現実味を帯びた(NEJM 352:2285-2293, 2005).具体的にはこの遺伝子のSNPs(一塩基多型)により,低用量ハプロタイプ(A)と高用量ハプロタイプ(B)に分けてみると,AAを有する人のワーファリン平均使用量は2.7±0.2 mg/日であるのに対し,ABでは4.9±0.2 mg/日,BBでは6.2±0.3 mg/日とBハプロタイプを持つに従い使用量は増加した.これはVKORC1 mRNAレベルがハプロタイプ毎に異なっており,ワーファリン使用量の相違はVKORC1遺伝子の転写レベルの違いに相関するものと結論付けられた(ちなみに日本人では,約18 %のひとは薬剤感受性が低いハプロタイプを有すると言われている).
となると,ワーファリン使用量がVKORC1遺伝子によってのみ規定されのるかという疑問を持つが,現在はワーファリン使用量の決定因子として,効果の大きい順に①VKORC1遺伝子多型,②体表面積,③CYP2C9*3遺伝子多型,④年齢,⑤CYP2C9*2遺伝子多型が判明している.④⑤は薬剤代謝に関与する肝代謝酵素チトクロームP450の遺伝子多型である.2006年11月にはStanford大学,NIHなど欧米,韓国,日本など世界20以上の研究機関が集まり,Warfarin consortiumが形成された.全世界からワーファリン使用者のSNPs情報と臨床情報を集めて,SNPsとワーファリンの適正使用法を決定しようとする会議で,3000例以上の症例を集める予定だそうだ.
とはいえ,ワーファリンにおける「オーダーメイド医療」の実現はもう少し先のことのように思われるが,必ずしもそうではない.例えばWARFARIN DOSINGというwashington大学やNIHが運営するフリーのウェブサイトを見てほしい.ここででは,身長・体重・治療開始前INRや内服スタチン名などの情報を入力することで,ワーファリン使用量を推定してくれる.VKORC1やCYP2C9の遺伝子型を入力する欄があるが,アメリカではすでにcommercial baseで調べてくれるサービスがある.
さらに,心房細動患者を対象にして,遺伝子検査結果に応じてワーファリン使用量を調節する臨床試験が今月から始まっている(Medco社とMayo clinic共同研究).このプロジェクトでは、心房細動患者約1000人の血液がMayo Clinicに送付され,結果は速やかに医師に送付され,医師はワーファリン使用量を調節する.
ただ,自分で紹介しておいて言うのもおかしな話だが,ビタミンK摂取量などの環境因子によっても凝固能が影響を受けることは言うまでもなく,同一の患者であってもPT-INRの値が大きく変動することを少なからず経験する.また昔からワーファリンの開始時の内服方法にはいろいろ工夫もあり,こんなにまで莫大な予算を使って抗凝固療法に「オーダーメイド医療」を導入するメリットがあるのかとも思ってしまう.皆さんはどうお考えだろうか?
ワーファリンに対する感受性の個体差のメカニズムが解明され,各個人のワーファリン使用量を予測することできればとても有用と考えられる.つまり,各個人に最適な予防法や治療法を可能とする医療「オーダーメイド医療」がワーファリン内服による抗凝固療法においても実現できないかというアイデアである.この発想は,2005年にワーファリンの使用量を規定するvitamin K epoxide reductase complex 1 (VKORC1) 遺伝子の存在が報告され一気に現実味を帯びた(NEJM 352:2285-2293, 2005).具体的にはこの遺伝子のSNPs(一塩基多型)により,低用量ハプロタイプ(A)と高用量ハプロタイプ(B)に分けてみると,AAを有する人のワーファリン平均使用量は2.7±0.2 mg/日であるのに対し,ABでは4.9±0.2 mg/日,BBでは6.2±0.3 mg/日とBハプロタイプを持つに従い使用量は増加した.これはVKORC1 mRNAレベルがハプロタイプ毎に異なっており,ワーファリン使用量の相違はVKORC1遺伝子の転写レベルの違いに相関するものと結論付けられた(ちなみに日本人では,約18 %のひとは薬剤感受性が低いハプロタイプを有すると言われている).
となると,ワーファリン使用量がVKORC1遺伝子によってのみ規定されのるかという疑問を持つが,現在はワーファリン使用量の決定因子として,効果の大きい順に①VKORC1遺伝子多型,②体表面積,③CYP2C9*3遺伝子多型,④年齢,⑤CYP2C9*2遺伝子多型が判明している.④⑤は薬剤代謝に関与する肝代謝酵素チトクロームP450の遺伝子多型である.2006年11月にはStanford大学,NIHなど欧米,韓国,日本など世界20以上の研究機関が集まり,Warfarin consortiumが形成された.全世界からワーファリン使用者のSNPs情報と臨床情報を集めて,SNPsとワーファリンの適正使用法を決定しようとする会議で,3000例以上の症例を集める予定だそうだ.
とはいえ,ワーファリンにおける「オーダーメイド医療」の実現はもう少し先のことのように思われるが,必ずしもそうではない.例えばWARFARIN DOSINGというwashington大学やNIHが運営するフリーのウェブサイトを見てほしい.ここででは,身長・体重・治療開始前INRや内服スタチン名などの情報を入力することで,ワーファリン使用量を推定してくれる.VKORC1やCYP2C9の遺伝子型を入力する欄があるが,アメリカではすでにcommercial baseで調べてくれるサービスがある.
さらに,心房細動患者を対象にして,遺伝子検査結果に応じてワーファリン使用量を調節する臨床試験が今月から始まっている(Medco社とMayo clinic共同研究).このプロジェクトでは、心房細動患者約1000人の血液がMayo Clinicに送付され,結果は速やかに医師に送付され,医師はワーファリン使用量を調節する.
ただ,自分で紹介しておいて言うのもおかしな話だが,ビタミンK摂取量などの環境因子によっても凝固能が影響を受けることは言うまでもなく,同一の患者であってもPT-INRの値が大きく変動することを少なからず経験する.また昔からワーファリンの開始時の内服方法にはいろいろ工夫もあり,こんなにまで莫大な予算を使って抗凝固療法に「オーダーメイド医療」を導入するメリットがあるのかとも思ってしまう.皆さんはどうお考えだろうか?