夕方になると「家に帰りたい」と言う入院患者さんがいる。夕方になると決まってそわそわと落ち着かなくなり、「家に帰る」と言っては帰り支度をして出ていこうとする。落ち着かなく、不機嫌になるが、一日中よく理解できない状況で生活するというストレスに耐えられなくなったため生じるのかも知れない。このような症状はだいたい夕暮れ時に起こるので、「夕暮れ(夕方)症候群」などと呼ばれている(名称がつくぐらいなので、比較的頻繁に見られる症状である)。目的もなく動き回ることは転倒・骨折につながるし、夜間の外出・徘徊はそもまま家に帰れなくなる失踪の原因になる。これらはアルツハイマー病の中期に出やすい症状で、一種の「せん妄」と考えられる。
夕暮れ症候群は入院中の患者さんばかりでなく、自宅で過ごすアルツハイマー病患者さんにも起こりうる。つまり、記憶が何十年も昔のものに戻って、昔の家に住んでいると思いこんでしまい、現在住んでいる家をよその家に遊びに来ているものと勘違いしてしまうのである。
こういった認知症に伴う周辺症状(記銘力低下といった中核症状ではない、徘徊・幻覚・妄想・精神興奮・問題行動・食行動異常・性行動異常など)に対して、どのように対応すればよいのであろうか?最近、手にした「家族のための<認知症>入門」は、アルツハイマー病をはじめとする認知症の患者とどう向き合うか、診察室を訪れた家族と患者の事例から、その介護の実践法を教えてくれる本である。
たとえば幻覚・妄想への対処のヒントとしては
①(他の精神病とは異なり)生命を脅かすことはないことを理解する
②幻覚・妄想を呈している人に否定をしない、理屈で説得しない
③幻覚・妄想を受け入れる、あるいは軽く受け流す
④部屋の中で勘違いして(幻覚の)原因になりそうなものは片付ける
⑤照明は明るくする
⑥視力・聴力は大丈夫か確認する
といった点を挙げている。
また「夕暮れ症候群」に対する対処については
①理詰めで言っても無理
②お茶やジュース、お菓子などを勧めて、夕方の空腹によるいらいらした感情を収める
③条件を提示する。例えば「今はもう遅いから、明日にしましょう」「迎えに来る人が今日は都合が悪いといっている」「家族の方があさって迎えに来る」などといって、希望はかなえてあげたいけどこちらにも都合があるので、と協力を依頼する
といった点を挙げている。また自宅での場合は、とりあえずは「そうですか」と受け止め、それから「夕ご飯を食べていってください」「今日は泊まっていってください」などと言って気持ちを別のことに引きつけたり、一緒に外に出て満足させるたりすることが必要となる。
ただアリセプトを処方するだけでなく、このような周辺症状に対して適切なアドバイスをすることができるのであれば、患者さんと家族に外来までお越しいただく意義も大きいものになるだろう。本書は患者さんの自尊心に配慮した暮らし方のヒントを紹介する本であり、ぜひご一読を薦める。
家族のための<認知症>入門
夕暮れ症候群は入院中の患者さんばかりでなく、自宅で過ごすアルツハイマー病患者さんにも起こりうる。つまり、記憶が何十年も昔のものに戻って、昔の家に住んでいると思いこんでしまい、現在住んでいる家をよその家に遊びに来ているものと勘違いしてしまうのである。
こういった認知症に伴う周辺症状(記銘力低下といった中核症状ではない、徘徊・幻覚・妄想・精神興奮・問題行動・食行動異常・性行動異常など)に対して、どのように対応すればよいのであろうか?最近、手にした「家族のための<認知症>入門」は、アルツハイマー病をはじめとする認知症の患者とどう向き合うか、診察室を訪れた家族と患者の事例から、その介護の実践法を教えてくれる本である。
たとえば幻覚・妄想への対処のヒントとしては
①(他の精神病とは異なり)生命を脅かすことはないことを理解する
②幻覚・妄想を呈している人に否定をしない、理屈で説得しない
③幻覚・妄想を受け入れる、あるいは軽く受け流す
④部屋の中で勘違いして(幻覚の)原因になりそうなものは片付ける
⑤照明は明るくする
⑥視力・聴力は大丈夫か確認する
といった点を挙げている。
また「夕暮れ症候群」に対する対処については
①理詰めで言っても無理
②お茶やジュース、お菓子などを勧めて、夕方の空腹によるいらいらした感情を収める
③条件を提示する。例えば「今はもう遅いから、明日にしましょう」「迎えに来る人が今日は都合が悪いといっている」「家族の方があさって迎えに来る」などといって、希望はかなえてあげたいけどこちらにも都合があるので、と協力を依頼する
といった点を挙げている。また自宅での場合は、とりあえずは「そうですか」と受け止め、それから「夕ご飯を食べていってください」「今日は泊まっていってください」などと言って気持ちを別のことに引きつけたり、一緒に外に出て満足させるたりすることが必要となる。
ただアリセプトを処方するだけでなく、このような周辺症状に対して適切なアドバイスをすることができるのであれば、患者さんと家族に外来までお越しいただく意義も大きいものになるだろう。本書は患者さんの自尊心に配慮した暮らし方のヒントを紹介する本であり、ぜひご一読を薦める。
家族のための<認知症>入門