この学会の一番の目玉企画は,世界各国の学会員が経験した症例のビデオを持ち寄り,運動障害のエキスパートが,その不随意運動の特徴や診断を議論するVideo Challengeだ.今年もワインが振る舞われたあとの夜8時から開始され,終了は10時を過ぎていた.今年は12+1例の提示があった.昨年は新たに判明した遺伝性疾患が多く,「これは分からないよ!」という印象であったが,今年はその反省もあってか(?)バラエティに富んだ出題になった.時差ボケとワインのせいでウトウトしてしまい,一部,聞き漏らしたところもあるがご容赦願いたい(誤りがあったら教えて下さい).
【問題編】
Case 1(米国)
進行性の失調,ミオクローヌス,嚥下障害.傍腫瘍症候群を疑い,ステロイドパルス,IVIgを行うも無効.
Case 2(イギリス)
15歳女性,亜急性に覚醒障害,幻覚,摂食異常が出現.易転倒性あり(眠くて歩けない),首を前後にガクンガクンさせる.
Case 3(ドイツ)
35歳男性,27歳で触ったあとに首・体幹がぴくんと動く(スパスム・ミオクローヌス).徐々に範囲と程度が増強.その後,失調,便秘,回転性めまい,異常感覚,アロディニアも出現.
Case 4(アメリカ)
左足首がゆっくり屈曲・伸展を繰り返す,徐々に増悪し,歩行困難になる.小腸生検.
Case 5(オーストラリア)
24歳女性,発育障害,13歳で顔面,首,上肢に強いミオクローヌス,てんかん,失調,ミオクローヌス・ジストニア,19歳でてんかん
Case 6(?)
42歳女性,発育障害,てんかん,35歳からパーキンソニズム(介助歩行),L-DOPAとDAアゴニスト若干有効.
Case 7(ドイツ)
64歳男性.痙性が強い,歩行障害.失調,舌が動く(舞踏運動),睡眠PSG異常(睡眠潜時↑,睡眠効率↓,SASおよびPLM),ステロイド,IVIg,リツキシマブ若干有効.
Case 8(?)
男性,亜急性の発症.手指の陰性ミオクローヌス,姿勢保持障害,振動覚低下,急速進行性認知機能低下
Case 9(アイルランド)
左手のしびれ.感覚障害,延髄背側の病変に手術後,左手が勝手に動き抑えられないほど(モノバリスム).左上肢振動覚なし.病変拡大.
Case 10(台湾)
33歳男性.26歳より緩徐進行性の歩行+言語障害,ジストニア,パーキンソニズム.失調,姿勢保持障害,両側性の顔面感覚障害.DATスキャン,MRI多発病変に対し,生検を行った.血管周囲CD3/CD4 T細胞の浸潤.ステロイド有効.
Case 11(?)
55歳女性.46歳で歩行,言語障害にて発症.アキネジア,複視,顎のスパスム.左手のジストニアと痛み,寝たきり,認知機能正常.IVIg有効.
Case 12(タイ)
43歳男性,首の不随意運動と一側上肢のアステリキシス,てんかん
おまけ(アメリカ)
19歳女性.1歳から舞踏病アテトーゼ(以後緩徐増悪),hypotonia,低トーヌス.常染色体優性遺伝.
【解答編】
Case 1(米国)
進行性の失調,ミオクローヌス,嚥下障害.傍腫瘍症候群を疑い,ステロイドパルス,IVIgを行うも無効.
→ ヒト成長ホルモン製剤により感染した医原性CJD.米国で遺体由来のヒト成長ホルモンを投与された患者はおよそ7700人にのぼる.
Case 2(イギリス)
15歳女性,亜急性に覚醒障害,幻覚,摂食異常が出現.易転倒性あり(眠くて歩けない),首を前後にガクンガクンさせる,脱力発作.
→ カタプレキシーを伴うナルコレプシー(ナルコレプシー1型)
Case 3(ドイツ)
35歳男性,27歳で触ったあとに首・体幹がぴくんと動く(スパスム・ミオクローヌス).徐々に範囲と程度が増強.その後,失調,便秘,回転性めまい,異常感覚,アロディニアも出現.
→Stimulus-sensitive myoclonus, ataxia, and dysautonomia due to DPPX-antibodies(dipeptidyl-peptidase-like protein-6;subunit of Kv4.2 potassium channel)
幅広い臨床像.筋強剛,ミオクローヌスからStiff person症候群まで.自律神経障害(消化管,排尿,不整脈)
Case 4(アメリカ)
左足首がゆっくり屈曲・伸展を繰り返す,徐々に増悪し,歩行困難になる.小腸生検.
→グルテン過敏症(celiac disease).小麦などに含まれるグルテンに対する免疫反応が引き金になって起こる小腸を主体とする自己免疫疾患.しばしば成人では,小脳性運動失調,末梢神経障害,てんかんのほか,不随意運動として,ミオクローヌスやopsoclonus-myoclonusを呈する.
Case 5(オーストラリア)
24歳女性,発育障害,13歳で顔面,首,上肢に強いミオクローヌス,てんかん,失調,ミオクローヌス・ジストニア,19歳でてんかん
→Interstitial 6q deletion症候群.6q15-q25の欠失.多彩な表現型を示す.成長障害,肥満,Prader-Willi syndrome様症候,行動異常,低トーヌス,てんかん,不随意運動(失調,振戦,ミオクローヌス,ミオクローヌス・ジストニア)
Case 6(?)
42歳女性,発育障害,てんかん,35歳からパーキンソニズム(介助歩行),L-DOPAとDAアゴニスト若干有効.
→β-propeller protein-associated neurodegeneration (BPAN).別名Static Encephalopathy of childhood with Neurodegeneration in Adulthood (SENDA).オートファジー遺伝子WDR45遺伝子変異,X連鎖優性(男性致死).精神発達遅滞,てんかん,痙性,失調,パーキンソニズム.
画像はこちら.
Case 7(ドイツ)
64歳男性.痙性が強い,歩行障害.失調,舌が動く(舞踏運動),睡眠PSG異常(睡眠潜時↑,睡眠効率↓,SASおよびPLM),ステロイド,IVIg,リツキシマブ若干有効.
→IgLON5(神経細胞接着分子のひとつ)antibody関連疾患.閉塞性睡眠時無呼吸を伴う進行性non-REM・REMパラスソムニア,運動障害(四肢の失調,舞踏運動,歩行不安定性),眼球運動障害,生命予後不良(8例中6例が免疫抑制療法にもかかわらず1年以内に死亡).2名の病理で,脳幹・視床に過剰リン酸化されたタウの沈着(タウオパチーである).IgLON5 antibodiesは298名の対照では1名にのみ見られ,その1名はPSPだった.非常にタウオパチーを考える上で興味をひかれる疾患.文献.
Case 8(?)
男性,亜急性の発症.手指の陰性ミオクローヌス,姿勢保持障害,振動覚低下,急速進行性認知機能低下
→神経梅毒(脊髄癆)進行性の運動障害と認知症では鑑別診断に加える.
Case 9(アイルランド)
左手のしびれ.感覚障害,延髄背側の病変に手術後,左手が勝手に動き抑えられないほど(モノバリスム).左上肢振動覚なし.病変拡大.
→楔状束核小脳路病変(病変の正体は言わなかった?聞き漏らした?)上肢領域における
固有感覚と,触覚や圧覚などの外部感覚に関する情報を小脳に伝える中継核.
Case 10(台湾)
33歳男性.26歳より緩徐進行性の歩行+言語障害,ジストニア,パーキンソニズム.失調,姿勢保持障害,両側性の顔面感覚障害.DATスキャン,MRI多発病変に対し,生検を行った.血管周囲CD3/CD4 T細胞の浸潤.ステロイド有効.
→CLIPPER(Chronic lymphocytic inflammation with pontine perivascular enhancement responsive to steroid)「脳幹の小血管周辺の炎症」を病変の主座とする炎症性中枢神経疾患.複視,失調,構音障害,片麻痺など.運動障害を合併することは稀ではあるがありうる.画像では脳幹に点状結節状の造影病変が両側性に認める.
Case 11(?)
55歳女性.46歳で歩行,言語障害にて発症.アキネジア,複視,顎のスパスム.左手のジストニアと痛み,寝たきり,認知機能正常.IVIg有効.
→抗GAD(glutamic acid decarboxylase)抗体関連疾患
抗GAD抗体がGABA産生を抑制することで神経症状を呈する.有名なStiff-person症候群以外にも小脳性運動失調を呈しうるが,本例のようにジストニアを呈することもある.
Case 12(タイ)
43歳男性,首の不随意運動と一側上肢のアステリキシス,てんかん
→Neurocysticercosis(神経嚢尾虫症)
てんかんが多いが,局所神経症状,頭蓋内圧亢進,認知機能低下を来す.運動障害もきたしうる.
おまけ(アメリカ)
19歳女性.1歳から舞踏病アテトーゼ(以後緩徐増悪),hypotonia,低トーヌス.常染色体優性遺伝.
ADCY5(adenylate cyclase 5) 遺伝子変異.常染色体優性遺伝の疾患で,早期発症,舞踏病様,ないしジストニア様のジスキネジア,眼や口部周囲のミオキミアを呈する.良性遺伝性舞踏病の表現型も取りうる(最新号のNeurologyに掲載).De novo変異もあるので家族歴がなくても疑う必要はある.

【問題編】
Case 1(米国)
進行性の失調,ミオクローヌス,嚥下障害.傍腫瘍症候群を疑い,ステロイドパルス,IVIgを行うも無効.
Case 2(イギリス)
15歳女性,亜急性に覚醒障害,幻覚,摂食異常が出現.易転倒性あり(眠くて歩けない),首を前後にガクンガクンさせる.
Case 3(ドイツ)
35歳男性,27歳で触ったあとに首・体幹がぴくんと動く(スパスム・ミオクローヌス).徐々に範囲と程度が増強.その後,失調,便秘,回転性めまい,異常感覚,アロディニアも出現.
Case 4(アメリカ)
左足首がゆっくり屈曲・伸展を繰り返す,徐々に増悪し,歩行困難になる.小腸生検.
Case 5(オーストラリア)
24歳女性,発育障害,13歳で顔面,首,上肢に強いミオクローヌス,てんかん,失調,ミオクローヌス・ジストニア,19歳でてんかん
Case 6(?)
42歳女性,発育障害,てんかん,35歳からパーキンソニズム(介助歩行),L-DOPAとDAアゴニスト若干有効.
Case 7(ドイツ)
64歳男性.痙性が強い,歩行障害.失調,舌が動く(舞踏運動),睡眠PSG異常(睡眠潜時↑,睡眠効率↓,SASおよびPLM),ステロイド,IVIg,リツキシマブ若干有効.
Case 8(?)
男性,亜急性の発症.手指の陰性ミオクローヌス,姿勢保持障害,振動覚低下,急速進行性認知機能低下
Case 9(アイルランド)
左手のしびれ.感覚障害,延髄背側の病変に手術後,左手が勝手に動き抑えられないほど(モノバリスム).左上肢振動覚なし.病変拡大.
Case 10(台湾)
33歳男性.26歳より緩徐進行性の歩行+言語障害,ジストニア,パーキンソニズム.失調,姿勢保持障害,両側性の顔面感覚障害.DATスキャン,MRI多発病変に対し,生検を行った.血管周囲CD3/CD4 T細胞の浸潤.ステロイド有効.
Case 11(?)
55歳女性.46歳で歩行,言語障害にて発症.アキネジア,複視,顎のスパスム.左手のジストニアと痛み,寝たきり,認知機能正常.IVIg有効.
Case 12(タイ)
43歳男性,首の不随意運動と一側上肢のアステリキシス,てんかん
おまけ(アメリカ)
19歳女性.1歳から舞踏病アテトーゼ(以後緩徐増悪),hypotonia,低トーヌス.常染色体優性遺伝.
【解答編】
Case 1(米国)
進行性の失調,ミオクローヌス,嚥下障害.傍腫瘍症候群を疑い,ステロイドパルス,IVIgを行うも無効.
→ ヒト成長ホルモン製剤により感染した医原性CJD.米国で遺体由来のヒト成長ホルモンを投与された患者はおよそ7700人にのぼる.
Case 2(イギリス)
15歳女性,亜急性に覚醒障害,幻覚,摂食異常が出現.易転倒性あり(眠くて歩けない),首を前後にガクンガクンさせる,脱力発作.
→ カタプレキシーを伴うナルコレプシー(ナルコレプシー1型)
Case 3(ドイツ)
35歳男性,27歳で触ったあとに首・体幹がぴくんと動く(スパスム・ミオクローヌス).徐々に範囲と程度が増強.その後,失調,便秘,回転性めまい,異常感覚,アロディニアも出現.
→Stimulus-sensitive myoclonus, ataxia, and dysautonomia due to DPPX-antibodies(dipeptidyl-peptidase-like protein-6;subunit of Kv4.2 potassium channel)
幅広い臨床像.筋強剛,ミオクローヌスからStiff person症候群まで.自律神経障害(消化管,排尿,不整脈)
Case 4(アメリカ)
左足首がゆっくり屈曲・伸展を繰り返す,徐々に増悪し,歩行困難になる.小腸生検.
→グルテン過敏症(celiac disease).小麦などに含まれるグルテンに対する免疫反応が引き金になって起こる小腸を主体とする自己免疫疾患.しばしば成人では,小脳性運動失調,末梢神経障害,てんかんのほか,不随意運動として,ミオクローヌスやopsoclonus-myoclonusを呈する.
Case 5(オーストラリア)
24歳女性,発育障害,13歳で顔面,首,上肢に強いミオクローヌス,てんかん,失調,ミオクローヌス・ジストニア,19歳でてんかん
→Interstitial 6q deletion症候群.6q15-q25の欠失.多彩な表現型を示す.成長障害,肥満,Prader-Willi syndrome様症候,行動異常,低トーヌス,てんかん,不随意運動(失調,振戦,ミオクローヌス,ミオクローヌス・ジストニア)
Case 6(?)
42歳女性,発育障害,てんかん,35歳からパーキンソニズム(介助歩行),L-DOPAとDAアゴニスト若干有効.
→β-propeller protein-associated neurodegeneration (BPAN).別名Static Encephalopathy of childhood with Neurodegeneration in Adulthood (SENDA).オートファジー遺伝子WDR45遺伝子変異,X連鎖優性(男性致死).精神発達遅滞,てんかん,痙性,失調,パーキンソニズム.
画像はこちら.
Case 7(ドイツ)
64歳男性.痙性が強い,歩行障害.失調,舌が動く(舞踏運動),睡眠PSG異常(睡眠潜時↑,睡眠効率↓,SASおよびPLM),ステロイド,IVIg,リツキシマブ若干有効.
→IgLON5(神経細胞接着分子のひとつ)antibody関連疾患.閉塞性睡眠時無呼吸を伴う進行性non-REM・REMパラスソムニア,運動障害(四肢の失調,舞踏運動,歩行不安定性),眼球運動障害,生命予後不良(8例中6例が免疫抑制療法にもかかわらず1年以内に死亡).2名の病理で,脳幹・視床に過剰リン酸化されたタウの沈着(タウオパチーである).IgLON5 antibodiesは298名の対照では1名にのみ見られ,その1名はPSPだった.非常にタウオパチーを考える上で興味をひかれる疾患.文献.
Case 8(?)
男性,亜急性の発症.手指の陰性ミオクローヌス,姿勢保持障害,振動覚低下,急速進行性認知機能低下
→神経梅毒(脊髄癆)進行性の運動障害と認知症では鑑別診断に加える.
Case 9(アイルランド)
左手のしびれ.感覚障害,延髄背側の病変に手術後,左手が勝手に動き抑えられないほど(モノバリスム).左上肢振動覚なし.病変拡大.
→楔状束核小脳路病変(病変の正体は言わなかった?聞き漏らした?)上肢領域における
固有感覚と,触覚や圧覚などの外部感覚に関する情報を小脳に伝える中継核.
Case 10(台湾)
33歳男性.26歳より緩徐進行性の歩行+言語障害,ジストニア,パーキンソニズム.失調,姿勢保持障害,両側性の顔面感覚障害.DATスキャン,MRI多発病変に対し,生検を行った.血管周囲CD3/CD4 T細胞の浸潤.ステロイド有効.
→CLIPPER(Chronic lymphocytic inflammation with pontine perivascular enhancement responsive to steroid)「脳幹の小血管周辺の炎症」を病変の主座とする炎症性中枢神経疾患.複視,失調,構音障害,片麻痺など.運動障害を合併することは稀ではあるがありうる.画像では脳幹に点状結節状の造影病変が両側性に認める.
Case 11(?)
55歳女性.46歳で歩行,言語障害にて発症.アキネジア,複視,顎のスパスム.左手のジストニアと痛み,寝たきり,認知機能正常.IVIg有効.
→抗GAD(glutamic acid decarboxylase)抗体関連疾患
抗GAD抗体がGABA産生を抑制することで神経症状を呈する.有名なStiff-person症候群以外にも小脳性運動失調を呈しうるが,本例のようにジストニアを呈することもある.
Case 12(タイ)
43歳男性,首の不随意運動と一側上肢のアステリキシス,てんかん
→Neurocysticercosis(神経嚢尾虫症)
てんかんが多いが,局所神経症状,頭蓋内圧亢進,認知機能低下を来す.運動障害もきたしうる.
おまけ(アメリカ)
19歳女性.1歳から舞踏病アテトーゼ(以後緩徐増悪),hypotonia,低トーヌス.常染色体優性遺伝.
ADCY5(adenylate cyclase 5) 遺伝子変異.常染色体優性遺伝の疾患で,早期発症,舞踏病様,ないしジストニア様のジスキネジア,眼や口部周囲のミオキミアを呈する.良性遺伝性舞踏病の表現型も取りうる(最新号のNeurologyに掲載).De novo変異もあるので家族歴がなくても疑う必要はある.
