症例は69歳男性,6ヶ月にわたる四肢筋力低下を主訴に前医に入院しました.慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)と診断され,免疫グロブリン療法(IVIG)を3回,ステロイドパルス療法を4回受けましたが効果はありませんでした.当科に転院.四肢筋力低下,腱反射減弱,手袋靴下型表在覚障害,下肢の位置覚障害を認めました.さらに陽性及び陰性ミオクローヌス,偽アテトーシスを認めました.見当識は保たれていましたが,認知機能障害を認めました.運動神経伝導検査は脱髄型で,正中,尺骨,腓腹神経では感覚神経活動電位は導出されませんでした.脳脊髄液ではタンパク質378 mg/dL,細胞数1/μL,IgG index 0.79でした.頭部MRIは正常,しかし脊髄MRIでは腕神経叢と腰神経叢の肥厚を認めました.腓腹神経生検は軸索変性を認めました.自己免疫性ノドパチーを疑い,NF 155およびコンタクチン1抗体を測定したものの陰性,しかしCaspr1抗体(IgG4サブタイプ)は強陽性で,Caspr1抗体陽性ノドパチーと診断しました.リツキシマブによる治療を開始したところ,まず陰性ミオクローヌス,偽アテトーシスが消失し,わずかに陽性ミオクローヌスが手指に残るだけとなり,その後,四肢の筋力低下・感覚障害,記憶障害も徐々に改善しました.
以上より,中枢神経症状にCaspr1抗体が関与している可能性を疑い,患者脳脊髄液にてラット脳スライスを用いた免疫組織染色を行ったところ,海馬,大脳皮質および基底核が陽性に染色されました(ニューロピルパターンでした;図1 a, d).この免疫反応は治療後の脳脊髄液ではほとんど消失しました(図1 b, e). ELISAを用いて治療後の脳脊髄液中Caspr1抗体を測定したところ低下を確認しました.
最近の報告では,Caspr1はシナプスでAMPA受容体の結合パートナーであり,AMPA受容体のトラフィックおよびシナプス含量を調節することが示されています.したがって,中枢神経中のCaspr1抗体がAMPA受容体に関連するシナプス機能を障害し,認知機能障害や不随意運動を引き起こした可能性はあると思われますが,今後の検証が必要です.研究の限界としては,神経細胞表面抗原に対する他の抗体が同時に存在する可能性を完全には除外できていないことなどが挙げられます.
結論として,Caspr1抗体陽性ノドパチーが中枢神経症状を呈する可能性を初めて示しました.特に記憶障害や陰性・陽性ミオクローヌスを伴うノドパチーではCaspr1抗体を候補として考える必要があります.なお本研究は,名古屋大学深見祐樹先生,勝野雅央先生との共同研究として行いました.
Mori Y, Yoshikura N, Fukami Y, Takekoshi A, Kimura A, Katsuno M, Shimohata T. Anti-contactin-associated protein 1 antibody-positive nodopathy presenting with central nervous system symptoms. J Neuroimmunol. 2024 Jul 27;394:578420.(doi.org/10.1016/j.jneuroim.2024.578420)
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