Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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PSPと運動失調における評価尺度の進化 ― 米国食品医薬品局(FDA)が進める評価尺度の改訂の意義

2024年12月29日 | その他の変性疾患
進行性核上性麻痺(PSP)は,運動障害,認知機能障害,行動変化など多彩な症候を呈する神経変性疾患です.このため臨床評価尺度も多彩な項目を要します.現在,使用されているProgressive Supranuclear Palsy Rating Scale(PSPRS)は28項目から構成されます.なんと米国食品医薬品局FDAがPSPRSを改訂し,10項目から構成されるPSPRS-10という評価尺度を作成したようです.その有用性を検証した論文がスウェーデンからMov Disord誌に報告されています(文献1).

この研究では,従来のPSPRS(PSPRS-28)とFDAが提案した10項目サブスケール(PSPRS-10および再スコアリング版rPSPRS-10)を比較しています.アイテム応答理論(Item Response Theory, IRT)は統計モデルのひとつで,テストや評価尺度を構築・解析するための方法です.被験者の潜在特性(例:能力,病気の重症度,態度など)と,個々のテスト項目(質問や評価基準)の特性との関係を数学的にモデル化する方法のようです.つまりIRTを用いて,28項目のうち情報量が低い項目や,疾患重症度との相関が弱いものが特定され削除されました.その結果できたものが以下の10項目による簡略版です.
1. Gait(歩行)
2. Arising from chair(椅子からの立ち上がり)
3. Postural stability(姿勢の安定性)
4. Sitting down(座る動作)
5. Neck rigidity(頸部筋強剛)
6. Dysphagia for liquids(液体の嚥下障害)
7. Dysphagia for solids(固形物の嚥下障害)
8. Voluntary downward saccades(自発的下向きサッケード)
9. Postural reflexes(姿勢保持)
10. Impact on daily life(日常生活への影響)

著者らは4つの臨床試験および2つのレジストリから得られた979名分のデータを分析し,各尺度の有用性を評価しました.この結果,PSPRS-28では項目間の相関が低く(平均相関係数r=0.17±0.14),特に「イライラ感」「睡眠困難」「姿勢振戦」の3つの項目は他の項目とほぼ相関がないことを示しました.一方,PSPRS-10では選択された10項目が全体の76%の情報量を保持しており,相関も高い(r=0.35±0.14)ことが示されました.また臨床試験シミュレーションでは,治療効果を検出するための被験者数をPSPRS-10は大幅に削減できることが確認されました.例えば,50%の治療効果を検出する場合,PSPRS-10では19名の被験者で済むのに対し,PSPRS-28では102名が必要でした.「rPSPRS-10」はさらにスコアリング方法を変更したものですが,PSPRS-10ほどの感度を示さない可能性があることが示されました.まとめるとPSPRS-10とPSPRS-28はそれぞれ利点があり,PSPRS-10は臨床試験における評価尺度として効率的で,PSPRS-28は疾患の全体像を詳細に把握するために有用です.表にまとめましたが,それぞれの特性を活かし,目的に応じて適切な評価尺度を選択することが重要となります.



この論文に対する論説も掲載され,FDAが主導し,PSPRSの改訂が行われた背景について論じています(文献2).FDAが希少疾患における臨床試験の効率性を高めるため,既存の評価尺度を改善する取り組みを進めていることが強調されています.つまり臨床試験のエンドポイントとして使用されるスケールの「目的適合性(fit-for-purpose)」を重視し,不要な項目を削除し,機能的評価を重視した改訂をすることにより,治療効果の判定をより効率的・効果的にできると述べられています.FDAはPSPRSだけでなく小脳性運動失調の評価尺度であるSARA(Scale for the Assessment and Rating of Ataxia)も改訂しています(文献3).改訂版は「functional SARA(f-SARA)」と呼ばれるもので,もとの8項目のうち,以下の4項目に絞っています.
1. Gait(歩行)
2. Stance(立位)
3. Sitting(坐位)
4. Speech(発語)
著者らは,他の評価スケールにも同様の改訂が必要であると述べています.



1. Gewily M, et al. Quantitative Comparisons of Progressive Supranuclear Palsy Rating Scale Versions Using Item Response Theory. Mov Disord. 2024 Dec;39(12):2181-2189.(doi.org/10.1002/mds.30001

2. Sampaio C. FDA Boosts the Progressive Supranuclear Palsy Rating Scale! Mov Disord. 2024 Dec;39(12):2127-2129.(doi.org/10.1002/mds.30040

3. Potashman M, et al. Content Validity of the Modified Functional Scale for the Assessment and Rating of Ataxia (f-SARA) Instrument in Spinocerebellar Ataxia. Cerebellum. 2024 Oct;23(5):2012-2027.(doi.org/10.1007/s12311-024-01700-2

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哲学を通した「幸せ」の追求を@「医師こそリベラルアーツ!」連載第8回

2024年12月27日 | 医学と医療
「医師こそリベラルアーツ!」の連載第8回が,日経メディカル「Cadetto.jp」にて公開されました(https://tinyurl.com/26a33w8e).いままで岐阜大学にて31回のリベラルアーツ研究会を開催しましたが,各回で行なった私のミニレクチャーを紙面で再現する企画です.

医師はその忙しさから,自分自身の人生や「幸せ」について深く考える機会を失いがちです.しかしそのような中でも,哲学を学ぶことによって,生きる意味や幸せとは何かを問い直すことは,患者さんを理解し,自身の医療者としての役割を再確認する上でも役に立ちます.今回は,日本を代表する哲学者・三木清の著書『人生論ノート』を課題図書とし,医療者が「幸せ」を追求する意義を考えてみました.

三木清(1897-1945)の『人生論ノート』は,死,虚栄,孤独,嫉妬,成功など,誰もが一度は悩む人生のテーマを取り上げたエッセイ集であり,戦時下の厳しい言論弾圧の中で執筆されました.本書では,「幸福」を中心テーマに据え,個人の幸せが社会にとっていかに重要であるかを強調しています.三木清は,「成功」と「幸福」は異なるものであると説いています.成功は外部の評価や条件に左右される一方で,幸福は内面的な充実や自己の価値観に基づくものであり,自らの生き方次第で得られるものです.幸福を追求することなく成功ばかりを追い求めると,他者や社会にコントロールされる危険性があると警鐘を鳴らしています.



三木清の考えをさらに深めるため,19世紀の哲学者たちによる「三大幸福論」にも触れました.スイスのカール・ヒルティは「不幸を経験することで得られる使命感」が幸福につながると述べ,フランスのアランは「楽観的に行動することの重要性」を説きました.また,イギリスのバートランド・ラッセルは「他者や社会とのつながりが幸福に欠かせない」とし,人生の目的と仕事の一致を幸福の条件として挙げています.皆さんの「幸せ」とは何でしょうか.一度,哲学的な視点から考えてみてはいかがでしょうか.



次回は,隠岐さや香著『文系と理系はなぜ分かれたのか』を題材に,理系の人々にも必要な「文系とアートの力」について考察したいと思います.

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AIモデルに「認知機能検査」をして分かったその弱点@BMJクリスマス論文より

2024年12月24日 | 医学と医療
世界五大医学誌の一つBMJ誌は,毎年,クリスマスの時期になるとイグノーベル賞を凌駕するような面白論文の特集号を公開します.今年の原著論文は4つで,変形性手関節症患者の手指機能に対する電気加熱ミトンの効果を調べた論文や,タクシー運転手と救急車運転手におけるアルツハイマー病による死亡率を分析した論文などが報告されていますが,個人的に面白かったのは,今年急速に広まった大規模言語モデルであるChatGPT(OpenAI開発),Claude(Anthropic開発),そしてGemini(Alphabet開発)の「認知機能」を人間と同じようにテストした研究です.エルサレムにあるハダサ医療センターの脳神経内科チームが中心に行ったものです.

施行したのは軽度認知障害(MCI)の診断のために作られた「MoCA(Montreal Cognitive Assessment)」という認知機能検査です.視空間・遂行機能,命名,記憶,注意力,復唱,語想起,抽象概念,遅延再生,見当識などを評価します.所要時間は約10分です.

さて結果ですが,ChatGPT 4oが最高スコアの26点を獲得し,ClaudeとChatGPT 4が25点,Gemini 1.5が22点,そしてGemini 1.0が16点という結果でした.MoCAテストの基準では30点中26点以上が正常範囲とされるため,大半のモデルが軽度認知障害(MCI)に該当するスコアであることが分かりました(図1).



とくに興味深いのは,抽象化や言語課題など,テキストベースの領域では高い成績を収めた一方,すべてのモデルが視空間および遂行機能において低いパフォーマンスを示したことです.例えば,図2は視覚的な注意機能を評価するトレイル・メイキングB課題(経路描画課題)を行っていますがいずれも不正解です.立方体の模写もかなり苦戦しています.ChatGPT 4oはASCIIアートを用いることで正確な図を描くことに成功しています.



印象的なのは図3の時計描画タスクで,数字を正しく配置できなかったり,時刻を正確に示せなかったりと,人間の認知症患者に似たエラーが見られました.ChatGPT 4oは写真のように美しい時計を描きましたが,針の位置を間違えました.Gemini 1.5が描いた時計(E)を著者は「アボカドのような形」と評していますが,ユニークで笑いを誘う一方,アルツハイマー病患者の特徴的な描画に類似しています.AIの課題を浮き彫りにするものです.



以上の結果は,AIが医療分野でどの程度人間の役割を代替できるのかを考える上で重要な示唆を与えます. 大規模言語モデルは高度な認知能力を持ちながらも,視空間認知や遂行機能において人間の医師を完全に代替するには至らないことを示しています.医療分野におけるAIの活用が急速に進む中,AIにはなかなか敵わないという雰囲気があったので,まだまだ人間も捨てたものではないという気持ちになりましたが, AIのこの弱点も早晩,改良されそうな気もしています.
Dayan R, Uliel B, Koplewitz G. Age against the machine-susceptibility of large language models to cognitive impairment: cross sectional analysis. BMJ. 2024 Dec 19;387:e081948.(doi.org/10.1136/bmj-2024-081948

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筋萎縮性側索硬化症ではglymphatic systemの障害が生じている

2024年12月21日 | 機能性神経障害
筋萎縮性側索硬化症(ALS)と原発性側索硬化症(PLS)におけるglymphatic systemの機能を縦断的に評価した研究が,カナダ・カルガリー大学等からBrain誌に報告されました.

対象はALS患者18名,PLS患者5名,健常者22名の合計45名で,0か月,4か月,8か月の3つの時点でMRIを用いてglymphatic systemの機能を測定しました.方法は拡散テンソルイメージング(DTI)を用いてglymphatic systemを間接的に評価するDTI-ALPS法というものです.

さて結果ですが,ALS群のglymphatic機能(DTI-ALPS指数)は,健常者およびPLS群に比べて有意に低下していました(図1).この低下は,4か月,8か月と,病期が進行しても持続していました(図2).



一方で,PLS群では健常者と同等にglymphatic機能が維持されていました.またALS患者におけるDTI-ALPS指数の低下は年齢とともに顕著になりましたが(図3),疾患の進行度や機能評価スコア(ALSFRS-R)との関連は認めませんでした.



以上より,ALSの病態機序にglymphatic systemの障害が関与する可能性が示唆されました.また同じ運動ニューロン疾患であっても,ALSとPLSではglymphatic systemの障害に関しては異なることが示されました.つまり両疾患で,異常タンパクの蓄積具合が異なる可能性があります.

今後,glymphatic systemの評価指標が,ALSの診断バイオマーカーや治療標的に応用できるか検討されるものと思われます.またglymphatic systemは睡眠と密接な関連がありますので,ALSにおける睡眠障害が影響しているか,今後明らかにする必要があると思いました.もしかしたらALSにおける睡眠の改善が治療になるということもあるかもしれません.

Sharkey RJ, et al. Longitudinal analysis of glymphatic function in amyotrophic lateral sclerosis and primary lateral sclerosis. Brain. 2024 Dec 3;147(12):4026-4032.(doi.org/10.1093/brain/awae288

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アミロイドβ抗体薬による脳萎縮は「アミロイド除去関連偽萎縮である」は本当か?

2024年12月18日 | 認知症
アルツハイマー病では,脳の萎縮(=体積の減少)が病態の進行を示す重要な指標とされてきました.しかし,アミロイドβを除去するアミロイドβ抗体薬(レカネマブ,ドナネマブなど)の臨床試験では,治療群において脳体積が対照群よりも速く減少するという「矛盾した」結果が報告されています.過去のブログでも紹介しました(https://tinyurl.com/2bzfv7wq).

これに対してLancet Neurology誌の「personal view」欄に「アミロイド除去に伴う偽萎縮(amyloid-removal-related pseudo-atrophy)」という新しい解釈が提唱されています.この抗体薬による脳萎縮は神経変性の加速を意味しないという説です.

この論文の中でも重要なのは図1A-Fの6つのグラフです(AとEのみ提示).
A. 脳全体の体積減少とアミロイド除去量:
抗体薬によるアミロイド除去が多いほど,脳全体の体積減少が顕著となる.

B. 脳室体積拡大とアミロイド除去量:
アミロイド除去量が多いほど,脳室拡大が顕著となる.
C・D. ARIA発生率との関連:
ARIAの発生率が高い抗体薬では,脳の体積減少や脳室拡大がより顕著となる.
E・F. 臨床転帰(CDR-SBスコア)との関連:
脳の体積減少や脳室拡大は,必ずしもCDR-SBスコアの悪化と相関していない.




著者らはこのE,Fのデータより,治療群では脳体積が減少しながらも認知機能の低下は抑制される傾向があるとし,脳の体積減少が「治療の悪影響」ではなく,アミロイドβ除去による反応と捉えています.そして脳体積の減少は,アミロイドの除去,その周囲のグリア細胞や炎症細胞への影響,アミロイド関連画像異常(ARIA)や液体シフト(脳脊髄液動態への影響)に関連する可能性が高く,真の萎縮ではなく,「偽萎縮」と呼ぶのが適切であると述べています.つまりこれらの脳体積変化は治療効果の一部だということです.

しかし著者らも述べていますが,この脳萎縮が真に「安全」かつ「治療効果の一部」と言えるかについては,長期的なデータが不足しています.議論された臨床試験は18〜24か月程度の観察に留まっており,脳萎縮を呈した患者の認知機能の長期フォローアップが必要だと思います.また個々の症例データが議論されていない点も問題で,ApoE遺伝子多型やARIA,さらにドナネマブで報告されている24週の時点のNfLの一過性増加(=神経軸索の損傷)などと脳萎縮の関連を検討する必要があると思います.

私の感想をまとめると,興味深い「personal view」とは思いますが,現時点で「脳萎縮は安全」と結論づけるにはデータが不十分で,長期試験や個々の患者レベルのデータ解析が必要だと思います.今後の臨床試験や症例報告にて,脳の体積変化に注目することが重要だと思います.最後にもう1点,この論文の利益相反(COI)ですが,7名の著者中,Biogenの記載があるのが5名,Eisaiが4名,Lillyが3名です(いずれともCOIがない著者は2名).論文の透明性が確保されているわけですが,最終的にはこの情報をもとに読者が批判的に論文を評価することが求められます.
Belder CRS, et al. Brain volume change following anti-amyloid β immunotherapy for Alzheimer's disease: amyloid-removal-related pseudo-atrophy. Lancet Neurol. 2024 Oct;23(10):1025-1034.(doi.org/10.1016/S1474-4422(24)00335-1

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ダークチョコレートを食べて2型糖尿病を予防しよう!

2024年12月18日 | 医学と医療
世界最高峰の医学誌の一つBMJ誌のクリスマス号は,毎年,面白論文を掲載することで知られています.そろそろ掲載されたかなとHPを眺めたところ,まだ早かったようですが,これはクリスマス号の論文かしら?と思ってしまうような論文が掲載されていました.チョコレート摂取と2型糖尿病のリスクを検討した研究で,ハーバード大学と上海の研究者たちによって行われたものです.糖尿病は脳神経疾患と密接な関連があるので読んでみました.

研究では 3つのアメリカの大規模前向きコホートデータが使用されました.これらのデータには,看護師や医療従事者約19万人の健康情報が含まれており,30年以上にわたる追跡調査が行われています.このなかには研究開始時点で糖尿病,心血管疾患,がんの診断を受けていない人が含まれています.そして,ダークチョコレート,ミルクチョコレート,そして総チョコレート摂取が2型糖尿病リスクに及ぼす影響を分析しています.主要評価項目は自己申告による2型糖尿病の発症で,質問票により診断を確認しています.体重変化も評価しました.

さて結果ですが,週5回以上のチョコレート摂取は,ほとんど摂取しない場合と比べて2型糖尿病リスクを10%低下させることが分かりました(ハザード比0.90; 95% CI: 0.83-0.98, P値=0.07).さらに,ダークチョコレートを週5回以上摂取した場合,2型糖尿病リスクが21%も低下していました(ハザード比0.79; 95% CI: 0.66-0.95, P値=0.006).線形回帰解析により,週1回の摂取増加ごとに2型糖尿病リスクが3%減少することが示されました(図は1週間におけるチョコレート摂取回数とハザード比の関連を示しています).一方,ミルクチョコレートの摂取は,2型糖尿病リスクとの有意な関連は認めませんでしたが,体重増加と関連していました(体重変化のハザード比1.05; 95% CI: 1.02-1.08).ダークチョコレート摂取は体重増加と関連しませんでした.



結論として,ダークチョコレートは2型糖尿病リスクの低下に寄与する一方,ミルクチョコレートは無効で,体重増加を引き起こす可能性が示唆されました.この結果は,チョコレートの種類による成分の違い,つまり強い抗酸化作用を持つフラボノールの豊富さや砂糖・脂肪の含有量,カロリーの違いが影響していることを示唆しています.今後,ランダム化比較試験を通じて因果関係をさらに検証し,具体的なメカニズムを解明することで創薬につながることが期待されます.
Liu B, et al. Chocolate intake and risk of type 2 diabetes: prospective cohort studies. BMJ. 2024 Dec 4;387:e078386.(doi.org/10.1136/bmj-2023-078386

追記:①ダークチョコレートはカカオ含有量45%以上(50~80%)で,ミルクチョコレートは約35%,フラボノールのフラバン-3-オールはダークで平均3.65 mg/g,ミルクは5分の1以下(平均0.69 mg/g)で,砂糖含有量が高い,と本文に書かれています.
②1食分は28gで,ガーナチョコレートにするとおよそ1/2枚ぐらいのようです.

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神経学者としてのレオナルド・ダ・ヴィンチ@「芸術家と神経学Ⅱ」(医学書院Brain Nerve誌)

2024年12月12日 | 医学と医療
普段とは異なる神経学の一面を楽しんでいただくために開始したクリスマス特集も,本年で4回目を迎えました.今回は初回の2021年12月号に特集した「芸術家と神経学」の続編をお届けします(Amazonへのリンク https://amzn.to/4gucURv).

私はレオナルド・ダ・ヴィンチの神経学者としての側面と彼の病跡学(人生や活動における疾病の意義)について執筆しました.彼の行なった神経学の研究を調べてみると「脳室の研究」や「魂の在り処の追求」など膨大で,その貢献はとても大きいです.また病跡学については,彼が晩年に絵を描けなくなった理由や,死因についても考察しました.以下,各執筆者のタイトルと抄録です.どの論文も非常に面白いです.クリスマスに神経学の魅力を味わっていただければと思います.



◆シューマンと神経梅毒 神田 隆 先生
ベルト・シューマン(1810-1856)は梅毒に罹患していた可能性の高い大作曲家の1人として有名な存在である.梅毒罹患は当時にあっても名誉なことではなく,シューマンの信奉者を中心に感染そのものを否定,または,感染の可能性を示す証拠を隠滅する動きがあって,いまだに確固たる証拠が示されたわけではない.しかし,死後130年を経て明らかになった精神病院入院中の記録などから,現時点では彼の梅毒感染はほぼ確実なことと見なされている.この小論の目的は,シューマンの音楽を愛する一愛好家として,梅毒感染から進行麻痺発症まで,この感染症がシューマンの創作活動にどのように影響を与えたかを考察することにある.

◆ベートーヴェンの病跡と芸術Ⅱ 酒井 邦嘉 先生
音楽家ベートーヴェンは進行性の難聴と腹痛を患ったが,どちらの症状も鉛中毒によって説明できる.Beggら(2023)はゲノム解析により,5房の毛髪がベートーヴェンの真正な遺髪であると認定して,彼の重い肝臓病の原因を解明した.またRifaiら(2024)は,真正な毛髪の房から異常に高い濃度の鉛を検出した.これらの新たな証拠により,ベートーヴェンを悩ませた病の原因は鉛中毒であったと結論できる.

◆神経学者としてのレオナルド・ダ・ヴィンチ 下畑 享良
レオナルド・ダ・ヴィンチは万能の画家であるが,医学,特に脳の研究にも情熱を傾けた.脳室を詳細に研究し,魂の在り処を追求した.彼に関する病跡学では,鏡文字の使用や注意欠如多動症と考えられることが注目され,非凡な創造性と仕事を完遂できない性格に寄与した可能性が議論されている.彼の死因は脳卒中と考えられているが,晩年に絵画を描けなくなった右上肢麻痺の原因としては尺骨ないし正中神経麻痺が推測されている.



◆脳科学の視点で読むカフカと孤独と創造性 虫明 元 先生
フランツ・カフカは現在のチェコ出身の小説家で,現代世界文学を象徴する人物の一人とされ,今年でちょうど没後100年である.彼は多くの作品を遺し,それらは100年以上前の作品であっても,現代社会を予見するかのような先見性を示し,非人間的な巨大システムの中で翻弄される個人を,独創的で非日常的な設定と極めて写実的な表現を用いて描いている.そのようなカフカの独創性と孤独な内面性の関係を,脳科学的に考察した.

◆アール・ブリュットと精神の変調 三村 將 先生
アール・ブリュット Art Brutの概念,提唱者であるジャン・デュビュッフェの考え,やや独自な展開を遂げてきた日本でのアール・ブリュットに関する取組み,日本の精神医学界におけるアール・ブリュットの話題について触れた.アール・ブリュットは精神障害者アートに限定されるものではない.アール・ブリュットは既存の文化や潮流に影響されない「生の」独創的なアートであり,実際にはその作品の多くに精神医学的背景が見出されるという点を強調した.さらに,アール・ブリュットの画家として代表的な佐伯祐三を取り上げ,ジャン・フォートリエとの類似点について述べた.最後に主に神経科学の視点から精神疾患,特に統合失調症を持つ人のアール・ブリュットにおける創造性について,遺伝的要因や脳機能の変調,精神疾患と創造性の相互作用といった観点から考察した.アール・ブリュットは「ぶるっと」くる体験をもたらす芸術そのものであるが,精神医療の観点からは,作品を創造することに伴うアートセラピーが精神疾患を持つ人の治療・ケア・福祉において二次的に重要な意味を持ってくる.精神医療と芸術の関係は未知の部分も多いが,今後の発展が大いに期待されている.

◆フランツ・ヨーゼフ・ハイドンと皮質下性脳血管疾患 髙尾 昌樹 先生
フランツ・ヨーゼフ・ハイドンは1700年代後半の音楽家である.一部の研究者によりハイドンが皮質下性の脳血管疾患であったという推察がある.こういった解釈は,残された伝記的な記載などから検討されたもので,あながち間違ってもいないのであろう.しかし,77歳という高齢で死亡したことを考慮すれば,現在言われている複数の脳病理学的変化を伴っていても不思議ではないし,むしろその可能性が高いように思われる.偉人というものは死後200年経っても,持病が何だったか興味を持たれるのだから安らかな眠りというわけにもいかない.

◆グールド・漱石・神経心理学—非人情の脳内機構再考 河村 満 先生
グレン・グールドはカナダのピアニストで,コンサート・ドロップアウトとして知られているが,録音に残された演奏は現在でも高い評価を得ている.グールドが夏目漱石の『草枕』を愛読していたのは有名で,その理由は漱石の「非人情」に対する共感である.本稿では,グールドと漱石の共通感覚・生きる姿勢である非人情の背景にある知・情・意の脳内機構について神経心理学的に考察した以前の筆者自身の論稿を再度掘り下げた.

◆岡本太郎とパーキンソン病 長田 高志 先生
芸術家,岡本太郎は,パーキンソン病を患っていた.パーキンソン病に関連した顔のパレイドリアは,「顔のグラス」の発想につながった.色覚障害,コントラスト感度の低下は,絵画の色彩に影響を与え,絵画から陶芸,彫刻などへ創作活動の中心をシフトさせた.彼の創造性に抗パーキンソン病薬が与えた影響を検討した.また,彼の死因である急性呼吸不全の原因についても考察を行った.




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オリーブオイル摂取を増やし,マヨネーズをオリーブオイルに換えると認知症を予防できそう!

2024年12月08日 | 認知症
アメリカのハーバード大学を中心とする研究チームによる大規模なコホート研究が,JAMA Network Open誌に掲載されています.この研究では,認知症予防に有効らしいとされてきた地中海式食事(野菜や果物,全粒雑穀類,豆類,オリーブオイル,適量のワイン等;図1)のなかでオリーブオイルに着目し,米国成人において認知症予防に有効かを検討しています.具体的にはオリーブオイル摂取量が,認知症関連の死亡リスクを減少させるかを調べています.またマーガリンやマヨネーズ,バター,植物油といった他の脂質をオリーブオイルに置き換えることで,死亡リスクに変化が生じるかも評価しています.



方法としては,なんと28年間にわたり医療従事者を対象に実施された「看護師健康調査(NHS)」と「医療従事者追跡調査(HPFS)」のデータを用いています.対象は1990年時点で心血管疾患やがんを持たない9万2383人で,4年ごとに行われた食品摂取頻度アンケートを基にオリーブオイル摂取量を推定しました.摂取量は「月1回未満,0〜4.5g/日,4.5〜7g/日,7g/日以上」の4つのカテゴリーに分類し,認知症関連死亡リスクとの関連を分析しています.食事の質は,地中海式食事スコア(AMEDスコア)およびAlternative Healthy Eating Index(AHEI)で評価しました.

さて結果ですが,1日7g以上のオリーブオイルを摂取する群は,月1回未満の群と比較して認知症関連死亡リスクが28%も低いことが示されました(ハザード比[HR] 0.72, 95%信頼区間0.64-0.81, 図2).この効果は,遺伝要因であるAPOE ε4遺伝子や食事の質(AMEDスコアおよびAHEI)で調整した後でも認められました.ただし性差では,女性でこのリスク低下の効果が顕著であったのに対し(HR 0.67),男性では0.87で有意差は認められませんでした(残念).

さらに,マーガリンやマヨネーズを1日5 gのオリーブオイルに置き換えた場合,認知症関連死亡リスクがそれぞれ8%(HR 0.92, 95% CI 0.88-0.96)および14%(HR 0.86, 95% CI 0.80-0.93)低下しました(図3).しかし,バターや他の植物油(大豆油,菜種油など)と置換しても効果は認められませんでした.



以上より,オリーブオイルの摂取を増やし,マーガリンやマヨネーズをオリーブオイルに置換することで認知症予防につながる可能性があるようです.オリーブオイルにはモノ不飽和脂肪酸や抗酸化物質(ビタミンE,ポリフェノール)が含まれ,これらが抗炎症作用や神経保護作用を通じて認知症リスクを低減している可能性があります.研究の限界としては,観察研究であるため因果関係の確定ができない点や,対象者が医療従事者のみであった点が挙げられると思われます.またオリーブオイルの種類(エクストラバージン,バージン,ピュア,精製)による違いは分かりません.しかし,28年という長期の追跡期間と大規模なデータを用いている点はこの研究の強みと思います.

おそらく高品質のエクストラバージンオイルを,1日7g以上を目安に取ると良いように思います.大さじ1杯(約13.5g),小さじ1杯(約4.5g)なので,小さじ1杯半程度になります.サラダ1人分に小さじ1~2杯をかけたり,フランスパンにつけたり,パスタやスープに小さじ1杯をかけるという感じかと思います.女性で効果が顕著ですが,私も試してみようと思います.
Tessier AJ, et al. Consumption of Olive Oil and Diet Quality and Risk of Dementia-Related Death. JAMA Network Open. 2024;7(5):e2410021.(doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2024.10021

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ハンチントン病はなんとβ遮断薬により進行抑制できるかもしれない!

2024年12月05日 | 舞踏病
遺伝性神経変性疾患であるハンチントン病(HD)の進行を遅らせる可能性のある治療法として,β遮断薬の効果を検討した観察研究が,アメリカのアイオワ大学を初めとするチームによって行われ,JAMA Neurology誌に発表されました.まさか古典的な心臓の薬であるβ遮断薬にそのような作用があるとはとても驚きました.

まず背景ですが,HD患者では心拍数の上昇や血圧の上昇など交感神経系の過剰な活性化が認められることが知られており,これが病状の進行に関与している可能性が示唆されていました.β遮断薬は交感神経の活性を抑制する作用があるため,HD患者に対して治療的な効果が期待されるのではないかという仮説が立てられました.

国際的な縦断的研究プラットフォーム「Enroll-HD」のデータを活用し,β遮断薬がHDの発症時期や症状進行に与える影響を検討しました.具体的には約150の研究施設から提供された縦断的データを解析しました.HDの発症前段階にある「前運動型HD(premanifest HD;preHD)」の患者と,症状が顕在化した「初期運動型HD(early motor-manifest HD;mmHD)」を対象にしました.参加者はβ遮断薬を1年以上使用しているグループと,使用していないグループに分けられ,それぞれの症状の進行が比較されました.

まずpreHD患者ですが,β遮断薬使用群174名では,非使用群174名に比べて,運動症状の年次リスクが有意に低いことが分かりました.また運動症状の診断が下されるまでの期間を示した生存曲線(図1)では,β遮断薬使用群は非使用群よりも34%低いリスクでした(ハザード比0.66, P=0.02).つまりβ遮断薬がHDの症状の出現を遅らせる可能性が示唆されました.



続いてmmHD患者ですが,β遮断薬使用群149名では,非使用群149名に比べて,症状の進行が有意に遅いことが分かりました.運動スコア(total motor score;TMS),総合機能スコア(total functional capacity;TFC),および認知機能スコア(symbol digit modalities test;SDMT)の進行速度を比較した結果,β遮断薬使用群のスコア悪化速度は非使用群よりも有意に遅いことが分かりました(図2).例えば,TMSの年間悪化速度は,β遮断薬使用群で2.62ポイント/年であったのに対し,非使用群では3.07ポイント/年でした.また選択的β遮断薬使用者は,いずれのスコアも非使用群より進行速度が遅くなりましたが,非選択的β遮断薬では有意差は見られませんでした.



本研究は観察研究であるため,因果関係を確定することはできず,さらなる臨床試験が必要ですが,β遮断薬がHD治療の新たな可能性を開くものであることが示されました.β遮断薬が交感神経系にどのように作用し,HDの進行に影響を与えるかについて,さらなるメカニズムの解明が必要と思われました.またいかに難攻不落の神経難病の治療シーズをどのように見出すか最新の科学技術が駆使されていますが,このように臨床症状の中に隠れていることもあるのだなと,観察することの大切さを認識しました.
Schultz JL, et al. β-Blocker Use and Delayed Onset and Progression of Huntington Disease. JAMA Neurol. 2024 Dec 2.(doi.org/10.1001/jamaneurol.2024.4108)

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