病棟の抄読会で若手ホープが選んだ論文を取り上げたい.米国で行われ,2006年に第一報がSTROKE誌に掲載された脳梗塞に対する神経保護療法研究があるが(ALIAS trial),今回取り上げるのはその続報にあたる論文である.「ベンチからベッドサイドへ」というtranslational researchを目指す者にとって学ぶべきものが多い論文である.
まず神経保護薬候補はなんと「25%アルブミン」である.「どうしてアルブミンが効くの?」と思われるだろうが,本研究の著者らは1997年~2001年にかけて,ラット局所脳虚血モデル(suture model;虚血2時間)を用いて,25%アルブミンが脳梗塞サイズ,浮腫サイズ,神経機能を有意に改善することを示している.さらにMRI拡散画像,脳微小循環測定,遊離脂肪酸分布のいずれの方法においてもその有効性を確認している.ラットでの治療可能時間は4~5時間で,神経保護の機序としては抗酸化作用と脳循環改善作用を考えている.
この結果を受けて行われた臨床研究が前述の2006年のALIAS trial part 1である.方法はNIHSS 6点以上の脳梗塞患者に,25%アルブミンを発症16時間以内に静注するというもの.対象患者の除外基準は,心不全,発症3ヶ月以内の心筋梗塞,心電図異常,腎不全,重症貧血,血圧異常,妊娠などで,アルブミン負荷にともなう循環血漿量の増加に配慮している.82名の患者に対するオープンラベル試験として行い,アルブミンの容量決定を主目的として行った(0.34~2.05 g/kgの6段階のdose escalationを行った).結果として2.05 g/kgまで顕著な副作用はなく,安全というものであった.血圧や血漿アルブミン濃度,BNPレベル,肺水腫の出現,tPAの影響などさまざまな項目が検討され,さらに治療効果についてもアルブミン投与量が多い群ほど予後が良好である可能性を示した.
The ALIAS Pilot Trial: a dose-escalation and safety study of albumin therapy for acute ischemic stroke--I: Physiological responses and safety results.
The ALIAS Pilot Trial: a dose-escalation and safety study of albumin therapy for acute ischemic stroke--II: neurologic outcome and efficacy analysis.
こののちランダム化比較試験が多施設共同で開始された.主要評価項目は発症90日後のNIHSS,modified Rankin scaleなど,そしてサンプルサイズは1800人と設定された.そしてその結果がSTROKE誌に続報として報告されたわけだ.そして結果は・・・・なんと失敗!試験は途中で打ち切りとなった.詳細を述べると,アルブミン群と偽薬群の1:1ランダム化が行われ,424例(アルブミン群207名)が解析された.予後についてはアルブミン群で良い傾向にあったし,アルブミン群30病日以降の死亡率は2群間で同等であったのだが,30病日までの検討では,偽薬群が21名の死亡であるのに対し,アルブミン群では36名の死亡と多い結果であった(死亡の原因はlarge strokeが多い).このため試験は途中で打ち切られたのだ.
ここで研究チームがどうしたかが重要である.研究チームは何が失敗の原因であったかを改めて検討した.そして84歳以上の高齢者では90病日の死亡率が84歳未満と比較して2.3倍高いこと(95% CI 1.04~5.12),過剰な輸液が行われた群では行われなかった群と比較して,2.1倍高いこと(95% CI 1.10~3.98)を明らかにした.さらにトロポニン陽性も予後不良因子であった.この解析結果を踏まえ,安全性確保のための条件改訂が行われ,年齢の上限を83歳までとすること,発症後48時間までの輸液総量を4200 ml以下にすること,発症12時間から24時間の強制利尿を行うこと,血清トロポニンレベルが正常であること等が追加された.そしてALIAS trial part 2としてプロトコールを改訂し,治験安全性評価委員会の承認を得て,現在,臨床試験が再開されている.
抄読会でも意見があったが,pilot試験で有効であっても肝心の大規模試験で有効性が証明されなかったらそこで終了となりそうなものである.それでも失敗の原因を徹底的に究明し,諦めず次のステージに進むパワーがとても大切だと感じた.もちろん場合によっては撤退する勇気も必要であるし,本研究についてもpart 2が成功する保証があるわけではない.しかし自らの基礎実験のデータを信じ,何としても脳梗塞に対する神経保護薬を開発するのだという意気込みは個人的には理解できる.
私どもも脳梗塞の治療薬開発,とくに血管保護薬開発を目指した基礎研究を行っている.脳梗塞に対する神経保護薬の開発は,動物試験で有効性を認めた多くの薬剤が,ヒトにおける臨床試験でことごとく有効性を確認できず,大きな見直しが求められた(参考記事).しかしその後,基礎実験での有効性評価の基準が厳密に見直され,加えて神経科学研究が進歩し真の治療標的分子が徐々に明らかになりつつある今こそ脳梗塞に対する神経保護薬開発に再挑戦すべきと思う.本研究のような諦めない姿勢をもってtranslational researchにチャレンジする仲間が増えることを期待したい.
The Albumin in Acute Stroke Part 1 Trial: an exploratory efficacy analysis.
The albumin in acute stroke (ALIAS) multicenter clinical trial: safety analysis of part 1 and rationale and design of part 2.
まず神経保護薬候補はなんと「25%アルブミン」である.「どうしてアルブミンが効くの?」と思われるだろうが,本研究の著者らは1997年~2001年にかけて,ラット局所脳虚血モデル(suture model;虚血2時間)を用いて,25%アルブミンが脳梗塞サイズ,浮腫サイズ,神経機能を有意に改善することを示している.さらにMRI拡散画像,脳微小循環測定,遊離脂肪酸分布のいずれの方法においてもその有効性を確認している.ラットでの治療可能時間は4~5時間で,神経保護の機序としては抗酸化作用と脳循環改善作用を考えている.
この結果を受けて行われた臨床研究が前述の2006年のALIAS trial part 1である.方法はNIHSS 6点以上の脳梗塞患者に,25%アルブミンを発症16時間以内に静注するというもの.対象患者の除外基準は,心不全,発症3ヶ月以内の心筋梗塞,心電図異常,腎不全,重症貧血,血圧異常,妊娠などで,アルブミン負荷にともなう循環血漿量の増加に配慮している.82名の患者に対するオープンラベル試験として行い,アルブミンの容量決定を主目的として行った(0.34~2.05 g/kgの6段階のdose escalationを行った).結果として2.05 g/kgまで顕著な副作用はなく,安全というものであった.血圧や血漿アルブミン濃度,BNPレベル,肺水腫の出現,tPAの影響などさまざまな項目が検討され,さらに治療効果についてもアルブミン投与量が多い群ほど予後が良好である可能性を示した.
The ALIAS Pilot Trial: a dose-escalation and safety study of albumin therapy for acute ischemic stroke--I: Physiological responses and safety results.
The ALIAS Pilot Trial: a dose-escalation and safety study of albumin therapy for acute ischemic stroke--II: neurologic outcome and efficacy analysis.
こののちランダム化比較試験が多施設共同で開始された.主要評価項目は発症90日後のNIHSS,modified Rankin scaleなど,そしてサンプルサイズは1800人と設定された.そしてその結果がSTROKE誌に続報として報告されたわけだ.そして結果は・・・・なんと失敗!試験は途中で打ち切りとなった.詳細を述べると,アルブミン群と偽薬群の1:1ランダム化が行われ,424例(アルブミン群207名)が解析された.予後についてはアルブミン群で良い傾向にあったし,アルブミン群30病日以降の死亡率は2群間で同等であったのだが,30病日までの検討では,偽薬群が21名の死亡であるのに対し,アルブミン群では36名の死亡と多い結果であった(死亡の原因はlarge strokeが多い).このため試験は途中で打ち切られたのだ.
ここで研究チームがどうしたかが重要である.研究チームは何が失敗の原因であったかを改めて検討した.そして84歳以上の高齢者では90病日の死亡率が84歳未満と比較して2.3倍高いこと(95% CI 1.04~5.12),過剰な輸液が行われた群では行われなかった群と比較して,2.1倍高いこと(95% CI 1.10~3.98)を明らかにした.さらにトロポニン陽性も予後不良因子であった.この解析結果を踏まえ,安全性確保のための条件改訂が行われ,年齢の上限を83歳までとすること,発症後48時間までの輸液総量を4200 ml以下にすること,発症12時間から24時間の強制利尿を行うこと,血清トロポニンレベルが正常であること等が追加された.そしてALIAS trial part 2としてプロトコールを改訂し,治験安全性評価委員会の承認を得て,現在,臨床試験が再開されている.
抄読会でも意見があったが,pilot試験で有効であっても肝心の大規模試験で有効性が証明されなかったらそこで終了となりそうなものである.それでも失敗の原因を徹底的に究明し,諦めず次のステージに進むパワーがとても大切だと感じた.もちろん場合によっては撤退する勇気も必要であるし,本研究についてもpart 2が成功する保証があるわけではない.しかし自らの基礎実験のデータを信じ,何としても脳梗塞に対する神経保護薬を開発するのだという意気込みは個人的には理解できる.
私どもも脳梗塞の治療薬開発,とくに血管保護薬開発を目指した基礎研究を行っている.脳梗塞に対する神経保護薬の開発は,動物試験で有効性を認めた多くの薬剤が,ヒトにおける臨床試験でことごとく有効性を確認できず,大きな見直しが求められた(参考記事).しかしその後,基礎実験での有効性評価の基準が厳密に見直され,加えて神経科学研究が進歩し真の治療標的分子が徐々に明らかになりつつある今こそ脳梗塞に対する神経保護薬開発に再挑戦すべきと思う.本研究のような諦めない姿勢をもってtranslational researchにチャレンジする仲間が増えることを期待したい.
The Albumin in Acute Stroke Part 1 Trial: an exploratory efficacy analysis.
The albumin in acute stroke (ALIAS) multicenter clinical trial: safety analysis of part 1 and rationale and design of part 2.