Movement Disorder Societyが主催する国際学会に参加した.学会で一番盛り上がるのが,世界各国の学会員が症例ビデオを持ち寄り,運動障害のエキスパート5人が,その特徴や診断を議論するVideo Challengeだ.最も興味深い演題が表彰されるため,各国プライドを掛けてこのイベントに臨む.珍しくて役に立つ症候のビデオが見られるだけでなく,エキスパートがどのように診断に迫るのかを学ぶことができる.ワインや軽食が振舞われたあとの午後8時から開始され,終了は10時を過ぎていた(でもStockholmなので外はまだ明るい).毎年のことながら,ホスト役のAnthony Lang,Kapil Sethi両先生の司会は軽妙で,本当に楽しい.さてどんなビデオが提示されたが,14例をご紹介したい.ぜひキーワードを頼りに診断を考えていただきたい(ちなみに本オリンピックのシンボルはMovement disorderの学会らしく,写真のようになっている).
【問題編】
Case 1(スウェーデン)
全身のジストニアが目立つ成人女性.顔面にもdystonic movement.軽度尿中銅排泄増加.頭部MRI正常.末梢神経障害もあり.・・・・・加えてAFP上昇
Case 2(イギリス)
40歳男性,子供の頃からつま先で歩く.全身性ジストニア,無動に加え,眼球運動失行,側彎,下肢クローヌスを認める.頭部MRIでは小脳萎縮あり.
Case 3(カナダ)
65歳女性,59歳で両手の姿勢時・動作時の震えにて発症.無動は軽度.体幹失調もあるがこれも軽度.子供精神発達遅延.頭部MRIでは小脳の軽度の萎縮.
Case 4(ドイツ)
32歳.小児期成長遅延.易感染性があり,髄膜炎,中耳炎,扁桃炎を繰り返す.さらに出血もたびたび見られる.神経学的にはパーキンソン症状,四肢失調,Babinski徴候,PTR陰性.頭部MRI正常.検査所見で好中球減少,出血傾向,網膜・虹彩の色素異常あり,透けて見える.
Case 5(米国)
兄妹例(18, 19歳).振戦,筋強剛,歩行障害を呈する.L-DOPAは有効だが,短期間(2年)でwearing off,ジスキネジアが出現.ジスキネジアは極めて高度で激しくL-DOPA中止.下肢感覚障害(深部覚).頭部MRIは軽度の小脳萎縮.PARK関連遺伝子で異常なし.一人死亡し,剖検では黒質に神経メラニン皆無.青斑核は保たれていた.後索にも変性所見あり.
Case 6(タイ)
60歳女性.亜急性の経過で,歩行障害が出現.右に寄ってしまう.左手の開閉困難.さらに失行,記銘力低下を認める.
Case 7(カナダ)
79歳.進行性の右手足の拙劣さ,hemi-choreaを認める.性格変化,知能低下,saccadic EOM.検査上,血小板減少あり.
Case 8(タイ)
18歳.13歳時,シデナム舞踏病を疑われペニシリンにて治療,症状は改善.18歳,再度,手指の不随意運動が出現したが,自然に改善した.頭部MRIでは分水嶺に異常所見(Ivy sign).側副血行路が目立つ.
Case 9(中国)
28歳,耳が一瞬ビクッとする不随意運動!?
Case 10(オランダ)
7歳.ミオクローヌス,小脳失調,反射消失を呈する.
Case 11(国名?)
6歳,小脳失調,知能低下.歩行障害は変動し,運動により増悪する.
Case 12(オランダ)
18歳,左への痙性斜頸.起立で症状出現.
Case 13(イタリア)
29歳.発作性の激しい不随意運動.意識消失を伴うことあり.
Case 14(国名?)
5歳,斜頸.
【解答編】
Case 1;ataxia telangiectasia
ATM遺伝子変異あり診断確定.軽症例では全身性ジストニアを呈しうるのだそうだ.
Case 2;HABC syndrome
hypomyelination with atrophy of the basal ganglia and cerebellum のこと.hypomyelinating leukodystrophy-6 (HLD6)とも呼ばれる.2013年報告された疾患で,乳幼児期に発症,運動発達遅延,歩行障害,ジストニア,舞踏病アテトーゼ,筋強剛oculogyric crises,失調などを呈する.原因遺伝子はTUBB4A geneで,同じ遺伝子はDYT4 dystoniaを起こす.
Case 3;FXTAS in woman
Fragile X associated tremor/ataxia syndrome(FXTAS)の原因遺伝子であるFMR1遺伝子CGGリピートがpremutation expansion である女性保因者であってもFXTASを発症しうることが報告されている.
Case 4; Cediak-Higashi症候群
常染色体劣性遺伝.原因遺伝子はLysosomal trafficking regulator gene(Rab27A遺伝子).小児発症例は血液異常が主体だが,成人発症は神経症状が主体となる.易感染性,皮膚・眼症状(メラニン細胞異常による皮膚,毛髪,網膜,虹彩などの色素異常),多彩な神経症状, 血小板機能異常による出血傾向を認める.
Case 5;POLG 遺伝子変異に伴う若年性パーキンソニズム
POLG(mtDNA polymerase gamma)遺伝子は進行性外眼筋麻痺をはじめ,さまざまな表現型を呈しうるが,若年性パーキンソニズムも来しうる.L-DOPA有効,かつ深部覚障害がヒント.
Case 6;Malignant dural AV fistula
極めて高度な硬膜動静脈量.塞栓術後に症状は顕著に改善した.
Case 7;原発性抗リン脂質抗体症候群
Case 8; シデナム舞踏病様のエピソードを繰り返したモヤモヤ病
ivy sign はleptomeningeal high signal intensity on FLAIR imagesのこと.もやもや病の脳軟膜がFLAIRでびまん性に高信号を呈する.脳虚血に対する代償性の軟膜の血管,うっ血による軟膜の肥厚を反映していると言われている.
Case 9;耳の舞踏運動を呈したハンチントン病
Case 10; North sea progressive myoclonus epilepsy
進行性ミオクローヌスてんかんの一つ.常染色体劣性遺伝.小児期発症し,ミオクローヌスてんかんの出現前に小脳失調を呈する.GOSR2(Golgi SNAP receptor complex member 2)遺伝子変異.
Case 11;GLUT1欠損症
ケトジェニックな食事(糖質制限食)で治療し,症状は軽減した.
Case 12;compulsive respiratory stereotypies
Case 13;良性インスリノーマに伴う低血糖発作
Case 14;Sandifer症候群
裂孔ヘルニアと斜頸を呈する症候群.
【問題編】
Case 1(スウェーデン)
全身のジストニアが目立つ成人女性.顔面にもdystonic movement.軽度尿中銅排泄増加.頭部MRI正常.末梢神経障害もあり.・・・・・加えてAFP上昇
Case 2(イギリス)
40歳男性,子供の頃からつま先で歩く.全身性ジストニア,無動に加え,眼球運動失行,側彎,下肢クローヌスを認める.頭部MRIでは小脳萎縮あり.
Case 3(カナダ)
65歳女性,59歳で両手の姿勢時・動作時の震えにて発症.無動は軽度.体幹失調もあるがこれも軽度.子供精神発達遅延.頭部MRIでは小脳の軽度の萎縮.
Case 4(ドイツ)
32歳.小児期成長遅延.易感染性があり,髄膜炎,中耳炎,扁桃炎を繰り返す.さらに出血もたびたび見られる.神経学的にはパーキンソン症状,四肢失調,Babinski徴候,PTR陰性.頭部MRI正常.検査所見で好中球減少,出血傾向,網膜・虹彩の色素異常あり,透けて見える.
Case 5(米国)
兄妹例(18, 19歳).振戦,筋強剛,歩行障害を呈する.L-DOPAは有効だが,短期間(2年)でwearing off,ジスキネジアが出現.ジスキネジアは極めて高度で激しくL-DOPA中止.下肢感覚障害(深部覚).頭部MRIは軽度の小脳萎縮.PARK関連遺伝子で異常なし.一人死亡し,剖検では黒質に神経メラニン皆無.青斑核は保たれていた.後索にも変性所見あり.
Case 6(タイ)
60歳女性.亜急性の経過で,歩行障害が出現.右に寄ってしまう.左手の開閉困難.さらに失行,記銘力低下を認める.
Case 7(カナダ)
79歳.進行性の右手足の拙劣さ,hemi-choreaを認める.性格変化,知能低下,saccadic EOM.検査上,血小板減少あり.
Case 8(タイ)
18歳.13歳時,シデナム舞踏病を疑われペニシリンにて治療,症状は改善.18歳,再度,手指の不随意運動が出現したが,自然に改善した.頭部MRIでは分水嶺に異常所見(Ivy sign).側副血行路が目立つ.
Case 9(中国)
28歳,耳が一瞬ビクッとする不随意運動!?
Case 10(オランダ)
7歳.ミオクローヌス,小脳失調,反射消失を呈する.
Case 11(国名?)
6歳,小脳失調,知能低下.歩行障害は変動し,運動により増悪する.
Case 12(オランダ)
18歳,左への痙性斜頸.起立で症状出現.
Case 13(イタリア)
29歳.発作性の激しい不随意運動.意識消失を伴うことあり.
Case 14(国名?)
5歳,斜頸.
【解答編】
Case 1;ataxia telangiectasia
ATM遺伝子変異あり診断確定.軽症例では全身性ジストニアを呈しうるのだそうだ.
Case 2;HABC syndrome
hypomyelination with atrophy of the basal ganglia and cerebellum のこと.hypomyelinating leukodystrophy-6 (HLD6)とも呼ばれる.2013年報告された疾患で,乳幼児期に発症,運動発達遅延,歩行障害,ジストニア,舞踏病アテトーゼ,筋強剛oculogyric crises,失調などを呈する.原因遺伝子はTUBB4A geneで,同じ遺伝子はDYT4 dystoniaを起こす.
Case 3;FXTAS in woman
Fragile X associated tremor/ataxia syndrome(FXTAS)の原因遺伝子であるFMR1遺伝子CGGリピートがpremutation expansion である女性保因者であってもFXTASを発症しうることが報告されている.
Case 4; Cediak-Higashi症候群
常染色体劣性遺伝.原因遺伝子はLysosomal trafficking regulator gene(Rab27A遺伝子).小児発症例は血液異常が主体だが,成人発症は神経症状が主体となる.易感染性,皮膚・眼症状(メラニン細胞異常による皮膚,毛髪,網膜,虹彩などの色素異常),多彩な神経症状, 血小板機能異常による出血傾向を認める.
Case 5;POLG 遺伝子変異に伴う若年性パーキンソニズム
POLG(mtDNA polymerase gamma)遺伝子は進行性外眼筋麻痺をはじめ,さまざまな表現型を呈しうるが,若年性パーキンソニズムも来しうる.L-DOPA有効,かつ深部覚障害がヒント.
Case 6;Malignant dural AV fistula
極めて高度な硬膜動静脈量.塞栓術後に症状は顕著に改善した.
Case 7;原発性抗リン脂質抗体症候群
Case 8; シデナム舞踏病様のエピソードを繰り返したモヤモヤ病
ivy sign はleptomeningeal high signal intensity on FLAIR imagesのこと.もやもや病の脳軟膜がFLAIRでびまん性に高信号を呈する.脳虚血に対する代償性の軟膜の血管,うっ血による軟膜の肥厚を反映していると言われている.
Case 9;耳の舞踏運動を呈したハンチントン病
Case 10; North sea progressive myoclonus epilepsy
進行性ミオクローヌスてんかんの一つ.常染色体劣性遺伝.小児期発症し,ミオクローヌスてんかんの出現前に小脳失調を呈する.GOSR2(Golgi SNAP receptor complex member 2)遺伝子変異.
Case 11;GLUT1欠損症
ケトジェニックな食事(糖質制限食)で治療し,症状は軽減した.
Case 12;compulsive respiratory stereotypies
Case 13;良性インスリノーマに伴う低血糖発作
Case 14;Sandifer症候群
裂孔ヘルニアと斜頸を呈する症候群.