Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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第33回日本神経治療学会総会「臨床研究デザインワークショップ」

2015年11月28日 | 医学と医療
第33回日本神経治療学会総会の特別企画である「臨床研究デザインワークショップ」に参加させていただいた.臨床研究は非常に大切であるものの,医学部の授業で教わるような機会は一切なかった.このため多くの医師は独学で試行錯誤しているのではないかと思う.
今回の神経治療学会総会では,創薬・育薬や臨床研究(治験)が重要なテーマとなっているが,プログラムの一貫として,臨床研究はどのように行ったらよいかを学ぶワークショップが初めて開催された.私も募集とともに申し込みをし,参加させていた.20名の参加者が5グループに分かれ,11名ものファシリテーターのご指導やご助言をいただきながら,臨床現場の疑問からリサーチクエスチョンを立てる方法,さらには質の高い臨床研究計画を立案する方法を学ばせていただいた.初学者向きとのことであったが学ぶべきことは多く,かつ学生・若手医師をどのように指導したらよいのか,大変,参考になった.来年以降も継続予定とのことで,ぜひご参加されることをおすすめしたい.以下に勉強したことをまとめてみたい.


【臨床疑問から研究疑問へ】
・臨床研究7つのご法度(福原俊一著「リサーチクエスチョンの作り方」より)
1.データを取ってから研究デザインを考える.
2.研究疑問(Research question; RQ)が明確,具体的ではない.
3.研究対象が不明確.抽出方法,組み入れ・除外基準を設定していない.
4.主要アウトカム変数を設定していない.
5.変数の測定方法の信頼性と妥当性を検討していない.
6.解析計画を事前に作成していない.サンプルサイズ,パワー,効果量を事前に設定していない.
7.結果の解釈:統計的有意差のみで,臨床的・社会的に意味のある差かどうか検討していない.

・RQは漠然とした疑問を研究可能な形にすることである.
・RQはプロトコール作成の骨組みになる.

・RQの要件は「FINER Criteria」としてまとめることができる.これを研究開始前に見直すことが重要.
  Feasible(実行可能)
  Interesting(興味深い)
  Novel(新規性がある)
  Ethical(倫理的である)
  Relevant(必要性が高い)

・RQの構造化はPECO+TないしPICO+Tで行う.
  Patient or clinical problem(誰に)
  Exposure/Intervention(何をすると)
  Comparison(何と比較して)
  Outcome(どうなる)
  Time(どんなタイミングで)

・PECOは「リスク要因の同定」に,PICOは「治療・予防法の評価」に使用する.
・Pは,より特異的に設定できているか,アウトカムを生じやすい集団かに注意する.
・Eは,診断方法,スクリーニング検査,危険因子,暴露の検討に用いられる.
・また暴露要因は修正可能であるものが望ましい.もし修正できないものであれば,予防や治療につながらないためである.
・Iでは倫理的な面に留意し,標準的治療を比較対照に選ぶ.
・観察研究では交絡(因子)の調整が必要である.
・主要アウトカムは,患者・医療・社会にとって価値のあるものを選ぶ.

【研究デザイン】
・分析的疫学研究には,横断研究,症例対照研究,(前向き)コホート研究がある.それぞれの長所・短所の理解が大切.
・「横断研究」は,ある時点での研究対象者の暴露要因と疾患の療法のデータを収集する.欠点は原因と結果の決定が困難であること,希少疾患,希少暴露を扱うには問題があること,精神疾患のように悪化・寛解するようなものの場合,見逃す可能性あることである.
・「症例対照研究」は,ケースと対照をまず選び,両者における過去の暴露の有無を確認する研究である.希少疾患には有用であるが,比較可能な対照を得るのに工夫が必要で,過去のことをどれだけ覚えているかという記憶バイアスが問題になることもある.
・「(前向き)コホート研究」は曝露群と非曝露群を同定後,前向きにアウトカムを確かめる研究である.アウトカムは複数設定することができるため,複数の研究を行うことが可能である.利点として,因果関係を推定できる.欠点としては,莫大な費用と期間を要すること,希少性疾患には向かないことがあげられる.
・一方,実験的研究としては,無作為割り付け試験(RCT)がある.これは介入に無作為割付を行い,一定時間後にアウトカム評価を行うものである.RCTに向かない研究としては,アウトカム発生率が低いもの,脱落率が高いもの,研究期間が長くかかるもの,倫理的に問題があるものが挙げられる.

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頭痛診療のクインテッセンス@第43回日本頭痛学会(東京)

2015年11月14日 | 頭痛や痛み
ウィリアム・オスラー先生は「頭痛を治療する能力は内科医の力量を測るのに最も良い」とおっしゃったそうだ.ではその頭痛診療のクインテッセンス(真髄)は何であるかというと「問診である」と頭痛大学で知られる間中信也先生はそのご講演のなかでおっしゃっていた.第43回日本頭痛学会での間中先生のご講演をまとめてみたい.

間中先生は様々な頭痛の中から,まず危険な頭痛(red flag)を見つけ出すには,Dodick先生が提唱した「SNOOP(詮索好きな人,Snoopyスヌーピーはこの形容詞)」を利用すると良いとおっしゃっていた.

■ SNOOPは以下の頭文字
Systemic symptoms・signs(全身性の症状・徴候:発熱,筋痛,体重減少)
Systemic disease(全身性疾患;悪性疾患, AIDS )
Neurologic symptoms or signs(神経学的症状や徴候)
Onset sudden(突然の発症:雷鳴頭痛)
Onset after age 40 years(40 歳以降の発症)
Pattern change(頭痛発作間隔が次第に狭くなる進行性の頭痛,頭痛の種類の変化)

さらに間中先生は「頭痛のABCDE分類」を提唱されていた.5つに大きく分類し,診断・治療を構築する方法である.

A 頭痛: Acute 急性期頭痛・・・直近3ヶ月以内に発症→二次性頭痛の可能性が高い.
B頭痛: Bind 急性期+慢性期頭痛 ・・・普段も頭痛もちだが,「今回の頭痛はいつもの頭痛とは違う・とても痛い」という状況である.
C頭痛: Chronic 慢性反復性頭痛:片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛が含まれる.
D頭痛: Daily 慢性連日性頭痛(CDH)で薬物乱用なし:連日(月15日以上),3カ月以上頭痛が続く状態.
E頭痛: Excess慢性連日性頭痛(CDH)で薬物乱用(3カ月以上)がある・・・薬剤の使用過多による頭痛に相当する.

このなかで慢性頭痛は片頭痛と緊張型頭痛が混合して現れ,うっかりすると片頭痛を見逃す可能性があることを強調されておられた.やはり片頭痛の診断能力が極めて重要となる.以下,間中先生による頭痛診療のTipsを箇条書きにまとめたい(なるほど!と思うことがたくさんあった).

・A頭痛に関連して,「急性」の捉え方は,医師と患者さんで違うことがある.医師は「数分での症状の出現」をイメージするが,患者さんは「最近起きた頭痛」を思ってしまう.
・紹介状の「CT正常」は疑ってかかるように.とくに軽微なクモ膜下出血は見逃されていることもある.
・歩いて診察室にやってくるクモ膜下出血(Walk in SAH)を100%診断することは困難.見逃しは起こりうる.大切なことは,カルテに「項部硬直と突発性の有無」をきちんと記載しておくことである.
・B頭痛(慢性期頭痛に急性頭痛が合併)に関連して注意すべきは,もともと片頭痛があるところに,「激しく割れるような頭痛,トリプタンでむしろ悪化するような頭痛」が生じるものである(crash migraineと呼ばれる).原因としては,可逆性脳血管攣縮症候群 Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome(RCVS)が最も考えやすい.
・RCVSは片頭痛の患者さんに起きやすい.RCVSの血管攣縮は,何らかの誘因が引き金になり,末梢血管から始まり,その攣縮が中枢へ波及することが明らかになってきた.片頭痛は末梢血管の攣縮を引き起こす誘因の一つと考えられている.
(補足)RCVSは以下のHP(頭痛山歩)に詳しい.
・C頭痛の一つの片頭痛に関して,注意すべきは「必ずしも片側性ではない」ことである.また「必ずしも拍動性でもない」.拍動性とならない理由は,原因となる血管の部位が影響するものと推測されている.
・頭痛の問診の際,オノマトペ(擬音語)は頭痛の性状を理解するのに有用.例えばズキズキ,ズキンズキン.ガンガン,キリキリなど.(参照)メディカル・オノマトペ
・片頭痛のズキズキ(ズキンズキン)感は拍動によるものと考えられるが,じつは脈拍数とと一致していない.
・片頭痛に合併するアロディニア(通常では痛みをもたらさない微小な刺激を,すべて疼痛として認識されてします感覚異常のこと)を患者さんは自ら言わないので,積極的に問診する必要がある.
・光過敏・音過敏も,患者さんは自ら言わない.問診の方法として,片頭痛のとき,「明るい日差しと暗い部屋,どっちが良いですか?」「賑やかな音楽と静かな部屋,どっちが良いですか?」など工夫をすると良い.
・片頭痛と緊張型頭痛の鑑別に関して,身体を動かしたときの症状の変化が重要.片頭痛では痛覚過敏があり,身体を動かすと悪化する.逆に緊張型では悪化なしか,むしろ改善する.
・肩こりは緊張型頭痛を想起させるが,「片頭痛でも必発」と思ったほうが良い.
・閃輝暗点もいろいろで,ギザギザとは限らない.見本を見てもらったり,スケッチをしてもらったりすると良い.
・片頭痛の誘因に空腹(低血糖)があるが,そのような患者さんには,朝食をしっかり取っていただく.
・パソコンなどによるブルーライトは片頭痛を誘発しやすい.とくに夜,寝る前のブルーライトへの暴露は減らしたほうが良い.
・早朝頭痛での問診として,床の中から痛いのか,床を出てから痛いのかを確認する.前者はPOTS(postural tachycardia syndrome:体位性頻脈症候群),後者は髄液減少症である.POTSは①起立すると頻脈を起こすが,血圧は下がらない.②思春期,成長期に多い.③朝に調子が悪く,起きられない.朝の頭痛やふらつきを呈し,午後から夕方にかけて調子が良くなる.そのため,他人に怠けていると思われることもある.
・D頭痛に関して,片頭痛の慢性化は月15日.鎮痛薬乱用は月10日.この日数は,根拠はないエキスパート・オピニオンではあるが,決まりがないと診療・研究をやりにくいので仕方がない.
・患者さんに破局的思考(やけっぱち)がないか見抜く.患者さんは自ら言わないが,やけっぱちだと治療がうまくいかない.これをポジティブな気持ちに切り替えてあげることが医師の腕の見せ所である.
・E頭痛に関して,薬剤乱用=違法ドラックではない.つまり患者さんは悪いことをしているわけではないので責めてはいけない.患者さんは,申告すると注意されてしまうと警戒している.「つらいからですよね」と共感することが大切.
・5種類あるトリプタンの選択では,患者さんの嗜好が大事.内服しなくなるので,合わないもの,嫌なものは継続して処方しない.
・片頭痛では首こりが起こる(C2レベル).
片頭痛の予防療法の効果発現に,2-3ヶ月かかることがある.
バルプロ酸が女性において安易に使用される傾向があるので,慎重に処方する.
・患者さんの満足のために,ツールを使って効率的に情報を収集し,パンフレットも使って分かりやすく説明する.サービストークで患者さんの満足度を上げる.コミュニケーションは大切で,最初の3分間は患者さんに話をしてもらう.
・医師は努めて明るく,ポジティブに!医師の態度自体が治療効果になりうる.そのためには,自分自身が健康でないといけない.
・頭痛診療で重要なのは「一に問診,二に問診,三に問診,四にコミュニケーションである.

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