医学書院の企画による「医師のバーンアウト対策に必要な視点とは」というテーマの座談会に出席し,司会をつとめた.同志社大学大学政策学部久保真人教授,順天堂大学服部信孝教授,国立病院機構東名古屋病院饗場郁子先生とともに議論を行った.座談会の内容は10月末に週刊医学界新聞に掲載されるので,ここでは個人的に印象に残った言葉について記載したい.座談会の目的は,医療者におけるバーンアウト問題において,脳神経内科領域における現状や取り組みを例にあげて,基礎知識や問題を共有し,今後の対策を考えていくことである.
【時代の変化が医師のバーンアウトを招いた】
燃え尽き症候群の本邦における第一人者である久保教授によると,バーンアウト研究を開始した当初の1990年代には,医師や弁護士はバーンアウトしない職業の代表(!)と考えられていたそうだ.しかしその後の時代の変化により,両職業ともクライアントや患者さんとの関係が変わり,サービス業,および経済的な側面が重視されるようになり,ストレスフルな職業に変化し,その結果として,バーンアウト問題が顕在化したと考えられる.
【バーニングアウトのうちに介入を行う】
バーンアウトの3症状は「情緒的消耗感,脱人格化,個人的達成感の低下」である(図).これらは並列に生じるものではない.つまり,情緒的消耗感から患者さんに対して非人間的な対応をしたり,無関心や思いやりに欠ける言動などをする「脱人格化」に至るには「職業人・人間としての倫理観」という大きなハードルがある.すなわち,このハードルを乗り越える以前の情緒的消耗感を呈している早期の段階(まだ燃え尽きてしまっていないという意味でバーニングアウトと呼ぶ)にある医師を見出し,介入を行うことが重要になってくる.
【バーンアウトの啓発活動が必要である】
世間一般で使われるバーンアウトと,学術的なバーンアウトではその意味に乖離がある.つまり前者は燃え尽きてしまった状態を指すのに対し,後者は前述のような燃え尽きつつある状態(バーニングアウト)を含む.学術的なバーンアウトの意味を理解することは「情緒的消耗感を呈している早期の段階のひと」を見出し,介入することにつながる.バーンアウトを正しく理解していただくための啓発活動が必要である.
【ワークとライフは別々のものではない】
バーンアウト対策のなかで,ワークライフバランスを良好に保つことはに有効であるという議論になった.しかし「ワークとライフはそれぞれ別個のものであり,両者の配分を変えることがワークライフバランスの改善である」という考え方は正しくはないという議論を行った.というのは,両者は互いに密接に関係しており,ワークが楽しければライフにも良い影響が出て好循環する.当然,その逆もありうる.ワークに問題があり,つまらないと思える場合,なぜそうなっているのかを見直すことで,間接的にライフも改善し,ワークライフバランスの改善につながる.
【リーダーシップ教育が重要である】
チームを率いる大学教授や病院の診療科長は,自らのリーダーシップにより,チームが大きな影響を受けることを認識する必要がある.米国神経学会はLeadership Universityと名付けたリーダーシップ教育を開始している.内容の一部は過去のブログに記載したが,とくに医師に特別なものがあるわけではなく,有名ビジネス書などからも容易に学ぶことができる.またリーダーシップ教育は指導者のみが必要なのではない.事実,米国神経学会でも女性医師向けやレジデント向けなど,さまざまな立場に対するリーダーシップ教育が行われている.
【病院や組織における対策は,働き方改革と密接にリンクする】
バーンアウト対策として,個人でレジリエンスを向上させる工夫を見出すことに加え,医療労働環境の改善は不可欠である.医療における働き方改革の問題が現在議論されているが,この結果によってバーンアウトは大きく影響を受ける.とくに直接,影響が出るのは「他の労働者と同様に,医師にも残業上限を当てはめるか否かという問題」である.残業上限が応召義務などを理由に撤廃されると,医師のバーンアウトは増加するものになるだろう.個人的には「患者さんの医療安全のために医療事故を防止するためには,医師の過重労働を防ぐことが不可欠である」と考える.つまり医師にも残業上限は当てはめるべきだという立場である.ただし単に就労時間制限を決めるような方法ではすぐに破綻してしまうであろう.まずは認識の共有を行い,現状の業務の無駄を見つけ省き,他業種に任せられるものは任せ(とくに専門ナースへのタスク・シフティング),当直後の勤務間インターバルを確保を目指すという必要がある.医師の偏在の是正も不可欠である.
【日本型組織から脱皮し,スピードある変革を行う】
米国神経学会は2014年の年次総会のプレナリーセッションにおいて初めて,医師のバーンアウトの問題を取り上げた.その後,矢継ぎ早に3つの論文を発表し,さらにLive wellと名付けた,医師がより良い生活を行うための試みやLeadership Universityを開始した.この変革はわずか数年で完成し,その迅速さに驚かされた.最近読んだ村木敦子さん(厚労省元局長)著「日本型組織の病を考える」によると,「世界と比べ日本の変革のスピードはあまりに遅い」そうだ.さらにその本質は「本音と建前」だとおっしゃっている.つまり建前は建前で祀っておいて,実際は「その建前は無理」「それは現実的ではない」と,こっそりと本音ベースで対応してしまうことが問題だと述べている.「そうは言っても必要悪だから仕方ない」ということがなされていないかがリトマス試験紙になるとのことだ.
10月末発行予定の週刊医学界新聞をぜひご覧頂きたい.
【時代の変化が医師のバーンアウトを招いた】
燃え尽き症候群の本邦における第一人者である久保教授によると,バーンアウト研究を開始した当初の1990年代には,医師や弁護士はバーンアウトしない職業の代表(!)と考えられていたそうだ.しかしその後の時代の変化により,両職業ともクライアントや患者さんとの関係が変わり,サービス業,および経済的な側面が重視されるようになり,ストレスフルな職業に変化し,その結果として,バーンアウト問題が顕在化したと考えられる.
【バーニングアウトのうちに介入を行う】
バーンアウトの3症状は「情緒的消耗感,脱人格化,個人的達成感の低下」である(図).これらは並列に生じるものではない.つまり,情緒的消耗感から患者さんに対して非人間的な対応をしたり,無関心や思いやりに欠ける言動などをする「脱人格化」に至るには「職業人・人間としての倫理観」という大きなハードルがある.すなわち,このハードルを乗り越える以前の情緒的消耗感を呈している早期の段階(まだ燃え尽きてしまっていないという意味でバーニングアウトと呼ぶ)にある医師を見出し,介入を行うことが重要になってくる.
【バーンアウトの啓発活動が必要である】
世間一般で使われるバーンアウトと,学術的なバーンアウトではその意味に乖離がある.つまり前者は燃え尽きてしまった状態を指すのに対し,後者は前述のような燃え尽きつつある状態(バーニングアウト)を含む.学術的なバーンアウトの意味を理解することは「情緒的消耗感を呈している早期の段階のひと」を見出し,介入することにつながる.バーンアウトを正しく理解していただくための啓発活動が必要である.
【ワークとライフは別々のものではない】
バーンアウト対策のなかで,ワークライフバランスを良好に保つことはに有効であるという議論になった.しかし「ワークとライフはそれぞれ別個のものであり,両者の配分を変えることがワークライフバランスの改善である」という考え方は正しくはないという議論を行った.というのは,両者は互いに密接に関係しており,ワークが楽しければライフにも良い影響が出て好循環する.当然,その逆もありうる.ワークに問題があり,つまらないと思える場合,なぜそうなっているのかを見直すことで,間接的にライフも改善し,ワークライフバランスの改善につながる.
【リーダーシップ教育が重要である】
チームを率いる大学教授や病院の診療科長は,自らのリーダーシップにより,チームが大きな影響を受けることを認識する必要がある.米国神経学会はLeadership Universityと名付けたリーダーシップ教育を開始している.内容の一部は過去のブログに記載したが,とくに医師に特別なものがあるわけではなく,有名ビジネス書などからも容易に学ぶことができる.またリーダーシップ教育は指導者のみが必要なのではない.事実,米国神経学会でも女性医師向けやレジデント向けなど,さまざまな立場に対するリーダーシップ教育が行われている.
【病院や組織における対策は,働き方改革と密接にリンクする】
バーンアウト対策として,個人でレジリエンスを向上させる工夫を見出すことに加え,医療労働環境の改善は不可欠である.医療における働き方改革の問題が現在議論されているが,この結果によってバーンアウトは大きく影響を受ける.とくに直接,影響が出るのは「他の労働者と同様に,医師にも残業上限を当てはめるか否かという問題」である.残業上限が応召義務などを理由に撤廃されると,医師のバーンアウトは増加するものになるだろう.個人的には「患者さんの医療安全のために医療事故を防止するためには,医師の過重労働を防ぐことが不可欠である」と考える.つまり医師にも残業上限は当てはめるべきだという立場である.ただし単に就労時間制限を決めるような方法ではすぐに破綻してしまうであろう.まずは認識の共有を行い,現状の業務の無駄を見つけ省き,他業種に任せられるものは任せ(とくに専門ナースへのタスク・シフティング),当直後の勤務間インターバルを確保を目指すという必要がある.医師の偏在の是正も不可欠である.
【日本型組織から脱皮し,スピードある変革を行う】
米国神経学会は2014年の年次総会のプレナリーセッションにおいて初めて,医師のバーンアウトの問題を取り上げた.その後,矢継ぎ早に3つの論文を発表し,さらにLive wellと名付けた,医師がより良い生活を行うための試みやLeadership Universityを開始した.この変革はわずか数年で完成し,その迅速さに驚かされた.最近読んだ村木敦子さん(厚労省元局長)著「日本型組織の病を考える」によると,「世界と比べ日本の変革のスピードはあまりに遅い」そうだ.さらにその本質は「本音と建前」だとおっしゃっている.つまり建前は建前で祀っておいて,実際は「その建前は無理」「それは現実的ではない」と,こっそりと本音ベースで対応してしまうことが問題だと述べている.「そうは言っても必要悪だから仕方ない」ということがなされていないかがリトマス試験紙になるとのことだ.
10月末発行予定の週刊医学界新聞をぜひご覧頂きたい.