今回のキーワードは,デルタ株はオリジナル株と比べ,潜伏期間が2日短く,ウイルス量が1260倍多い,ブレイクスルー感染は感染前後の中和抗体価が低い場合に生じる,1回目のワクチンで即時型アレルギー反応が生じても2回目接種は可能である,神経変性疾患患者ではCOVID-19による短期死亡率は高くないが,侵襲的人工呼吸の頻度は低い.コロナ禍に見られる機能的「急速発症チック様行動」は発症年齢と症候から明確に区別できる,多発性硬化症患者の感染後入院の予測因子は神経学的障害の程度と年齢である,です.
最初にご紹介する論文はプレプリント論文ですが,Nature誌でも取り上げられた信頼できるものです.この論文によると,デルタ株は2020年に中国で流行したオリジナル株よりはるかに速く複製するため,潜伏期間が3.7日,ウイルス量は1260倍にもなるとのことです.東京でみられる予想を上回る急激な感染者数の増加も理解できます.今後どうなるのか予想も付きませんが,3月から爆発的に広がったインドの第2波は参考になります.累計感染者が3000万人を超え,医療崩壊が生じました.現在は収束に向かい,1日の新規感染者はピーク時の8分の1になりましたが,そのために2カ月近いロックダウンが行われていますし,インドの主要8州では人口の70%超が抗体陽性となっています.収束までの道のりを考えるととても恐ろしくなります.いずれにしてもワクチン接種なしに感染すれば重症化のリスクがあります.正しい知識を学び,科学的に判断すればワクチンを接種しないことがいかに危険なことか分かると思います.誤情報に惑わされず,ワクチン接種を受けるよう周囲の迷っている人に伝えていただきたいと思います.
◆デルタ株はオリジナル株と比べ,潜伏期間が2日短く,ウイルス量が1260倍多い.
現在,デルタ株の感染力は,2020年当初のオリジナル株の2倍以上と推定されている.この機序を検討した中国からの論文である.中国本土で初めてデルタ株の局所感染が発生したため,連日,潜伏期間とウイルス量を検討した.5月21日からの1か月間において発生したデルタ株感染者167人を調べたところ,初めてウイルスを検出するのは曝露から3.7日後であった.オリジナル株(19A/19B)感染では平均5.6日後であったので,2日間の短縮が見られた(図1).
つまりデルタ株ははるかに速く複製されることが分かる.実際にデルタ株感染者のウイルス量は,オリジナル株の1260倍にも達していた(図2にPCRのサイクル閾値).デルタ株の感染力の強さは,ウイルス数の多さと潜伏期間の短さの組み合わせで説明が可能である.つまり感染後のより早い段階から,絶対量の多いウイルスが超拡散現象により多くの人に感染するということである.デルタ株の方がオリジナル株よりも重症化しやすいのかは不明である.→ 潜伏期間が短いため,中国のように感染接触者を組織的に追跡し,隔離を行う国ですら濃厚接触者の追跡が難しくなる.デルタ株を止めるのは本当に難しい.
medRxiv(https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.07.07.21260122v2)
Nature. News. July 21, 2021(doi.org/10.1038/d41586-021-01986-w)
◆ブレイクスルー感染は感染前後の中和抗体価が低い場合に生じる.
ファイザーワクチンは高い有効性を示すものの,まれにワクチンを2回接種し2週間経過した完全ワクチン状態であっても感染が起きる.このブレイクスルー感染の臨床的特徴を明らかにし,その危険因子を検討した論文がイスラエルから報告された.対象は医療従事者とした.ウイルスが検出される前の1週間以内に抗体価を調べたブレイクスルー感染患者と,非感染対照者をマッチングした.結果としては,完全ワクチン状態の医療従事者1497名のうち,39名のブレイクスルー感染を認めた.39名の中和抗体価は,マッチさせた非感染対照者の中和抗体価よりも有意に低かった(症例・対照比,0.361;95%信頼区間,0.165~0.787)(図3A).また感染後1ヶ月におけるピーク値も低値であった(図3B).感染期間中の中和抗体価が高いほど感染力が低いこと(PCRサイクル閾値が高い)と関連していた.ブレイクスルー感染者のほとんどは軽症ないし無症状であったが,19%は6週間以上症状が持続した.検査した試料の85%はアルファ株であった.ブレイクスルー感染者からの二次感染は認められなかった.→ ブレイクスルー感染は中和抗体が上昇しない場合に起こりうるが,それでもワクチンのお蔭で重症化や二次感染は生じない可能性が高い.
New Engl J Med. July 28, 2021(doi.org/10.1056/NEJMoa2109072)
◆1回目のワクチンで即時型アレルギー反応が生じても2回目接種は可能である.
mRNAワクチンの接種後のアレルギー反応は2%と高く,アナフィラキシーは1万人あたり2.5人に発生する.米国CDCは1回目接種後にこれらを認めた人に対し,ヤンセン社の単回接種を受けることを推奨してきた.今回,米国からファイザーないしモデルナワクチンの1回目接種後に,即時型アレルギー反応を起こした人を対象に,2回目接種の安全性を検討した多施設共同後方視的研究が報告された.即時型アレルギー反応は (1)接種1回目から4時間以内の発現,(2)少なくとも1つのアレルギー症状,(3)アレルギー・免疫学の相談家による評価,と定義した.主要評価項目は,2回目接種に対する耐性とした.対象は189名(平均43歳,女性86%)であった.130名(69%)がモデルナ,59例(31%)がファイザーであった.1回目接種で多いアレルギー反応は,顔面紅潮・紅斑(28%),めまい・ふらつき(26%),しびれ(24%),のどの閉塞感(22%),蕁麻疹(21%),喘鳴・息切れ(21%)であった.32名(17%)がアナフィラキシーの定義を満たした.うち159名(84%)が2回目の接種を受けた.接種前に抗ヒスタミン薬の前投薬を47名(30%)で行った.1回目接種でアナフィラキシーを起こした19名を含む159全員が2回目の接種ができた.32人(20%)に即時的,潜在的アレルギー反応を認めたが,ごく軽度の症状で,抗ヒスタミン薬のみで消失した.結論として,1回目接種後の即時型アレルギー反応を認めた人でも,2回目接種の安全性が示された.これらの結果は,接種後の反応の多くが真のアレルギー反応ではないか,あるいはアレルギー反応ではあるもののIgEを介さないメカニズムで生じるもので,通常は前投薬で症状を抑えられることを示唆する.
JAMA Intern Med. July 26, 2021.(doi.org/10.1001/jamainternmed.2021.3779)
◆神経変性疾患患者ではCOVID-19による短期死亡率は高くないが,侵襲的人工呼吸の頻度は低い.
米国から神経変性疾患患者におけるCOVID-19の予後に関する後方視的コホート研究が報告された.仮説としては「神経変性疾患(ND)患者では罹患率と死亡率が増加する」であった.2020年3月からの3ヶ月間で,NDを伴うCOVID-19入院患者132名を対象とし,年齢をマッチさせた対照群(CL)132名と比較した.主要評価項目を死亡,ICU入室,侵襲的人工呼吸とした.仮説に反して90日死亡率(ND 19.7%対CL 23.5%;p=0.45)およびICU入室率(ND 31.5%対CL 35.9%; p=0.43)に有意差はなかった.ND群は侵襲的人工呼吸(ND 11.4%対CL 23.2%;p=0.0075)および酸素吸入(ND 83.2%対CL 95.1%;p=0.0012)の割合が低かった.またND群はCOVID-19の症状として「精神状態の変化または錯乱」を呈している頻度が高く(脳症の可能性も指摘されている),独立した死亡の危険因子となっていた.一方,呼吸器症状を呈する頻度は低かった.ND群はCL群と比べ,介護施設やホスピスへの退院率が高かった.侵襲的人工呼吸の頻度が対照の半分以下であった理由としては,ND群では呼吸器症状が少ないことに加え,積極的治療が行われない可能性がある.
Neurol Clin Pract. July 16, 2021(doi.org/10.1212/CPJ.0000000000001117)
◆コロナ禍に見られる機能的「急速発症チック様行動」は発症年齢と症候から明確に区別できる.
コロナ禍において機能性不随意運動性が増加していることが報告されている.そのなかで,トゥレット症候群(音声チックを伴う複数の運動チックが,1年以上持続する精神神経疾患)と診断される子供や若者が「爆発的」に増加し,特に10代の女子において,突然発症し,トゥレット症候群と診断されるケースが増えている(https://bit.ly/3yew5cp).カナダからの検討で,2021年1月に登録を開始した前向きコホート研究であるAdult Tic Disorders Registryのデータを分析し,この「急速発症チック様行動(Rapid Onset Tic-Like Behaviours)」と従来のトゥレット症候群または持続性運動・発声チック障害を比較した研究が報告された.半年間で前者が9名,後者が24名であった.前者は年齢が若く(19.9歳対38.6歳,p=0.003),発症年齢が高く(15.3歳対10.1歳,p=0.0009),女性が多かった(p<0.0001).また,運動および発声チックの重症度および障害度が高く(いずれもp<0.01),複雑な腕や手の運動チック(p<0.0001),複雑な発声チック(p<0.0001),コプロラリア(汚言症:p=0.004)を呈する者が多かった.また,自己申告による精神症状スコアが高く(p<0.05),うつ病と診断される頻度も高かった(p=0.03).以上より,「急速発症チック様行動」は発症年齢や症候から明確に区別できる.コロナ禍の若年者に出現した機能的神経疾患の明確なサブタイプであり,社会的影響を強く受けていると考えられる.
Eur J Neurol. July 22, 2021(doi.org/10.1111/ene.15034)
◆多発性硬化症患者の感染後入院の予測因子は神経学的障害の程度と年齢である.
多発性硬化症(MS)およびその関連疾患におけるCOVID-19感染の予後を明らかにし,その予測因子を検討した多施設共同観察コホート研究が米国から報告された.期間は2020年2月1日からの11ヶ月とした.対象となったCOVID-19感染が疑われた474名のうち,PCRないし血清学的にCOVID-19感染が確認されたのは63.3%であった.445名(93.9%)がMSで,NMOSDが14名,MOG抗体関連疾患が3名,神経サルコイドーシス4名,その他8名であった.72%が女性.86%が感染時に病態修飾薬による治療を受けていた.58名(12.2%)が入院した.24名(5.1%)が重症で,うち15名(3.2%)が死亡した.神経学的障害の程度が高いことと年齢が高いことは,入院の予測因子であった.抗CD20療法は抗体陽性率を有意に低下させた(39.5%対85%;p<0.0001).PCRでCOVID-19が確認され,抗CD20療法を受けた患者に限ると,抗体陽性率は25%(2/8名)のみであった(図4).
Mult Scler Relat Disord. July 19, 2021(doi.org/10.1016/j.msard.2021.103153)
最初にご紹介する論文はプレプリント論文ですが,Nature誌でも取り上げられた信頼できるものです.この論文によると,デルタ株は2020年に中国で流行したオリジナル株よりはるかに速く複製するため,潜伏期間が3.7日,ウイルス量は1260倍にもなるとのことです.東京でみられる予想を上回る急激な感染者数の増加も理解できます.今後どうなるのか予想も付きませんが,3月から爆発的に広がったインドの第2波は参考になります.累計感染者が3000万人を超え,医療崩壊が生じました.現在は収束に向かい,1日の新規感染者はピーク時の8分の1になりましたが,そのために2カ月近いロックダウンが行われていますし,インドの主要8州では人口の70%超が抗体陽性となっています.収束までの道のりを考えるととても恐ろしくなります.いずれにしてもワクチン接種なしに感染すれば重症化のリスクがあります.正しい知識を学び,科学的に判断すればワクチンを接種しないことがいかに危険なことか分かると思います.誤情報に惑わされず,ワクチン接種を受けるよう周囲の迷っている人に伝えていただきたいと思います.
◆デルタ株はオリジナル株と比べ,潜伏期間が2日短く,ウイルス量が1260倍多い.
現在,デルタ株の感染力は,2020年当初のオリジナル株の2倍以上と推定されている.この機序を検討した中国からの論文である.中国本土で初めてデルタ株の局所感染が発生したため,連日,潜伏期間とウイルス量を検討した.5月21日からの1か月間において発生したデルタ株感染者167人を調べたところ,初めてウイルスを検出するのは曝露から3.7日後であった.オリジナル株(19A/19B)感染では平均5.6日後であったので,2日間の短縮が見られた(図1).
つまりデルタ株ははるかに速く複製されることが分かる.実際にデルタ株感染者のウイルス量は,オリジナル株の1260倍にも達していた(図2にPCRのサイクル閾値).デルタ株の感染力の強さは,ウイルス数の多さと潜伏期間の短さの組み合わせで説明が可能である.つまり感染後のより早い段階から,絶対量の多いウイルスが超拡散現象により多くの人に感染するということである.デルタ株の方がオリジナル株よりも重症化しやすいのかは不明である.→ 潜伏期間が短いため,中国のように感染接触者を組織的に追跡し,隔離を行う国ですら濃厚接触者の追跡が難しくなる.デルタ株を止めるのは本当に難しい.
medRxiv(https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.07.07.21260122v2)
Nature. News. July 21, 2021(doi.org/10.1038/d41586-021-01986-w)
◆ブレイクスルー感染は感染前後の中和抗体価が低い場合に生じる.
ファイザーワクチンは高い有効性を示すものの,まれにワクチンを2回接種し2週間経過した完全ワクチン状態であっても感染が起きる.このブレイクスルー感染の臨床的特徴を明らかにし,その危険因子を検討した論文がイスラエルから報告された.対象は医療従事者とした.ウイルスが検出される前の1週間以内に抗体価を調べたブレイクスルー感染患者と,非感染対照者をマッチングした.結果としては,完全ワクチン状態の医療従事者1497名のうち,39名のブレイクスルー感染を認めた.39名の中和抗体価は,マッチさせた非感染対照者の中和抗体価よりも有意に低かった(症例・対照比,0.361;95%信頼区間,0.165~0.787)(図3A).また感染後1ヶ月におけるピーク値も低値であった(図3B).感染期間中の中和抗体価が高いほど感染力が低いこと(PCRサイクル閾値が高い)と関連していた.ブレイクスルー感染者のほとんどは軽症ないし無症状であったが,19%は6週間以上症状が持続した.検査した試料の85%はアルファ株であった.ブレイクスルー感染者からの二次感染は認められなかった.→ ブレイクスルー感染は中和抗体が上昇しない場合に起こりうるが,それでもワクチンのお蔭で重症化や二次感染は生じない可能性が高い.
New Engl J Med. July 28, 2021(doi.org/10.1056/NEJMoa2109072)
◆1回目のワクチンで即時型アレルギー反応が生じても2回目接種は可能である.
mRNAワクチンの接種後のアレルギー反応は2%と高く,アナフィラキシーは1万人あたり2.5人に発生する.米国CDCは1回目接種後にこれらを認めた人に対し,ヤンセン社の単回接種を受けることを推奨してきた.今回,米国からファイザーないしモデルナワクチンの1回目接種後に,即時型アレルギー反応を起こした人を対象に,2回目接種の安全性を検討した多施設共同後方視的研究が報告された.即時型アレルギー反応は (1)接種1回目から4時間以内の発現,(2)少なくとも1つのアレルギー症状,(3)アレルギー・免疫学の相談家による評価,と定義した.主要評価項目は,2回目接種に対する耐性とした.対象は189名(平均43歳,女性86%)であった.130名(69%)がモデルナ,59例(31%)がファイザーであった.1回目接種で多いアレルギー反応は,顔面紅潮・紅斑(28%),めまい・ふらつき(26%),しびれ(24%),のどの閉塞感(22%),蕁麻疹(21%),喘鳴・息切れ(21%)であった.32名(17%)がアナフィラキシーの定義を満たした.うち159名(84%)が2回目の接種を受けた.接種前に抗ヒスタミン薬の前投薬を47名(30%)で行った.1回目接種でアナフィラキシーを起こした19名を含む159全員が2回目の接種ができた.32人(20%)に即時的,潜在的アレルギー反応を認めたが,ごく軽度の症状で,抗ヒスタミン薬のみで消失した.結論として,1回目接種後の即時型アレルギー反応を認めた人でも,2回目接種の安全性が示された.これらの結果は,接種後の反応の多くが真のアレルギー反応ではないか,あるいはアレルギー反応ではあるもののIgEを介さないメカニズムで生じるもので,通常は前投薬で症状を抑えられることを示唆する.
JAMA Intern Med. July 26, 2021.(doi.org/10.1001/jamainternmed.2021.3779)
◆神経変性疾患患者ではCOVID-19による短期死亡率は高くないが,侵襲的人工呼吸の頻度は低い.
米国から神経変性疾患患者におけるCOVID-19の予後に関する後方視的コホート研究が報告された.仮説としては「神経変性疾患(ND)患者では罹患率と死亡率が増加する」であった.2020年3月からの3ヶ月間で,NDを伴うCOVID-19入院患者132名を対象とし,年齢をマッチさせた対照群(CL)132名と比較した.主要評価項目を死亡,ICU入室,侵襲的人工呼吸とした.仮説に反して90日死亡率(ND 19.7%対CL 23.5%;p=0.45)およびICU入室率(ND 31.5%対CL 35.9%; p=0.43)に有意差はなかった.ND群は侵襲的人工呼吸(ND 11.4%対CL 23.2%;p=0.0075)および酸素吸入(ND 83.2%対CL 95.1%;p=0.0012)の割合が低かった.またND群はCOVID-19の症状として「精神状態の変化または錯乱」を呈している頻度が高く(脳症の可能性も指摘されている),独立した死亡の危険因子となっていた.一方,呼吸器症状を呈する頻度は低かった.ND群はCL群と比べ,介護施設やホスピスへの退院率が高かった.侵襲的人工呼吸の頻度が対照の半分以下であった理由としては,ND群では呼吸器症状が少ないことに加え,積極的治療が行われない可能性がある.
Neurol Clin Pract. July 16, 2021(doi.org/10.1212/CPJ.0000000000001117)
◆コロナ禍に見られる機能的「急速発症チック様行動」は発症年齢と症候から明確に区別できる.
コロナ禍において機能性不随意運動性が増加していることが報告されている.そのなかで,トゥレット症候群(音声チックを伴う複数の運動チックが,1年以上持続する精神神経疾患)と診断される子供や若者が「爆発的」に増加し,特に10代の女子において,突然発症し,トゥレット症候群と診断されるケースが増えている(https://bit.ly/3yew5cp).カナダからの検討で,2021年1月に登録を開始した前向きコホート研究であるAdult Tic Disorders Registryのデータを分析し,この「急速発症チック様行動(Rapid Onset Tic-Like Behaviours)」と従来のトゥレット症候群または持続性運動・発声チック障害を比較した研究が報告された.半年間で前者が9名,後者が24名であった.前者は年齢が若く(19.9歳対38.6歳,p=0.003),発症年齢が高く(15.3歳対10.1歳,p=0.0009),女性が多かった(p<0.0001).また,運動および発声チックの重症度および障害度が高く(いずれもp<0.01),複雑な腕や手の運動チック(p<0.0001),複雑な発声チック(p<0.0001),コプロラリア(汚言症:p=0.004)を呈する者が多かった.また,自己申告による精神症状スコアが高く(p<0.05),うつ病と診断される頻度も高かった(p=0.03).以上より,「急速発症チック様行動」は発症年齢や症候から明確に区別できる.コロナ禍の若年者に出現した機能的神経疾患の明確なサブタイプであり,社会的影響を強く受けていると考えられる.
Eur J Neurol. July 22, 2021(doi.org/10.1111/ene.15034)
◆多発性硬化症患者の感染後入院の予測因子は神経学的障害の程度と年齢である.
多発性硬化症(MS)およびその関連疾患におけるCOVID-19感染の予後を明らかにし,その予測因子を検討した多施設共同観察コホート研究が米国から報告された.期間は2020年2月1日からの11ヶ月とした.対象となったCOVID-19感染が疑われた474名のうち,PCRないし血清学的にCOVID-19感染が確認されたのは63.3%であった.445名(93.9%)がMSで,NMOSDが14名,MOG抗体関連疾患が3名,神経サルコイドーシス4名,その他8名であった.72%が女性.86%が感染時に病態修飾薬による治療を受けていた.58名(12.2%)が入院した.24名(5.1%)が重症で,うち15名(3.2%)が死亡した.神経学的障害の程度が高いことと年齢が高いことは,入院の予測因子であった.抗CD20療法は抗体陽性率を有意に低下させた(39.5%対85%;p<0.0001).PCRでCOVID-19が確認され,抗CD20療法を受けた患者に限ると,抗体陽性率は25%(2/8名)のみであった(図4).
Mult Scler Relat Disord. July 19, 2021(doi.org/10.1016/j.msard.2021.103153)