Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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皮質下血管性認知症の白質障害・BBB破綻にはMMPが関与する

2011年04月26日 | 脳血管障害
Vascular cognitive impairmentの病型としては以下のものが知られている.

1.多発梗塞性認知症
2.局在病変型梗塞認知症
3.皮質下血管性認知症(subcortical ischemic vascular disease;SIVD)
4.CADASIL
5.低酸素・低灌流による認知症
6.脳血管障害を伴うアルツハイマー病
7.血管性軽度認知機能障害

このなかで,SIVDは,「小細動脈硬化を背景とする小血管病」であるビンスワンガー病と,多発小梗塞(ラクナ)性認知症が含まれる.前者は白質が主として侵され,後者は穿通枝領域の小梗塞が主体となる.しかし,両者は厳密に分類することは困難であり,白質と穿通枝領域の病変を合併することはしばしば経験する.これらの疾患では血管因子を背景として緩徐進行性に認知機能が低下することが多いといわれている.

今回,SIVDの病態についての論文が報告された.マトリックス・メタロプロテアーゼ(MMP)は神経炎症を介して,血液脳関門を破壊し,ミエリン塩基性蛋白を分解する強力なタンパク分解酵素として知られる.本研究ではSIVD患者において,髄液のMMPを測定し,血液脳関門(BBB)の破綻のマーカーであるalbumin indexとの関連を調べている.

結果として,髄液中のMMP-2 index(髄内産生)が低下していること,MMP-3活性は増加していること,albumin indexがMMP-2 index低下と有意に相関することが明らかにされた.また急性脳虚血においてBBBの破綻に関与することが知られるMMP-9についての検討では,MMP-9 indexはalbumin indexと相関しなかった.MMP-2 indexとMMP-3 activityを組み合わせると,SIVDと健常者を高い特異性をもって鑑別可能であった(P<0.0005).

以上の結果は,SIVDのBBB破綻,白質障害においてMMPが重要な役割を果たしていることを示している.意外なことは,なぜMMP-2が増加でなく低下したのか(仮説を挙げているものの機序不明とのこと),そしてなぜMMP-9がalbumin indexと相関しなかったかである.さらなる研究が望まれる.

Stroke. 2011;42:1345-1350 

リンクはFacebookページからいくと便利です.

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願わくば、研究者として

2011年04月22日 | 医学と医療
先日,書かせていただいた記事に対し,分子生物学を研究されておられる方からコメントを頂戴しました.研究ノートのなかに書いてある言葉だそうです.何度も繰り返し読みました.私もそうありたいと心から思いました.
Wingさんどうもありがとうございます.研究を志す多くの方々にぜひ読んでいただきたいので,ここに引用させていただきます.

願わくば、研究者として

・その学術、研究、知識が生きとし生けるもの全ての為のものになりますように。

・その技術が人の命の為だけになりませんように。

・何時だって小さな不思議を持ち続けられる研究者であれますように。

・終わる事無く壁ばかり与えられますように。

・その壁を乗り越える力を身につけられますように。

・壁がある事に、共に乗り越える仲間がいる事に感謝できますように。

・命あるものへの感謝を忘れる事がありませんように。

・自らの命をもかけられる情熱を失いませんように。

・人として正しくあれますように。

・昨日も今日も明日も新しい日でありますように。

患者さん、医療者、研究者、三人四脚で最後まで闘えればうれしいです。
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続々.治せない病気に対し,我々は何ができるか?

2011年04月15日 | 医学と医療
先週,医学部の6年生に対して講義をさせていただいた.私は3年生から講義をする機会をいただいているが,「今はまだ治せない病気に何ができるか」という自分自身にとっても大切な問題を,一緒に考えてみたいと考えている.3年生に対する講義の内容は以前にブログに書いたことがあるが,ALSを題材として講義を行っている.

治せない病気に対し、我々は何ができるか?

続.治せない病気に対し,我々は何ができるか?

当科の初代教授である椿忠雄先生のおっしゃった「治らない患者に普通の意味の医学はだめであっても医療の手は及ばないことはない」という言葉を伝えるのはこの3年生の時である.最終学年の6年生には,まだ治せない病気に対して,基礎研究の立場からどう取り組むことができるのかということを私なりに伝えている.

以下は講義に対して6年生のみんなが書いてくれた感想の一部です(了解もなく引用しますが,名前は伏せていますので勘弁して下さい).自分の進むべき道に対する不安があるものの,素直で純粋で,そして前向きであり,とても感動しました.どうか読んでみてください.心から期待したくなりますよ.

1.悩み
治らないということを患者さんに伝えるとき,私にはまだどのように伝えたらよいのか今は正直わからないです

将来どんな医師になればよいかという心配が強くなっている自分がいる

「医学」というものには限界があり,ある意味において非常に頼りないものだと強く感じ始めています

2.学ぶ
患者さんから多くを学び,それを研究に生かせるようにする

目をそむけることなく,しっかり向き合い,何が苦しいのか,どんな痛みを抱えているのか,どんなことを考えているのか知ることから始めたい

担当させてもらうことになったら,その機会を大切にして,感謝しながら,患者さんから出来る限りのことを学びたいと思う

ベッドサイドに行くことが辛く感じるかもしれないが,できるだけベッドサイドに行き,患者さんの声に耳を傾けたい.患者さんに向かうことから逃げてはいけない

治すこと以外にも医師だからできることを患者さん一人一人について考えていきたい

3.研究
治せない病気には2つのアプローチ,ひとつは病態の解明,もうひとつは(病態を問わず)現状の改善を目指すことがあると思う

珍しい難病だけが研究のしがいがある領域なのではなく,どんな病気でも様々な視点からアプローチできるはず

患者さんに対して真剣に向き合うこと(それは世間一般に求められる「医師」というだけでなく,科学的・学問的な意味でも),そして様々な視点から病気を眺めることでなにか手
がかりがないか考えること,常に疑問をもつことを忘れずに行動したい

医師人生の中で,「研究」という形でも「苦しむ患者さんのために少しでも役に立ちたい」という想いを体現したいと思います

研究も行ってみたいです.少しでも前進することで,医療者自身にも希望が生まれれば,患者さんにも希望を与えることができると思います

4.目指すべきもの
患者さんの気持ちに寄り添いつつも,少しでも患者さんが「生きたい」と思ってくれるようなケアをしていきたい

人が立ち直るためには「3つのT」が必要と聞きました.Time, Talk, Tear.私はまず患者さんとじっくり時間をかけて気持ちの吐露を受け止め,治療に対し,そして人生に対し前向きでいられるようサポートしたい

自分から情熱を持って行動できるような人になりたい

患者さんに再びあったときに,その出会いが感謝できるような医師になりたい

自分がその患者さんを担当させていただいたことに感謝し,後悔のないように行動したい
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tPAによる血栓溶解療法の合併症-脳出血―を阻止するVEGF抑制療法

2011年04月09日 | 脳血管障害
 脳梗塞に対する血栓溶解薬「組織型プラスミノゲン・アクチベーター(tPA)」は世界初の根本的脳梗塞治療薬である.血管を閉塞する血栓の構成成分フィブリンを分解し,血栓を溶かし,血液の流れを再開させることができる.しかし,日本では発症から3時間までしかtPAによる血栓溶解療法は行うことはできず,脳梗塞患者全体の5%未満の人しかこの治療を受けることができない状況にある.

 もし3時間を超えた脳梗塞患者さんにtPAによる治療が行われると,症状の改善がないばかりか,一部の患者さんではむしろ予後が悪くなることもある.これは,血管の閉塞が一定時間を超えてしまうと血管を構成する細胞(内皮細胞や周皮細胞),そして血管を構成する蛋白質(細胞外マトリックス)にも障害が生じ,その結果,血管が破綻し,出血が生じるためである.もし脳出血を予防することができれば,3時間という短い治療可能時間を延長させ,さらにtPAによる血栓溶解療法の恩恵を受けることのできる患者さんを飛躍的に増やせる可能性がある.

 今回,tPA治療後の血管の障害を引き起こす悪玉蛋白の一つが,血管内皮細胞増殖因子(VEGF)であること,そしてこのVEGFを阻害することは,tPA治療後の脳出血を抑制し,治療可能時間を延長する可能性があることが報告された.

 方法としてはラットを用い,自家血血栓により中大脳動脈を閉塞するモデルが使用された.このモデルの利点は,実際にヒト脳梗塞に類似しており,ヒトの脳梗塞の病態を検討するのに適していると考えられることだ.事実,血栓による血管閉塞後,1時間ないし4時間後にt-PAを静脈注射すると,1時間投与では梗塞の縮小や麻痺の改善を認めるのに対し,4時間群では出血を合併し,むしろ予後が著しく悪化する.

 この動物モデルにおいて,血管閉塞前には脳におけるVEGFの発現を認めないが,tPA 4時間後投与群では,血管内皮細胞や周皮細胞,星状細胞にVEGFが高度に発現することがわかった.VEGFはその受容体を活性化し,さらにVEGFカスケードの下流に存在するマトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP9)の活性化を促し,血管を構成する蛋白質(細胞外マトリックス)を分解すること分かった.

 そしてVEGFを分子標的とした治療として,増加するVEGFを除去できる抗VEGF中和抗体を静脈注射した.虚血後のVEGF増加,MMP9活性化,細胞外マトリックスの分解はいずれも抑制され,脳出血も減少し,予後も改善した.VEGF受容体リン酸化阻害剤の腹腔内注射でも,抗体と比べると効果はマイルドであったが,同様の効果がみとめられた.

 以上より,治療可能時間を越えたtPA治療で合併しうる脳出血に対し,VEGF抑制療法は有効である可能性が示唆された.ヒトの脳梗塞治療に応用するためには,さらに多数例なる検討が必要であるが,脳梗塞に対する血管保護療法という新しいアプローチの可能性を示す論文である.

 J Cereb Blood Flow Metab. 2011 Feb 9. [Epub ahead of print]

この研究は下記のFacebookページに詳しく記載したのでぜひ覗いてみてください.
Facebookアドレスを持っている方は,ページの「いいね!」をクリックしていただけると嬉しいです.

新潟大学脳研究所神経内科 脳循環代謝チーム

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2011年2月のつぶやき

2011年04月08日 | 医学と医療
2011年2月のつぶやきのまとめです.

Scientists Discover New Genes Linked to Parkinson's Disease ここ
2月4日

Excellent Tolerability But Relatively Low Initial Clinical Efficacy of Telcagepant in Migraine ここ 
2月6日

ザッケローニ監督は素晴らしいな.http://bit.ly/hf0568 「ザッケローニの哲学」も読んでみたが,その生い立ちは分かるけど,哲学まで分かる本ではない.サッカーなら「オシムの言葉 」はおすすめ.
2月6日

外国人が日本(人)をどのように考えているか知るのが好きだ.最近読んだ本の中では「私は日本のここが好き!―外国人54人が語る(加藤 恭子編)」は日本を再確認し自信を持てる良い本. 加藤恭子先生といえば「言葉でたたかう技術」もすごい本だった.最近読んだ中でベスト.
2月6日

POEMS症侯群の神経伝導速度所見; 1.神経遠位部より神経幹中間部に比較的目立つ伝導速度遅延 2.下肢に強い軸索変性,3.伝導ブロック所見なし
2月6日

ブロムワレリル尿素を含むナロン錠の急性中毒:臭素イオンが中枢神経に毒性をもたらす.病歴聴取が重要だが,頻脈や紅斑様皮疹,胸腹単での薬塊(X線透過性が低い)も有用.悪心,嘔吐,傾眠,せん妄,錯乱,興奮,昏睡,痙攣,虚空抑制,呼吸停止.ナロンはアセトアミノフェンも含み肝障害も生じる.
2月6日

MSA-PにおけるジスキネジアもL-DOPAを使用している場合には,まずL-DOPA誘発性ジスキネジアを疑い,減量を行う.口部ジスキネジアを生じ,嚥下障害を増強させることあり.#Neurology
2月10日

Low Incidence of Asymptomatic Contrast-Enhancing Brain Lesions in Japanese Patients with Multiple sclertosis ここ
2月14日

Diet Soda May Heighten Risk for Vascular Events ここ
2月14日

Shorter Door-to-Needle Times Reduce Stroke Mortality ここ
2月14日

Excessive Daytime Sleepiness in Multiple System Atrophy (SLEEMSA Study) この研究だとパーキンソン病と同程度に日中の過眠症が見られるそうで,われわれの実感とは異なる. ここ
2月15日

Clinical and functional outcome and factors predicting prognosis osmotic demyelination syndrome (central pontine and/or extrapontine myelinolysis) in 25 patients ここ
2月16日

Critical illness myopathy is frequent: accompanying neuropathy protracts ICU discharge ここ
2月16日

パーキンソン病の日中の眠気(EDS)の原因;薬剤性,夜間頻尿,レストレスレッグス症侯群,周期性四肢運動症,REM睡眠運動異常症,睡眠時無呼吸,夜間運動合併症(ジストニア),幻覚 #Nuerology
2月17日

PARK6関連ARJP(PINK1)は,臨床的には①幅広い発症年齢,②緩徐進行性の経過,③発症時におけるdystoniaの欠如,④睡眠効果の欠如,が挙げられる.頻度としてはParkin>PINK1>DJ1 #Neurology
2月17日

Cigarette smoking may raise ALS risk. NO of cigarette smoke or chemicals in tobacco may cause direct damage to neurons. ここ
2月18日

Tardive dyskinesia and other movement disorders secondary to aripiprazole(エビリファイ) Movement Disorders ここ… #Neurology
2月19日

Who Can Drive After A Stroke? Tests Can Help Decide ここ
2月23日

Preladenant in patients with Parkinsons disease and motor fluctuations: a phase 2, double-blind, randomised trial thelancet.com/journals/laneu…
2月23日

TeNY.夕方ワイド新潟一番 2月25日(金)夕方3:50~  「もっと早めの対応を!!発症から3時間が重要 本当は知らない脳梗塞」(脳梗塞の宣伝をします.新潟ローカルの番組ですが・・・) #Neurology # Stroke
2月25日

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頭痛フォーラム2011@東京

2011年04月08日 | 頭痛や痛み
2月27日,東京で行われた「頭痛フォーラム2011」のときのtweetです.いずれも初めて聞いて印象に残ったことです.


片頭痛においてCentral sensitizationが起きると,圧痛点として触診できる.これが片頭痛圧痛点である.C3レベルの傍板状筋あたり.ストレッチ体操で軽減する.

片頭痛のウサギ型とカメ型:ウサギ型は立ち会がりやアロディニア出現が早い→アロディニア出現前に速攻性トリプタンを使用する.カメ型は立ち上がりがだらだら生じる→内服タイミングが分かりにくい.

片頭痛でのドンペリドン(ナウゼリン);吐き気を抑制して内服しやすくする.片頭痛時に低下する胃の蠕動を速めてトリプタンの吸収を促進する.

ストレスは頭痛の母.しかし「ストレスを避けろ」と指導するのはあまりに安易.「良いストレスは体に良いが,悪いストレスは心身に不健全(distress),悪いストレスを避ける」という指導が必要.

ストレスは頭痛の原因になるが,逆に片頭痛自体もストレスになる.この場合,medication overuse headache(MOH)に移行する可能性がある.これを防ぐためには頭痛に対する患者教育(コミュニケーション)が重要である.

OTC薬は合剤が多く,かつ成分もさまざま.バファリンといってもルナの主成分はアセチルサリチル酸でなくイブプロフェン.成分の理解が必要.一方,新発売されシェアを伸ばしているロキソニンSは単一成分.いずれにしてもヘビーユーザーがおり,MOHを来している可能性大きい.

Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome(RCVS);頭痛医の立場から,激しい頭痛でSAHがない場合,RCVSを否定する必要がある.脳卒中専門医師の立場からは雷鳴様頭痛がなくてもRCVSを検討する必要がある.

Crowned Dens Syndrome (CDS) :歯突起周囲(C1-2)の石灰化によって激しい頚部痛を生じる.その病態に偽痛風などの環軸関節炎が関与.高齢者女性に多い.突然発症.頸椎回旋困難.偽痛風発作歴.炎症反応必発(WBC増多なし).治療は消炎剤・ステロイド.

注;CDSについては画像も含め,このページが勉強になります.

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