何らかの基礎疾患に伴って発症するナルコレプシー(症候性ナルコレプシー)として,腫瘍や外傷に伴う症例が知られていたが,近年,脱髄性疾患においても過眠症を合併するという症例報告が散見されるようになった.本ブログにおいても,血清抗アクアポリン4(AQP4)抗体が陽性で,左右対称性の視床下部病変を呈した過眠症の症例報告を取り上げたが,今回,多発性硬化症やNMOに合併した症候性ナルコレプシー,および過眠症症例の臨床像の解析が報告された(秋田大,新潟大,東北大,スタンフォード大学等の共同研究).
対象は,多発性硬化症やNMOと臨床診断され,日中の過眠症(excessive daytime sleepiness; EDS)を呈した7症例である(既報例を含む).いずれも日本人で,6名が女性であった.MRI所見,髄液オレキシン(ヒポクレチン),および血清抗AQP4抗体の評価を行っている.
頭部MRIでは,全例に間脳・視床下部周辺の両側性・左右対称性病変を認めた(一度,見ると忘れない画像である).睡眠学的には,いずれも過眠症状を呈し,さらに7名中4名で,睡眠障害国際分類第2版(ICSD-2)のナルコレプシーの診断基準を満たしていた.ただ不思議なことにcataplexy(情動脱力発作を呈した症例はいなかった(いずれの症例も早期に治療をしたことがcataplexyの発症を阻止した可能性がある).REM異常については検索を行った2症例の両者にsleep-onset REMを認めた(ナルコレプシーの特徴的所見).
髄液オレキシンは著明低値が4名,中等度低値が3名であった.これら髄液オレキシン値は,免疫抑制療法後にいずれも正常化した.問題の抗AQP4抗体は,3名で陽性で,NMOと診断され,うち2名はナルコレプシーの診断基準を満たした.4名において抗AQP4抗体が陰性であった点は興味深いが,抗AQP4抗体以外にも同様の病態を引き起こす抗体が存在する可能性がある一方,測定時期や測定方法により偽陰性になった可能性も否定できない.
抗AQP4抗体が陽性であった症例では,間脳・視床下部と第四脳室周囲にはAQP4が高発現するため,この抗体を介した免疫学的機序による傷害が生じ,さらに同部位に存在するオレキシン(ヒポクレチン)ニューロンも二次的に傷害され,過眠症・ナルコレプシーを来した可能性が考えられた.本研究は,症候性ナルコレプシーの原因として脱髄性疾患を考慮すべきであることを示すとともに,早期に診断し,不可逆的な障害が生じる前に,ステロイドや免疫抑制療法によって治療介入することが重要であることを示している.
Arch Neurol 66; 1563-1566, 2009
対象は,多発性硬化症やNMOと臨床診断され,日中の過眠症(excessive daytime sleepiness; EDS)を呈した7症例である(既報例を含む).いずれも日本人で,6名が女性であった.MRI所見,髄液オレキシン(ヒポクレチン),および血清抗AQP4抗体の評価を行っている.
頭部MRIでは,全例に間脳・視床下部周辺の両側性・左右対称性病変を認めた(一度,見ると忘れない画像である).睡眠学的には,いずれも過眠症状を呈し,さらに7名中4名で,睡眠障害国際分類第2版(ICSD-2)のナルコレプシーの診断基準を満たしていた.ただ不思議なことにcataplexy(情動脱力発作を呈した症例はいなかった(いずれの症例も早期に治療をしたことがcataplexyの発症を阻止した可能性がある).REM異常については検索を行った2症例の両者にsleep-onset REMを認めた(ナルコレプシーの特徴的所見).
髄液オレキシンは著明低値が4名,中等度低値が3名であった.これら髄液オレキシン値は,免疫抑制療法後にいずれも正常化した.問題の抗AQP4抗体は,3名で陽性で,NMOと診断され,うち2名はナルコレプシーの診断基準を満たした.4名において抗AQP4抗体が陰性であった点は興味深いが,抗AQP4抗体以外にも同様の病態を引き起こす抗体が存在する可能性がある一方,測定時期や測定方法により偽陰性になった可能性も否定できない.
抗AQP4抗体が陽性であった症例では,間脳・視床下部と第四脳室周囲にはAQP4が高発現するため,この抗体を介した免疫学的機序による傷害が生じ,さらに同部位に存在するオレキシン(ヒポクレチン)ニューロンも二次的に傷害され,過眠症・ナルコレプシーを来した可能性が考えられた.本研究は,症候性ナルコレプシーの原因として脱髄性疾患を考慮すべきであることを示すとともに,早期に診断し,不可逆的な障害が生じる前に,ステロイドや免疫抑制療法によって治療介入することが重要であることを示している.
Arch Neurol 66; 1563-1566, 2009