Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(6月26日) 

2021年06月26日 | 医学と医療
今回のキーワードは,人が集まるイベントでは(たとえ誕生日であっても)感染者が増加する,感染6ヶ月後の評価で,Long COVIDによる症状の持続は自宅療養の若年者の52%に見られる,神経症状を認めなくても,全身の炎症は脳内に伝わり,神経変性疾患様の変化をもたらす,成人でも多系統炎症性症候群(MIS-A)が生じうる,SARS-CoV-2ウイルスにより抑制されるオートファジーを標的とする薬剤は,その増殖を抑える,イベルメクチンはCOVID-19 による死亡リスクを62%減少させる,です.

人の集まりでCOVID-19感染が増加する身近な例として,米国から誕生日が報告されました.人の集まりで感染が増加する別の事例として,6月11~13日にG7を行った英国コーンウォールにおける,デルタ株による新規感染者の激増が報道されています(図).英国全体でデルタ株頻度は90%まで増加し,ほぼ置き換わっていますが,ワクチン接種率が80%以上と高いため感染者は増えても死亡者数は増加していない状況のようです.しかしワクチン接種が進んでいない国に,感染率,重症化率とも高いと指摘されているデルタ株が流入すれば甚大な被害がもたらされる可能性が高いと考えられます.「デルタ株の国内流入を防ぐ」ことはオリンピックを安全安心に開催する条件であり,それができるかどうかが問われていると思います.



◆人が集まるイベントでは(たとえ誕生日であっても)感染者が増加する.
人が集まるイベントは,COVID-19感染者を増加させるかどうかを,分かりやすいように誕生日を例として検討した米国からの報告.調査対象となったのは290万世帯.感染状況によっても異なるため,感染状況を10段階に分類して検討した.最も感染状況が不良の地域において,2週間前に誕生日を迎えた世帯は,誕生日がなかった世帯と比較して感染者が31%増加していた.また子供の誕生日後に感染者数は1万人あたり15.8人増加したのに対し,大人の誕生日では5.8人の増加にとどまった(図1).→ 日本と比べて米国では子供の誕生日はまさに一大イベントである.パンデミック禍であっても子供のために行動変容ができていないことを意味している.
JAMA Intern Med. 2021 Jun 21.(doi.org/10.1001/jamainternmed.2021.2915)



◆感染6ヶ月後の評価で,Long COVIDによる症状の持続は自宅療養の若年者の52%に見られる.
ノルウェーでの第1波の際にCOVID-19に罹患したベルゲン地域の312名の患者(自宅隔離患者247名,入院患者65名)を対象として,前向きに長期追跡調査を行った.6ヵ月後の時点で,全患者の61%(189/312)が持続的な症状を呈していた.これらの症状は,初期症状の重症度,回復期の抗体価の上昇,既存の慢性肺疾患と関連していた.16~30歳の重症でない自宅療養の若年層の52%(32/61名)が6ヵ月後でも症状を呈しており,味覚・嗅覚障害(28%,17/61名),疲労感(21%,13/61名),呼吸困難(13%,8/61名),集中力低下(13%,8/61名),記憶障害(11%,7/61名)などの症状を認めた.15歳までの非入院小児も16名中2名(13%)が6か月時点で胃の違和感や味覚・嗅覚障害を呈していた.→ 軽症の若年患者でも,呼吸困難や認知障害が長期に渡って続くリスクがある.若年者でもワクチン接種などの感染対策は重要である.
Nat Med. June 23, 2021.(doi.org/10.1038/s41591-021-01433-3)

◆神経症状を認めなくても,全身の炎症は脳内に伝わり,神経変性疾患様の変化をもたらす.
米国スタンフォード大学からの研究.COVID-19患者8名と対照群14名の前頭葉皮質および脈絡叢から得られた65,309個の単一核トランスクリプトームを,シングルセルRNAシーケンサーを用いて比較した.まず脳内にSARS-CoV-2ウイルス感染を示す所見は認めなかった.しかし重症COVID-19で死亡した患者脳には,臨床的に神経症状を認めない場合でも,脳内の炎症に関わる分子マーカーの発現が顕著に認められた.脳外に存在する何らかの血中因子が,血液脳関門を介して脳内に炎症を引き起こすことが示唆された.また,COVID-19に関連したミクログリアやアストロサイトの遺伝子変化は,アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患で報告されているものと共通する所見であった(図2).さらにCOVID-19患者の大脳皮質の一番外層では,興奮性ニューロンによるシグナル伝達が抑制され,抑制性ニューロンによるシグナル伝達が亢進していた.このようなシグナル伝達の不均衡は,アルツハイマー病などの神経変性疾患と共通していた.またCOVID-19患者脳では通常,健常者では認めないT細胞が有意に増加していた.以上より,SARS-CoV-2ウイルス感染は全身の炎症反応を引き起こし,それが脈絡叢細胞を介して血液脳関門を越えた炎症シグナルをもたらし,脳内の神経炎症や神経変性疾患類似の変化をもたらす可能性がある.COVID-19患者の多くが,脳霧や認知機能障害などの神経系症状を訴えるメカニズムを説明できるかもしれない.
Nature. June 21, 2021.(doi.org/10.1038/s41586-021-03710-0)



◆成人でも多系統炎症性症候群(MIS-A)が生じうる.
小児 COVID-19 関連多系統炎症性症候群(MIS-C)は,主にSARS-CoV-2に感染した子供や青年に見られる,珍しいが重篤な合併症である.川崎病の主要症状(発熱,発疹,眼球結膜充血,口唇口腔所見,四肢末端の腫脹,頸部リンパ節腫脹)を認める.新しい疾患概念であり,診断が難しく治療法は定まっていないが,病態は多系統にわたり集学的な医療が必要となる.カナダからMIS-Cの診断基準を満たす成人の多臓器炎症症候群(MIS-A;multisystem inflammatory syndrome in adults)60歳男性例が報告された.感染からの回復後(4週後),5日間の息切れ,極度の疲労感,食欲不振,発熱を呈して救急外来を受診した.結膜炎,舌の紅斑・腫脹,足趾の紅斑(図3)や多臓器病変が認められ,MIS-Aと考えられた.アスピリン,ステロイド,免疫グロブリン静注を行ったところ,開始24時間以内に症状の改善がみられ,入院5日目に退院した.過去にも米国疾病管理センター(CDC)はMIS-Aの27名を報告している.
CMAJ June 21, 2021 193 (25) E956-E961(doi.org/10.1503/cmaj.210232)



◆SARS-CoV-2ウイルスにより抑制されるオートファジーを標的とする薬剤は,その増殖を抑える.
「オートファジー」は,細胞が自らの一部を分解する作用(自食作用)のことである.細胞内物質の処理やリサイクルなどにも役立っている.ドイツからの研究で,SARS-CoV-2ウイルス感染は細胞のオートファジーを抑制し,その結果,過剰な炎症反応や自己免疫反応が引き起こされる可能性が報告された.そして複合的な方法でオートファジーを誘導すると,ウイルスの伝播を抑制できることを示した.具体的には,SARS-CoV-2感染細胞ではAKT1のようなオートファジー阻害因子の活性化が生じていること,ならびにオートファジーの開始に関わるタンパク質,膜核形成,隔離膜形成に関わるタンパク質,オートファゴソームとリソソームの融合に関わるタンパク質が減少していることが示された.この結果,隔離膜に取り込まれたオートファジーマーカーであるLC3B-IIとP62が蓄積することが,ハムスターモデルとCOVID-19患者の肺サンプルで確認された.一方,ポリアミンのスペルミジンとスペルミン,選択的なAKT1阻害剤MK-2206,BECN1を安定化剤ニクロサミドは,ウイルス増殖をin vitroで阻害した.つまりオートファジー誘導化合物は治療薬となる可能性があり,とくに駆虫薬であるニクロサミドは有望で,臨床試験がすでに開始されている.
Nat Commun 12, 3818 (2021).(doi.org/10.1038/s41467-021-24007-w)

◆イベルメクチンはCOVID-19 による死亡リスクを62%減少させる.
イベルメクチンのCOVID-19に対する有効性をメタ解析により評価した論文が報告された.死亡率の低下,副次的なアウトカム等について評価した.3406名の参加者を対象とした24の無作為化比較試験がレビューの対象となった.最終的に15試験のメタ解析により,イベルメクチン群は,非使用群と比較して,死亡リスクを62%低下させた!(平均リスク比0.38,95%信頼区間0.19-0.73,n=2438,I2=49%,確実性が中程度のエビデンス;図4).イベルメクチンの予防投与により,COVID-19感染が平均86%(95%信頼区間79%~91%)減少した(確実性が低いエビデンス).副次評価項目では「人工呼吸の必要性」についてはイベルメクチンの有益性がない可能性が示唆された(確実性が低いエビデンス).重篤な有害事象はまれであり,コストも安価なことから,イベルメクチンはCOVID-19の治療を大きく変える可能性がある.
Am J Ther. June 17, 2021(doi.org/10.1097/MJT.0000000000001402)





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神経筋疾患で筋萎縮が著明な患者では,COVID-19ワクチンをどのように接種しますか?

2021年06月25日 | 医学と医療
日本神経学会は「COVID-19ワクチンに関する日本神経学会の見解」を第3版に改訂しました.今回の改訂は学会員より寄せられた標題のご質問に対し,日本神経学会筋疾患セクションメンバー(砂田芳秀チーフ)および担当理事(下畑,西山和利先生)が中心となり議論し,回答を追加したものです.以下にご紹介いたしますが,第3版の全文は下記リンクからダウンロードできますのでご活用いただければ幸いです.

COVID-19ワクチンに関する日本神経学会の見解

Q. 神経筋疾患で筋萎縮が著明な患者では,COVID-19ワクチンをどのように接種しますか?

A.COVID-19ワクチンの適正投与法は筋肉内注射(筋注)とされています.一般的にワクチンの皮下注射は,皮下脂肪層の血管が貧弱で抗原の動員や処理に時間を要するため,筋注に比べて有効性が低く,副反応の発現も多いと言われています1).COVID-19ワクチンでも肥満により皮下注射となった症例で,副反応が強く生じた症例が報告されています2).また,これまでの治験は筋注で実施されており,皮下注射でのエビデンスはありません.このことから,神経筋疾患患者さんにおいてもCOVID-19ワクチンの接種は筋注を原則とすべきです.重症神経筋疾患患者さんでは筋萎縮が著明で,筋注の実施可能性について懸念される方も多いと思います.しかし,筋線維が著明に萎縮・減少していても一定のボリュームを保っていることが多く(図1),ほとんどの患者さんでは筋注が実施可能です.萎縮筋でも血管組織は保たれていることから(図2,3),皮下注射に比べれば安全性・有効性は高いと思われます.このため,国内外の学会や患者会の推奨において,筋萎縮を理由にワクチン接種を勧めないとするものは,渉猟した限り認められません.
一般的に,筋注は小児では大腿前外側部,成人では三角筋外側中央部で行われています.これらの部位のるいそうが高度で接種不能な場合は,全身のどの筋肉でも良いので接種できる筋肉を探します.ただし,普段筋注を行わない筋肉においては,血管や神経の走行に注意が必要です.また高度に萎縮した筋肉の場合,拘縮にも注意が必要になるため,エコーでの検索を行った上で接種することを勧めます.
万一,エコーでも筋肉がまったく同定できない場合,ワクチン接種を受ける機会を維持するための選択肢として皮下注が考えられます(ただし適用外使用です).この場合,通常よりも効果が得にくく,副反応が強く出る可能性があること,エビデンスが無いことについて,患者さん・ご家族にこれらの情報をお伝えし,よく議論した上で,shared decision makingを行うことになります.
また上述の通り,重症神経筋疾患患者さんに対するワクチンの有効性についてはエビデンスが存在しませんので,ワクチン接種後の抗体価および安全性を評価する臨床研究が望まれます.

文献
1. Zuckerman JN. The importance of injecting vaccines into muscle. Br Med J 2000;321: 1237–1238.
2. Gyldenløve M et al. Recurrent injection-site reactions after incorrect subcutaneous administration of a COVID-19 vaccine. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2021 May 12. doi: 10.1111/jdv.17341






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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(6月19日)  

2021年06月19日 | 医学と医療
今回のキーワードは,インド株は英国株の2倍の入院リスク,変異株に対するワクチンの有効性の低下,アストラゼネカ社ワクチン後の両側顔面神経麻痺,ワクチン後のFDG-PET検査ではVirchow転移と誤判定しない,COVID-19の後遺症としてのPRESに伴う視覚障害,COVID-19に伴う自己免疫性脳炎における前障サイン(Clastrum sign),COVID-19は2次性タウオパチーによる認知症を引き起こす?です.

ワクチン接種によって5月には1日1600人程度まで感染者数が減少した英国でも,最近では11000人を超えるほど増加しています(図1;worldmeterより).これはインド株(デルタ株)が原因と考えられています.インド株はワクチン接種後もブレークスルー感染し,かつ次に紹介するスコットランドからの論文で,強い感染力のみならず英国株の2倍の入院リスクがあることが示されました.すでに多くの人が指摘するようにワクチン接種もままならない日本にとってインド株の拡散はこれまでにない脅威となる可能性が高いと思います.有観客で行うという科学リテラシーを欠くギャンブルのようなオリンピックは感染拡大をもたらし,多くの人命を奪うだろうと思います.どうしてかくも科学を軽視する政治が行われるのでしょうか.



◆インド株は英国株の2倍の入院リスク.
スコットランドにおけるインド株(デルタ株)感染は,主に若い群に見られることがわかった.COVID-19による入院のリスクは,インド株は英国株(アルファ株)の約2倍(ハザード比1.85)で,合併症を有する場合高くなった.アストラゼネカおよびファイザーワクチンは,インド株の感染と入院リスクの低減に有効であったが,これらの効果は,英国株の場合と比較して低下しているようであった.またインド株に対する感染予防効果は,アストラゼネカワクチンは,ファイザーワクチンと比べ低いようである.
Lancet. June 14, 2021(doi.org/10.1016/S0140-6736(21)01358-1)

◆変異株に対するワクチン効果の減弱.
ファイザーワクチンはSARS-CoV-2に対して非常に有効である.しかし実験レベルで,ワクチン血清による英国株(B.1.1.7;アルファ株)および南アフリカ株(B.1.351;ベータ株)への中和能の低下が指摘されていることから,変異株がワクチンによる防御を回避するのではないかとの懸念がある.このためイスラエルにて,ファイザーワクチン接種者で感染したケースの変異株について,ウイルスゲノム配列を用いて調べる検討が行われた.著者らは,変異株に対するワクチンの効果が低下した場合,その変異株の割合がワクチン未接種の対照群よりも高くなるという仮説を立てた.鼻咽頭ぬぐい液から採取した813個のウイルスゲノム配列を解析した結果,2回目の接種から少なくとも7日後に陽性となったワクチン接種者(dose 2)は,対照者に比べて南アフリカ株に偏って感染していた.また,1回目の接種から2週間後から2回目の接種から6日後までの間に陽性反応が出た人(dose 1)は,英国株に偏って感染していた(図2).以上の結果から,特定の時期において両変異株に対するワクチンの効果の減弱が示唆された.変異株の拡散を防ぐために,ウイルス変異の厳密な追跡が重要となる.
Nat Med. Jun 14, 2021(doi: 10.1038/s41591-021-01413-7)



◆アストラゼネカワクチン後の両側顔面神経麻痺.
英国からアストラゼネカワクチンの接種後3週間以内にギランバレー症候群(GBS)の亜型である両側顔面神経麻痺(異常感覚を伴う)が4例発生したことが報告された.このまれな病型は,これまでもCOVID-19感染後合併症として報告されていた.これらの症例は,免疫グロブリン静注療法,ステロイド内服,または無治療のいずれかで対処されていた.因果関係は不明であるものの,ワクチン接種後の両側顔面神経麻痺に注意を払う必要があり,サーベイランスプログラムにて因果関係を明らかにする必要がある.
Ann Neurol. June 10, 2021(doi.org/10.1002/ana.26144)

またインドからも同様の報告がなされた.インド・ケララ州の3地区で約150万人がワクチン接種を受け,うち80%以上(120万人)がアストラゼネカワクチンであった.この集団において,2021年3月中旬~4月中旬の4週間に,初回接種から2週間以内にギランバレー症候群が7例認められた.この頻度は,予想される頻度よりも1.4~10倍高かった.また全例,重症かつ両側顔面神経麻痺を認めた(通常,両側顔面神経麻痺の頻度はギランバレー症候群の20%未満).ワクチン接種のメリットは,このまれな合併症(100万人あたり5.8人)のリスクを大幅に上回るものの,患者7人のうち6人が四肢麻痺を呈し,人工呼吸器を要したことから,臨床医はこの有害事象に注意を払う必要がある.
Ann Neurol. June 10, 2021(doi.org/10.1002/ana.26143)

◆ワクチン後のFDG-PET検査ではVirchow転移と誤判定しない.
フランスからの報告.手術と化学療法で初期治療を受けた高分化型虫垂腺癌の64歳女性.18F-FDG PET/CTを行ったところ,左腋窩リンパ節から左鎖骨上までに強い代謝亢進が検出された(図3).患者は検査の4日前に,ファイザーワクチンの初回投与を左肩に筋注されていた.Virchow転移の可能性を除外するためリンパ節生検が行われたが,腫瘍細胞はなく,活性化したリンパ細胞が認められた.すなわち,FDG-PET検査時にはワクチン接種歴を確認し,偽陽性を回避する必要がある.また乳がんやメラノーマのような固形腫瘍の患者では,誤判定を防ぐために,ワクチン接種は対側の腕で行うべきである.もしくはワクチン接種とFDG PET検査の間には十分な間隔を設けることが望ましい.
European J Hybrid Imaging 5, 11 (2021)(doi.org/10.1186/s41824-021-00105-2)



◆COVID-19の後遺症としてのPRESに伴う視覚障害.
SARS-CoV-2ウイルスは,感染や炎症によって脳血管内皮障害を引き起こし,posterior reversible encephalopathy syndrome(PRES)を来すことが報告されている.自験例3例と既報例を合わせた症例集積研究が米国から報告された.3名の患者はいずれも重症のCOVID-19で入院し,新規発症けいれん発作を伴う精神状態の変調が生じ,画像診断でPRESと診断された.回復期には,2名の患者が視野欠損を含む持続的な視覚機能障害を呈した(図4).また1名は,視覚保続(対象物が除去された後,それと同じ程度に鮮明に象が再び視野の中に出現する現象;palinopsia)と幻視を呈した.文献検索により,COVID-19関連PRESの32症例が特定された.視覚障害は14例(40%)に認められ,論文記載時に完全に回復したのは7例(50%)であった.以上,PRESによる視覚障害は後遺症となりうることが示された.
Eur J Neurol. June 11, 2021(doi.org/10.1111/ene.14965)



◆COVID-19に伴う自己免疫性脳炎における前障サイン(Clastrum sign).
ドイツから,COVID-19重症例で,これまでに報告のないMRI所見を呈した傍感染性自己免疫性脳炎の54歳男性が報告された.呼吸器症状にて発症し,3日目に見当識障害,昏睡を呈した.4日目に人工呼吸器管理となったが,8日後に抜管.しかし集中力の低下や錯乱状態は持続した.頭部 MRIで(図5)では前障(Claustrum)に信号変化を認め,拡散が低下していた.髄液は軽度のリンパ球増多が認められた.Gausらが提案した自己免疫性脳炎の診断基準も満たしていた.軽度の認知障害のみで回復し,退院した.この画像所見は自己免疫脳炎が機序として推定される治療抵抗性てんかん重積状態New onset refractory status epilepsy (NORSE) でも認められる.
J Neurol 268, 2031–2034 (2021)(doi.org/10.1007/s00415-020-10185-y)



◆COVID-19は2次性タウオパチーによる認知症を引き起こす?
COVID-19の神経学的後遺症に関する大規模コホート研究によると,患者の約34%が感染後6カ月以内に精神科または神経内科の診断を受けていた(JAMA Neurol 2020;77:1018).これに関連して,一部の患者ではウイルス感染後に慢性的な神経炎症が生じ,タウの凝集と神経変性が生じる可能性があるという仮説がLancet Neurol 誌の報告された.
タウオパチーは,神経細胞やグリア細胞に,不溶性のタウが凝集・沈着して発症する.タウ自体が疾患の原因である一次性のものと,他の病態の下流でタウが凝集する二次性のもの(細胞アミロイドβ蓄積や反復性頭部外傷など)に分類される.つまり,SARS-CoV-2ウイルス感染時に引き起こされたNLRP3インフラマソームの活性化が,下流のタウ凝集と神経変性を引き起こす可能性がある.
タウに異常が生じる機序は2つの可能性が挙げられている.1つ目はSARS-CoV-2ウイルスが,直接,神経細胞内に侵入し,NLRP3インフラマソームを活性化し,タウの異常局在を誘発するというもの.2つ目は感染後の,全身性の炎症反応により放出されたサイトカインがグリア細胞を活性化するというものである.具体的にはIL-18やIL-1βなどのサイトカインが上昇し,NLRP3インフラマソームの活性化につながる可能性が指摘されている.著者らはCOVID-19生存者の神経機能障害の追跡調査を,特に急性または亜急性の神経症状をきたした人を対象として,少なくとも10年間継続すべきと述べている.とくに若い人(すなわち,30~40歳の人)に焦点を当てて検討する必要性を強調している.
Lancet Neurol. July, 2021(doi.org/10.1016/S1474-4422(21)00168-X)

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(6月12日)  

2021年06月12日 | 医学と医療
今回のキーワードは,空港におけるワクチン接種後のブレイクスルー感染の頻度,ワクチン接種後の若年男性における急性心筋炎・心膜炎,長期の嗅覚障害はウイルスの持続感染が原因,筋・末梢神経障害はサイトカインが原因,重症筋無力症患者における予後不良因子,COVID-19急性脊髄炎のシステマティックレビューです.

ファイザーおよびモデルナ社ワクチンは2回接種し,2週間経過すると抗体が十分産生される状態(full-vaccinated;完全ワクチン接種状態)になります.しかしそれでも変異株では感染が生じうることが報告され,「ブレイクスルー感染」と呼ばれています.問題は「どの程度の頻度で生じるか?」です.中東のカタールのハマド国際空港でこの検討がなされ,完全ワクチン接種状態の1万92名中83名がPCR陽性でした(0.82%!).オリンピックでは海外からの入国者数は当初の予定から減っても9万4000人と報道されています.もし全員完全ワクチン状態だとしても773人がPCR陽性となる計算です(もしワクチン接種も過去の感染も無ければ3.74%→3516人).もちろん単純計算はできませんが(偽陰性や変異株の種類の影響,対象の相違など),変異株の水際対策を失敗し,国内流入をまったく防げなかったことを考えると,二次感染や医療への大きな影響が危惧されます.

◆ワクチン接種後のブレイクスルー感染は生じるため,入国者の空港でのPCR検査は不可欠.
ファイザーおよびモデルナ社ワクチン接種が進んだカタールでは(100人あたりの接種回数92.89回;日本13.64回),到着の14日前までに2回目のワクチン接種を受けた乗客の検疫義務を免除することで渡航制限を緩和した.ただしハマド国際空港に到着した際,全乗客に対するPCR検査は継続して実施した.今回,乗客におけるPCR検査陽性率(2021年2月18日~4月26日)が報告された.2回のワクチン接種後2週間経過している3万1190人と,ワクチン接種歴も過去の感染もない21万5901人のうち,性別,年齢,国籍等をマッチさせた1万92人を比較すると,PCR陽性率はそれぞれ0.82%(!)と3.74%であった.ワクチン接種者のPCR陽性の相対リスクは,ワクチン接種歴・感染歴がない人と比較して0.22(95%CI,0.17-0.28)であった.PCR陽性の72検体の塩基配列は,B.1.351(β南アフリカ株;44.4%),B.1.1.7(α英国株;27.8%),B.1.617(δインド株;11.1%),および野生型(16.7%)であった.以上より,ワクチン接種と自然免疫による感染防御はともに完全とは言えず,到着した旅行者に対するPCR検査は継続する必要がある.
→ オリンピックで入国する外国人でワクチン接種が2度終了していても,1%弱の感染者がいると想定し対応する必要がある.
JAMA. June 9, 2021.(doi.org/10.1001/jama.2021.9970)

◆mRNAワクチン接種後の若年男性における急性心筋炎・心膜炎.
オランダからの報告.ファイザー社のCOVID-19ワクチンの2回目の接種後,4日以内に胸痛を呈した健康な若年男性の急性心筋炎または心膜炎の7名(14~19歳;全例男性)が報告された.うち5名は来院時に発熱していた.鼻咽頭ぬぐい液を用いたPCR検査は陰性であったことから,急性COVID-19は否定された.またMIS-C(multi-system inflammatory syndrome in children)の基準を満たした者はいなかった.7名のうち6名はSARS-CoV-2ヌクレオカプシド抗体が陰性であり,過去の感染も否定された.全例でトロポニンが上昇していた.心臓MRIでは,心筋炎に特徴的な後期ガドリニウム増強が認められた.7名はいずれも症状が速やかに回復した.3名の患者はNSAIDsのみで治療し,4名は免疫グロブリン静注療法(IVIG)とコルチコステロイドが使用された.ワクチン接種と心筋炎との因果関係は確立されていない.引き続きモニタリングを行い,このような事例があれば米国食品医薬品局(FDA)のワクチン有害事象報告システム(VAERS)に報告することが強く推奨される.
Pediatrics. Jun 4, 2021:e2021052478.(doi.org/10.1542/peds.2021-052478)

もうひとつ,イスラエルからもファイザー社ワクチン接種後の若年男性6名の心筋炎が報告されている.うち5名は2回目の接種後,1名は1回目の接種後に発症した.全員男性で,年齢の中央値は23歳であった.臨床経過は6人全員が軽度であった.心電図異常として,特徴的なびまん性PR部位低下とST上昇等が見られた(図1).
Vaccine. 2021 May 28:S0264-410X(21)00682-4.(doi.org/10.1016/j.vaccine.2021.05.087)
→ 重症化例はないため,モニタリングしながらワクチン接種は継続するという方針となるが,副反応として心筋炎が生じうることを周知する必要がある.



◆長期にわたる嗅覚障害は,ウイルス感染の持続により生じる.
フランスからの報告.COVID-19では,軽症において嗅覚・味覚障害が見られるが,その病態生理は不明である.急性の嗅覚障害を呈したCOVID-19患者7名について検討を行ったところ,嗅覚神経上皮がSARS-CoV2ウイルスの主要な感染部位であり,さらに嗅覚神経細胞,支持細胞,免疫細胞などの複数の細胞が感染していた.また嗅覚神経上皮におけるSARS-CoV-2の複製は,局所的な炎症と関連していた.さらに,SARS-CoV-2ウイルスがゴールデン・シリアン・ハムスターに,逆行性侵入(retrograde invasion;図2)により急性嗅覚障害と味覚障害を引き起こし,ウイルスが嗅上皮と嗅球に残存する限り持続,再発することが示された.最後にCOVID-19による嗅覚障害が数カ月間にわたって持続している患者の嗅覚粘膜を鼻腔ブラッシングにより採取したところ,(通常のPCR検査で鼻咽頭ぬぐい液からウイルスRNAが検出されなくても)ウイルス転写産物やウイルス感染細胞が存在し,炎症も持続していた.以上より,嗅覚神経上皮におけるSARS-CoV-2ウイルスの感染持続とそれに伴う炎症が,嗅覚・味覚症状の長期化や再発の原因と考えられた.
Science Transl Med. Jun 02, 2021(doi.org/10.1126/scitranslmed.abf8396)
図は以下より引用(https://bit.ly/3gpISRF)



◆COVID-19の筋,末梢神経障害はウイルスの直接感染ではなくサイトカイン放出に伴うもの.
COVID-19感染後に死亡した35名の患者の大腰筋と大腿神経を試料として,これらの組織へのウイルスの直接侵入(感染)を評価した研究が米国から報告された.対照群はCOVID-19陰性の10名とした. 感染者群では4名に神経筋症状が見られた.CK値は74%で上昇していました(平均959 U/L,29~8413 U/L).筋は32名に,タイプ2線維に限局した筋萎縮(type 2 atrophy),9名に壊死性ミオパチー,7名に筋炎が認められた.神経炎は9名に認められた.MHC-1の発現は,壊死性ミオパチーと筋炎の全例と,さらに8名に認められた.1 型インターフェロンによって誘導されて発現するミクソウイルス抵抗性タンパク質A(MxA)が,筋肉では9名,神経では7名の毛細血管で認められた(図3).一方,SARS-CoV-2ウイルスの免疫染色は,すべての筋肉と神経で陰性であった.10名の対照では,筋では全患者に2型萎縮,1名に壊死性ミオパチー,3名に非壊死性/非再生性線維でのMHC-1発現,2名に毛細血管でのMxA発現,1名に炎症細胞が認められ,神経では炎症細胞もMxA発現も認めなかった.以上より,大腰筋と大腿神経の障害はSARS-CoV-2ウイルスの直接侵入による障害ではなく,サイトカインの放出に関連すると思われる炎症,具体的にはウイルス感染で誘導される抗ウイルス系サイトカインであるI型インターフェロンを介するものと推測された.
Neurology. June 7, 2021(doi.org/10.1212/WNL.0000000000012344)



大腰筋の組織学的所見
血管周囲および筋層内の炎症(A),CD4(B),CD8(C),CD20(D),CD68(E)陽性の細胞浸潤,および壊死繊維が認められる(F).SARS-CoV-2の免疫染色は,全患者において陰性(G).ポジコン(H).MHC-1は,(I)びまん性,(J)血管周囲などさまざまな染色パターンが認められる.MxAは壊死繊維(K)や毛細血管壁で染色される(L).

◆重症筋無力症患者における予後不良因子.
重症筋無力症(MG)患者は,呼吸器の筋力低下,高齢,免疫抑制剤投与などにより,COVID-19感染で重篤化する可能性がある.チェコ共和国より,MG患者93名を対象として,COVID-19の重症度を予測する因子を検討した研究が報告された.35名(38%)が重度肺炎を呈し,10名(11%)が死亡した.COVID-19前に検査した強制肺活量(FVC)値が低いこと,コントロールが不良であること(QMGスコアによる),コルチコステロイドの長期慢性投与,およびリツキシマブ治療等は生命予後が不良であった(図4).アザチオプリン,ミコフェノール酸モフェチル,シクロスポリンは,予後に影響はなかった.感染中のMGの増悪は比較的まれであった(15%).
Eur J Neurol. June 03, 2021(doi.org/10.1111/ene.14951)



◆COVID-19に伴う急性脊髄炎のシステマティックレビュー.
COVID-19に伴う急性脊髄炎20名のシステマティックレビューが報告された. 男性がやや多く(60.0%),年齢の中央値は56歳であった.神経症状はCOVID-19の症状(主に呼吸器症状)が初めて認められてから平均10.3日後に出現した.COVID-19の重症度は比較的軽かった.髄液PCR検査は,施行した14名全例で陰性であった.髄液所見は,77.8%で炎症を示唆する所見を認めた.血清中AQP4およびMOG抗体は陰性であった(それぞれ10名と9名で検査).MRIでは脊髄病変は平均9.8椎体分節に及び,3名に壊死性・出血性変化が見られ,2名に急性運動軸索ニューロパチーの合併がみられた.患者の半数以上が免疫療法のセカンドライン治療を受けた.数週間の観察期間中に,90%の患者が部分的またはほぼ完全に回復した.
Eur J Neurol. June 01, 2021(doi.org/10.1111/ene.14952)


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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(6月5日)  

2021年06月05日 | 医学と医療
今回のキーワードは,12~15歳に対してもファイザー・ワクチンは極めて有効,アビガン®は症状が出てからでは手遅れ,花粉への曝露は感染率を増加させる,Brain fog(脳の霧)の原因は脳の持続炎症?ワクチン接種率向上の障壁としてのアパシー,介護・福祉施設クラスターに対する抗ウイルス抗体(バムラニビマブ)療法の効果,です.

ほとんどの子供は感染しても軽症で済みますが,一部,予後不良の転帰を取ります.とくに基礎疾患のある子供は重篤な影響を受けやすいですが,健康な子供でも重症となる可能性があります.また子供から感染拡大する可能性もあります.今回,ファイザー・ワクチンが,12歳以上の子供に有効であることが報告されました.副反応も1~2日程度の軽度なもので,アセトアミノフェンで対処可能でした.子供も2回目の接種から2週間後に完全に接種されたとみなされます(図1).COVID-19ワクチンは,他のワクチンと一緒に接種することができます.また生後6ヶ月の子供を対象とした研究も進行中です(JAMA Pediatr. June 4, 2021.(doi.org/10.1001/jamapediatrics.2021.1974)).



◆12~15歳に対してもファイザー・ワクチンは極めて有効.
最近まで,COPVID-19ワクチンは,16歳未満の若年者への使用が認められていなかった.これらの人々を保護し,集団免疫に貢献するために,12~15歳を対象とした検討がなされた.参加者を1対1の割合で無作為に割り付け,ファイザー・ワクチン30μgまたは偽薬を21日間隔で2回接種した.12~15歳における免疫反応が,16~25歳における免疫反応と比較して非劣性であることを示すことを目的とした.12~15歳の若年者1131人が実薬,1129人が偽薬を接種された.安全性については,主に一過性の軽度~中等度の副反応(注射部位の痛み(79~86%),疲労感(60~66%),頭痛(55~65%))が見られたが,全体として重篤な有害事象は少なかった.12~15 歳の16~25 歳に対する接種2 回目の50%中和力価の幾何平均比は 1.76(95%信頼区間,1.47~2.10)であり,非劣性基準を満たしており,12~15 歳でより大きな効果が得られた.また2回接種から7日以上経過した場合,実薬群では感染者0例であったのに対し,偽薬群では 16 例で,ワクチンの有効性は100%(95%CI,75.3~100)であった.以上より,12~15 歳を対象とした場合,ファイザー・ワクチンは良好な安全性を示し,かつ16~25歳の若年成人よりも強い免疫反応を示し,感染に対して高い有効性を示した.
New Engl J Med. May 27, 2021(doi.org/10.1056/NEJMoa2107456)

◆アビガン®の有効性に関するメタ解析 ―症状が出てから使用しても手遅れ―
メタ解析により,COVID-19に対するファビピラビル(アビガン®)の有効性と安全性を調査した研究が報告された.最終的に9件の研究がメタ解析に含まれた.この結果,入院後7日間において,アビガン®群は対照群に比べて臨床的に有意な改善が認められた(RR = 1.24, 95% CI: 1.09-1.41; P = 0.001).アビガン®群は対照群に比べて入院後14日目にウイルス除去率が高かったが,統計学的には有意でなかった(RR = 1.11, 95% CI: 0.98-1.25; P = 0.094;図2).補助的酸素療法は,アビガン®群が対照群より7%少なかったが有意ではなかった(RR = 0.93, 95% CI: 0.67-1.28; P = 0.664).ICUへの転入や有害事象も差はなかった.アビガン®群の死亡率は対照群に比べて約30%低かったが,ばらつきが大きく統計的に有意ではなかった.結論として,アビガン®は,軽度から中等度のCOVID-19患者に対し,有意な効果を発揮しなかった.症状が出てからアビガン®を使用するのでは手遅れであり,このことが臨床現場での有効性の低さを説明していると考えるべきである.
Sci Rep 11, 11022 (2021). May 36, 2021(doi.org/10.1038/s41598-021-90551-6)



◆花粉への曝露は感染率を増加させる.
花粉への曝露は,抗ウイルス性のインターフェロン反応を低下させることにより,特定の季節性呼吸器ウイルス感染症に対する防御力を弱めることが知られている.ドイツからの研究で,花粉の飛散量が多い時期に感染波が重なった場合,COVID-19でも同じことが当てはまるかを調べた.仮説を検証するため,感染者,花粉,気象要因を31カ国130の観測所から入手した.この結果,空気中の花粉は,湿度や温度との相乗効果で,感染率の変動の平均44%を説明できることが分かった.感染率は,前4日間で花粉の濃度が高くなった後,最も頻繁に上昇した.ロックダウンを行わない場合,花粉量が100個/m3増加すると,感染率は平均4%増加した(図3).以上より,花粉とウイルス感染への影響について周知すること,また春の花粉飛散量が多い時期にはフィルターマスクの着用を促すことを提案している.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2021 Mar 23;118(12):e2019034118. (doi.org/10.1073/pnas.2019034118)



◆Brain fog(脳の霧)の原因は脳の持続炎症?
Long COVIDはCOVID-19の後遺症であり,認知障害やBrain fog(脳の霧),慢性疲労症候群などを呈する.今回,これらの病態において,ミトコンドリア,ミクログリア,および持続的な神経炎症が関与するという仮説が提唱された.まずウイルスによるミトコンドリアの標的化は,進化的に保存された適応プロセスであるとし,SARS-CoV-2のRNAやタンパク質成分が細胞内ミトコンドリアを「ハイジャック」すると述べている.また脳のミクログリアを標的としたウイルスエピトープと相互に反応する循環Tリンパ球およびBリンパ球の集団が,慢性的に活性化されることで,中枢神経における持続的な炎症をもたらすのではないかと既報を引用しながら議論している.さらにSARS-CoV-2に対するワクチンの接種により,long COVIDの発生率が低下する可能性があると述べている.あくまで仮説であるが,ワクチンの接種でLong COVIDの発生率や重症度がどうなるのか注目したい.
Med Sci Monit. 2021 May 10;27:e933015.(doi.org/10.12659/MSM.933015)

◆ワクチン接種率向上の障壁はすべて「躊躇」ではなく「アパシー(無関心)」である.
米国からの報告.現在ワクチンを接種していない,あるいはできるだけ早く接種する予定がないと報告されている米国人口の39%の人々の多くは,「躊躇」ではなく「無関心(アパシー)」が重要である可能性がある.アパシーは,反ワクチンと同義ではない.アパシーは,ワクチン接種を検討する時間が少ないことを特徴とする無関心であり,「躊躇」している人と比べて検討を行っていない.例えば若い人の中には,いずれ通常の状態に戻るという認識を持っているため,ワクチン接種は優先度の低い作業だと認識しているかもしれない.また中年のワーキングプアの人々は,食糧不安や家族の責任など,他の優先度の高いストレス要因に圧倒されているかもしれない.重要なのは「躊躇」と「アパシー」では効果的な説得の戦略が大きく異なることである.後者では論理的または事実に基づいた強い主張による説得力の効果が乏しい.むしろ素早く,キャッチーで,感情的なアピールが有効である.また「情報源は誰か」が重要で,Anthony Fauci博士のようなトップの専門家ではなく,憧れの有名人やスポーツ選手などが挙げられる.ワクチンキャンペーンを立案する際に,これら2つの集団を同時に考慮する必要がある.
JAMA. June 2, 2021(doi.org/10.1001/jama.2021.7707)

◆介護付き有料老人ホームにおいて,バムラニビマブの単剤投与は感染発生率を低下させた.
介護・福祉施設でCOVID-19が発生した場合,その施設の入居者やスタッフをCOVID-19から守るための予防的介入が必要とある.SARS-CoV-2に対する中和モノクローナル抗体であるバムラニビマブは,迅速な防御をもたらす可能性がある.米国からの報告で,無作為化,二重盲検,単剤投与の第 3 相試験で, 74 の看護・介護施設の居住者およびスタッフ1175名が登録した.バムラニビマブ4200mg(n=588)または偽薬(n=587)の静脈内注入を受ける群に無作為に割り付けられた.主要評価項目は無作為化後8週間以内のCOVID-19発生率とした.結果であるが,予防集団は,ベースライン時に SARS-CoV-2陰性966 名(スタッフ 666 名,居住者 300 名)で構成された.バムラニビマブは,偽薬と比較して,予防集団における COVID-19 の発生率を有意に低下させた(8.5%対 15.2%;オッズ比,0.43,P < 0.001;絶対リスク差,-6.6 [95% CI, -10.7~-2.6]ポイント).5 件の死亡例はいずれも偽薬群で発生した.興味深いことに居住者には有効であったが,スタッフへの効果は乏しかった(図4.高齢者や重症化のリスクが高く,SARS-CoV-2感染に対する免疫反応が最適化されていない人々において最大の効果を発揮する?).



有害事象が発生した被験者の割合は,バムラニビマブ群で 20.1%,偽薬群で 18.9%であった.最も多かった有害事象は,尿路感染症と高血圧であったが,2群間で差は認めなかった.介護付き有料老人ホームの入居者およびスタッフにおいて,バムラニビマブは,COVID-19感染リスクを軽減した.→ 現在,変異株の出現によりバムラニビマブ単独では効果が十分ではないとされ,米国での緊急使用許可は取り消された.しかしエテセビマブとの併用療法で対処できるとされ,現在併用療法に移行しているところである(図5).
JAMA. June 3, 2021.(doi.org/10.1001/jama.2021.8828)



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