Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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クロイツフェルト・ヤコブ病の誤診

2012年10月24日 | 認知症
孤発性のJakob-Creutzfeldt病(sCJD)の早期診断は実はとても難しい.今回,sCJDと診断確定する前に診断された病気のカテゴリー,病名について検討した後方視的研究が米国UCSFより報告された.

対象はUCSFが過去5.5年間にsCJDと病理診断した163名のうち,十分な医療情報が記載されている97名である.研究の主な目的は,誤診した病気のカテゴリーと病名,さらにその診断に関わった医師について調べることである.

結果であるが,カテゴリーとしては神経変性疾患,自己免疫疾患・傍腫瘍症候群,感染症,中毒性・代謝性疾患が多かった.病名としては多い順にウイルス性脳炎,うつ,回転性めまい,Alzheimer病,脳卒中,非特異的な認知症,中枢神経血管炎,橋本脳症であった.これらの診断は家庭医および神経内科医によりなされた.18%の症例のみ初診時に正しく診断され,それらは神経内科医により診断されていた.発症から診断まで平均7.9ヶ月を要し,全経過の2/3の時期に相当していた.

以上より考察として,(1)sCJDの診断は遅れること,(2)急速進行性の認知症を呈する疾患として,神経変性疾患や自己免疫疾患・傍腫瘍症候群,感染症,中毒性・代謝性疾患を疑う際には,sCJDも鑑別診断に挙げるべきこと,(3)家庭医や神経内科医はsCJDの診断向上についてトレーニングを積む必要があることが強調されている.また誤診が生じた理由として,診断基準の感度がとくに発症早期において低いことを挙げている.WHOの診断基準では14-3-3蛋白が重視されているが,むしろ頭部MRIのほうが高感度であるという報告もあり,頭部MRIを積極的に行うべきと述べている.

少し追加をしたい.
(誤診について)家庭医での誤診が多いのは必ずしも神経内科医が優れているわけではなく,CJDの診断は非常に深刻なものであることからsCJDと診断しにくい(診断を避けたい)という背景も考えられる.とくに自己免疫性脳炎など治療可能な急速進行性の認知症を呈する疾患も増えているので尚更であり,診断を下すことにより慎重になっている可能性もある.しかしその一方で,sCJDは感染しうる疾患であり,輸血や手術道具を介するコンタミネーション等による伝播防止のためにも早期診断は必要であることをあらためて認識する必要はある.

(鑑別診断について)またさまざまな疾患カテゴリーが誤診の対象になっているが,個々の病名を見ると急速進行性の認知機能低下を呈する疾患である.ここには記載されていないが,MRI拡散強調画像からの鑑別診断としては虚血性・無酸素脳症やてんかん重積発作も加えるものと思われる.また今回は除外されているが,家族性CJDの場合,もしくは孤発性でも臨床亜型によっては非典型的な表現型や経過を取るため診断は難しくなる.

(検査について)本論文でも記載されている髄液14-3-3蛋白は鑑別に重要であるものの,近年,CJD以外の疾患でも行われることが急増しており,疑陽性の問題も生じている.ごく最近,Brain誌にマーカーとしての特異性が保たれるかどうかの検討もなされていて,単に14-3-3蛋白のみに頼るべきではないと指摘されているが,鑑別診断は頭部MRIや他の髄液検査所見等も加味して行うべきと考えられる.また頭部MRIについてはMR機種の違いや読むひとの判断の差による所が大きく,画像の標準化を行う必要性も指摘されている.

Differential Diagnosis of Jakob-Creutzfeldt Disease
Arch Neurol. 2012;1-5. doi:10.1001/archneurol.2013.79.
 


Cerebrospinal fluid biomarker supported diagnosis of Creutzfeldt-Jakob disease and rapid dementias: a longitudinal multicentre study over 10 years.
Brain. 2012 Oct;135(Pt 10):3051-61. doi: 10.1093/brain/aws238.
 


プリオン病のサーベイランスと感染予防に関する調査研究班



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MDSJ2012@京都

2012年10月14日 | パーキンソン病
Movement Disorder Society of Japan(MDSJ)が主催する第6回パーキンソン病・運動障害疾患コングレスに参加しました.例年,ブログでも紹介していますが,朝から夜遅くまでみっちりしごかれる学会です.でも「ビデオセッション」などとても楽しいですし,パーキンソン病をはじめとするmovement disorderの臨床は「奥が深い」と毎年思い知らされます.とても印象に残った事柄を以下に記載したいと思います.

過去のブログ記事
MDSJ 2011@東京

MDSJ 2010@京都

MDSJ 2009@東京


(パーキンソン病:医療)
治療効果に対する医師の感触と患者さんの満足度は必ずしも一致しない.

QOLに基づくPDの重症度スケールとして,重み付けがなされたQSSPD(Quantified Severity Scale for Parkinson Disease)が日本で作られた.UPDRSはプロフィール提示,スクリーニング的であるのに対し,QSSPDは症状集中的な尺度である.

パーキンソン病患者のニーズは医療だけとは限らない.地域における生活を総合的・包括的に支援する必要がある.

「治す医療」から「支える医療」というパラダイムシフトが進行中である.難病医療に従事する神経内科医はまさに「支える医療」を担う役目がある.


(パーキンソン病:治療)
ECドパールとメネシットは脱炭酸酵素阻害剤の量の違いから同一患者でジスキネジアへの影響が異なることがある(メネシットで強かったpeak-dose dyskinesiaがECドパールへの変更で軽減しうる)

L-dopaの吸収は個人差がかなり大きい.よって「メネシット300mg」のような画一的な処方量ではなく,患者の状況により使用量を増減すべき.

L-dopaによる治療は,血中濃度を予測しながら行うことがコツ.ただし血中と脳内のL-dopa濃度には30分のずれがある(脳内が遅れる).血中濃度のピークが脳内濃度のピークではなく,症状が良くなったときをピークと考える.

胃酸度とL-dopa最高血中濃度(Cmax)の相関はほとんどなく,よく言われるレモン水の効果も本当にあるのか必ずしも分からない.むしろ酸度を上げるより水溶液にすれば十分かもしれない.

Delayed-onに対する効果発現を早めるためであっても,食前のL-dopa内服はできる限り避けるべき(ジスキネジア増強,オフ時間の短縮をもたらしうるため).食後に200 mg内服してもらうという選択肢のほうが良い.

「L-dopaテスト」は,内服前,内服後15分,30分,1時間,2時間,3時間,4時間の計7回,採血を行う.L-dopa濃度だけでなく症状の変化を比較しながら解釈することが大切.

健常者では夜間,睡眠中に脳内ドパミン濃度は下がって,起床前頃から上昇してくる.

抗パーキンソン病薬の持続刺激に関する間違えやすいことば3つ.
 CDS; continuous dopaminergic stimulation
 CDD; continuous drug delivery
 DDS; drug delivery system(Dopamine dysregulation syndromeではない)

ドパストン注の持続点滴は経口摂取が困難な場合に使用される.持続点滴は同時にCDSを実現しうる治療となるが,容易に保険適応での用量の上限(最大150mg)を超えてしまう.しかし添付文書にあるこの用量上限が決められた根拠については製薬会社に聞いても実はわからない状況になっている.

アポモルフィンは10~20分で効き,持続時間は1時間.副作用として,眠気,嘔吐,好酸球増多,薬疹(紅斑)もある.アゴニストをこれまで内服していない患者さんの場合,嘔吐に対し予防的にドンペリドンを使用する.持続皮下注射は海外で行われているが,日本では保険適応はなく,あくまでもレスキュー薬として使用する.

パーキンソン病の振戦に対する1st line治療はL-dopa,アゴニスト.若年・認知症がなければ次にトリヘキシフェニジル.2nd lineとしてはセレギリン,ゾニサミド,アマンタジン.また最後に手術だが,報告は近年多い.カフェインや音楽や映像によるリラックスも有用かもしれない.

脚橋被蓋核(PPN)には生存に必要な機能(歩行,姿勢制御,筋緊張,発語,嚥下)が集中している.この部位におけるDBSはこれらの機能回復をもたらす可能性がある.しかしPPNは幅がわずか2 mmの三日月型形状で,そこに1.2mmのリードを入れるためPPN破壊の効果を見ているのか,刺激の効果を見ているのか実は分からない!?


(認知症とパーキンソニズム)
重度の嗅覚障害(OSIT-J検査で4点以下)は有用な予後予測因子となる.

びまん性レビー小体病(DLB)患者は50万人存在する(パーキンソン病の10倍).つまりレビー小体病の多くは認知症を合併し,運動障害のみのパーキンソン病はレビー小体病のなかでは少数派と言える. DLBの20-50%で運動障害は欠落する.

パーキンソン病患者の8割は最終的に認知症を合併する.治療としてはコリンエステラーゼ阻害剤として,ドネペジルやリバスチグミンが使用される.しかし副作用としてパーキンソニズム悪化(嚥下,振戦など)はありうる.

DLB,PDDに対するアリセプトは運動機能(振戦や嚥下など)が悪化しうる.

若い年代で発症したアルツハイマー病において進行期になると,L-dopa不応性のパーキンソニズムが出現しうる.するととたんにADLが低下し,転倒なども生じる.こうなると予後不良で,介護も難しい.

FTLDに合併するパーキンソニズムは,疾患自体に伴うものか,精神症状に対して使用した薬剤によるものか鑑別を要する.

FTLD-TDPの経過として,病初期に言葉の意味の分からない意味記憶障害,精神科の対応を要するFTD(脱抑制など)を呈し,その後,非対称性のCBS的な運動障害(錐体外路症状,錐体路障害)が出現し,さらに半側無視が見られるようになる.

FTDでは突然死が多い.

FTDP-17はMAPT遺伝子変異とPGRN遺伝子変異があるが,ともに稀な病気.前者は100を超える家系から44変異は報告され,後者も100を超える家系から69変異が報告されている.PGRN変異は日本では1例のみ報告されているが,実は報告されていないだけで多少存在するらしい.

Perry症候群は体重減少,中枢性呼吸不全,うつ,パーキンソニズムをきたす,予後不良の稀な遺伝性疾患である.


(パーキンソン病:基礎)
パーキンソン病においてドパミン作動性ニューロンが選択的に変性する機序として,ペーシング(発火)頻度が大きいこと,エネルギー需要の大きいことが考えられる.

アストロサイトはドパミン作動性ニューロンに対し,グルタチオンやメタロチオネインを介して保護的に作用している.治療標的物質として転写因子Nrf2が重要.酸化ストレスへの曝露後,Keap1の結合がはずれて核移行し,抗酸化物質の転写を開始する.Nrf2誘導剤も複数同定されている(クルクミン,スルフォラフォンなど).

レビー病理は細胞間を伝播するというpropagation theoryがあるが,α-synucleinの細胞への取り込みはダイナミン依存性エンドサイトーシスによるものである.ダイナミン阻害剤としてSSRIがあり,とくにセルトラリン(ジェイゾロフト)は作用が強く,実際にin vitroの実験ではα-synucleinの細胞間伝播を阻害する.実験の培地における濃度は通常臨床にて使用する薬剤量(100mg)で実現できる.


(その他の疾患.ビデオセッションなど)
小脳の学習機能を評価する方法として,知覚と運動に乖離があるようなものに慣れるという方法があり,その1つとしてプリズム順応(プリズム眼鏡でずれた視野に慣れていく課題)が有用かもしれない.

近年,immune-mediated movement disorderという分野が確立した.

抗NMDA受容体抗体陽性脳炎における顔面を中心とする激しい不随意運動は,あえて分類すればジスキネジアといえる.ただし通常,ジスキネジアは睡眠で消えるが,このジスキネジアは消えない.治療としては1st line(ステロイド,IVIg,血漿交換)を行い,1週間たっても効かなければ2ng lineに切り替える(リツキシマブ,エンドキサンパルス).しかしリツキシマブは一般の病院では使いにくい.

グリシン受容体(GyR)関連疾患としてPERM;progressive encephalomyelitis with rigidity and myoclonusがある.脳神経麻痺,rigospasticity.腱反射亢進が認められる. Stiff-person症候群を思わせるような筋痙攣(頸部の後方への反り返り,喉頭痙攣)も見られる.

Broca野病変による失行という新しい概念がある.

ジストニア・ミオクローヌス症候群(DYT11;εサルコグリカン遺伝子変異)の頸部,体幹,上肢に認めるミオクローヌスに対する治療としてGPi DBSは有効.

MSA患者に眼球上転発作(Oculogyric crisis)を認めることがあるが,アーテンで改善した.

アルコール多飲患者の下肢の脊髄性分節性ミオクローヌスでは,ペラグラ脳症を鑑別に加えニコチン酸を測定する.

足趾に限局し,ムニュムニュ動く不随意運動で目で見ると改善する場合,偽アテトーゼの可能性も考える.

膝蓋腱反射を施行するため,一度,腱を叩いたあと複数回,連続して反応が動く現象はspasmodic reflex myoclonusを見ている可能性があり(テタニーに認める).

小脳型PMLはMRIにてクレセント型の特徴的な異常信号を呈する.失調に加え,2Hzのyes-yes head tremorを呈した症例の提示あり.

クローン病患者における極めてゆっくりとした構音障害(戦場のカメラマン型!?)の原因としてセレン欠乏症を認めた.SPECTでは後頭葉における血流低下が見られる.セレン欠乏症では,視野障害,構音障害,皮質性感覚障害,小脳失調を呈する.

バリスムでは四肢のrotationが生じているかを確認する.

本態性振戦の小脳起源説を支持する様々な報告がある


私自身は,パーキンソン病におけるleg motor restlessnessという睡眠障害の新しい誘因についてポスター発表を行いました.有意義な議論ができました.来年は東京での開催です.とても勉強になる学会ですのでぜひご参加をご検討ください.


第6回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス

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ALSおける首下がりの頻度とADLへの影響

2012年10月08日 | 運動ニューロン疾患
首下がり(dropped head syndrome)は首が前方に屈曲しているものの,胸・腰椎に異常な屈曲を認めない状態を指す.この原因としては,最初に原因疾患として記載された非炎症性の頸部伸筋ミオパチーのほか,顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー,多発筋炎といった筋疾患,重症筋無力症,多系統萎縮症,ALS等が知られている.ALSについては有名ではあるもののインドからのケースシリーズ(JNNP 74:683-686, 2003)以外には症例報告が少数あるのみで,その臨床的特徴については十分には分かっていない.

今回,新潟大学ではALSにおいて首下がりを呈した症例の臨床像について後方視的な検討を行った.これは首下がりを主徴としたALS症例で,日常生活動作(ADL)の制限が目立った症例を担当したことがきっかけであった.

対象は2003年から2010年までの間に入院し,改訂El Escorial 基準でdefiniteないしprobable ALSと診断された症例のうち,首下がりを呈した症例とした.首下がりの定義は,頸部伸筋の筋力低下のため,立位時・臥位時に重力に抗して首を持ちあげられない状態となり,視野制限のためADL制限を認める状態とした.研究の目的はALS症例における首下がりの頻度を求め,さらに首下がりがもたらす影響を確認することである.また首下がりを呈した症例の発症年齢,初発症状,頸部伸筋以外の筋力低下の分布,神経所見,電気生理学的所見,生存期間も診療録を用いて後方視的に調査した.

さて結果であるが105名のALS患者さん(男性65名,女性40名)が期間中に入院し,全例が孤発例であった.うち3名が首下がりを呈し,その頻度は2.9%であった.ALS自体の発症年齢は入院した順に56,63,53歳で,初発症状は球麻痺症状が2名,上肢筋力低下が1名であった.一方,下肢に筋力低下が目立つ症例において首下がりは認めなかった.首下がりの出現はALS発症から,それぞれ14,4,26ヶ月後とさまざまであった.いずれの症例でも下肢の筋力低下は保たれる傾向にあり,上肢筋力低下や球麻痺が顕著になった進行期においても歩行は可能であった.全例で上位運動ニューロン徴候を認めた.針筋電図検査ではいずれも症例も球筋,上下肢を含む神経原性変化を認めた.首下がりの影響は2点あり,①頸部の不快感・痛みと②ADL制限,とくに食事や着衣が不自由であることであった.いずれも頸部カラーを使用し姿勢を改善することで軽減した.生存期間は順に28,26,69ヶ月であった.剖検が2名で行われ,通常のALSと異なる変化は認めなかったが,舌下神経核や胸髄レベルの脊髄前角における神経変性が高度であった.逆に腰髄レベルの変化は軽度で,臨床表現型に対応していた.

インドからの既報はEl Escorial基準による診断が行われていないため単純に比較しにくいが,首下がりの頻度は1.3%(9/683)であり,それと比較すると今回の検討は約2倍頻度が高いことになる.つまりALSにおける首下がりは稀ながら存在することが確認され,ALSは首下がりの鑑別診断として考慮すべきと考えられた.またALSにおける首下がりは,頚部痛や,歩行,食事,着衣といったADLに制限を及ぼすこと,頸部カラーは対策として有効であることも確認できた.また首下がりを伴う3例のALSは臨床病理学的に似ており,このような臨床バリアントが存在する可能性が示唆された.つまり上肢や球筋の筋力低下・筋萎縮が目立ち,首や上肢は下垂しつつも,下肢筋力は保たれ歩行可能という症例である.このような特徴的な筋力低下の分布が,近年話題になっている運動神経変性の局在と進展様式(Neurology 73:805-811, 2009)によって説明がつくのか興味がもたれる.

Amyotrophic Lateral Sclerosis 2012, early online.  
Comments (2)
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脳卒中のリハビリテーションで大切なこと

2012年10月02日 | 脳血管障害
10月29日,新潟神経内科シンポジウムが「神経救急」をテーマとして開催された.4人の講師の先生をお招きし,「神経救急総論(昭和大学有賀徹先生)」から始まり,「神経疾患急性期からのリハビリテーション(浅木病院 三好安先生)」,「神経救急と医療訴訟(水戸赤十字病院 大平雅之先生)」,そして「脳死判定と臓器移植(日本医科大学 横田裕行先生)」と様々な視点から神経疾患を勉強した.いずれも大変有意義で勉強になるご講演であったが,そのなかで三好安先生による「神経疾患急性期からのリハビリテーション」というご講演をご紹介したい.スタンフォード大学でリハビリテーションを学ばれている頃に知り合った友人で,本格的に神経内科を学ばれた後にリハビリテーションに進まれた日本では数少ないドクターである(日本では整形外科を背景にもつ先生が圧倒的に多い).

三好先生が強調されたのは以下の4点である.
1.ドクターがまず行ってみせることが大切.
つまり理学療法士や作業療法士が行う前に,まずドクターがリハビリテーションの指導を行なってみせることが大切であるということ.リハビリ中に具合が悪くなる可能性のある患者さんに対してはとくに大切で,バイタルサインの変化時などの対応を示すこと,そして万が一のときの責任はドクターにあることを示すことが必要である.

2.廃用症候群は急性期から急速に始まる.
廃用症候群は発症後急性期から起こる症状で,筋萎縮,関節拘縮,褥瘡,廃用性骨萎縮,起立性低血圧,精神的合併症などが生じる.回復には時間がかかるため,筋萎縮や関節拘縮を予防することはきわめて大切で,発症早期からの開始すべきである.脳卒中では,ラクネ梗塞なら24時間以内,その他は遅くとも3日以内に開始する(クモ膜下出血は除く).一度起きてしまった拘縮の改善にはフェノール,ボトックス等が行われるが,手術はより効果的である.

3.筋力増強(起立訓練)とROM(関節可動域)訓練に全力を傾ける
リハビリテーションのプログラムとしては,筋力強化と関節の動きの改善が大切である.前者については実用性の乏しい患側肢の改善を目指すより,むしろ健側肢の強化が大切である.健側の強化は日常活動の改善に即したリハビリとなる.患側を動かそうとしても力が入らない場合であっても,健側に力を入れてもらうとむしろ患側に力が入る.
またリハビリの課題としては,起立動作の反復練習がとても有効で,歩行訓練よりも起立動作は筋力活動が大きい.また坐位訓練,立位訓練は表面筋電図での評価では筋活動はほとんどなく,訓練になっていない可能性がある.具体的には起立訓練を400~500回/日行う.そして集団での起立訓練は,仲間意識,ライバル意識をもたらし,かつ認知症の患者さんでもみんなを真似て行ったりプラスの面が大きい(下記YouTube画像参照.しかしH18の診療報酬改訂で集団療法は廃止されてしまった).
一方のROM訓練は,麻痺側上肢を健側の上肢で行う,つまり自己ROM訓練を行うことが大切で,自分で学びできるようになれば,退院後も自分で行うことができる.

4.リハビリ病院へ紹介する.
急性期病院で,拘縮予防,筋力増強,ROM訓練が困難であれば,可能なリハビリ病院に早めに紹介し,機能回復を妨げないことが大切である.

また印象に残ったのは,「多系統萎縮症の患者さんも起立性低血圧を怖がってまったく起立訓練をしないことは疑問である.起立性低血圧が起きても臥床で改善するのだから,起立訓練を避けるべきではない」とおっしゃっていたことだ.たしかに起立性低血圧を過度に恐れるあまりリハビリが不十分となる可能性はある.神経内科の知識をバックグランドとしてもつリハビリテーションのドクターが増えていくことや神経内科医のリハビリテーション分野への積極的な参入が必要だと感じたご講演であった.

浅木病院での起立訓練風景

浅木病院ホームページ

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