Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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MOG抗体関連疾患(MOGAD)と視神経脊髄炎(NMOSD)と多発性硬化症(MS)のMRIによる鑑別ポイント

2023年08月25日 | 脱髄疾患
標題に関してとても分かりやすい図を掲載した総説がありました.以下,まとめです.

1)視神経(図1)
MOGAD ではガドリニウム造影病変(Gad+)は前方に長く,視神経鞘や眼窩脂肪の異常信号や乳頭浮腫を伴う.NMOSDではGad+は視神経交叉に認められる.MSではGad+は短く,多くの場合,中ほどに認める.Gad+は通常経過観察ですべて消失する.



2)脊髄(図2)
MOGADでは脊髄のT2病変は長大で多発し,脊髄円錐も傷害し,軸位断ではH型を呈する.NMOSDでは単発性で長大で,軸位断で中央に円形を呈する.MSでは多発性,短く,辺縁に認められる.経過観察では MOGADの病変はしばしば消失するが,NMOSDとMSでは残存し,MSでは新たな病変が生じる.



3)大脳病変
①MOGAD(図3)
FLAIR異常信号を,橋,中小脳脚,視床,大脳白質,皮質に認め,Gad+は軟膜・くも膜に認める.6~12ヵ月後の寛解期では,病変の大部分またはすべてが消失する.



②NMOSD(図4)
FLAIR異常信号を第4脳室(最後野),第3脳室,内包,脳梁膨大部に認め,Gad+は上衣に線状に認める.フォローアップでは,異常信号は劇的に減少するが,持続し消失しない.



③MS(図5)
FLAIR異常信号はMOGADやNMOSDより小さく,より末梢に認める.環状または開環状のGad+を伴う卵形および脳室周囲病変である.フォローアップでは,異常信号は残存する.ただしGad+は消失する.



NMOSDでは初回発作後に維持療法を開始すべきであるが,MOGADでは半数以上の症例で単相性の経過を取るため,一般的には2回目の発作が生じるまで維持療法は開始しない.
Cacciaguerra L et al. Treatment. A Tale of Two Central Nervous System Autoimmune Inflammatory Disorders. Neurol Clin. August 07, 2023(doi.org/10.1016/j.ncl.2023.06.009)

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抗MOG抗体関連ミエロパチーの臨床・画像所見

2019年01月13日 | 脱髄疾患
前々回のブログに記載した脊髄硬膜動静脈瘻(spinal dural AV fistula;sDAVF)の論文に引き続き,Mayo Clinicから抗MOG抗体関連ミエロパチーの臨床所見,脊髄MRI所見に関する研究が報告されている.ちなみにMOGとは,ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白質(myelin-oligodendrocyte glycoprotein)のことである.本研究の目的は,類似の臨床像を呈しうる抗AQP4抗体関連ミエロパチー,多発性硬化症との相違を明らかにし,早期に正確な診断と治療を行うことである.このために,これら3疾患の臨床・画像所見,予後を比較している.

方法は後方視的研究で,対象は2000年から2017年に経験した抗MOG抗体陽性患者199名のうち,「臨床的診断が脊髄炎,抗MOG抗体陽性,臨床情報が使用可能」という3つの条件を満たした54症例とした.対照は抗AQP4抗体関連ミエロパチー46例,多発性硬化症26例とした.予後の評価はmodified Rankin scoreと歩行の介助の必要性とした.MRIの評価は放射線科医が臨床診断をマスク化して行った.

結果であるが,抗MOG抗体関連ミエロパチー54症例の発症年齢は中央値25歳(3-73歳)で18歳未満が30%,男女比は30:24であった.初発症状が脊髄炎単独であった症例は29例(54%)と高頻度であった.症候としては,しびれ感(89%),直腸膀胱障害(83%),勃起障害(54%),錐体路徴候(72%)を認めたが,うち10例(19%)が腱反射消失を伴う弛緩性麻痺を呈し,ウイルス性ないしウイルス後「急性弛緩性脊髄炎 (AFM:Acute Flaccid Myelitis)」と診断されていた(後述).中央値24ヶ月(2-120ヶ月)の経過観察を通して,32例(59%)が以下に示すように1回以上の再発をした.その内訳は視神経炎(31例),横断性脊髄炎(7例),ADEM(1例)であった(重複あり).3疾患の比較では,抗MOG抗体関連ミエロパチーにおいて,ウイルス感染を示唆する前駆症状やワクチン,および脊髄炎を伴うADEMが有意に多かった.

検査所見では,髄液オリゴクローナルバンドは施行した症例では1/38例(3%)と低頻度であった.脊髄MRI検査では,図に示すように,T2強調画像における灰白質の異常信号(矢状断での線状所見,および水平断でのHサイン)と,異常造影を認めない点が特徴的であった.縦長病変の頻度は抗MOG抗体,および抗AQP4抗体関連ミエロパチーで有意差はないが(79%対82%),多発性硬化症では認めなかった.多発病変,ないし馬尾病変は抗MOG抗体関連ミエロパチーでは抗AQP4抗体関連ミエロパチーと比べて高頻度であったが,多発性硬化症とは変わりはなかった.

予後については,初期治療への反応性は48/52例(92%)で認められた.脊髄炎が最も悪いときに車椅子を要することは抗MOG抗体関連ミエロパチー,抗AQP4抗体関連ミエロパチーとも3分の1の症例で見られたが,MSではなかった.最終診察で車椅子を要した頻度は3/54例(6%)であった.抗MOG抗体関連ミエロパチーのほうが抗AQP4抗体関連ミエロパチーと比較して回復が良好であった.

ちなみに「急性弛緩性脊髄炎 (AFM))は2014 年に米国でエンテロウイルス D68(EV-D68)感染症流行と同時期に発生したポリオ様麻痺の多発を受け,急性弛緩性麻痺 (AFP:Acute Flaccid Paralysis)との混乱を避けるため提唱され,以下の通りに定義されている.
①四肢の限局した部分の脱力を急に発症する(acute onset focal limb weakness)
②MRI で主に灰白質に限局した脊髄病変が 1 脊髄分節以上に広がる
③髄液細胞増多(白血球数>5/ μL )(①+②は「確定」、①+③は「疑い」とする).
上記を満たせば起因病原体の種類は問わない.EV-D68 流行期に発症したAFMは,EV-D68の関与が強く疑われるにもかかわらず臨床検体からのEV-D68検出率が低いことが知られ,確定診断はなかなか難しい.本研究では2014 年のEV-D68陽性AFMについては,抗MOG抗体陰性であったことを確認しているが,AFMの病因として抗MOG抗体関連疾患を鑑別に上げることも重要であることを示すものである.

結論として,本研究は抗MOG抗体関連疾患においてミエロパチーは病初期の症状であり,かつ急性弛緩性脊髄炎を呈しうることを示した.さらにOCB陰性で「縦長,Hサイン,造影効果なし」というMRI所見を認める場合に,より本疾患を疑う必要があることを明らかにした.

JAMA Neurol. 2018 Dec 21. doi: 10.1001/jamaneurol.2018.4053.




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補体C1qに対する抗体は,視神経脊髄炎関連疾患のバイオマーカーである

2017年10月04日 | 脱髄疾患
当科のYoshikura N 先生らが,最近,J Neuroimmunol誌に報告した論文を紹介したい.補体C1qに対する抗体価が,視神経脊髄炎関連疾患(neuromyelitis spectrum disorders spectrum disorders, NMOSD)では上昇するという報告である.この抗体は,脳内において抗原抗体複合体に結合した補体C1qに結合し,補体反応の活性化を促し,免疫・炎症に関わるだけではなく,血管側ではWnt/β-cateninシグナルを活性化することが知られている.血管内皮細胞においてWntシグナルは,タイトジャンクションを形成する主要蛋白claudinの発現量を増加させる.もし抗C1q抗体がこのシグナルを阻害するとすれば,claudinの発現量が減少して,血液脳関門が脆弱になる.つまりこの抗体は,脳内でも血管でもNMOSDの病態に関与する可能性がある.

さて研究の方法であるが,急性期NMOSD患者15名(全例,抗AQP4抗体陽性),急性期MS患者13名,健常者15名にて血清抗C1q抗体を測定した.また同じNMOSD,MS患者と身体表現性障害患者(疾患コントロール)10名において髄液抗C1q抗体価を測定した.急性期NMOSD患者において,血清および髄液抗C1q抗体価と,臨床所見,画像所見との関連性も調べた.

結果であるが,血清および髄液抗C1q抗体価は,NMOSD患者では他群に比較して有意に高値であった.髄液抗C1q抗体価は急性期の重症度を示す所見,具体的にはEDSSの悪化度(急性期とベースライン時の差),脊髄病変の長さ,髄液蛋白量,髄液IL-6値,Q-alb値(髄液Alb÷血中Alb)との間にも正の相関を認めた.

以上より,髄液抗C1q抗体価は,疾患の重症度を反映するNMOSDの新たなバイオマーカーとして利用できる可能性が示唆された.また病態に関して,上記の機序のほか,アストロサイトの膜表面上に発現するAQP4,抗AQP4抗体,補体C1qからなる複合体に,さらに抗C1q抗体が結合し,より強力な補体介在性の細胞障害が生じる可能性もある.

吉倉延亮先生は本研究の要旨を第23 回世界神経学会議(WCN2017)においてポスター発表した.最初に質問をしてくれた先生はとても関心を持ってくださり,10分にも渡って次々と質問してくださったそうだ.最後にお名前を伺ったところ,その先生は神経免疫学の大家であるVanda Lennon先生(Mayo Clinic)だと分かり,吉倉先生は驚くとともに大変感動したようだ.そして動物実験等を行い,この抗体の役割をさらに明らかにするようアドバイスをいただいたそうだ.海外学会はこのように,最先端の研究者と身近に触れ合えるチャンスがある.若い先生方にはどんどん海外学会で発表し,留学もして,どんどん世界に向けて羽ばたいてほしいと思う.

Yoshikura N et al. Anti-C1q autoantibodies in patients with neuromyelitis optica spectrum disorders. J Neuroimmunol 310, 150-7, 2017


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NMO-IgGが血清で陰性,髄液で陽性というケース

2009年03月29日 | 脱髄疾患
 NMO spectrum disorderが疑われたものの,血清NMO-IgGが陰性で,髄液NMO-IgGのみ陽性であった3症例のcase seriesが報告されている(Washington Universityからの報告).いずれの症例も急性に発症する縦長の横断性脊髄病変を呈したが,頭部MRIは正常で,視神経炎の合併も認めなかった.いずれも発症2年以内で,初発から数か月以内に生じた2度目の再発は重症であった.血清では3例とも120倍希釈で陰性であったが,同時に施行した髄液の測定では陽性であった(いずれもMayo Medical Laboratoriesで行った).いずれも症例もAlb indexは正常で,血液脳関門は保たれていると考えられた.

 Discussionの中で,もし血清NMO-IgGが陰性であっても,臨床的にNMO spectrum disorderを疑う以下のような病態を呈した症例では,髄液NMO-IgG検査も追加すべきと指摘している.そのような病態として以下の5つを挙げている.
① 3椎体以上縦長の横断性脊髄炎
② 再発性横断性脊髄炎
③ 重症かつ両側性視神経炎
④ 回復不良な視神経炎
⑤ 急速再発性視神経炎

 なぜ髄液のNMO-IgGが陽性であった3例が,血清で陰性となったかについて不明である.「多発性硬化症の診断と治療」という多発性硬化症の知識の整理にお勧めの本があるが,このなかの東北大によるNMOの解説のなかに,血清と髄液の抗体価の比較に関する記載があり,「血清抗体価が512倍以上の症例でのみ髄液中の抗体が検出され,それらはほぼIgGの血清/髄液比に相当することから,中枢神経内での抗体産生はほとんどなく血中から髄液に移行していると推測」しているが,今回の報告はその推測に反する症例である.論文の著者らはこの原因として,血清中に何らかの阻害因子(抗体)が共存する可能性について述べているが,その根拠は示していない.

 いずれにしても症例数が3例と少ないので,このような髄液のみNMO-IgG陽性になる症例が特徴的な臨床像を呈するのか,今後さらに症例を蓄積する必要がある.

Neurology 72; 1101-1103, 2009 
多発性硬化症の診断と治療(新興医学出版社) 

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抗アクアポリン4抗体による自己免疫性過眠症

2008年02月08日 | 脱髄疾患
 過眠症とは,日中に過剰な眠気または実際に眠り込むことが毎日繰り返して認められる状態で,少なくとも1ケ月間は持続し,社会生活や職業的機能が妨げられ,あるいは自らが苦痛と感じる状態を指す.原因は多岐にわたり,不眠症や薬剤に伴うもの,睡眠時無呼吸症候群,睡眠相後退症候群,特発性過眠症などを鑑別する必要がある.なかでも特徴的な症状を示すものはナルコレプシーで,強い眠気のほかに,笑い・喜び・怒りなどの感情が誘因となる情動脱力発作(カタプレキシー)を伴ったり,入眠時もしくは起床時の金縛り・幻覚・幻聴が生じることもある.病態機序については今なお不明であるが,情動脱力発作を伴う症例では髄液中の神経ペプチド オレキシン(ヒポクレチン)が測定感度以下に低下している.

 さて新潟大学からステロイドによる治療が可能な過眠症の症例が報告された.症例は43歳女性で,体幹と四肢のしびれ、歩行障害に加え,過眠症を認めた.眠気は強く,食事・入浴以外はほとんど眠っていた.眠気のスケールであるEpworth Sleepiness Scoreは24点中19点(11点以上で病的)と高度の眠気を呈した.脊髄MRIでは,第2頸椎レベル,および,第5頸椎から第6胸椎レベルに長大な病変を認め,頭部MRIでは視床下部から視床前内側部にかけて,対称性の病変を認めた.髄液中オレキシン(ヒポクレチン)が低下し,血清抗アクアポリン4抗体が陽性であった. ステロイドパルスを計3クール施行し,プレドニゾロン内服に移行した.これらの治療により過眠症,感覚障害は改善した.

 抗アクアポリン4抗体はneuromyelitis optica(NMO)あるいは視神経脊髄型MS(OSMS)に特異的に出現する抗体で,本抗体陽性例の画像所見として,①間脳・視床下部周辺の左右対称性の病変,②第四脳室周囲を中心とした脳幹・小脳病変,③びまん性の大脳白質病変,の3パターンがみられることが報告されている.このうち,間脳・視床下部と第四脳室周囲の病変の分布は,水チャネルであるアクアポリン4の高発現部位に一致する.また間脳・視床下部はオレキシン(ヒポクレチン)ニューロンが局在しているため,同部位の病変はオレキシン(ヒポクレチン)の低下を介して過眠症を呈する可能性はありうるものと考えられる.

 本例は過眠症を呈した症例の鑑別診断として,左右対称性の視床下部病変や長大な脊髄病変を認めた場合には,まず抗アクアポリン4抗体を測定する必要があること,さらにステロイドによる治療が可能であることを示した点で貴重な症例と考えられる.今後の症例の蓄積が待たれるとともに,神経内科以外の睡眠医学にかかわるドクターにも本症を広く知っていただく必要性が考えられた.

A patient with anti-aquaporin 4 antibody who presented with recurrent hypersomnia, reduced orexin (hypocretin) level, and symmetrical hypothalamic lesions. Sleep Med. 2008 Jan 26; [Epub ahead of print]

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Neuromyelitis optica のMRI 所見と診断基準改定

2006年07月22日 | 脱髄疾患
 Neuromyelitis optica(NMO)は,球後視神経炎と急性横断性脊髄炎がほぼ同時か,1~2週間の間隔で生じる疾患である.NMO-IgGがNMOの診断に有用な抗体として報告され(2004年12月7日の記事参照),さらにその標的抗原がアクアポリン4(AQP4)であることも報告された.これは2つの意味でインパクトがあった.ひとつは「水チャネルに対する自己抗体により発症する疾患がある」ということであり,もうひとつは,NMO-IgGの標的がミエリンやオリゴデンドロサイト由来の蛋白ではなかったということである.AQP4は,アストロサイトのfoot process膜に豊富に存在し,BBBにおける水のやりとりに重要な役目を果たしているが,もしNMO-IgGそのものが神経障害を引き起こす病因であるとしたら,アストロサイトを主座とした免疫異常が中枢神経脱髄疾患を引き起こすことになり,今までの常識を覆す(2006年4月11日の記事参照).よって免疫学を専門とする者の中には,NMO-IgGはNMOの診断マーカーとしては有用であるものの,病態機序に直接関わっていないと考えている者も少なくない.

 さて,NMOのMRI所見に関して興味深い論文が2題,Mayo Clinicから報告されている.ひとつ目はretrospective studyで,対象は1999年に報告されたNMOのWingerchukら(Mayo clinic)による診断基準を満たす症例で,いずれの症例も脊髄MRIで3椎体以上の長さの病変を示す.ただし,診断基準のなかの,「視神経や脊髄以外に由来する症候を認めない」という項目は除外してある.方法としては,頭部MRIにて,正常,異常(non-specific,MS-like,atypical abnormality)に分類している.
 結果として60例が基準を満たし,うち53例(88%)が女性,年齢は37.2±18.4歳で,罹病期間は6.0±5.6年であった.NMO-IgGは41例(60%)で陽性.問題のMRI所見は,多くの症例がnon-specificな変化のみであったが,6例(10%)でMS-likeの病変を認め,5例(8%)で間脳,脳幹,大脳においてMSとしてはatypicalな病変を認めた.その5例中3例が13歳以下(13歳,5歳,13歳)で,1例では意識障害を呈する重症例であった.

 もうひとつの論文は,MRI病変の部位とAQP4の分布を比較したものだ.対象はNMO-IgG陽性の120例の患者のうち,頭部MRIを撮影し,異常を認めた8例である(8例中3例は18歳未満;18歳,5歳,13歳).病変部位は視床下部,第3脳室・第4脳室周囲,脳幹であった.この病変分布はAQP4の脳内発現分布とよく一致するものであった(注;AQP4は,視神経や脊髄にも豊富に存在する).

 これらの報告から言えることは以下のとおり.
1. NMO-IgGは診断に有用であるだけでなく,標的抗原部位と病変部位一致したことから,病態に関与し,神経障害に関与している可能性がある.
2. NMO-IgG陽性NMOは小児でも発症し,脳内病変を伴うことがある
3. 間脳が病変となることから,オレキシンニューロンの存在部位が病変の主座になりうる.つまり過眠症状を呈することがある.
4. 視神経,脊髄以外の病変を認めるNMOが存在する.よって診断基準から脳病変が存在しないという項目は除外すべきである.

 そして最近のNeurologyに,Wingerchuk自身が改訂診断基準を提唱した.この論文では96例のNMOと33例のMSを用いて,改訂診断基準のsensitivity,specificityを算出している.基準としては以下の3項目中2項目を満たすというもので,結論としてsensitivity 99%, specificity 90%という良好な結果を得た.
1. longitudinally extensive cord lesion(3椎体以上)
2. onset brain MRI nondiagnostic for MS
3. NMO-IgG seropositivity.
またNMOで視神経,脊髄以外の病変を合併する割合は14.6%と報告した.

 考察には述べられていないが個人的に興味を持ったのはrecurrent ADEMと呼ばれる症例の中にNMO-IgG陽性NMOが紛れ込んでいなかったのだろうかということである.また小児MSにおいてもNMO-IgG陽性NMOが紛れ込んでいる可能性は今後,チェックすべきであろう.いずれにしてもNMOの病態解明についての研究の進歩は,臨床的にもインパクトがきわめて大きいと言えよう.

Arch Neurol 63; 390-396, 2006
Arch Neurol 63; 964-968, 2006
Neurology 66; 1485-1489, 2006

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多発性硬化症の病態解明に向けた新たな視点

2006年04月11日 | 脱髄疾患
 今年の米国神経学会(AAN)は,San Diegoで開催された.個人的にこの学会は大好きで,夕方になり,会場で振舞われるワインを飲みながら,ポスターの内容をdiscussionするのは何とも楽しい.新しい知見や治療薬の話を聞くととってもワクワクする(同時に日本とのギャップを感じ,気分的に落ち込む学会でもある).今年の演題の内容はNeurology誌のsupplementで確認することができるので入手可能ならご覧いただきたいが,今回は個人的に注目した演題として,NMO-IgGの標的抗原が発見されたことを紹介したい.
 NMO-IgGは多発性硬化症の亜型と考えられてきたNeuromyelitis optica(NMO;いわゆるDevic病),および本邦に多い視神経脊髄型MS(OS-MS)において高率に認められる自己抗体である(Lancet 364; 2106-2112, 2004;2004年12月17日の記事参照).NMO-IgG陽性例では,①classical MSは否定できること,② IFNのような免疫調節作用のある薬ではなく,免疫抑制剤(アザチオプリン,ステロイド)を治療に用いる必要があるという意味で,診断的にも治療的にも抗体測定の意義は大きい.ではNMO-IgGは,NMOの病態にどう関与しているのだろうか?もしNMO-IgGが認識する「標的抗原」が判明すれば,病態解明に向けての大きなヒントとなる.今回,Mayo clinicの神経免疫学教授Vanda Lennonは,AAN plenary sessionのなかで,NMO-IgGの「標的抗原」がアクアポリン4(AQP4)であることを講演した.
 アクアポリンは水チャネルを構成する蛋白で,1988年,Peter Agreにより発見され,1992年に分子式が同定された(Agre は2003年ノーベル化学賞を受賞).最初のアクアポリンは赤血球膜で明らかにされたが,その後,遺伝子ファミリーを形成していることが明らかになり,現在,少なくとも13 の遺伝子とそのタンパクが知られ,全身に分布している.細胞間の水移動には欠かせない分子であるため,さまざまな病気と関係すると推測されているが,現在までに3つの疾患への関与が報告されていた(AQP2→腎性尿崩症,AQP0→先天性白内障,AQP5→シェーグレン症候群に伴うドライアイ).
 中枢神経においてはAQP4が存在する.AQP4ノックアウトマウスでは脳虚血後の脳浮腫がおこりにくく,脳虚血後の脳浮腫にAQP4が関与している可能性が示唆されている.脳浮腫の治療に用いられるステロイドホルモンがAQP4の発現をおさえることも報告されていて興味深い.
 そのAQP4がNMO-IgGの標的抗原であったことは2つの意味でインパクトがある.ひとつは「水チャネルに対する自己抗体により発症する疾患がある」というインパクトである.これまで水チャネルに対する自己抗体により発症する疾患は報告されておらず,今後,同様の疾患(autoimmune water channelopathy)が報告される可能性もあり興味深い.もうひとつのインパクトは,NMO-IgGの標的がミエリンやオリゴデンドロサイト由来の蛋白ではなかったことである.AQP4は,アストロサイトのfoot process膜に豊富に存在し,BBBにおける水のやりとりに重要な役目を果たしている.すなわち,アストロサイトを主座とした免疫異常が,中枢神経脱髄性疾患を引き起こす可能性があるわけで,今後の研究に従来とは全く異なる視点が必要であることを示唆する.今回の発見は脱髄性疾患の病態機序の解明に大きく寄与する可能性があるように思われた.

58th AAN (San Diego 2006)
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ハチ刺し療法は多発性硬化症に効くか?

2005年12月21日 | 脱髄疾患
以前,当ブログで取り上げた「宮廷女官 チャングムの誓い」の一場面で,医女チャングムが治療手段としてハチの毒針を直接皮膚に刺している場面があった.「アナフィラキシーを起こすぞ!?」なんて思いながら見た覚えがあるが,韓国や中国の一部地域で現在も行われている治療らしい(http://j.peopledaily.com.cn/2003/09/17/jp20030917_32474.html :写真).さらに驚いたことにこのハチ刺し療法は多発性硬化症(MS)の再発予防としてヨーロッパでしばしば行われているらしい.その理論的背景としては,蜂毒にはmelittinおよびadolapinという強力な抗炎症物質が含まれること,ならびに apaminというCa-activated K-channelを抑制することで神経細胞の過分極を起こすペプチドを含んでいることが挙げられている.
 今回,オランダからハチ刺し療法の効果を検証する目的でrandomized, open, crossover trialが行われた.対象は26名(RRMSないしSPMS)で,ハチ刺し療法と無治療をcrossoverしている.観察期間は24週.ハチ刺し療法は週3回行われ,最高20匹(!)もの生きたハチに刺してもらう.Primary outcomeはT1-weighted MRIで評価した造影効果陽性のプラーク数. Secondary outcomeとして,T2*-weighted MRIのプラーク数,再発回数,EDSS,疲労度,QOLスコアを用いた.結果は無治療群と比較して上記いずれの項目も改善なし.幸い,重大な副作用もなかったが,痛い思いをしたうえ効果はなく,まさに「泣きっ面にハチ」という結果になった.
 ただ今回の論文を読んで何ともつらい気持ちになった.というのはMSに対するハチ刺し療法は非医療機関において民間療法・代替療法として始められ,徐々にpopularな治療法となっていった経緯があるためだ.これは取りも直さず,再発や進行を抑制する治療に乏しいという現状と,効果的な治療を求める患者さんの切実な願いを反映するものと言えよう.
 ただ最近になり,MSに対する新たな治療として新たな光明が差しつつある.先日,α4β1(VLA-4)インテグリンに対するモノクローナル抗体natalizumab(商品名TYSABRI)で有名なSteinman Lの講義を拝聴する機会があったが,natalizumabの臨床使用は不幸にもその使用中に見られた進行性多巣性白質脳症の問題で頓挫しているものの(N Engl J Med. 353:375-381, 2005),新たな有望な治療戦略としてトリプトファン分解産物3,4-DAAがMSのようなTh1を介する自己免疫疾患に対しきわめて有効であることが最近報告された(Science ;310:850-5,2005;この治療戦略のヒントは実験脳炎マウスのDNAマイクロアレーの結果得たもの.この論文の要旨はトリプトファン分解産物3,4-DAAがミエリン特異的T細胞の増殖を抑制し,炎症誘発性Th1サイトカインの産生を阻害するということ).さらにSteinmanはスタチンやワクチン療法の可能性についても言及していた.
 ただMSに関する新たな治療を考えるときいつも考えてしまうのは研究が進歩して治療薬ができたとしても,日本で使えるかのはいつになるのかということだ.今までも何度も書いたが,IFNbeta1aやcopolymer I,mitoxantroneといったエビデンスのある治療はやはり日本でも速やかに使用できるようにすべきであろう.個人輸入などを検討しなければならない患者さんたちに本当に申し訳がたたない.

Neurology 65:1764-1768, 2005
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多発性硬化症新規治療薬Natalizumabは進行性多病巣性白質脳症を引き起こしうる

2005年08月01日 | 脱髄疾患
インテグリンは,細胞接着蛋白質(フィブロネクチン,ビトロネクチン,コラーゲンなど10数種類)に対する細胞表面上の受容体蛋白の総称である.αサブユニットとβサブユニットが1対1に非共有結合で会合したαβヘテロダイマーにより形成され,組み合わせによって結合するリガンド特異性が異なる.そのうちα4β1インテグリンはVLA-4(very late antigen-4)と呼ばれ,白血球の細胞表面に発現される接着分子であり,その主なリガンドはVCAM-1(vascular cell adhesion molecule-1)である.MSの脱髄病巣にはリンパ球や単球が多く含まれており,炎症細胞が末梢循環から最初に病巣内の血管内皮細胞と接着し,脳実質内に侵入するものと考えられている.VLA-4はこれらリンパ球や単球の細胞表面に表出され,血管内皮細胞の接着,脳実質内への侵入において重要な因子と考えられている.このα4β1インテグリンに対するヒト特異的抗体がnatalizumabである.
natalizumab はMSおよびクローン病といった炎症性腸疾患において有効性が確認されている.アメリカでは2004年11月,米Biogen Idec社とアイルランドElan社のTYSABRI(タイサブリ:natalizumabの商品名) が「MSの再発回数を減らす」という効能にてFDA(米国食品医薬品庁)に承認された.2つの1年間にわたる第3相試験結果をもとにしての迅速承認であった(1つは単剤の試験AFFIRMで,もう1つはInterferon -1a [AVONEX]との併用試験SENTINEL).とくにSENTINEL試験については2005年の米国神経学会でも非常に大きく取り上げられた(関連記事;2004年11月28日,2005年4月20日).また今月になってSENTINEL試験が2年目のプライマリーエンドポイントを達成したと発表され,AVONEX単剤に比べて,AVONEXとTYSABRIの併用は,2年目時点での症状進行のリスクを24%低下させ,さらに再発割合が56%低下したと報告している.再発低下率は有意であり,2年間にわたってその効果は継続したという結果になる.
しかしである!最新号のNEJMにnatalizumab使用に伴う進行性多病巣性白質脳症(PML;潜伏感染していたJCウイルスが免疫不全状態にある患者の脳内で活性化されて初めて病原性を現す稀な疾患.成人の70%はこのウイルスの抗体を保有していることが判明している)の合併例に関するケースレポートが3題報告された.結果としてこれまでに計4例PML合併例が報告されたことになる(2例が報告された時点でTYSABRIの販売・投与は中断されている).このうちの3例はAVONEXとTYSABRIの併用であり,残り1例はTYSABRI単独使用例(クローン病患者)であった.とくにTYSABRI単独使用例では,単独治療中における血中JC virus copy数の上昇が明らかに示されている.当初,2剤併用により免疫能が低下しすぎたためPMLを発症した可能性も考えられたが,TYSABRI単独でもPMLが発症することを示したという点で今回の報告は重要である.一方,AVONEX単独使用でPMLを発症した症例はないとFDAは報告している.
PMLは非常にまれな疾患であり,これまで他の免疫抑制剤を使用したMS症例においてPMLの合併例の報告はなかったことから,FDAにTYSABRIの安全性を説得することは困難であるものと思われる.極めて有効性が高いと思われたnatalizumabがMS治療に使用できなくなることが予想され非常に残念な結果となってしまった.
 それにしてもMSの治療薬について考えるといつも感情的になってしまうが,日本の医薬品承認制度は一体どうなっているのだろう.アメリカの友人医師と話をしていて「アメリカの医薬品承認が非常に速くて羨ましいというあなたの感想にはビックリだ.私たちはヨーロッパと比べてFDAの承認があまりに遅くて本当にいらいらしている」と言われ,こちらもビックリしてしまった.例えば前述のAVONEXは日本でも2000年半ばから治験が始まり,2002年半ばに終了している.現在,承認審査中というわけだが,3年のあいだ一体何をやっているのだろう.この辺のところは「NPO法人MSキャビン」のホームページからある程度の情報を得ることができる.
http://www.mscabin.org/avonex.html
また以下のMS専門医師グループの厚生労働省への要望書もMSの治療薬審査の現状を知る意味で役に立つ.
http://www.h2.dion.ne.jp/~msfriend/yaku/shinyak1.html
読んだみなさんはどんな感想をもたれるのであろうか?

N Eng J Med 353; 362-368, 2005
N Eng J Med 353; 369-374, 2005
N Eng J Med 353; 375-381, 2005
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多発性硬化症の疲労に対してアスピリンが有効かもしれない

2005年04月27日 | 脱髄疾患
 多発性硬化症において疲労は非常に高頻度に認められる症状である.その機序については不明であり,本邦ではあまり積極的な治療が行われていないというのが実情のようである.治療薬に関して欧米ではamantadineやmodafinil(日本未発売.ナルコレプシーの治療薬として有名)といった中枢神経に対して刺激作用を持つ薬剤が使われるが,効果は十分ではないという.
 今回,Mayo ClinicからアスピリンがMSの疲労に対する治療薬として有効であるという小規模ランダム化比較試験(cross-over trial)が報告された.これは別の理由でたまたまアスピリンを内服したMS患者の疲労が回復したという臨床的経験に由来するもので,このグループはopen labelのstudyを経て,今回の小規模RCTを行い,結果がよければ大規模RCTに進もうと考えているわけである.
対象は30名のMS外来患者で,18-65歳,Fatigue severity scale(FSS)4点以上が8週間持続し,かつ少なくとも4ヶ月以上にわたり再発がない症例としている.IFNbetaやglatiramer acetateなどの治療薬は使用可とした.方法はアスピリン650mgを1日2回の群(1300mg)とplacebo群に分け,それぞれを6週間使用し,2週間のwashout期間を設けた後,アスピリンとplaceboを入れ替えてさらに6週間使用した.Primary efficacy measureはmodified fatigue impact scale,secondaryはglobal fatigue change (GFC) self-assessmentなど.結果として3年間で56名の患者が対象になり,26名が除外され, 24名の女性,6名の男性がエントリー.20名がRRMS,8名がSPMS,2名がPPMS.最終的に脱落などで24名を解析.結果はアスピリン群ではmodified fatigue impact scaleはアスピリン群で有意に改善した(p=0.043).また患者の自覚症状についてもアスピリン使用時は10/26(38.5%)で改善を認めたのに対し,placebo phaseでは1/26(3.9%)であった(p=0.012).重篤な副作用は認めなかった.
今後,今回の小規模RCTの結果をもとに,大規模RCTに移行するようである.アスピリンの内服量が1300mgという点は気にはなるが,非常に興味深い結果である.またちょっとした治療経験がエビデンスとして確立していく過程にはどのようなステップを踏む必要があるのかを示している点でも参考になる論文である.

Neurology 64; 1267-1269, 2005 
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