大脳静脈系は,①浅大脳静脈系と②深大脳静脈系に分類される.後者の走行に関しては,室間孔から尾方の視床背内側表面に向かって左右対をなす内大脳静脈は,正中面で合流し,大大脳静脈(Galenの静脈)となり,直静脈洞に注ぐ(さらに浅大脳静脈系の横静脈洞→S状静脈洞へ続く).また脳底部には脳底静脈があり,やはり大大脳静脈に注ぐ.
深大脳静脈血栓症は(下肢の深部静脈血栓症と紛らわしいので注意),内大脳静脈,脳底静脈,大大脳静脈の血栓症のことで,臨床的には間脳の重篤な障害が生じる結果,昏睡,眼球運動障害,瞳孔反射の消失が生じ,一般的に予後不良であると考えられてきた.危険因子として経口避妊薬,妊娠,産褥などが知られている.今回,Neurology誌のViews & Reviewsの欄に深大脳静脈血栓症は必ずしも意識障害や脳幹症状を伴うものではないという,いわゆるpartial syndromeの存在を示唆するcase seriesが掲載されている.つまり症状の程度は,静脈うっ血の程度のみならず,閉塞静脈の部位や側副血行路の有無によって大きく影響を受けるため軽症例もありうるということである.例えば,一側の内大脳動脈のみが閉塞して側副血行路も良好な場合,一側視床病変のみを呈するわけである.
深大脳静脈血栓症は非常に稀な疾患のように感じるが,本論文の画像所見を見ていると,他の疾患と誤ることなくきちんと診断できるか不安になる.論文中に4症例を提示しているが,いずれも20~50歳代の女性で,経口避妊薬を内服していた.母親に下肢の深部静脈血栓症を合併していた症例が含まれるが,明らかな凝固異常症の存在はない.いずれの症例も意識障害や脳幹症状はなく,頭痛,嘔吐,易疲労感,片麻痺,失語,半盲,てんかん発作,幻覚などを呈している.画像上,病変は主として一側ないし両側の視床に認められるが,皮質病変は辺縁葉(帯状回,海馬傍回,海馬,扁桃核)とvisual cortexに限られ,皮質下白質に及ぶことはない.実際の画像を見てもらえば分かるが,脳腫瘍,脳膿瘍,top of basilar syndromeとの鑑別は容易ではなく,事実,診断確定までに時間を要している.治療としては抗凝固療法,発症早期であれば血管内血栓溶解療法が有効であり,早期診断は重要である.
ではいかにして深大脳静脈血栓症(partial syndrome)を診断すべきか?まず若年女性の視床・基底核病変の場合,鑑別診断に加えるべきだが,画像所見からは①境界不鮮明であること(動脈閉塞と異なり,うっ血性病変のため境界が不明瞭,かつ中心部から周囲に広がる),②出血を伴うこと,③DWI上vasogenic edemaとして検出されること,④腫瘍や膿瘍と比較し,contrast engancementが少なく,著明なmass effectがないこと,⑤水頭症を伴う,⑥cord sign/dense vessel sign(単純CTで内大脳静脈がhigh densityを呈する)を認めることは深大脳静脈血栓症を疑うきっかけとなる.こののち,MRAやMR venography,さらには血管造影という手順を踏み診断の確定に至る.なんとか脳腫瘍や脳膿瘍と誤ることだけは避けたい.
Neurology 65; 192-196, 2005
深大脳静脈血栓症は(下肢の深部静脈血栓症と紛らわしいので注意),内大脳静脈,脳底静脈,大大脳静脈の血栓症のことで,臨床的には間脳の重篤な障害が生じる結果,昏睡,眼球運動障害,瞳孔反射の消失が生じ,一般的に予後不良であると考えられてきた.危険因子として経口避妊薬,妊娠,産褥などが知られている.今回,Neurology誌のViews & Reviewsの欄に深大脳静脈血栓症は必ずしも意識障害や脳幹症状を伴うものではないという,いわゆるpartial syndromeの存在を示唆するcase seriesが掲載されている.つまり症状の程度は,静脈うっ血の程度のみならず,閉塞静脈の部位や側副血行路の有無によって大きく影響を受けるため軽症例もありうるということである.例えば,一側の内大脳動脈のみが閉塞して側副血行路も良好な場合,一側視床病変のみを呈するわけである.
深大脳静脈血栓症は非常に稀な疾患のように感じるが,本論文の画像所見を見ていると,他の疾患と誤ることなくきちんと診断できるか不安になる.論文中に4症例を提示しているが,いずれも20~50歳代の女性で,経口避妊薬を内服していた.母親に下肢の深部静脈血栓症を合併していた症例が含まれるが,明らかな凝固異常症の存在はない.いずれの症例も意識障害や脳幹症状はなく,頭痛,嘔吐,易疲労感,片麻痺,失語,半盲,てんかん発作,幻覚などを呈している.画像上,病変は主として一側ないし両側の視床に認められるが,皮質病変は辺縁葉(帯状回,海馬傍回,海馬,扁桃核)とvisual cortexに限られ,皮質下白質に及ぶことはない.実際の画像を見てもらえば分かるが,脳腫瘍,脳膿瘍,top of basilar syndromeとの鑑別は容易ではなく,事実,診断確定までに時間を要している.治療としては抗凝固療法,発症早期であれば血管内血栓溶解療法が有効であり,早期診断は重要である.
ではいかにして深大脳静脈血栓症(partial syndrome)を診断すべきか?まず若年女性の視床・基底核病変の場合,鑑別診断に加えるべきだが,画像所見からは①境界不鮮明であること(動脈閉塞と異なり,うっ血性病変のため境界が不明瞭,かつ中心部から周囲に広がる),②出血を伴うこと,③DWI上vasogenic edemaとして検出されること,④腫瘍や膿瘍と比較し,contrast engancementが少なく,著明なmass effectがないこと,⑤水頭症を伴う,⑥cord sign/dense vessel sign(単純CTで内大脳静脈がhigh densityを呈する)を認めることは深大脳静脈血栓症を疑うきっかけとなる.こののち,MRAやMR venography,さらには血管造影という手順を踏み診断の確定に至る.なんとか脳腫瘍や脳膿瘍と誤ることだけは避けたい.
Neurology 65; 192-196, 2005