Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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深大脳静脈血栓症(下肢ではない)をいかに診断するか?

2005年07月30日 | その他
大脳静脈系は,①浅大脳静脈系と②深大脳静脈系に分類される.後者の走行に関しては,室間孔から尾方の視床背内側表面に向かって左右対をなす内大脳静脈は,正中面で合流し,大大脳静脈(Galenの静脈)となり,直静脈洞に注ぐ(さらに浅大脳静脈系の横静脈洞→S状静脈洞へ続く).また脳底部には脳底静脈があり,やはり大大脳静脈に注ぐ.
深大脳静脈血栓症は(下肢の深部静脈血栓症と紛らわしいので注意),内大脳静脈,脳底静脈,大大脳静脈の血栓症のことで,臨床的には間脳の重篤な障害が生じる結果,昏睡,眼球運動障害,瞳孔反射の消失が生じ,一般的に予後不良であると考えられてきた.危険因子として経口避妊薬,妊娠,産褥などが知られている.今回,Neurology誌のViews & Reviewsの欄に深大脳静脈血栓症は必ずしも意識障害や脳幹症状を伴うものではないという,いわゆるpartial syndromeの存在を示唆するcase seriesが掲載されている.つまり症状の程度は,静脈うっ血の程度のみならず,閉塞静脈の部位や側副血行路の有無によって大きく影響を受けるため軽症例もありうるということである.例えば,一側の内大脳動脈のみが閉塞して側副血行路も良好な場合,一側視床病変のみを呈するわけである.
深大脳静脈血栓症は非常に稀な疾患のように感じるが,本論文の画像所見を見ていると,他の疾患と誤ることなくきちんと診断できるか不安になる.論文中に4症例を提示しているが,いずれも20~50歳代の女性で,経口避妊薬を内服していた.母親に下肢の深部静脈血栓症を合併していた症例が含まれるが,明らかな凝固異常症の存在はない.いずれの症例も意識障害や脳幹症状はなく,頭痛,嘔吐,易疲労感,片麻痺,失語,半盲,てんかん発作,幻覚などを呈している.画像上,病変は主として一側ないし両側の視床に認められるが,皮質病変は辺縁葉(帯状回,海馬傍回,海馬,扁桃核)とvisual cortexに限られ,皮質下白質に及ぶことはない.実際の画像を見てもらえば分かるが,脳腫瘍,脳膿瘍,top of basilar syndromeとの鑑別は容易ではなく,事実,診断確定までに時間を要している.治療としては抗凝固療法,発症早期であれば血管内血栓溶解療法が有効であり,早期診断は重要である.
ではいかにして深大脳静脈血栓症(partial syndrome)を診断すべきか?まず若年女性の視床・基底核病変の場合,鑑別診断に加えるべきだが,画像所見からは①境界不鮮明であること(動脈閉塞と異なり,うっ血性病変のため境界が不明瞭,かつ中心部から周囲に広がる),②出血を伴うこと,③DWI上vasogenic edemaとして検出されること,④腫瘍や膿瘍と比較し,contrast engancementが少なく,著明なmass effectがないこと,⑤水頭症を伴う,⑥cord sign/dense vessel sign(単純CTで内大脳静脈がhigh densityを呈する)を認めることは深大脳静脈血栓症を疑うきっかけとなる.こののち,MRAやMR venography,さらには血管造影という手順を踏み診断の確定に至る.なんとか脳腫瘍や脳膿瘍と誤ることだけは避けたい.

Neurology 65; 192-196, 2005

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クロイツフェルト・ヤコブ病におけるMRI所見 ―後頭葉病変について―

2005年07月27日 | 感染症
CJDではMRI所見が早期診断に有用である.孤発性CJD(sCJD)の場合,一番特徴的であるのは基底核の信号異常で,FLAIRやT2WI,プロトン画像にて尾状核や被殻における高信号病変を認める(ほぼ左右対称だが,10-20%の症例で非対称性のこともある).一方,variant CJD(vCJD)で有名なのは視床病変で,pulvinar(視床枕)signと呼ばれている.やはりFLAIRやT2WIにて高信号病変を呈する.そのほか急性期にはDWIやFLAIRで大脳皮質が高信号を呈するとか,大脳萎縮に関してはsCJDでは認められるが,vCJDでは稀であるとか,といったことが知られている.
今回,Neurology誌のNeuroImageの欄にsCJDの後頭葉病変に関する画像が2題並んでいる.1題目は51歳女性で2ヶ月間に急速に失明(皮質盲),小脳症状,ミオクローヌス,痴呆を呈した症例で,MRIではFLAIRおよびDWIで後頭葉病変(やや非対称)を呈し,一見するとposterior reversible leukoencephalopathyのように見える.逆に言えば,posterior reversible leukoencephalopathyの鑑別診断にsCJDを加える必要があるということになる.
2題目は70歳女性で,左半側空間失認,着衣失行,失計算,Balint症候群(視覚性注意障害,精神性注視麻痺,視覚失調)を呈し,臨床的にposterior cortical dementia (PCD)と診断された症例.T1WIで頭頂・後頭葉の対称性萎縮,DWIで後頭葉皮質に沿ったリボン状の高信号病変を認めている.すなわち,PCDの鑑別診断としてsCJDを挙げる必要があるわけである.
もちろんいずれの症例も14-3-3蛋白を見たり,経過を追ったりすれば最終的には診断がつく.しかし診断確定までの間に疾患が伝播する可能性もありうるわけで,早期に診断することが望ましいことは言うまでもない.sCJDでは後頭葉病変を呈しうることを認識しておく必要がある.

Neurology 65; 329-330, 2005
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POEMS症候群と血管内皮細胞成長因子(VEGF)

2005年07月23日 | 末梢神経疾患
POEMS症候群とはpolyneuropathy,organomegaly,endocrinopathy,M蛋白血症,皮膚症状の頭文字をとった症候群で,歴史としては1956年にCrowが,1968年には深瀬らが,多発性神経炎,内分泌異常を伴うplasma cell dyscrasiaの症例を報告したのが始まりである(Crow-Fukase症候群).高月病,PEP(pigmentation,edema,plasma cell dyscrasia)症候群などの名称でも呼ばれている.本邦における疫学としては,1995年の高月らによれば文献例を含めた158例の検討にて,男女比は1.5:1,20歳代から80歳代と広く分布し,発症年齢は男女とも48歳(多発性骨髄腫より約10歳若い)と報告している.
 病因解明は遅れている.本症候群の多彩な病像の根底にあるのが形質細胞の増殖とそれに伴う免疫グロブリン異常(IgG,IgA-M蛋白の出現)であるが,近年,形質細胞の増殖因子としてIL-6が同定され,IL-6が病因に関与している可能性が指摘されている.しかし必発とされる多発ニューロパチーの機序についてはほとんど分かっておらず,また血清VEGF(vascular endothelial growth factor)が健常人や多発性骨髄腫患者と比較して有意に上昇していることが知られているが,その意義については分かっていない.
 今回,イタリアからPOEMS症候群11症例に対して,VEGFの臨床的,病因的意義を検討する研究が報告された.まず,血清VEGFの上昇に加え,本疾患では血清エリスロポイエチン(EPO)が低下することを初めて指摘した(多発性骨髄腫患者では低下しない).また臨床経過の増悪に伴いVEGFの上昇とEPOの減少は高度となり,かつ治療が奏功した場合,ともに正常化することも示している.またVEGFは,診断マーカーとしてのみならず,予後因子としても有用であることを指摘し,治療前1500pg/ml未満の症例では治療反応性が良好であったと述べている(EPOは治療反応群と非反応群で差はなし).VEGFは治療効果のメルクマールとしても有用だそうで,有効性の乏しいIVIgや一過性にしか効かない血漿交換ではVEGF値が低下しないのに対し,有効性があると考えられる放射線療法やアルキル化剤投与ではVEGF値は低下した.
さらに神経生検による組織学的検索を行い,VEGFがvasa nervorumの血管壁に高発現していること,逆にVEGF受容体2(VEGF-R2)発現は低下していること(down-regulation),vasa nervorumの基底板は肥厚し,内腔は狭小化していることを明らかにした.すなわち,著者らはVEGF上昇および vasa nervorumにおけるVEGFの高発現は末梢神経への虚血を介してニューロパチーをきたす可能性を考えている.具体的には,VEGF上昇,血管壁における高発現に伴うvasa nervorum血管内皮細胞の活性化 → microangiopathyに伴う末梢神経の低酸素 → 転写因子HIF-1a活性化 → VEGF転写の増加 → positive feed-backによる悪循環,という具合である.EPO低下についてはsubclinicalに腎障害が生じているのではないかと推測しているが,少し説得力に乏しい.
 いずれにしてもこの仕事のポイントは神経生検の標本を抗VEGF抗体で染めたというアイデアに尽きる.これまで不明であったPOEMS症候群における末梢神経障害の機序の突破口になるかもしれない.ただし,なぜ本疾患でVEGFが上昇するのかという問題はまったく手付かずのまま残っている.

Brain 128; 1911-1920, 2005

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若年性ALSの原因として念のため検討すべきこと

2005年07月20日 | 運動ニューロン疾患
若年性ALSは25歳未満に発症する稀な病態で,その特徴として,進行が緩徐,かつ生存期間が長い(発症後30年以上の生存)ことが挙げられる.原因として,常染色体優性遺伝のALS4(senataxin 遺伝子変異;novel DNA/RNA helocase,AOA2の原因遺伝子でもある),常染色体劣性遺伝のALS2遺伝子(alsin; putative GTPase regulator)が知られている.ALS2遺伝子変異は原発性側索硬化症の若年型,若年性ALS,infantile-onset HSPと種々の運動ニューロン疾患の表現型を呈しうることが判明している.
 今回,24歳に発症し,現在73歳の若年性ALS症例(男性)がドイツから報告されている.手指の筋萎縮・筋力低下にて発症し,下肢に麻痺が及び,発症2年後には,球麻痺,さらに痙性が出現した.発症7年目に入り進行は緩徐化.13年目の段階で上肢の弛緩性麻痺と痙性歩行の状態.22年目には歩行器が,29年目には車椅子が必要になった.49年目の現在,人工呼吸器や持続的な栄養管理は不要の状態である.頭部MRIは比較的高度のびまん性の皮質萎縮を認めるが,FLAIRでもほとんど白質病変は認めない.家族内類症や血族婚はなく,弧発性と考えられる.
 さて診断は何か?結論としてSPG4,spastin遺伝子の新規変異が原因であった.具体的にはエクソン1における挿入型遺伝子変異(重複,c.304_309dupGCCTCG)を認めた.種を明かせば,SPG4は純粋型の常染色体優性HSPのなかで頻度が高いことから(40%を占める),著者らは念のためチェックしたところ変異が見つかったというわけである.この症例は,spastin変異の表現型の多様性を示唆すると同時に,今後,若年性ALSを経験した場合には念のためspastin変異も鑑別診断リストに加えるべきであることを示唆している.

Neurology 65; 141-143, 2005

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ロレンツォのオイルは副腎白質ジストロフィーの発症を予防する

2005年07月15日 | 白質脳症
Lorenzo's Oil(邦題;ロレンツォのオイル/命の詩;1992年) という映画がある.Nick NolteとSusan Sarandonという2人の名優が夫婦役を演じた映画で,副腎白質ジストロフィー(ALD)に侵されてしまったひとり息子Lorenzoの命を救うため,生化学に何の知識もない銀行員の身でありながら必死に医学論文を読んで勉強し,試行錯誤の末についにこの病気の特効薬を発見してしまうという実話に基づく物語である(必見の名作映画).この薬は少年の名にちなんでLorenzo's Oilと名付けられた.
ALDでは血清中の極長鎖脂肪酸(VLCFAs)の増加が認められ,診断にも利用されている.Lorenzo's Oilは炭素数22のエルカ酸と,18のオレイン酸という2種の脂肪酸の1:4混合物で(それぞれ菜種油・オリーブ油の主成分),ミエリンに対して有害な炭素数24・26の極長鎖脂肪酸によく似ていながら体に害を与えない.つまりLorenzo’s oilを1日30ml程度服用することによって,「今は十分な極長鎖脂肪酸がある」と酵素を「だまし」,それ以上有害な脂肪酸を合成させなくするという原理である.しかしLorenzo’s oilは極長鎖脂肪酸を正常化させるものの,一端発症した神経症状の進行を抑制する効果はないという報告が多く,その治療効果については疑問視する声もあった.また未発症者やadrenomyeloneuropathy (AMN)における大脳型への進展の予防効果に関しては十分な報告はなかった.
一方,ALDに関する治療としては,小児型で発症早期の場合には造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation; HSCT)が有効であることが報告されている.移植後1~2年は症状が緩徐に進行するものの,その後停止する例が少なからず報告されている.しかし,ある程度症状が進行した症例では無効なこともあり,治療法自体にも負担を伴うためHSCTの適応は慎重に検討する必要がある.
 さて話は戻り,今回,ALD未発症者(神経所見,画像所見とも正常)で7歳以下の小児89人を対象にしたおよそ7年間の経過観察において, Lorenzo's Oilを毎日2-3mL/kg/day服用し,中等度の脂肪摂取制限を行うとMRIで観察される脳の病変や神経所見の出現を防止できるという研究が,アメリカから報告された.具体的には.89例の無症候性ALD(4.7±4.1歳)を6.9±2.7年間(0.6-15年)経過観察している(14例はHSCTも施行)(12例がその観察期間中にfollow-upできなくなった点は評価の上で問題).結果として,81例(91%)は生存,8名は死亡(9%),66例(74%)は神経所見もMRI所見も正常,13例(15%)はMRI所見のみ異常,8例(9%)は神経所見もMRI所見も異常(残り2名はMRI未施行)という結果であった.また極長鎖脂肪酸であるヘキサコサン酸(C26:0)上昇とMRI病変の程度(ALD用に作られた34-point scaleを使用)の間に有意な相関が認められた.すなわち,ヘキサコサン酸上昇を抑制することは治療として有効であることを示したことになる.
 もちろん,今回の方法では治療群だけで対照群との比較がないという問題がある.しかし疾患の性格上,対照群を作りにくく,さらにALDの自然歴はすでに良く分かっていて,Lorenzo's Oil治療群が治療しない場合と比べ明らかに予後が良いこと,ならびに,ヘキサコサン酸低下によりMRI上の病変の出現が抑制されることを示すことによって,ある程度の説得力を持ってLorenzo's Oilの有効性を示したと言えよう.今回の報告はLorenzo's Oilが未発症者に対して有効であることを初めて示したとともに,ALDにおける治療はいかに未発症者を探し出すか,ということにかかっているかを示したものと言えよう(本症は伴性劣性遺伝なので,スクリーニングはなかなか難しい).
ちなみにLorenzo's Oilは日本では保険適応はないため,アメリカから個人輸入するしかない.新潟大学では代理輸入を行っている(代金は実費).

Arch Neurol 62; 1073-1080, 2005

ロレンツォのオイル 命の詩
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薬剤によりギャンブル依存症(病的賭博)が引き起こされる?

2005年07月13日 | パーキンソン病
日本でpathological gambling(病的賭博・ギャンブル依存症)という問題が社会的な注目を浴び始めたのは,パチンコ店駐車場における乳幼児の「車中死亡事故」が契機と言われている.病的賭博は,DSM-III(1980)で初めて精神障害の中に加えられたが,高い罹病率,患者の人生と周囲の人々,社会に及ぼす深刻な影響にもかかわらず,この疾患の研究は他の精神疾患の比べ明らかに遅れているそうだ.まずICD-10によると,病的賭博は,疾患分類上,窃盗癖、放火癖、抜毛癖などとともに衝動制御の障害の中に含まれている.本障害の本質的な特徴は以下の2点である.
(a)持続的に繰り返される賭博
(b)貧困になる,家族関係が損なわれる,そして個人的生活が崩壊するなどの不利な社会結果を招くにもかかわらず,持続ししばしば増強する
罹病率についてはアメリカの報告で,生涯罹患率は1.5%(ちなみにアルコール依存症14.1%,薬物依存症7.5%)と報告されている(1999).陥りやすい対象としては若年者,マイノリティー(アフリカンアメリカン,ヒスパニック,ネイティブアメリカン),低学歴者,低所得者,失業者などが指摘されている.病因については良く分かっていない.
今回,Mayo Clinicから病的賭博を呈したパーキンソン病患者11名に関する検討が報告された.例えば過去5年間で1度しかギャンブルをしたことがない53歳女性のパーキンソン病患者が,pramipexole(ビ・シフロール®)使用後,カジノに行きたいという強い衝動に駆られ,週1回通いだしたという具合である.11名の臨床的特徴を検討してみると,まず全例でドパミンアゴニストを内服していた(このうち3名はL-DOPAによる治療を受けていなかった).さらに11名中7名では,病的賭博はドパミンアゴニストを開始,もしくは増量後3ヶ月以内に出現していた.ドパミンアゴニスト使用後,すぐには発症しなかった残りの4名でも,ドパミンアゴニストを中止したところ,病的賭博は消失した.ドパミンアゴニストの種類に関してはpramipexoleが11名中9名を占め(使用量は4.5mgが6名と最多),過去の文献を検索しても17例中10名を占めていた(計28名中19名;67.9%).
 以上の結果はドパミンアゴニストが可逆性の病的賭博の原因となる可能性を示唆する.とくにpramipexoleはD3受容体への刺激を介して病的賭博を惹起している可能性が疑われる.いずれにしても神経内科医は病的賭博という疾患が存在すること,ならびにドパミンアゴニストがその原因になりうることを認識すべきである.

Arch Neurol 62; 1-5, 2005

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レストレスレッグズ(むずむず足)症候群の危険因子

2005年07月11日 | 睡眠に伴う疾患
夜間,膝から下がかゆくなったり,痛くなったり,あるいは虫が這うような不快感を呈するのがRestless leg syndrome(RLS)である.足を動かすと不快感は軽くなるが,じっとしているとまたぶりかえす.蹴るような格好で足が勝手に動く周期性四肢運動障害(PLMS)も合併する.夜間,症状が出現するため睡眠不足となり,日中,過眠を呈する.日本では130万人ほどの患者がいると推測されているが,実際に治療を受けている人は2万人程度と言われている.この理由としては,医師も患者もこの病気に関する知識が乏しいため受診することも診断することもできないためと考えられる.
 今回,イタリアより頻度,危険因子に関する横断研究の結果が報告された.対象は北イタリアのBruneckという小さな街の全白人(久山町研究のように動脈硬化,脳,骨疾患の疫学調査が行われている街)で,年齢は50-89歳の701名を調査した.RLSの診断は1995年にInternational RLS Study Groupにより定められた最低項目の4つをinterviewで確認,4項目すべてを満たすものをRLSと診断した(①足の不快感,痛みなどにより足を動かしたい気持ちになったことはあるか?②足を落ち着きなく動かすことがあるか?③足の症状は安静で悪化し,足を動かすと改善するか?④症状は夜間に悪化するか?).重症度については,RLS severity scaleを使用した.
 結果としては,患者数は74名で,有病率は10.6%と高率.性別では女性14.2%,男性は6.6%であった.重症度については軽症33.8%,中等症44.6%,重症21.6%.このなかで1例も過去に診断を受けた症例はなく,治療中の症例もなかった.RLSは鉄代謝異常が原因のひとつとして疑われているが,血清鉄,トランスフェリン,フェリチン濃度に関しては罹患者と非罹患者で有意差はなかった.しかし,可溶性トランスフェリン受容体については1.48 vs 1.34 mg/L(p<0.001)と罹患者で有意に高値であった.以上より,この横断研究では危険因子として女性であること,可溶性トランスフェリン受容体値が高値であることが分かった.RLSでは前述の通り,脳内鉄欠乏が原因として疑われている.例えばMRIで黒質,赤核の鉄濃度の減少が示されたり,黒質神経メラニン細胞における鉄代謝異常が報告されたり,髄液フェリチン濃度の減少とトランスフェリン濃度の上昇が報告されている.本研究の血清可溶性トランスフェリン受容体値高値もRLSにおける鉄代謝障害の支持する傍証となるのかもしれない.いずれにしてもRLSの治療として,dopamine agonistが有効であるので(Class Ib),この疾患が疑われた場合には積極的に診断・治療すべきである. Neurology 64; 1920-1924, 2005

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がん患者における脳梗塞発症の予測因子としてCA125は有用?

2005年07月08日 | 脳血管障害
がん患者において悪性腫瘍の合併頻度は高く,14.6%との報告がある.この機序としてはDIC,非細菌性血栓性心内膜炎(NBTE),腫瘍塞栓,血管への腫瘍細胞の浸潤,高フィブリン血症,hyperviscosity syndromeなどが考えられる.とくにDICの頻度は高い(25%はDICで説明がつくといわれる).一方,脳塞栓症を呈した患者において循環性のムチン物質(mucinous material)が見つかることや,ムチン産生腺癌患者の剖検所見において血管内ムチンを認めることがあり,血管内ムチンが脳塞栓症の原因となる可能性が考えられる.
 今回,転移性がん患者の脳梗塞症例で,ムチン産生腫瘍の腫瘍マーカーであるCA125が異常に高値であった4症例についてのケースシリーズが報告されている.1例目は71歳男性,抗血小板療法無効で再発性の脳塞栓を認めたが,血栓の起源が不明,凝固異常はなかったが,Fbgが若干低下,CA125は異常高値(7019U/ml; normal 0-35)であった.転移性膵癌があとになって発見された.深部静脈血栓症も合併した.2例目は抗凝固療法無効の繰り返す脳梗塞を呈した59歳男性.CA125 は683U/mlと異常高値.やはりあとになって転移静肺小細胞癌が見つかった.3例目は64歳男性,深部静脈血栓と肺塞栓を認め,検索の結果,未分化型の肺腺癌を認めた.ヘパリン使用中であったにもかかわらず脳塞栓を発症した.CA125 は765U/ml. 4例目は79歳女性.転移性肺腺癌に引き続き脳塞.を発症.CA125 は1042U/mlであった.
 以上の症例はいずれも塞栓源が見つからなかった症例であり,著者らはCA125蛋白と脳塞栓の関連を疑っている(具体的には過凝固を引き起こす可能性やムチン蛋白による血管の直接の閉塞,NBTEを引き起こす可能性を疑っている).しかし,いずれの症例においても剖検は行われておらず,その因果関係の立証については4例のみの検討では十分とは言えないかもしれない.ただし,繰り返す脳塞栓を認め,脳血管以外の塞栓症を認め,体重減少やがんを疑わせる全身所見がある場合には,念のためCA125もチェックしておいたほうが良いかもしれない.ちなみにCA125は卵巣癌,子宮がん,膵癌,胆道癌,肝癌,胃癌,肺癌,子宮内膜症などで上昇する.

Neurology 64; 1944-1945, 2005
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家族性良性舞踏病に L-DOPA が効く?

2005年07月06日 | 舞踏病
家族性に舞踏運動を呈する家系で常染色体優性遺伝を呈する場合,鑑別すべき疾患としてはHuntington病,DRPLA,Huntington病類縁疾患2型(HDL2),SCA17が挙げられる.HDL2に関しては,調査の結果,本邦における報告例はまだない(Ann Neurol 56:670-4, 2004).一方,昔から家族性良性舞踏病(Benign hereditary chorea; BHC)という概念があり,なぜか教科書にも載っているが,その存在の有無に関しては様々な論争があった.しかし,2002年になりTITF-1(thyroid transcription factor-1 gene)遺伝子に欠失を認める家系が発見されたのをきっかけに,TITF-1遺伝子にミスセンス変異を認める良性舞踏病家系が発見され,TITF-1遺伝子が常染色体優性遺伝性良性舞踏病(BHC)の原因遺伝子であることが判明した.この疾患は上述の疾患とは明らかに臨床像が異なり,発症は幼児期ないし小児期,非進行性で生命予後は良好.永続的な知能障害はなく,舞踏病も成長に伴い改善することが多い(成人発症の良性舞踏病の報告はまだない).これはTITF-1遺伝子が脳と甲状腺で機能する転写因子であり,出生後,両臓器が成熟する過程で何らかの蛋白発現を誘導しているものと考えられ,この遺伝子の変異により両臓器の発達障害がもたらされるものと推定される.知る限りにおいては本邦における良性舞踏病家系の報告例はない.
さてTITF-1変異についてはOMIMによると7種類の変異が報告されているが,今回新たな変異が報告された.エクソン3におけるナンセンス変異(523G→T, E175X)であるが,この家系における罹患者4名はBHCと先天性甲状腺機能低下症を認めた.興味深いのはうち2名でL-DOPA(20mg/kg/day)が使用され,両者とも劇的に歩行障害と舞踏運動が改善したことである.一般にHuntington舞踏病ではL-DOPAはむしろ舞踏病を増悪させることが知られている.本家系で有効であった機序は不明であるが,TITF-1遺伝子KOマウスで,ドパミン作動性ニューロンの発達が遅れていることが知られており,L-DOAがその機能をおぎなった可能性がある(GABA作動性,およびコリン作動性も発達遅延).BHCとHungtinton舞踏病はまったく異なる疾患というわけである.

Neurology 64; 1952-1954, 2005

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中大脳動脈閉塞と似た症候を示す後大脳動脈閉塞脳梗塞の頻度・特徴

2005年07月03日 | 脳血管障害
PCA閉塞に伴う脳梗塞は,まれにMCA閉塞に伴う脳梗塞と類似した神経症候を呈することがある.しかし,その頻度やPCA閉塞の部位に関して詳細な検討を行った報告はない.今回,スイスよりPCA閉塞に伴う脳梗塞症例202名についてretrospectiveに解析した結果が報告された.対象は画像上,PCA領域にのみ脳梗塞を認めた症例とし,anterior circulation領域の脳梗塞や,中脳を除く脳幹梗塞,白質病変を伴う症例,変性疾患を認める症例等は除外してある.また画像上,脳梗塞の部位より推定したPCA閉塞の部位によって,superficial(大脳皮質),proximal(深部;中脳・視床・内包後脚も含む),superficial+proximalに再分類したサブ解析も行った.
結果として,PCA脳梗塞202名の内訳はsuperficial 80名,proximal 72名,superficial+proximal 50名.PCA閉塞の原因は全体で,心原性(39.4%),不明(26.9%),ラクネ(19.4%),動脈硬化性(13.5%)の順.サブ解析ではproximal PCA梗塞では,ラクネ(46.2%),心原性(30.2%)の順.superficial PCA梗塞では心原性(54.1%),不明(23.3%),動脈硬化性(19.9%)の順で,PCA梗塞でも部位によって明らかに機序が異なっていた.またsuperficial+proximal PCA梗塞では不明(40.2%),心原性(34.2%),動脈硬化性(19.9%)の順であった.神経症候については,PCA梗塞全体では,運動麻痺(56.4%),視野障害(52.5%),感覚障害(45.0%)の頻度が高かった.
さて問題のMSA梗塞と区別がつきにくいPCA梗塞は36名(17.8%)で認められ,その血管閉塞部位は,66.7%がsuperficial PCA梗塞であった.proximal,およびsuperficial+proximal梗塞の頻度はそれぞれ16.7%であった.これらの症例の神経症候に関しては,失語13名(36.1%),視空間失認13名(36.1%),重症片麻痺7名(19.4%)であった.
以上,なかなか複雑な話だが,PCA閉塞ではMCA閉塞と類似する所見を呈する頻度が従来考えられているものよりも高いこと,また血管閉塞の部位によって閉塞機序が異なることが示唆された.症候的に片麻痺,失語,半側空間失認が認められMCA閉塞を疑い,CTを撮ってMCA領域のearly CT signが陰性であった場合,PCA閉塞である可能性も念頭に置くべきであるということである.

Arch Neurol 62; 938-941, 2005

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